公国商人 作:ゔぇにすのしょーにん!
「呆れたッ!」
ロフスキ少佐がそう言いながら新聞紙をデスクの上に投げ捨てたので、デイブ・クローリーは何事かと片眉を吊り上げた。
「おや?少佐殿ともあろうお方が、今日は随分と荒れていらっしゃる…もしや、公国との『小協商』のお話ですかな?」
「外交屋の頭には糞でも詰まっているのかしら。汚職に溺れ、伝染病を共和国へ持ち込む豚共と相互安全保障とは!」
「これはこれは、ご立腹ですな。しかし少佐殿は対外協調主義では?」
「ええ、勿論。今回の件も理解するわ。共和国は連邦と王国の2カ国と安全保障条約を締結した…南の国境だけ不安定にさせておく必要はない。…ただし」
「公国へは譲歩の姿勢を取る事になるでしょう…小協商を言い出したのは共和国側ですので。」
「つくづく、自国政府を嫌いになれるわね。公国に貸しはあっても借りを作った覚えはないわ。」
「確かにそうですが、小協商の条件に国境部付近での取締強化も謳われています。これまでは公国への刺激を考慮する必要がありましたが、これからはこちら側で取り締まれる。」
「言い方を変えれば公国のケツを共和国が拭くことになる。向こう側こそ譲歩すべきだ。公国人に愛国心はないのかしら…あの2人組にも言えることだけど。」
あれだけ圧力を加えたのだから、少しは本腰を入れるかと期待した自分が馬鹿だった。
ロフスキ少佐は自身の見立ての甘さを呪っている。
公国軍の大尉からはあれ以来何の情報も得られていないし、気を張って職務に専念した形跡もない。
数日前、リーナ・マートン准尉が連邦軍駐留基地から車で出ていくあの2人組を捉えた。
新聞紙を投げ捨てた少佐は、今度はその時の写真を手に取る。
忠告が功を奏したのか、大尉は恐らく連邦の"お土産"を受け取らなかった…或いは大佐が気を利かせて持たせなかった。
代わりに車の後部座席には大量の白い箱が乗せられていて、運転席に乗る大尉の副官が、後部座席のそれと同形状の白い箱からクグロフを掴み出して頬張っている。
「…シルサルスキ少尉、公国軍の副官とはいいお友達になれそうね。」
「はぁ…」
「収賄で立件可能でしょうか?」
「それは無理でしょうね、デイブ。この副官が少尉と同じ人種なら、クグロフは既に腹の中よ。まったく気の抜けた連中だこと。…公国からの武器の流入状況に、大尉の努力は見て取れる?」
「残念ながら力及ばず、と言ったところでしょう。努力しているのであれば…ですがね。押収される銃器の数だけでも右肩上がりのままです。来月には戦争ができるかと。」
「どうせなら戦時中に欲しかったわね。」
戦時中、共和国は武器・人員・資金の全てが不足していた。
どこかの誰かが武器を送ってくれないか…そう思うことは何度もあったが、平時なってから届くのでは本末転倒だ。
「嘆いていても始まらないわ。仮に金の出どころが連邦だとしましょう。…政府の線ではないわね?」
「仰る通りかと。連邦が共和国右派に武器密輸を手引きする利益がない…少なくとも政府には。」
「政府には…ね。つまり、糞をばら撒いているのは連邦の別の勢力かしら?」
「或いは、その組織も関与しているだけで、主導はしていないのかもしれません。王国が連邦のダミー会社か何かを使って密輸を取り仕切っているのかもしれない。」
「ディアナ大佐は何か知っているはず…現時点で私たちに何も教えないと言うことは…」
「連邦からの情報提供は見込みそうにはありませんな。」
「少佐殿!」
不意に呼ばれたロフスキ少佐が何事かと顔を挙げると、そこにはオペラ座いちのジェントルマン、ベルナルディーノ・バーク中尉がいた。
「何事?」
「合同調整局より連絡が。提供したい情報があるとの事です。」
「このタイミングで情報提供?」
「いやはや、これは臭いますな。」
「ええ、デイブ。蛆の臭いがする。」
………
連邦軍駐留基地
「ああ!来てくれたのね、少佐!」
「連邦からの情報提供に感謝致します、大佐殿」
ロフスキ少佐を笑顔で迎えたバルヒェット大佐に、少佐はいつも通り笑みを返す。
連邦人の機嫌を取るのが苦痛でも、共和国を王国の脅威から守るためには耐えねばならない。
或いは国内の脅威からも。
「…ところで少佐、あの公国人大尉に何をしたの?」
「特には何もしておりません、大佐殿。簡単な相互の事務所表敬があった程度です。」
「本当にただの表敬だった?さっき来た時、捨てられた子犬みたいに震えていたけど?」
「大尉自身が汚職に手をつけていないか確認を取ったまでです。公国では蔓延していますので。」
「なるほどね。…大尉から情報提供があったわ。公国-共和国間の公国側国境で密輸業者が捕まった。公国当局の尋問によると、武器の大きな流れが東部に向かっているそうよ?」
"これだ!これだから公国は!"
ロフスキ少佐は笑みを崩さず、しかし心の内では舌打ちをした。
状況と立場が許せばあの大尉を切り刻んでやりたい。
大尉…いや、公国も共和国を主権国家として扱うつもりはないらしい。
武器密輸で被害を被っているのは、間違いなく共和国である。
奴らは第一の当事者たる共和国に対する誠実さよりも、その同盟国である連邦との関係を重んじたわけだ。
"これから私たちは共和国に情報提供を行うが、連邦様のご都合上、共和国に伝えて欲しくない内容もあるかもしれません。まずは連邦様に情報を受け取っていただき、然るのち共和国に"加工済"の物を渡されては如何?"
(蛆虫共めッ!汚職国家が共和国を愚弄するか!)
心の内は煉獄だったが、少佐はそれを表に出さぬよう精一杯に飲み込んだ。
「大尉の労に感謝しなければなりませんね。大佐殿にも、有益な情報をご共有いただきましたことを感謝致します。(公国国境警備隊が今更機能する訳がない…大尉が情報元を伏せた)」
「そう畏まらないで?同盟国として当然のことをしたまでよ?(大尉の情報元についてはデグチャレフ中佐に洗ってもらってる訳だけど…連邦右派が噛んでいることをどこで知ったのかしらね)」
((あの大尉、かなり臭うッ!))
作り浮かべた笑顔の下で同一の見解を得た事など知る由もなく。
ただし、大尉から得た情報が何をもたらすか…
連邦と共和国の利害関係からしても座視できる物ではない。
「共和国右派が武器の集積を東部でやるなら、その目的は何かしら?」
「連中の安直さから考えるに、やはり王国へのテロ攻撃の可能性が高いかと。」
「テロ…?このタイミングで?それなら拳銃が10挺あれば済むでしょうに。公国からの密輸業者が車列を組んで運ぶような流入量よ?」
「或いは重火器を分解して運んでいる…」
あり得るだろうか、と少佐は自らの考えを訝しむ。
もし共和国右派が重火器を運び込んだとしよう。
確かにあいつらが考えそうな事だ。
だが、戦争経験どころか兵役の経験があるかも怪しい"思想家"が、取扱いに高度の専門性を要する重火器など仕入れて何になる?
なら小火器の場合は?
それも右派組織全員を武装させて余りある流入量になるのではないか?
そもそも、大尉はどこまで武器の流出を掌握しているのだろう。
機能など収賄によってとっくの昔に停止した国境警備隊が今更密輸業者を取り押さえたという話も無理がある。
賄賂を渋ったせいで偶然に?
そうだとしても、目の前の連邦大佐がフィルターを掛ける必要がある情報…おそらくは連邦内部の勢力が密輸に噛んでいるという事実…はどこで知り得たと言うのか。
公国、共和国、連邦…この3カ国を跨いだ武器密輸を取り仕切っているような人間が、不用意な真似をするとは考えにくい。
万一密輸業者が摘発されて尋問に掛けられても大丈夫なように、
つまり密輸業者をどれだけ詰問或いは拷問しても連邦内の勢力には辿り着かない。
「何にせよ、こちらとしても協力できるところは手を貸すわ。王国と直接対峙する東部に、不安定化を誘発させるような武器の流入は防ぎたいもの。」
「大佐殿のご協力には感謝してもしきれません。…今回の情報に関しては大尉にもお礼を申し上げねばなりませんね。」
「ああ、それなのだけれど…今大尉には本国からの問い合わせが殺到して面会には」
「ご安心ください。
あの蛆虫の為に就業時間外勤務をする事になるのは癪だったが、しかしながら大尉にはその残業に付き合ってもらう必要がある。
バルヒェット大佐と別れた後、バーク中尉の運転する官用車に乗り込んだロフスキ少佐は、タバコを加えて火をつけるなりこう言った。
「公国人め。
ノリと勢いでやってしまった部分があるのでキャラの口調おかしかったりするかもしれません
本当すんません
敬語や言い回しもおかしかったりするかもしれません
本当にすいません
連邦の靴を舐めるので許してください(連邦の靴を舐めるとは言っていない)