公国商人   作:ゔぇにすのしょーにん!

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18 アル・カポネのように

 

 

 

 

 

 

 公国首都

 

 

 

 

 

 

 本当は夜行列車に乗って朝イチで帰りたかった。

 サンドラ、我が家、暖かな食事。

 共和国に長くいたいわけではないが、私が愛してやまない者たちは今そこにいて私を待っている。

 

 ところがルィバルコ少佐は兵站総局で王国の威光をこれでもかと振り翳し、私が王国の利益を保全しながら合州国の仕事を行うための土台作りを力づくで行うという大変骨の折れる作業をした。

 そんな重労働を、それも半分は私のためにやってくださった旧来の恩人を急かす蛮勇を私は持っていない。

 故に、我々は首都のそこそこ良いホテルで宿泊することになった。

 

 ルィバルコ少佐は模範的な軍人で現在は独り身だが、女性である以上間違いは許されない。

 そういうわけで私と彼女は別々の部屋を取った。

 

 明日の列車は昼前に公国を発つ。

 仕事で疲れてもいたので私は早めに眠りたかったのだが、何かにつけて酒を飲まないと気が済まない王国の風習が夜半に私を叩き起こした。

 

 

 ルィバルコ少佐からすると、愛する祖国のための重労働から解放されたに等しかったのだろう。

 少し苦しい立場に追いやられていただけに、その解放は喜ばしかったに違いない。

 きっと大公国の誇る赤ワインを2〜3本は空けていた。

あっはっはっはっ!」と上機嫌で笑いながら、荒っぽい王国海軍のノリで私の部屋のドアを蹴破り、私にもワインを勧めて上機嫌。

 酒もやらない私だが、酔いが回った王国人の酒を断れるだけの勇気もない。

 

「あの、少佐殿…本日は誠にありがとうございました」

 

「あっはっはっはっ!」

 

「しかしながら明日のこともありますのでお早めにお休みになられた方がよろしいかと」

 

「あっはっはっはっ!」

 

「どうかお部屋に戻られ、お休みください」

 

「あっはっはっはっ!」

 

 こんな感じで酒を飲まされ、気づけば私は持病の不眠症すら忘れて眠り込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 だからこそ、目を覚ました私は血の気が引いている。

 

 

 

 甘美な香水に少しアルコールの匂いが混じり、そして人肌の温度と柔らかさに目を覚ましてみれば。

 シャツをはだけさせたルィバルコ少佐殿が、私を下敷きにイビキをかいて眠っているではないか!

 

 私は妻帯者で、公国軍将校で、ルィバルコ少佐殿の旧い知人である。

 こんな類の間違いが許されるはずもない!!

 大慌てで飛び起きると、ついでルィバルコ少佐殿を起こそうとする。

 しかしその刹那、私は決して見たくないものを目にしてしまった。

 

 少佐殿はズボンを履いていなかったのだ。

 

 

 

 

 …………………………………

 

 

 

 

 

私は妻帯者私は妻帯者私は妻帯者私は妻帯者私は妻帯者私は妻帯者私は妻帯者私は妻帯者私は妻帯者私は妻帯者私は妻帯者私は

 

「大丈夫だと言っただろう!酔っ払って寝ただけだ!何も間違いなんて起きていない!」

 

 

 つい30分ほど前までイビキをかいていたのに、今やキリッとした少佐殿に戻っているのはエリート将校の成せる技であろうが、私としては本当に気が気でならない。

 何より昨夜の記憶がないのだ!

 私が何をしたのかまるで覚えていない!

 

 

「安心するなと言う方に無理があります、少佐殿!」

 

「君が過剰反応しているだけだ。生娘でもあるまいに。………王国海軍では日常茶飯事だぞ?」

 

 マジか王国海軍!

 

「心配なら見てみるか?」

 

Oooooooooooooooooh,NONONONONO脱ぐな脱ぐな脱ぐな、脱がないでくださいお願いします。そのままでいてください…分かりました、少佐殿を信じます。」

 

「まあ、少し飲み過ぎたのは反省する。………しかし…やはり公国に来たのは正解だった。これで王国の利益は保全される。君の協力のおかげだ、大尉。」

 

 

 ルィバルコ少佐の嬉しげな表情からして、彼女にとってはやはり良い結果だったのだろう。

 私としても、最短ルートを失いはしたものの新しくより良い道具を手に入れた事になる。

 そもそも、その最短ルートの効能は制御が効くか怪しいものがあった。

 威力の大きい不発弾よりかは、大きな破城槌を手に入れた方がよかろう。

 

 しかし何より、かつての恩人の力になれたことが嬉しかった。

 こんな気分になるのはいつぶりだろうか…

 

 

 

 ふと、記憶がフラッシュバックする。

 マルダヴで、共にあのくだらない賭けをし、共に戦い、そして戦死した軍曹。

 戦後になって彼の家を訪ね、家族に会い、そして………報復を誓ったあの日。

 

 

「………まだ話していないことがある。そうだな、大尉?」

 

 

 私の目を覗き込むようにしながら、ルィバルコ少佐が問いかけた。

 こうなると逃れようのないことなど、私はとうの昔に知っている。

 

 

「…少佐殿には、私がなぜこんな真似をしているのか理解できないでしょう。」

 

「正直に言うと、その通りだ。私たちの使命は自分の利益を守ることではなく、国家の利益を守ること…そうだろう?」

 

「例え国から裏切られても?」

 

「……ッ…そうだとしても、報復をする理由にはならない。」

 

「マルダヴで少佐殿相手に、恥ずかしながら泣きべそをかいた日、軍曹についてはお話ししましたね?」

 

「…ああ。」

 

「あれには続きがあるんです。軍曹は国のために死んだ。あんな山の中で、馬鹿げた大公と国民の夢想のために…敵の榴弾にやられて死んだ。」

 

「………」

 

「戦後になって彼の家族を訪ねたんですよ。お見舞いと、少しばかりお話でもできたらと。ところが………少佐殿。国家のために義務を果たした人間を、国家はどう扱うべきですか?」

 

「聞くまでもないだろう。」

 

「そう、最大限の敬意を持って迎えられたはずだ。ところが彼の家族は困窮していましたよ。」

 

「なっ!馬鹿を言うな!確かに公国は賠償金こそ取り損ねたが、共和国ほど疲弊したわけでもあるまい!」

 

「大公も国民を我々を敗戦のスケープゴートにしたかった。それで、連中はそれを徹底的にやったのです。戦死した軍人に敬意も報酬も払わずに、一家の稼ぎ手を失った家族相手にも何もしなかった。」

 

「…………」

 

 

 だからこそ、私は報復を誓った。

 国民の身勝手な振る舞いには相応の報いがあって然るべきだからだ。

 その為には合州国の仕事をして、共和国を巻き込んでしまうのが最も良い。

 

 公国国民は大切な物を失うだろう。

 共和国人も失うだろうが、公国のそれほどではない。

 

 

「……正直に言う。君の復讐には、あまり協力したくないんだ。軍人としての矜持だ…理解してもらえるかな?」

 

「勿論、少佐殿と王国にはその資格があります。ただ…あなたは王国の利益のために、これからも私と手を組むことができますね?」

 

「ああ。それは約束する。………さて、汽車が行ってしまう前にここを出よう。」

 

 

 

 我々は手荷物を纏めて、滞在したホテルを後にする。

 少佐殿のご厚意のおかげで、今回泊まったのは王国政府関係者がよく泊まる立派なホテルだったが、本来なら公国政府の用意するクソボロホテルに泊まるはずだった。

 そうならなかったことに感謝することになったのは我々がホテルを出た直後。

 在公国王国大使館所有の車に乗り込んで、運転席に座った時の事だった。

 

 

 最初は爆竹か何かかと思った。

 昼前から酔っ払いでもいるのか、景気の良いことだな。

 寝ぼけた私の頭に危機管理などという文字はなかったが、少佐殿の方は数倍しっかりしていた。

 彼女は私を押し倒すと、隠し持っていたFN拳銃を引き抜いて、私の側にあるサイドウィンドウに向ける。

 ただしその美しい手が引き金を引く前に、鉛玉が向こう側から先にやってきた。

 

 公国製サブマシンガンの拳銃弾がサイドウィンドウを貫いて、私とルィバルコ少佐の上にガラス片を撒き散らす。

 私は王国が合州国から買った公用車の分厚いサイドドアに守られながらも、少佐殿に押し倒された状態になっていた。

 

 

「襲撃!?襲撃ですか!?」

 

「聞かずとも分かれ、馬鹿者!」

 

「クソクソクソクソっ、どうすれば」

 

「エンジン!それからアクセル!!」

 

 

 押し倒されたおかげで前は見えなかったが、どうにかエンジンをかけてギアを入れ、当てずっぽうに車を前に出す。

 幸運なことに我々はサブマシンガンの射線から外れたようで、公用車は鉛玉の雨から逃れていた。

 

 

「油断するな!右!右!左!」

 

 

 ルィバルコ少佐が私を押し倒したまま、顔を挙げて運転を誘導してくれる。

 今度は拳銃のものと思しき銃声と、カンッカンッという何かを弾くような音が聞こえていた。

 襲撃者には別動隊が居て我々を追いながら撃ってきているに違いない。

 となればルィバルコ少佐はなんと勇敢な将校だろうか。

 

 

「減速しろ!」

 

「しかし少佐殿」

 

「いいから減速だ!」

 

 

 少佐の指示に従い、車を減速させ、やがては停止させる。

 勇敢な少佐が助手席から出て行ったので、私も同じように助手席から飛び出して行った。

 そこは大きな通りの路側帯で、少佐は合州国製の公用車を盾にして、小型のFN拳銃を構え、後方からやってくる一台の乗用車に向けてありったけの銃弾を叩き込む。

 乗用車のフロントガラスに穴が開くと、その車は制御を失ったようになり、我々とは反対の車線を跨いで、建物の壁に突っ込んだ。

 

 

「仕留めましたか?」

 

「いや、分からない…」

 

 

 私は45口径の回転式拳銃をホルスターから取り出すと、乗用車の方へ向ける。

 すると乗用車の後部座席ドアが開いて、1人の男が…額から血を流しながら……出てきた。

 手には拳銃を持って。

 

 

「武器を捨てろ!」

 

「…っるせっ、この売国奴がぁっ!」

 

 

 ズドン、ズドン!

 

 私費で購入した45口径弾は凄まじい威力で、2発を腹部に受けた男は乗用車に押し込まれた。

 多分あれならくたばっている。

 

 

「他に脅威は………ない、か。よし。よくやった、大尉………大尉?」

 

 

 敵を倒した安心感からか、私はそれまでアドレナリンが誤魔化していたものに気がついた。

 それは鋭い痛みで、合州国車の分厚いサイドドアが防ぎ切れなかった銃弾が、横っ腹に当たっていたという事実だ。

 

 

「大尉!?しっかりしろ!」

 

「………少佐殿、どうか、妻に…サンドラに…言伝を…」

 

「馬鹿!こんなもの、かすり傷だ!応急処置してやる!…言伝は自分で伝えろ!」

 

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