「預言者といえど所詮は子供、先を見通して行動することなど出来ないでしょう。ですが、そうですね。念には念を、未来を視る能力が厄介ならば、追い立て、余裕を奪い、考えることをできなくすればいい」
「っ!」
とっさに目の前にあった家に飛び込む、背後が爆発し破片が飛び散る、全身に風を受け転びそうになるが、気合で踏みとどまりこの家を抜けるために走り出す、余波で建物が倒壊でもしようものなら潰されて即死だ、そんなの冗談じゃない。
全身に傷を作りながらアリウス郊外を走り抜ける、グレネードなどの投擲物は無し、今の状況で銃なんて使おうものなら回避が疎かになる、対抗手段は、無い。
地下通路までたどり着きシズカが言っていた他のグループの協力を得て撃退する他ない。
「もう少しで……!」
追手の狙いを分散させるつもりでもあったが、攻撃の勢いは衰えるどころか、時間が経つにつれどんどんと激しさを増していく、未来を視ているはずなのにギリギリの綱渡りみたいな状況だ。
息が上がり始める、私の体力と集中力が切れるまでにたどり着かないといずれ避けきれなくなる。
ズキズキと頭から発せられる危険信号を無視して生きるために未来を視続ける、これくらいの痛み昔は何ともなかっただろう!
街を抜け、森へと入ることで射線を遮ることができるもの自体は多いが足場も悪く段差も増えてきた。
体をかすめる木々により更に体中に傷が増えていく、だが、街中よりは視界も悪い分こちらを狙う銃弾の精度も下がっている。
「これで──」
森に入ることで爆発物の使用を控えるだろうという私の想像は、あっさりと裏切られた。
〘私を爆破したそれが、そのまま辺りへ燃え広がる〙
「ッ!」
避けれる、間に合う────いや、木に身を隠す!
一瞬輝いたのち、木の葉が舞い散り燃え落ちる、…………危なかった、判断を間違えてたら死んでいた。
爆発をしのげたらもうこの木には用はない、すぐさま立ちあがり走りだす、体感的にはもうすぐそこまで来ている。
予測通り、少し走ればすぐそこに私のアリウスでの始まりが、逃げだしてきた場所へと帰るための迷路の入り口となる遺跡が姿を現す。
この中へ入ればどうにかなるという思いが、一瞬、ほんの一瞬の気のゆるみを生み出した。
それが、綱渡りのようなぎりぎりの逃走をしてここまでたどり着いた私にとって致命的な隙となる。
〘背後へと撃ち込まれた擲弾の爆発により私の体は紙のように吹き飛ばされた〙
「しまっ──────」
今までにない衝撃に意識が飛びかける。
「─────いっ……たぁ!」
飛びかけた意識が地面へと叩きつけられた痛みによって引き戻され、その勢いのまま何度か叩きつけられながら遺跡内を転がった。
「ホムラッ!!」
衝撃から立ち直れないままでいると、耳に入ったサオリの声に涙が出そうな程の安心を感じる、それに声の様子からしてどこか怪我をしてるようではなさそうだ。
ボロボロではあるものの何とか合流できた、きっとシズカ以外のアリウス生も来ているのだろう、これから反撃を行い、アリウスを出るんだ。
そう思っていると今度は聞き慣れない声を聞く、ひどく高圧的な声だ。
「ふむ、預言者であれば私の計画を超えてくる可能性もあると考えていましたが……最優先目標に指定すれば抑え込める程度の存在でしたか。少々買いかぶりすぎましたね」
……誰だ?どこかで聞いたことがある声だ、だがアリウスで出会った人間のにこんな声色の人はいなかったはず。
合流したアリウス生か?でも最優先目標ってなんだ?
皆の姿を確認するために、追手が来ることを伝えるために顔を上げる。
「初めまして、アリウスの外から来た預言者。想定の範囲内だったとはいえ、一人でカタコンベを抜けてきたことを見る限りその能力は本物のようですね」
────そこにいたのは異形だった、鮮明な赤の肌、雑誌で見た新婦を思わせるような純白のドレス、顔を覆う白い翼、そこから覗く血のようにてらてらと輝く瞳、知っている、私はこの異形を知っている。
あの時、サオリと初めて出会ったあの日に、未来視の私に干渉してきたスーツの異形の同類だ、なぜ、ここにいる……!?
考えを巡らせながら同時に周囲の状況を確認する、あの異形の周りには過激派の生徒が控えており、その中に、先ほど別れたばかりの皆の姿を見つけた。
サオリ、ミサキ、ヒヨリ、アツコ、みんな怯えたような表情をしている。
あれは、捕まっているのだろうか、シズカだけは後ろ手に拘束されている。
とすると、あの異形は過激派に与する存在であり、シズカ達の作戦は失敗した…………?
「みんな!」
咄嗟に立ち上がろうと手に力を入れた瞬間、耐えがたい痛みに襲われ、垂れてきた血で視界が滲む、でも、だからどうした!
「……ッ!!」
歯を食いしばり、立ち上がろうと上体を起こした瞬間
「……無駄だ」
強引に体を押さえつけられ、再び地面に伏すこととなる。
「っがぁ!?」
「動くな」
遠のきかけた意識を手繰り寄せ後ろを見ると、アサルトライフルを構えたアリウス生が私を押さえつけていた。
先程の追手だろう、もうここまで来たのか…………!
「マダム、どうしますか」
その質問に対し異形の大人はつまらなそうに答えた。
「そのまま拘束していなさい」
体を押さえつける力が強まる。
「ッッ……!」
「了解しました」
今、こいつはマダムと言った!つまりこの異形が過激派の協力者、アリウスの外から来た大人……!
「なにが……」
声を絞り出し、明確な敵意を持ってその血のような瞳を睨みつける。
「何が目的なんだ、関係のない内戦に手を出して。内戦を終わらせてアリウスを立て直す、なんてことが目的な訳ないだろう。お前ら大人のすることなんだから」
こいつは私に不良をけしかけたあのスーツの大人と同じゲマトリアの人間だ、利益のないことに自分の資産を使うような奴じゃない。
アツコを探していたのも、私を探していたのも、アリウスに関わったのも、全部何か利益があるからだ。
少しの思索、そののちに異形は答える。
「……まあいいでしょう、あなたにこのことを教えたところで何が変わるわけでもありませんし」
そこで初めて異形の大人は表情を変え、口元を三日月のように歪ませた。
「私の目的は、このアリウスを統治すること。その先は……まあ、あなたたちが知る必要はありません」
大人は、私たちのことをまるで玩具を見るように、どう遊ぶかを考えているかのように笑う。
アリウスを統治……?生徒会長に成り代わるということか、こいつが?
「……ふざけるな、アリウスは、お前の道具なんかじゃない!」
腕に力を込め、体を少しづつ浮かせていく、全身が痛む、視界が明滅する。
今私が何かしたところで、私たちの負けは何も変わらない、皆をアリウスの外に連れていけなかったという事実は何も変わらない。
でも、それでもこの大人のしようとしていることは認められない!
「そうですね……。これから行うことはあなたの協力があった方がスムーズに進みますし、こうしましょう。……構え」
その言葉と手を上げる動作と共に、サオリ達に向けて、十数もの銃口が向けられた。
「ひぃぃ!」
ヒヨリが、怖がりなあの子が悲鳴を上げたのが聞こえる。
「やめろ!」
怒りのままに叫ぶ、だが、私には、何も出来ない、これ以上の行動をすれば、みんなに何が起こるか分からない、これは人質だ。
「構え止め、理解が早いですね。……家族、でしたか、ではこのようなものはどうでしょう。私はあなたの家族に手を出さない、その代わり、あなたは私に身柄を預け、協力する、そういう契約です。ああ、家族の様子を未来視で視ることも、許可無くその目を使うことも禁じます」
契約?信用ならない、こいつの言うことに信用できる要素が一つもない、こんなもの契約ですらない、ただの脅しだろう!
……ただ、そう思ったところで、私が今できることも、選択肢も何もない、なら、こいつの言うことに従った方がいいんじゃないか…?
こいつの言うことに従わず皆がひどい目に会うのかもしれないのなら、こいつに従って契約を守ってもらえる方に懸けた方がいいんじゃないか?
それで皆が無事でいられるのなら、そっちのほうが良いに決まってる、だって、家族は何があっても全力で守るべき大切なものなんだから。
「…………わかった……おまえの言うことに従う、だから、皆に手を出すな」
その返答に、大人は嘲笑うかのように答える。
「大人に対する敬意というものが足りないように思えますが?」
異形は手を上げ、再び皆に銃口が向けられる。
大人は嫌いだ、従うことも、命令されることなんてもっとだ、でも、私は、私は……!
「っ…………分かりました、マダムに従います。だから……皆に、家族に手を出さないでください。……お願いします」
頭を地につける、大丈夫だ、これで、皆が無事なら、私は何回だって頭を下げてやる。
「……いいでしょう、では、さっそくあなたには私について来てもらいましょうか」
満足気に命令すると、背後に居たアリウス生に無理やり立ち上がらせられ、遺跡の外へと歩かされる。
「ホムラッッ!」
皆が私のことを呼んでる、その言葉に私は振り返らずにはいられなかった。
「……大丈夫、私は問題ないから」
笑え、今までさんざん皆を心配させてきたんだ、これ以上心配をさせるな。
「ホムラちゃん」
シズカが私の名前を呼ぶ、何だろうか。
「ごめん、……任せられたのに、失敗した」
なんだ、そういうことか。
「大丈夫だよ、シズカは悪くないから。それよりも、後のこと、お願い」
本当に悪いのは、未来が視えるなんて力を持っておきながら、皆に迷惑をかけることしかできてない私の方なんだから。
……vanitas vanitatum, et omnia vanitas、大丈夫、これからどんな扱いを受けることになっても、皆が無事なら私は耐えられる、きっと、そのはずだ。
…………これが私の地獄の五年間の始まりだった、ああ、ようやく思い出せた。
vanitas vanitatum, et omnia vanitas、彼女が僕にくれたこの言葉を覚えている限り、僕はどんなことだってできるはずだ、それが家族のためになるのなら。
そう決意を新たにし、光を受け鈍く輝く刃を持つ手に力を込め、突き刺した。
このまま進めていくと原作に到達するまでかなりの時間がかかるのですが、過去編が1章終わるごとに原作も1章進めるなど同時進行で進めたほうがよろしいでしょうか?(過去編で原作との相違点がかなり発生する予定なので作者の文章力では状況がわからなくなる可能性があります)
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時系列に沿って進めよう
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原作も進めよう(0章終了後アビドス開始)