未来の見えていた少女の大切なもの   作:かぶり猫

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4.戦いではなく

 

「……この辺りじゃ見ない顔だね、ついさっき来たのかい」

 

 淡々と、大人は感情の読めない声で僕たちへ問いかける。

その手に武器の類は無く、雨粒を弾き音を鳴らす真っ黒の傘が1本のみ。

外に他の人間が居るような気配は無い。

そこまで確認すると、みんなが咄嗟に銃に手をかけようと動くのを制止し口を開く。

 

 

「っ……!」

 

 

 開くものの、意味を持つ言葉は出ない。

 

……どう返答するのが正解だ?

僕たちは今、ここの住民と思われる相手にコンビニを荒らしていた不良と見られているはず。

質問を返すのは‪不正解、戦闘をするのは論外。

逃げたとしても意味が無い、それこそ後々自らの首を絞める結果になるだけだ。

穏便にやり過ごすのなら誠意はあるという姿勢を見せるのが1番だろう、話で、言葉で解決しなければならない、でも……。

 

考えのまとまらぬまま、どうにか言葉をひねり出す。

 

 

「僕、たちは……」

 

 

 訳を説明すれば理解してくれるかもしれない。

謝罪すれば、許してくれるかもしれない。

 

けども、相手は大人だろう……?(そうなるとは限らないだろう……?)

 

優しさ、そんなあやふやなもので大人なんか信頼出来ない、でも、ここを切り抜けるにはあの大人を信頼した行動をするしかない。

それしかないという理性とそれでもという感情がぶつかり合い、積み重なったそれ(不信感)が僕の口を縫い付ける。

 

 

「……ふぅん、言えない感じかい」

 

「っ!」

 

 

 何か、何か弁明しないと、じゃないと────

 

大人と睨み合いを続ける僕を庇うかの様に、間に割って入る影が1つ。

 

 

「ここの持ち主ならば謝ろう、弁償しろと言うのなら払うつもりだ。私は錠前サオリ、この5人の……スクワッドのリーダーだ、責任は私にある」

 

「っサオリ!?」

 

 

 こういう時にどうにかするのが僕の役割で──

 

──何も出来なかったから、サオリが助けに入ってくれたのか。

……………………サオリに任せるべきだ、僕では言葉に詰まってしまう。

伸ばしかけた手が、ぎこちなく下がる。

 

 

「サオリちゃんっていうんだ。 ……別に謝られるようなことなんてないさ、ここの持ち主はとっくの昔にどっか行ったからね。なにか持ってかれたところで誰も痛くも痒くもない。ま、あんまりよくないことなのは確かだけど」

 

 

 彼女は傘をたたみ屋内へと1歩を踏み出す。

それに合わせて僕たちは1歩後退する。

どうやら雨は通り過ぎたようで、ただ傘や髪から水滴の滴る音だけが響く。

 

大人は僕たちの姿を見るとひとつの提案をした。

 

 

「そんなことよりも君たち、そんな濡れてたんじゃ風邪をひくだろう。この辺りじゃホテルなんざないし……うちでシャワーくらい浴びてくのはどうかな」

 

「む……」

 

「すまない、少し待って欲しい」

 

 

視線は逸らさないまま、囁くような声量で作戦会議を始める。

 

 

「ど、どうします……?リーダー……」

 

「……罠の可能性もあるよ、誘い込んだところで捕まえるつもりかもしれない」

 

「何が起きても対処出来るようにはしてるつもり、だから……サオリの指示に従う」

 

「私は……今のところは信じてみても良いと思う。あの人、嘘をついてる感じはしないから」

 

 

 皆の意見を踏まえた末、サオリは判断を下す。

 

 

「……受ける方向で少し様子を伺う、なるべく穏便に済ませた方がいいのだろう?」

 

「……うん、そうだね」

 

 

 サオリは何も間違っていない。

これからの為にも、出来るなら波風立つようなことは避けるべきだ。

 

 

「そう警戒しなくても、取って食ったりなんざしないってのに……」

 

 彼女は顎に手を添え店内へと視線を移す。

 

 

「じゃあこういうのはどうだい、私は君たちがここでもし何かしてたとしても、見なかったことにする。だから私の頼み事も聞いて一緒に来てくれないかな」

 

「む……」

 

 

 サオリと目配ばせを行う。

 

 

「ああ……わかった」

 

 

 今のことを言いふらされた時にどうなるかは……少なくともいい結果にならないとは分かる。

それに彼女と関係を作っておくことは有益だろう。

 

 

「それじゃ、こっちだ」

 

 

 なるべくそうなってほしくはないけれど、いざという時は……。

数度拳をつくり、手のひらで燻る炎を握りつぶすと、彼女の後を追い動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 段々と人の住む地区に近づいているのだろうか、手入れの行き届いた建物もちらほらと見えるようになる、近くに彼女の家があるというのも嘘ではなさそうだ。

 

 道路標識に記された、見たことも聞いたこともない地名を目にした折に、ふと思い出す。

……折角ここに詳しそうな者がいるのだから、情報収集はしておくべきだろう。

町にたどり着いてから常に頭の片隅にあった疑問を投げかけた。

 

 

「……ここは、トリニティ自治区の中なんですか?」

 

 

 彼女は少しの間を置いて言葉を返す。

 

 

「ん?あぁ……いや、トリニティじゃない。近くではあるけどね」

 

 

 ここはトリニティではない、そのことを知れただけでも大きな進歩だ。

 

 

「トリニティじゃない……っということは、ここはどこなんでしょうか……?も、もしかして、トリニティの生徒だと分かればところ構わず爆発させてはそれを笑いものにし、更には病院送りにするという、ゲヘナだったりするんですか……!?う、うぅ……私たち……私たち……!」

 

「全部が全部間違ってる……とは言い難いのがあれだけど、ゲヘナでもない。だからほら、そんなネガティブにならないで」

 

 

 彼女はふいにヒヨリへと手を伸ばしたかと思えばその半ばで硬直させ、また何事も無かったかのように前を向く。

 

 

「……一言でここを言い表すのなら、トリニティとゲヘナの中間地帯に位置していた学校の元自治区。ってのが分かりやすいかもね」

 

 

 元自治区、その単語で今までのこの町の状況に合点が行った。

 

 

「元自治区ってことは、ここの学校は……」

 

「廃校になったよ、五年くらい前に。それからはみんなトリニティとかゲヘナに引っ越してくし、三大校同士の中間地帯といってもこんな山奥の田舎道、客の1人も通りやしない。だから企業もどんどん撤退して……この有様だ」

 

 人の往来が少ない場所、企業は撤退して息はかかってない、この荒れようだと連邦生徒会も大してこの自治区に関与してないのだろう。

そうやって誰も手を差し伸べなかった結果、たくさんの人たちが過ごしていたのだろう町からは人の影が消え失せ、その存在意義を失った建物のみが残ることになったのだ。

自分でも、眉間にしわが寄っているのが分かる。

 

 

「そう、でしたか」

 

 

……だから何だというのか。

それよりも、ここが学校や企業の影響下にないというのはこれ以上ないほど都合が良い。

どうにかして周辺の建物を傭兵団の……アリウスの外の拠点として使えるように許可を得なければ。

でも決して、それを盾に大人に利用されるなんてことにはならないように。

 

「ん、ウチが見えてきた。長いこと歩かせたね、あの赤色の屋根の建物が私の家だ」

 

「あれが……?」

 

「……おおきい」

 

「1人で暮らすなら掃除が大変なだけさ、面倒なのも寄ってくるし」

 

 

 彼女が自らの家だと言う木造のそれは、周りの建物のように風化しているわけではなく、でも新しいとも言えず、一軒だけ他の家と流れる時間が違うというか……有り体に言えば、いい意味で古めかしい建物だった。

 

 彼女に案内され門をくぐり、手入れの行き届いた庭を横目に玄関へ向かう。

その殆どが木で出来ているというのに、僕の使う炎でも燃えることの無さそうな、そんな威容を放っている。

 

 

「中に入ったらとりあえず客室まで案内するから、そこで……」

 

 

 ドアノブに手をかけたまま言葉が途切れると、彼女の纏う空気が少し変わったような気がした。

 

 

「……そこで待ってて、ちょっと馬鹿どもを締め出しにいく」

 

「馬鹿ども……?中に人がいるのか?」

 

「あぁ、勝手に上がり込んだみたいだ。あんのジジイどもは本当に……」

 

 

 彼女は愚痴を零しながら建物の中へと消えていく。

 

 

「他人が侵入できる状態で家を出るなんて……不用心すぎる気がする。罠も設置してないみたいだし……」

 

 

 アズサは玄関まで歩く間に罠の類を探していたようだった。

……すごいな、罠のことなんて思い至らなかった。

 

 

「……それだけその人たちのことを信頼してるのかも。それとも、その人たちが入れるようにあえて……とか」

 

 

 アツコの言葉になるほど、となるものの更なる疑問も浮かんでくる。

そこまでの信頼を寄せる相手にあんな言葉を使うのだろうか……?

 

 

「ほら、さっさと出てく」

「わかった!わかったから押すな!腰がやられる!」

「知ったこっちゃないね、人がいない時に勝手に上がり込んでるのが悪い」

「それはそうじゃが……たまには……」  

「普段ならまだしも、今はとにかくダメ」

 

「ほら、仲良さそう」

 

「そ、そうですかね……?」

 

 

 あれも、仲がいいということなのだろうか……?

喋り声は段々と大きくなり、音を立ててドアが開かれる。

 

 

「きびしいったらありゃせんわ。もう少し年寄りをいたわって……」

 

 

 出てきた大人と目が合ってしまった。

僕がドアの正面に立っていたため外に出ることが出来なかったのかもしれないがそんなことには思い至る訳もなく、互いに硬直したまま数秒の無言が訪れる。

 

 

「……子供ぉ!?お嬢さんたちいったいどこから……!」

 

 

 一人がそれを吹き飛ばすと、釣られたように一人、また一人と建物から顔を見せる。

その勢いに大きく飛び退く。

 

 

「……ここって子供住んどったか?」

 

「こんな山奥までよおきおったわ。どれ、飴でも…………」

 

「あ、あの……」

 

 

 彼らに敵意は無い、敵意は無いように見えるが……。

 

 

「馬鹿お前、今時の子が塩飴なんぞ食うと思っとるんか」

 

「食わんのか!?」

 

「さっきから……ここ数年でボケが回ってきとるんじゃないか?」

 

 

 今までに出会ったことのないような類の大人に全員戸惑いを隠せないでいた。

そんなところに彼女が戻ってきて一言。

 

 

「この子らのことは後で話すから、さ っ さ と 帰る」

 

「わーった!わーったわい!ったく……お嬢さんたち、そういうわけじゃからすまんの」

 

 

 それだけで彼らは先程までの勢いを失い、そそくさと立ち去って行った。

 

 

「悪いね、私もまさか連日で居るとは思わなくてさ」

 

「あ、あぁ……そうか」

 

 

 今のやり取りで、彼らと彼女の関係性がどのようなものか少しだけ分かったような気がした。

 

 

「ま、改めて中へいらっしゃい。それだけの荷物を持って立ちっぱは疲れるだろう」

 

 

 彼女は僕たちを内へと呼びこみ、自らは先に向かってしまった、それに対して僕たちはやや反応が遅れてしまう。

皆先程の大人達の勢いに圧倒されたのもあるのだろうが、それを制御しきっていた目の前の彼女にもまた、衝撃を受けていたのだった。

 

 

「お、大人って怖いですね……でも……飴、貰えなかったのは少し残念です……」

 

「……気にするとこ、そこ?」

 

「とりあえずついてこっか……」

 

「ああ……そうだな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 客室へと案内された後、こんなにも高そうなソファに座っていいものなのかと落ち着かない時間を過ごしていると、先刻どこかへと去っていった彼女が戻ってきた。

 

 

「すまないね、風呂を沸かすにはもう少し時間が……って、どうしたんだいそんな端っこに寄って」

 

「いえ……なんでも……」

 

 

 室内は上品に纏まっており、壁に飾られている絵画や花瓶などは、そういうものの価値が分からない僕でも見るだけで高価なのだろうと予想できる。

もし壊しでもしたらどうなってしまうのか……正直考えたくもない。

 

 

「ま、とりあえずここでゆっくりしてて……いや、サオリちゃんとそこの眼帯の子はちょっと私に付いて来てくれないかな」

 

「え?」

 

「どうしたんだ?何か問題があっただろうか」

 

 

 彼女は僕たち2人を交互に見やる。

 

 

「君たちがどういう子達なのか、すこしくらいは話を聞いておきたくて……悪いね、年に一度あるかないか位のお客さんだから気になるのさ。無理にとは言わないからさ」

 

「……なるほど、了解した」

 

「それに、眼帯の子はどうにも話があるって様子みたいだし」

 

 

 気づかれてた……!?

動揺を表に出さないように努め、よりいっそう警戒を強める。

 

 

「じゃ、少しついてきてね」

 

 

 

 

 

 

部屋を出て右の突き当たりへ、彼女について行くとそこは、最低限の家具だけが揃えられた簡素な部屋だった。

椅子とテーブル、照明を備えただけの部屋。

だと言うのにどうにも人の痕跡を感じる不思議な部屋。

 

 

「まあ、座って」

 

 

 差し出された椅子に座り、彼女と対面する。

 

 

「わかった。……ところで、1ついいだろうか」

 

「なんだい?」

 

「この話をするのは、さっきの部屋では駄目だったのか?何故私たちを……」

 

「あぁ……別にダメって訳じゃないけど……こういう会話って誰かが代表してするものだし」

 

「サオリちゃんがリーダーってのも間違いないだろう、でもそこの眼帯ちゃん……悪いね、最初に自己紹介しておけばよかった。君も同じようにあの子たちのリーダーでしょ」

 

「……ホムラ、です」

 

 

 僕がこの大人にそのような事を明言したことは無い。

さっきからどれだけ人のことを見透かしたような発言をするのか。

 

 

「ホムラちゃんか、ありがとう。後であの子たちの名前も聞かないとね。私のことは……まあ、械原さんとでも呼んでくれ、あのジジイどもからは姐さんなんて呼ばれてるけど……私の方が年下だってのにね」

 

 先程の騒がしい人たち……やっぱり、力関係は彼女の方が上のようだ。

身じろぎひとつせず、彼女は続ける。

 

 

「ま、とりあえず君たちの話を聞かせて欲しいな。なんでこんな、来ようと思わなければたどり着くことすら難しい山奥に足を運んだのか」

 

「それは、僕が話します」

 

 

 正直言って偶然だ、たまたま、トンネルを出た先がこの自治区だったに過ぎない。

だから、そう……これは隠す必要無いだろう、ここがどんな秘境だったとしても、都市からはじき出された不良が迷い込む、なんて話はあるのだから。

僕たちが真に偽るべきなのは、その正体だけだ、それさえ隠し通せれば僕たちはただのドロップアウトということで通せる。

 

 

「……僕たちがここにたどり着いたのは全くの偶然です。落ち着ける場所を探して、街から離れてった末に訪れただけ。学校に通わない、親元も離れてる子供はキヴォトスではまともな生活なんて出来ない、そうでしょう?」

 

 

 敢えて自嘲的に、真に迫るように、6年前の常識を頼りに言いくるめる。

この瞬間こそが僕がみんなの足を引っ張りながらもついてきた理由、先程みたいな失敗、二度とする訳にはいかない。

それでは本当に、本当に何の価値もないお荷物になってしまう、それだけはダメだ。

 

 

「……そうだね」

 

「僕たちには住む場所が無かったので、最初は良くても数百人以上となってくると……ひとつの場所に長居することも、みんなで纏まって動くことも出来ませんから」

 

「待って、君たちの仲間はさっきの4人だけじゃなないの」

 

 

 悪気は無くとも、警戒していたから仕方なかったという様に。

 

 

「……伝えてませんでしたよね。僕たちは数百人の集団の中でのリーダーみたいなもので……みんな、色々な理由があって僕たちの仲間に加わってるので、大人やトリニティとかの子達にいい感情を持ってない子も少なくないんです。だから、こうやって知らない場所にはまずは僕たちが向かっています」

 

「数百人を背負って…………道理で。いや、だから君は私に話があるんだね」

 

 

 高圧的にはならないように、かといって侮られることも無いように、求めるものを、そしてその対価を提案する。

 

 

「はい。……先程も言ったように、僕たちには長居できる場所がない、学生証が……信用が、無いから。お金があればその問題も解決出来るかもしれない、でも、まともなバイトも難しい、信用が無いから」

 

「だから僕たちは、学生証なんて関係なく、自らの成果だけで信用を勝ち取ることの出来る、傭兵を……傭兵団を組織するんです。でも結局、それだけだと今の住処の問題は解決しない、なので──」

 

 

 ここからが本題、ここからが、正念場。

 

「──この自治区の建物をお借りしたいんです、もちろんタダでじゃありません。家賃は払いますし、建物の修繕や掃除なんかも自分達でします。……どうでしょうか」

 

 

 答えは……沈黙だった。

その顔からは、何も伺うことは出来ない。

……メリットが足りないか?

 

 

「……ここでみんなが生活するなら、傭兵活動で得たお金なんかも落とすでしょう。そうなればここのお金の流れも活発になります、ただ家賃だけの話じゃありません」

 

 

 彼女は何も発することは無い。

動作はなく、何も読み取ることは出来ない。

それとも立場の問題だろうか。

 

 

「揉め事が気がかりだということでしたら大丈夫です、大人が嫌いと言っても害することはないですし、そんなことはないように改めて伝えます。自分では決められないという話なら、町を取り仕切る人に繋いで頂けませんか」

 

 

 反応は、無い。

無言を貫く彼女の姿勢は、僕には拒絶にとれた。

問題になりそうな所、それに対する対処は全部伝えたはず、でも、ここで引き下がるわけには……。

 

 

「悪いけど、一旦────」

 

「───私からもどうか、よろしく頼む。この通りだ」

 

 

 諦めが脳裏をよぎったその時、隣に座る家族の声が聞こえた。

 

 

「サオリ……?」

 

 

 サオリはその言葉と同時に頭を下げ、そのまま動かない。

 

 

「私たちは……貴女にどうしても言えない秘密がある。身元の怪しい集団なのも間違いない、こんなことを頼む相手に不誠実だということも分かっている」

 

「……うん」

 

「ただ、その上でこの話を受けて欲しい」

 

 

 顔を上げた彼女の瞳には、昔、初めて会った時と何ら変わらない強さが、知っているはずなのに、初めて見たかのように感じる確かな強さが宿っていた。

 

 

「────、そう、だね。私としたことが、気を張りすぎてたらしい。こうやって会ったばっかりの私を頼ってくれてるんだ、なるだけそれに応えないと」

 

 

 械原という大人はそこまで言うと、ぴしゃりと自らの頬を叩く。

 

 

「よし、わかった。その話、町内会の爺さん達に掛け合ってみるよ、いくら何でも私だけでは決めらんないからね」

 

「っ本当か!?」

 

「ああ、とは言っても認めてくれるさ、あの人達は。君たちもさっき玄関でばったり出会っただろう、あの人達も町内会のそれだ。まあ、そうじゃなくても爺さん達は子供には甘いから、いけるいける」

 

「ありがとう……!」

 

「大丈夫。さ、そろそろお風呂も準備出来てるだろうし、私はそっちの確認に行ってくるから、君たちも部屋に戻ってて」

 

 

 彼女は席を立つと、ドアへと手をかける。

 

 

「それに、子供が困ってるなら手を差し出すのが、大人の役割だ」

 

 

 それだけ言い残して、静かにドアが閉じられる。

……大人の役割?そんなものないだろうに。

そして、この部屋には僕とサオリだけが残された。

 

 

「やったな、ホムラ。これが上手く行けば目標もかなり進展するんじゃないか?」

 

「うん、そうだね……上手く行けば活動拠点の確保だけじゃなくて、他の色んなこともやりやすくなる」

 

 

 すさまじい進展だ、長期任務になるという予想はもしかしたら外れるんじゃないかと思うほど。

 

 

「あの、サオリ、僕は……」

 

 

 今日、何も役に立てなかった、ずっとサオリに助けられてばっかりで、何も……。

俯きかけた僕の額に、こつん、と拳がぶつかる。

 

 

「お前のことだ、私に任せっきりになっていた。なんて思ってるんだろう?」

 

「え?どうして……」

 

「分かるさ、それにその考えは違う。確かに最後のひと押しをしたのは私だが、そこまで漕ぎ着けたのはホムラだし、いつも最初に動き出したのはホムラだ、だろう?」

 

 

 そう言ってサオリは得意げに笑う。

僕はその顔になぜか、どうしようも無い後ろめたさを感じるのだ。

再会した時から、ずっと。

 

 

「うん……ありがとう、サオリ。それに、ごめん」

 

「大丈夫だ、それに……械原さんの事だが、アツコも言ってた通り、少し信用してみてもいいと思うぞ」

 

「そう、なのかな……」

 

 

 僕の中に残りつづける大人への不信感は未だに拭えることはない……咄嗟の判断に支障が出るほど。

そしてそれは、今日僕の明確な欠点として現れた。

 

 

「ああ、多分だが、今まで私たちが会ってきた大人とは違うくくりの人間だ、あの人は。多分、シズカさんみたいな……」

 

 

 サオリが自分の中で何の根拠もなしにこんなことを言うとは思えない、アツコの言葉もあるのだろうが、きっと自分でもそう思ったからこそこうやって伝えてくれているのだろう。

 

 

「うん、サオリがそういうのなら、僕も頑張ってみる」

 

 

 確かに、あの人個人に何か嫌な感情を抱くことは無かった、なら、少しくらいは……。

サオリがそう言っているのだ、きっと間違ってなんかない。

そこまで話すと、肩の力が抜けるのを感じた。

 

 

「……ああ。よし、それじゃあみんなの所に戻ろう。お風呂……確か、浴槽にお湯を張って浸かるものだろう?」

 

「そうだね、僕も入った記憶は無いけど……、きっとすごいやつだよ!」

 

 

 お湯を全身が浸かるほど沢山使って体を洗うのだ、すごいものじゃなければ割に合わないだろう。

 

 

「……ふっ、そうだな、すごいやつだろう」

 

「む、なんで笑うのさ、何も間違ったことは言ってないはずなんだけど」

 

「……間違ったことは言ってないな。ああそうだ、久しぶりに皆でシャワーを浴びるのはどうだ?」

 

「……いや、僕は止めとく、お風呂って多分1人とか2人しか同時には入れないだろうし」

 

 

 みんな忙しいから、落ち着いたら伝えようと思っているうちに数が月が経ってしまい、傷跡のことはいまだに話せていない。

まあ、そこまで深く考える必要のあるものでもないだろう。

 

 

「…………そうか、ホムラがそう言うなら、止めておこう」

 

 

 そんなことよりもひとまずは、任務に進歩があったことを喜ばなければ。

まだまだ先は長いとはいえ、大きな問題が一つ解決したのだから。

 

 




■アリウス外界調査メモ
物資運搬経路01から出た場所は、トリニティとゲヘナの中間に位置する小さな自治区である。今現在この自治区を統治する学校は存在せず、住民たちによる自治が主な状態となっている。企業の類もほとんど撤退しているため、大部分がゴーストタウンのような状態となっている。
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