鬱蒼とした木々に囲まれ、半ば獣道のような、だが微かに人の手が入った形跡の残る道を少し進むと先程見た光景が眼前に現れる。
間近で見ることで、これはただ打ち捨てられ風化しただけの街ではないことに気づかされた。
遠くからでは分からなかったが、崩れた建物のあちらこちらに銃痕や焼け焦げた跡が残っており、激しい戦闘があったのであろうことが伺える。
おそらくここら一帯の建物が崩壊しているのも、その戦闘の名残なのだろう。
爆発物や銃器、果てには戦車を使った戦闘、これらは特段珍しいことではなく……戦車は珍しいかもしれないが、トリニティでさえも日常的に起こりうることだ、私としてはたまったものではないが。
だが、もしそういうことで建物が崩れたりしたとしても、まともな自治区ならすぐさま復旧され戦闘があったことすらわからなくなるだろう。
このように戦闘の跡がただそのままの状態で放置されることなど起こりえないのだ。
それに、こんな執念深さまで感じ取れるような戦闘にまで発展することなど無い。
異常な程破壊しつくされた街を歩き進むと、段々と原型を残した建物が増えていく。
そのまましばらく探していると、前方から人の声が聞こえてきた。
「やっと捕まえたぞ!ちょこまかと逃げ回って!」
「うぅ……!」
喧嘩でもしているのだろうか、怒鳴り声のようなものまで聞こえてくる。
……なるべく危険なことには関わりたくないのだが、今自分が見知らぬ場所にいて土地勘がまるでないことを考えると、ここについて知ってる人を逃すのはとても惜しい気がする。
それにどこか休める場所も知ってるかもしれないし。
「はぁ……行くか……」
相手に気づかれないよう建物の影を縫うように静かに近づいていく。
そうすると、次第に話し声も鮮明に聞こえるようになる。
道の全体が見渡せるような位置に移動し、建物の影から顔を覗かせてみる。
「我々から盗んだ食料をどこにやった!」
「言うわけ……ないでしょ」
「……小さいからって私が甘く見てくれるとでも期待してるのか?ガキがっ!」
「いっ……!」
「チッ!……お前は周りを見てこい、近くにまだこのガキの仲間がいるはずだ、きっとそいつらが食料を持ってる」
「了解」
「あの方からの命令だ、失敗する訳にはいかないというのに……!」
道路の真ん中には、白いコートの上からボディーアーマーを纏い、ガスマスクをした二人組と、その二人組に組み伏せられている私とほぼ同年代であろうぼろぼろの恰好をした少女がいた。
あの二人組はこの自治区の生徒だろうか、もしそうならやはりここはトリニティではないことになる、トリニティであのような制服を着た生徒は見たことが無い。
それにしても、食料か、確かにこの様子だと街としての機能がほぼ息をしてないのではないかとは想像していたが、そこまで深刻な状況だったとは思ってもみなかった。
だがそれならなぜ他の自治区へ行かない?何かここから離れることが出来ない理由でもあるのだろうか、それにあの子……。
この自治区の生徒であろう二人組に組み伏せられている紺色の髪の少女の目には、襲い掛かる自分より上位の存在からの脅威に立ち向かう自らの意志の光と、何かに対する深い憂慮の色が浮かんでいた。
それは、私のように諦観しそれから逃げている者の目には無い光と色で、その瞳を見てしまった瞬間、その正体が、理由がひどく気になりだした。
だからだろうか、彼女を放っておく気持ちになれなかったのは。
普段の私なら間違いなくこの場面ではここから立ち去っていただろう。
ただでさえ私の体は脆いのに、他人を助けるために危険を冒すなんてまっぴら御免だからだ。
だから、人助けなんてしない、自分の身を守るだけで精一杯、そのはずなのに、私の頭は普段ではありえないことを考えていた。
相手は二人、私のP90は全50発装填済み、予備の弾薬も持ってる。
不良の一人二人なら何度も相手にしてきた、直に頭にあてれさえすれば、一人は確実にやれる。
なら先にやるのは――――――――――――
未来を視る、頭痛がひどくなる、足が悲鳴を上げている、でも、そんなことは関係ない。
〘二人組の内の一人が私の隠れる路地へと入ってくる〙
よし、こっちに来る奴から先にやろう。
そう決め建物の壁に空いた穴から中に入り路地からは見えないように銃を構え壁を背に潜む。
幸いここの建物はどこからでも出入りできそうなくらいには穴だらけ隙間だらけだ、奇襲の機会はいくらでもある。
「……」
気怠そうな足音が近づいてくる、壁の裏まで来ると、そのまま遠ざかっていく。
「……あいつらは、なぜそうまでして抗おうとするんだ?全ては虚しいのにも関わ――」
建物から飛び出し無防備な後頭部に向けて優に10発を超える弾丸を浴びせ続けた。
するとガスマスクの身体は力なく地面へ倒れ込み、ヘイローの明滅する様子が分かる。
……まだ意識を失いかけてるだけだな、戦闘中に起き上がられてはたまったものではないので再び引き金を引く。
今度こそヘイローが消えたのを確認し、素早くガスマスクの装備を漁る、私の考えが正しければこういう手合いはあれを持っているはずだ。
「……あった!」
グレネード、やっぱり持っていた、しかもこの穴の空いた形状はスタングレネードだろう、運がいい。
これがあればもう一人を倒すのもそう難しくはない。
「おい!今の銃声はどうした!」
そろそろ相手も異変に気づく頃合いだろう、なら、と建物の隙間を通り抜けて気絶した一人が路地に入った場所と別方向から顔を出す。
もう一人のガスマスクはさっきの路地を見てるな、なら。
……あの少女の死角をめがけてピンを外したスタングレネードを投げ込む。
「応援を呼ぶか……?いや、しかし……。ん?なっ!グレネー――――。~~~~~~っ!!」
成功。あのガスマスクの視界は潰れた、あとは確実に当たる距離まで近づいて頭に銃弾を撃ち込めば終わりだ。
「誰だ!なぜ我々を襲う!お前もこのアリウスの人間なら内戦が終わるのは良いことのはずだ!我々はそのために活動を――」
引き金を引き、マガジンに残ったすべての弾丸をガスマスクの頭部へと叩き込む。
先程と同じようにして二人目も意識を失う。
……ガスマスクが動くせいで狙いがそれた、まあ、倒せたなら問題はない。
「ふぅ……。大丈夫?」
ひと段落ついたところで上に倒れ込んだガスマスクの体をどかし、先程の少女に声をかける。
「え……?うん、大丈夫だけど……。その、ありがとう」
「別に、気にしなくていい、こっちはこっちの考えがあってやったことだから」
白んだ空のように透き通った瞳がこちらを見やる、そこにはやはり確かな光が宿っていた。
「そうなんだ……。でも、ありがとう、あなたがこいつらをやってくれなかったらどうなってたかわからないから」
彼女はそう、私に対する警戒をにじませながらも感謝の言葉を口にする。
……ありがとう、か。
「そう、ならそれでいいよ。じゃあ、こっちからお願い事してもいいかな」
「う、うん。私にできることなら」
彼女はさらに警戒を強めながらもそう答えた。
無理はない、身に迫った危険を排除したとはいえ、仮面をした見知らぬ人間など警戒して当然だ。
その相手が自分に要求をしてこようものならなおさらだろう。
「この場所についての情報と休める場所を教えてくれない?あとできれば食べ物も少し」
彼女は目を丸くし、しばらくこちらを眺める。
「それくらいなら、うん、いいよ。……あ!でも私の家族にも聞いてみないと!それでいいなら私についてきて」
ああ、まずい、ただでさえ徹夜と未来視の酷使で限界が近かったっていうのに、未来視を使っての戦闘までしたせいか、意識が朦朧としてきた。
あたまがいたい、なにをいってた?うけてもらえたんだっけ、とりあえず、へんじしないと。
「う ん、それで、いい――」
―――――いたい。たおれた?よくないな、たにんのまえできをうしなうなんて、なにされるか――わかったものじゃ――ない――の―――――――に――――――――
「ちょっと!大丈夫!?」
「うわぁぁぁぁぁあぁああぁんん!!サオリねえさぁぁぁん!だいじょぶうですかぁぁぁ!!!!」
「えっ!?ヒヨリ!?何でここに!?ミサキまで!先に家に戻っててって言ったよね!?」
「ごめん姉さん、やっぱり姉さんを置いていくなんてできなかった。……でも大丈夫そうだね」
「え?ああ、それが、この子が助けてくれて―――ってそうだ、私を助けてくれた女の子が倒れたんだよ!」
「そ、そうなんですかぁ!?こ、この人ですよね、お面付けてる女の子……」
「……ねえ、姉さん、その人のこと信用するの?」
「うん、目的があったとしても、私を助けてくれたことには変わりないから。それで、二人が良ければ家に連れていきたいんだけど、いいかな?」
「……まぁ、姉さんが良いなら」
「わ、私もサオリ姉さんがよければ……ちょっと怖いですけど」
「よかった。ならちょっとこの子を運ぶの手伝ってくれない?一人じゃ難しくてさ」
「はい!」
「……私も」
「 」
「 」
「 」
「」
このまま進めていくと原作に到達するまでかなりの時間がかかるのですが、過去編が1章終わるごとに原作も1章進めるなど同時進行で進めたほうがよろしいでしょうか?(過去編で原作との相違点がかなり発生する予定なので作者の文章力では状況がわからなくなる可能性があります)
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時系列に沿って進めよう
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原作も進めよう(0章終了後アビドス開始)