『よかったぁ……あのまま死んじゃうんじゃないかって、本当心配したんだよ?じゃ、とりあえず自己紹介から始めよっか!私はサオリ!あなたは?』
『……………………ミサキ』
『はぁ……はぁ……やっと追いついた……怒ってないからさ、まず、話をしようよ。名前、教えてくれない?』
『あっ……え……? ヒヨリ、です……』
『じゃあさ!私たちと一緒に来ない?』
『え……?』
『本当に……。ついて行ってもいいの?』
『うん。昨日と今日で、ホムラが悪い子じゃなさそうってことはなんとなくわかったから、だったら、みんな一緒の方が良いでしょ?』
『あのときは簡単な挨拶ぐらいしかできなかったけど、改めて、錠前サオリ、これからよろしくね?』
『うん、秤アツコ。…………アリウスの、生徒会長にならないといけない、秤の子供』
『生徒会長!?いや、うーん……もしアツコが生徒会長になるつもりだったとしても、それはもっと先の話でしょ?』
『そう……だけど、私がいると、みんなに迷惑が……』
『そんなことないって!だって、元はと言えば私たちが無理やり連れてきたんだよ?それにもう、家族なんだから。ミサキたちと話したんでしょ?』
『うん……』
『だったら大丈夫!ミサキも、私以上にちゃんとしてるから、ね?』
『あ、の…………』
『はい、なんですか?』
『ホムラに……ホムラに!何をするつもり!?ホムラは、私たちの家族で…………!』
『それは、あなたたちが知る必要のないことです』
『っ……!』
『……取るに足らないものと思っていましたが、ロイヤルブラッドとその家族…………これは、使えそうですね』
『ッこの子達をどうする気だ!』
『黙りなさい』
『ぐっ……!』
『ひっ───』
『……まあ、いいでしょう。これからあなた達にはアリウス分校に入学にしてもらいます。この自治区にある学校は……統合してしまった方が管理もしやすいでしょう、そうしますか』
『では、連れて行きなさい。……預言者の言葉だけを頼りに外へつながりもしていない道を目指してまんまと罠にかかった、哀れな子供たち』
『シズカさん!よかった……無事で……』
『あ、はは…は…サオリちゃん、ごめん。ホムラとの約束、果たせそうにないや』
『え……?何を、言って……』
『だからさ、どうか、この写真、この時の楽しかった思い出を忘れないでいてほしい』
『あの……これ……!いったいどういう……!』
『……ッ……!じゃあ……!!』
『シズカさんっ!?待って……あなたまで………っ……』
『ロイヤルブラッドを解放しろ……ですか?』
『……っ……はい』
『何を馬鹿なこと……いえ、そうですね。いいでしょう』
『っ本当ですか!?』
『ただし、条件があります』
『まず1に、私の命令には絶対に従う事、これはまあ、当然のことですね。そして2に、預言者のことは忘れ、口に出さないことです』
『なっ……!?』
『これらが認められるのなら、ロイヤルブラッドを解放して差し上げましょう』
『…………っ……』
『受け入れられませんか?では仕方がありませんね、今まで通りロイヤルブラッドはこちらで……』
『っ!……待って、ください』
『…………』
『受け入れます、受け入れますので、どうか……!』
『……なるほど、分かりました。では、あなたの部隊に秤アツコを加えましょう』
『……ありがとうございます……!』
『ただし、先程の私のことば、努々忘れないよう。もし破ったのなら……分かっていますね?』
『待て!!』
『……私が、指導しよう』
『指導……?』
『ヒヨリも、ミサキも私が指導した生徒だ。姫も同じく──皆、成績が良いだろう?』
『だから、任せてくれ──私が責任を持ってこいつを指導する』
『…………ということだ、これからお前の指導は、私たち第8分隊で受け持つこととなる』
『お前……じゃない、白洲、アズサだ……』
『そうか、アズサ……まずは手当、それから休め。訓練はその後だ』
「……ッ……ぁ……」
「終わりだ、立て。……もう、二度と来るなよ」
今のは……私は、過去に逃げていたのか。
体が上げる悲鳴を無視し立ち上がると、皆の元へ戻るために部屋を出る。
そのまましばらく廊下を歩いていると、遠くで囁く声が聞こえた。
「……あれ見て」
「あれって何を……あぁ、『矯正室』送りにされたのか、あいつも懲りないな」
「……なんで、大人に逆らおうとするんだろうね。あの子も、あなたも」
「うるせぇ。ほら、次の訓練行くぞ」
「えー……」
「ぶー垂れた顔すんな」
……『矯正室』、生徒の誰しもが好き好んで近づくことのない、恐怖の対象。
マダムやアリウスの幹部などの大人、教官役を担う生徒の気に障る行動をした者や、マダムの推し進める教育に反した行動をした生徒が送りこまれる場所だ。
送り込まれた生徒は、自らの過ちを認め大人に逆らわないこと、未来に希望を持たないようすることを誓うまでの間、耐えがたい苦痛を味わうことになる、というのが噂として流れていることだが、実際はただ矯正役の鬱憤を晴らすような用途に使われているだけだ。
自身の体を確かめ、想定よりも傷が少ないことに驚く、今日の矯正役は手を抜いたのだろうか?
それならそれで、運が良かったというだけだろう。
再び噂の話になるが、矯正室で命を落とした生徒が居るとも聞いたことがある。
…………今私が耐えることで、アズサがあの苦痛を味わうことが無いのならそれでいい。
だが、これからは?
「私は……」
私はどうすればいいのだろう、アリウス脱出に失敗したあの日から、私たちを取り巻く世界は大きく変わった。
ホムラがマダムによって連れていかれ、私たちが唯一親しかったアリウス生であるシズカはマダムに逆らった穏健派の幹部、アリウスに不要な存在だと……。
私では家族を、みんなを守ることは出来ない、アツコは仮面をつけることを強要され、話すことさえ禁じられた。
ヒヨリはあの頃も後ろ向きの言葉が多かったが、でも同時に皆に明るさを与えてくれる存在でもあった、最近では持ち前の図太さにも陰りが見えるように感じる。
ミサキは……
『どうして姉さんはこの無意味な苦痛を私たちに強要するの?それに一体なんの意味があるの?』
「生きる、意味……」
『……ほら、答えられないじゃん。何でも知っているフリをして、姉さんだって私たちと同じくせに』
『私たちはみんな、あの時に、あの子が連れてかれるときに何もできなかったんだから』
私はあの質問に答えられなかった、あの質問に対する答えを持っていなかった。
始めはどうだったか……もう、覚えていない、でも、今の私の生きる意味は姉として家族を守ることだ、そのためならいくらでも殺しの技術を磨くし、マダムのどんな命令にでも従う。
でも、マダムの命令が家族を、みんなを傷つけることだったら?
……私にマダムの命令に逆らう術はない、その先には死しかない、たとえ私が命令を拒否しても、他のアリウス生がその命令を遂行するだろう。
でも、私にみんなを守り切る力はない。
それなのに、私が家族に生きることを求めるのは、それは意味があることなのだろうか。
ミサキが言っているように私はみんなに無意味な苦痛を与えているだけに過ぎないのではないか?
ただ虚しいだけのものではないのか?
「……vanitas vanitatum」
この言葉は真実なのだろう、世界はただ虚しいものに過ぎず、そこに生きる私たちも、虚しい。
その虚しさを家族に味あわせることが正しいことなのだろうか。
だが、私はミサキがそのようになることを許容出来ない。
私は、どうすれば……。
「アズサ……」
あの子は私とは違う、どれだけ痛めつけられようと、どれだけ否定されようと折れずにいる、まるで、どこかに希望があるかのように。
あの子は確かに輝いている、でもここにずっと居ればいつかはその輝きも陰ってしまうだろう、ここは、そういう場所だ。
だから私が少しでも彼女を守らないといけないのだ、そうでないと、私の居る意味がない。
「ホムラ……私は……」
ジャケットの内ポケットから一枚の写真を取り出す、楽しかった、まだ先には希望があると思っていた頃の断片。
シズカさんが自分用にと撮っていたものを受け取ったもの、これを渡した後、シズカさんは私たちの前に姿を現すことは無かった。
この写真を撮った時に受け取ったもう一枚の写真はここでの生活の中幹部に見つかって破り捨てられた、今ではこれがあの頃と今の私を繋ぐ、唯一の物。
ここに写るホムラは何も変わらない、私たちに外の世界という希望を示してくれていた、臆病だけど私たちを大事に思ってくれていた5年前の姿から、何も。
彼女のおかげで、私たちは外の世界がどうなっているのか、アリウスの今がどうなっているのかを知ることができた。
そうじゃなかったら、今もこの学園で教え込まれているトリニティへの憎しみに染まりきってしまっていたような気がする。
いや、そうじゃない、そんなことは無くても、私はホムラに居て欲しかった。
でも、あれから私たちがホムラに会えたことは一度もない、マダムに聞いてみたところで知る必要は無いとしか答えてもらえないだろう。
それにあの命令、きっとホムラももう……。
だが、どれだけ忘れろと、口に出すなと言われても、私たちの中から彼女の影が消えることは無い。
今でも、連れていかれる時のホムラの泣き笑いのような、恐怖と諦めと作り笑顔の入り混じった表情が脳裏に焼き付いて離れないのだから。
重たい足取りで宿舎へと向かう、ああ、帰ったらみんなの指導をしなければ、せめて、少しでもみんなが大人からの指導で苦しい思いをすることのないように。
……その前に気持ちを切り替えなければ、こんな状態でみんなの前に出たら心配をかけてしまう。
みんなの前では少しでも、昔のように頼れる姉で居なければならないのだから。
「……少し、顔を洗ってから帰るか」
きっと今の私の顔は土と血と涙と無力感とで酷いことになっているだろう、顔を洗うことで少しでもマシな顔に戻して訓練に備えないと。
今の私には、みんなの姉、そして、スクワッドのリーダー、それしかないのだから。
このまま進めていくと原作に到達するまでかなりの時間がかかるのですが、過去編が1章終わるごとに原作も1章進めるなど同時進行で進めたほうがよろしいでしょうか?(過去編で原作との相違点がかなり発生する予定なので作者の文章力では状況がわからなくなる可能性があります)
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時系列に沿って進めよう
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原作も進めよう(0章終了後アビドス開始)