未来の見えていた少女の大切なもの   作:かぶり猫

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エピローグ1.隠しごと

 黒色スーツとの契約が済んだ後、サオリにも手伝ってもらい校内放送を使って生徒を一か所に集め、演説で諦観にまみれていた生徒達のベアトリーチェへの怒りと自分たちで何とかするしかないという焦燥感を焚き付けた。

それをするにあたって、反抗することは許されないとまで考えていた大人達やベアトリーチェを自分たちと変わらない、それどころか年下の僕が倒したという事実は大きく役立ったように思える。

 

 演説というものは初めてだったが、激情を向ける相手を作り、その心を煽るように段々とジェスチャーを激しくしていき、炎なども演出として用いることで僕がアリウスを、自分たちを導くに足る力を持った存在だと印象付けることができたはずだ。

あの女に感謝をすることはしたくはないが、これは彼女がアリウスに武力を重視する教育を施していたことも大きかった。

彼女達にとって僕は、自らを虐げていた存在を打ち倒せる程の力を持った者として映ったのだから。

 

 こうなれば一度ついた火は矯正室に送られるような生徒たちから徐々に広まっていき、あっという間に大人達や僕の主張に反対の人間をアリウスから追いやる炎となる。

そのような人間達はベアトリーチェが隠しているであろう物資補給の抜け道などを使って、すぐにでもここを去っていくだろうことが予想できる。

 

 ……本来僕は、ベアトリーチェの信者となってしまったような子たちも助けるべきなのだろう。

だが今の僕にはそれを可能にする力も無ければ信頼関係もない、そういう子たちには自らの意思で希望を掴み取ってもらうしか無いのだ。

割り切れ、僕の最優先事項は家族を守ること、掴めないものまで掴もうとして結果全てを取りこぼすなんてことはあってはならない。

 

 

 朝礼台代わりに使っていた物資運搬用のトラックから飛び降りながら自らを戒める。

ここからは僕のできることは少ない、生徒達の流れに任せるしかないからだ。

次に手を出すのは生徒の意見が纏まり始めたときだろう。

その間に僕は五年ぶりの家族との顔合わせをしなければ。

 

 これからが楽しみで仕方がないという表情で、近くに控えていたサオリの方へと近づく。

そうするとあちらからも近づいて来て両肩を勢い良く掴まれ、真剣な表情で見つめられる。

 

 

「ホムラ、やらないといけないことは終わったのか?」

 

「?うん、これで、アリウスがベアトリーチェの手から離れて自立するための1つ目の課題はクリア出来たと思うよ」

 

 

 そう、これでアリウスにも自らの意思で物事を決定するきっかけを作ることが出来た。

これは今まで自由意志を奪われてきた彼女たちにとって、大きな経験となるだろう。

 

 

「じゃあこれからどこに行こうとしてたんだ?」

 

「そりゃあ……皆のところでしょ!いやー五年間で皆がどう成長したのか、僕は楽しみで仕方がないよ!」

 

 

 サオリの眼光がますます鋭くなる。

 

 

「その状態でか?」

 

「え?……あー」

 

 

 現在の自分の外見を思い浮かべる。

焦げてボロボロになったアリウスの制服に素足、その上頭には血まみれの包帯を巻いているのだ。

五年間会えなかった相手とそんな状態で再会すれば不要な心配をかけること間違いなしだろう。

 

 

「そうだね、このままじゃ皆に心配をかけちゃう、ありがとうサオリ、気づかなかったよ。まず包帯は新しいものに変えて、あと服は……」

 

 

 服はどうしようか、何か他の上着を着ないと、今のインナーは焦げて穴だらけだ、予備か何かあるだろうか……。

 

 

「ホムラ」

 

「ん?」

 

 

 名前を呼ばれたので顔を上げる、予備があるかサオリに聞いてみるのも───

 

 

「むぐぅ!?」

 

「さっき言ったよな、今すぐに手当てするべきだって。別に私はみんなに心配をかけるとかいうことを考えて、その状態で行くのか聞いた訳じゃ無いんだが?」

 

 

 さ、サオリの指がくちに、あばばばばば、のびる!ほっぺたがのびる!

 

 

「ほへん!ほへんっへ!ひんはひはへるほははほひひへはふへへはんはっへ!」

 

「忘れるようなレベルの怪我じゃないと思うんだが?」

 

 

 至近距離でサオリの絶対零度の瞳を浴びる、痛い、視線が痛い!

記憶にあるサオリってこんな感じじゃなかったと思うんだけど!?

 

 

「わはっは!へあへふふはら!ふふはらほへはへへ!」

 

 

 頬が溶けかけのチーズくらいのびてるって!早く、早くこの危機を脱しないと!

でも、サオリの手を無理やり剥がすのはダメだし……どうすれば…………!?

板挟みの状態で手をわたわたさせていると、絶対零度の視線を放っていた目元がふっと緩む。

 

 

「……はぁ、分かったならいい、早く手当てしに行くぞ」

 

 

 頬をこれでもかと引っ張り続けていた彼女の親指がするりと抜ける。

言葉を発せることに一安心しながら先程まで輪ゴムもびっくりの伸びを見せていた頬をさする。

ち、ちぎられるかと思った……

 

 

「サオリ、5年間で大分変わったね〜……うう……」

 

 

 思わずそんなことをこぼす。

5年前はもっとこう……優しめだったというか……。やっぱりここでの生活のせいなのだろうか。

 

 

「……それは、お互い様だろう」

 

 

 そう言ってサオリは足早に校舎の方へと向かって行く。

僕が?僕が変わった?いや、違う、そんなはずはない、それは僕が成長したからだ。

あの頃の、怖がるばかりで何も出来なかった弱い存在から、皆を守れる程強くなったからだ、そうに決まっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サオリに着いていき教室札へ乱雑に保健室と書かれた部屋へと入る。

どうやら普段ここを使ってたのは大人などばかりだったらしいが、だからこそ十分な医療設備が揃っているとサオリは踏んだのだろう。

 

 

 「こんな設備、見たこともないぞ……」

 

 

 どうやらサオリの見立ては正しかったらしい、僕も部屋を眺めてみるが見当のつくものから何がどうなってるのかさっぱりなものまで、様々な道具が並んでいる 。

だがそのどれもが新品とは程遠い見た目をしているのは、虚しさと憎悪を植え付けるベアトリーチェの統治術の賜物だろう。

 

 

「この中で私が使えそうなものは……これと、これか」

 

 

 サオリは棚に並べられた薬品類の中でも、最も使われた形跡があるものを選んで取り出す。

僕にはそんな知識入ってないから何がどんな効果があるのかさっぱり分からない。

 

 

「私にも専門的な知識は無いし、そんなものを知ってる奴もここにはいないから応急手当の延長線にはなるが始めるぞ。……その、ホムラ、一度包帯を外してくれないか?」

 

 

 彼女はここ数時間の中、一番真剣な声色でそう要求する。

出血は止めたしある程度治療にも神秘を割いてたから、そこまで酷い状態ではないと思うが……。

 

 

「分かった、じゃあ外すよ」

 

 

 包帯の結び目を解いていく、うわ、血が固まって解きづらいな。

そう思いながらもベリベリと剥がしていきなんとか包帯を外すことに成功する。

改めて包帯を見てみると、元の白い部分はほとんど無くなり赤黒く染まりきっているのがわかる。

 

 

「うん、これでよし。サオリ、取れたよ」

 

「見せてくれ……っ!……ほとんど、傷は塞がってるな」

 

 

 一目見たかと思うと目にも止まらぬ早さで顔を背けたのち、再度僕の顔を見たサオリは目をそらしながら、驚きを隠せない様子でそうこぼした。

 

 

「そう?」

 

 

 それなら意識して神秘を治癒に使うことがかなり効果的だったことになるのだが。

 

 

「ああ、包帯の様子からしてかなり酷い状態だと思ってたんだが…出血も止まってる。傷跡は残ってるが…まずは血を流すぞ、薬を塗るのはそれからだ、しみると思うが我慢してくれ、すまない」

 

「うん、わかった」

 

 

 備え付きの蛇口を捻り血を洗い流していく、すると洗面器が真っ赤になってしまった。

これは掃除しないとダメかな。

 

 

「よし、じゃあ椅子に座ってくれ。薬を塗る」

 

「うん、あの椅子でいいかな~」

 

「待て私がする」

 

「えっ?あっうん、わかった……」 

 

 

サオリの持ってきたパイプ椅子に座り待機していると、治療が始まる。

火傷痕を触る手は壊れ物を扱うようで、ゆっくり、ゆっくりと少しも無駄な力を入れること無く傷口に薬を塗っていく。

 塗り終わると彼女は何度も躊躇いながら、静かに口を開く。

 

 

「ホムラ…その、目は、どうなんだ?見えるのか?」

 

「いや?見えないよ?」

 

 

 そのために刺したのだから、見えていたら僕はここにはいない。

 

 

「この傷は……本当に自分でやったのか?」

 

 

 その返答にサオリは眉をひそめ、顔を俯かせながらそう問いかけてくる。

 

 

「うん、必要だったからね」

 

 

 膝の上に置かれた拳が固く握りしめられる。

 

 

「それは、さっき言ってたが……私達のため、だったのか……?」

 

 

 家族の、アリウスのために必要だったことに間違いはない、迷いなく答えた。

 

 

「うん、でもそれが全部じゃない、僕が生きる為にも必要だった。だからサオリ達は気にしなくていいんだ、全部僕に任せてくれれば、それで良いんだよ。だって、僕は皆の」

 

「違う!!」

 

 

 悲鳴にも似た叫びが部屋中に響き渡る。

 

 

「っ!すまない……。でも、違うんだ……そのためにホムラが……こんなにも傷つくことはない、ないんだ……だって、お前は……」

 

 

 サオリの言葉は段々としりすぼみになっていき、最後にはもう口に出ているかも分からない。

 なぜ?これが無かったら僕たちは再会することもなく命を終えていただろう、未来視を潰すことは必須事項だったのだ。

サオリが取り乱した理由を探る。

……そうか、サオリ達の為だと言ったのが良くなかったのか、確かにこれでは皆の為だと責任を負わせる形になってしまうな。

 

 そう考えていると疲れを滲ませた、僕を心配をする声が聞こえる。

 

 

「…ホムラ、他に怪我はしてないのか?マダムに何かされたんじゃないのか?」

 

 

 疲れを少しでもとってもらうため、心配をかけないため、安心を感じてもらうためにもサオリには少し休んでもらうことにした。

 

 

「サオリ」

 

 

 彼女の頭を抱き寄せ、ゆっくりと、ゆっくりと頭を撫でる。

こういうときは、これでいいんだっけ?

 

 

「何をっ」

 

「大丈夫だよ、さっきも言ったけどそれが全部じゃないし、サオリが気にするようなことは起きてない。僕は僕のために、皆に会うためにやったんだから。大丈夫、心配しないで。だから、少し休んで、準備ができたら起こしてあげるからさ」

 

 

 彼女の頭をなでながら5分ほど過ごすと、寝息が聞こえてきた。

……今までずっと気を張ってた上に今日は色んなことがあったんだから、疲れて当然だ。

少しのあいだだけでも寝かせてあげよう。

 

 サオリを抱きかかえ。ゆっくり保健室のベッドへと寝かせる。

 

 

「……目だけでこんなふうになるんだったら、これは見せないようにしないとね」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 ボロボロになった上着も脱いで姿見の前に立ち、自分の姿を見つめる。

火傷に傷跡、縫い跡だらけのボロボロな体。

僕にとっては見慣れたものではあるが、皆にはさらに心配をかける見た目をしているのだろう。

 

 神秘を用いても深い傷は跡が残るのだからしょうがないことではあるし、そもそも怪我を治せるほどの神秘なんて今まで扱えなかったのだ。

一目1度治ってしまえばそのあとから傷跡を治すことなど出来ない。

 

 鏡に映る自分と手を重ね合わせ、やけどの跡と瞳孔の開ききった右目を見る。

……これからは右側は隠しておいたほうが色々と都合が良さそうだな。

 自らの容姿の確認も済ませると、棚に置いてある包帯を巻いてグロテスクなことになっている右目を隠しておく。

よし、今のうちに着替えれそうなものを探しておくか、できれば丈の長いものがいいのだが、保健室には置いてあるだろうか。

 

 

 

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