「は?映画?」
「そうなんだよ」
「いや、うちは芸能事務所じゃなくて、ヒーロー事務所だぞ?」
事務所で暇(娘の写真を見てニヤニヤ)していた転孤の下に、困惑の表情でやってきた秀一(さっきまで、娘の写真をニンマリと見ていた)が、送られてきた書類と共に言った言葉に、首をかしげながら返す転孤。
「治崎の所が、イメージアップと副収入目当てで、ショートドラマ的なのを、動画サイトに上げてただろ?」
「···ああ、あれか。元ヤクザな主夫の日常コメディ」
「それと、面白がったトガと、トガに引っ張られて行ったトゥワイスを主役に撮った、スーパー裏の喫煙所で起こるじれじれラブコメ」
「······それが、何で映画に繋がるんだ?」
「それらが、動画サイトでめっちゃバズって、ちゃんとしたドラマや映画にして見たいって声が、すんごくなってるんだと。ヴィラン連合も、訓練時のヴィラン役を派遣するだけじゃ、これから先、やっていけるか不透明だから、稼げている今の内に、他業種に展開していこうって話になったらしい」
「なるほど、話題に上がってる今がチャンスって訳か。うちも、ヴィラン連合の身内みたいなもんだし、それに協力してくれって事か?」
「そういう事」
「本業の、ヒーロー活動に支障は出させるなよ」
「分かった、そう伝えとく」
自分のデスクに戻っていく秀一を見送りに、再び娘の写真に目を落とす転孤。この時、後にあんな事になるなんて、彼は微塵も思っていなかった。
▼▼▼
『今日は勝つから』
玄関を開ければ、すっかり見慣れた顔が立っていた。
褐色の肌に、ピンと立つ兎耳、勝ち気そうな整った顔、会社の風紀は大丈夫なのかと思う位パツパツのブラウス、タイトスカートから伸びるムチッとした足。肩に掛けるカバンからは、最新のゲーム機が覗いている。
友人の上司である彼女と、たまたま縁があって知り合い、たまたま一緒にゲームで対戦して、ぼろ勝ちしてから、毎日彼女はこうして、仕事終わりに家に来るようになってしまった。
『···アンタも、飽きないな』
『お前に勝つまで、私は諦めない』
『···そうかよ』
諦めのため息をつき、頭をガシガシと掻きながら、彼女を家の中に招き入れる。前を通った際、フワッと香る彼女の匂いに、少々クラッとしてしまった。
『ちっ!!あっ!!クソッ!!!』
『これで、俺の通算47連勝。相変わらず、動きが直線的過ぎるんだよ』
『もう一回!!次こそ!!』
『断る。腹減った』
『っ~~!!!飯食ったらもう一回だ!!』
『へいへい』
本当は、そんなに腹は減っていない。何なら、もう三戦位したら丁度良い腹具合だ。
だけど、もう一回やって勝ったら、『次こそ勝ってやる』って捨て台詞を吐いて、彼女は拗ねて帰ってしまうだろう。
なんとなく、もうちょっと長く彼女と居たい、そう思ってしまった。
『で、最近どうなんだよ』
『どうって、何が』
『うちの万年課長止まりと、そっちの看板娘とのだよ』
『···さぁな』
人参を多めに入れて作っておいたカレーを食べながら、彼女が話しかけてくる。
彼女と知り合う切っ掛けとなった、うちの会社がやってるスーパーの店員と、俺の友人であり彼女の部下との、店裏にある喫煙所で起こる、なんとも焦れったいやり取り。
見た目に反して、彼女はこういう恋愛系の話が大好きだ。
『じゃあ、あのヤクザな主夫と、シングルマザーは?』
『まぁ、ぼちぼちじゃねぇか?』
『なんだよ、ぼちぼちって』
『漫画みたいに、そんなドラマチックな何かは、そうそう起こらねぇよ』
『···なんかあったら、絶対教えろよ』
『へいへい』
口を尖らせる彼女を横目に、食べ終わった皿を取って、流しに持っていく。この前、なんとなく買った、底に兎の描かれた皿。ふと見ると、コップにも兎。いつの間にか、俺の周りは、兎に侵食されかけている様だ。
『もう一回、するのか?···はっ?』
洗い物を終えて戻ってみたら、彼女はソファに横になって、スゥスゥと寝息を立てていた。ブラウスを特にパツパツにしている部分が、規則正しく上下している。
『その格好で寝たら、皺になるぞ』
そう言いながらも、起こす気にはなれなかった。
この前買った、まだ未使用の兎柄なタオルケットを、寝ている彼女に掛けてやり、俺はゲーム機のスイッチを入れる。
たまには、こんな日も悪くはないかもしれない。
▼▼▼
「···これ、貴女がトムラの所に入り浸っていたのは事実だけど、ゲームで負けてたんじゃなくて、ヤり負けてたの間違いでしょ。ソファで寝てる下りも、抱き潰されてたってだけでしょうに」
「うるせぇ!!!私は脚本通りにやっただけだ!!!」
ヴィラン連合とトムラ事務所が作った自作映画。
産休育休で暇だった私達も、脇役だけど撮影に参加したそれらは、大ヒットとまではいかなくとも、それなりな興行成績を残した。
そしたら、次回作を求める声と、脇役を主役にしたスピンオフを、という声が多く寄せられたみたいで、そのスピンオフ第一段として撮影されたのが、トムラとミルコを主役にしたこの短編作品。
最初の、ミルコがトムラの家を訪れるシーン、あそこは何故か異様に拘ったらしく、凄い時間が掛かったとか。次、私と圧絋のスピンオフの予定らしいのだけど、今からどんなのになるのか、正直恐いわ。
「スゥ~、フゥ~~~。どうです?大分様になったのです」
「格好は様になっとるけど、普段の被身子ちゃんだと、違和感が凄いよ」
「正直、最初はビックリしたわ。本当に喫煙し始めたのかと」
「そんな訳無いのです、子供の体に悪いのです。それっぽく見えるだけで、先が燃えてる風な只の小道具なのです。映像に映ってる煙も、マスターの雲なのです。あ、仁君のは自前の煙草なのです」
「でも、とても面白い作品だったわ。被身子ちゃんは、ヒーローから女優に転向かしら」
「その時は、お茶子ちゃんも梅雨ちゃんも、一緒に女優になるのです。スクリーンの二人もきっと、とってもカァイイのです」
「いや、私は無理無理。そんな、人前で演技なんて無理や」
「あら、文化祭の時に撮った映画、結構良い演技をしていたわよ、お茶子ちゃん。私には、あんなに上手な演技は出来ないわ」
「梅雨ちゃん!!?!」
「確かになのです。早速、ヴィラン連合に売り込みに行くのです!!」
「えっ!!ちょっ!!待ってぇえええええええ!!!!!!」
堀越先生、アンタはなんちゅうもんを投下してくれたんじゃ。
OLミルコの破壊力、アレは駄目じゃろ。
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