公国商人   作:ゔぇにすのしょーにん!

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19 真の愛国者達

 

 

 

 

 

 大公国首都

 軍内部査察課本部

 

 

 

 

 

 

 

「スタンにはしてやられた。私も私で甘かったが…」

 

 

 襲撃失敗の報、その後負傷したスタン大尉が"王国の"鉄道に乗って共和国へ向かったと聞かされた時、軍内部査察課の中佐は目頭を抑えた。

 

 

「合州国は周到に準備を進めていた。早い段階から危機感を募らせていた連中がいたんだろう。大公国の如何なる機関も関与していないのに…『公正取引委員会』なんて組織が大使館の地下にあるのも、あいつらの手回しだ。」

 

 中佐の苦悶の表情を、年配の女性准尉が心配そうに覗き込む。

 

「スタン大尉、ルチェスク中尉を始め、『公正取引委員会』に名を連ねている連中はすべて合州国のリクルートを受けたと見て良いでしょうね。」

 

メチニコフ准尉、ヤツらは報復をやるぞ。合州国の国益のために公国を売り捌くつもりだ。」

 

「あらまぁ。合州国が喜んで飛びつきそうですね。…しかし、我々の敵がこうも多くては動くに動けません。そもそも『公正取引委員会』が放置されている時点で、政府の健全性は無い。連中はどう動くでしょう?」

 

「今回の襲撃で、スタンはもうこの国に戻れないと勘づいたはずだ。こちらで必要な仕事は別の組織を使うだろう。」

 

「と、言いますと?」

 

「国内の右派組織だ。スタンがルィバルコ少佐から王国の権威を借り受けてまで武器密輸ルートを血眼で追っているのは、決して愛国心からじゃない。奴は自分が忌み嫌っている連中に養分を垂らし込んで育てる気でいる。」

 

「分かりません。何故そこまでして…」

 

「言ったろう。奴らの目的は報復だ。この国全体への。右派組織が勢いづき、この国の舵取りをする未来が見えるか?」

 

「……それは…この世の末ですね。」

 

「そうだ。…軍は政治に介入しない、政治に対する忠実な騎士である…これが公国軍のモットーだった。右派組織の排除は軍によってではなく民意によって成されるべきだ。…だから私は右派を取り締まるような真似をしなかった。こんな形で裏目に出るとは…」

 

「合州国は公国で右派政権樹立させ、その影響力を連邦へ波及させたい。さすれば、連邦右派が世論で幅を利かせ、連邦は共和国に注意を向ける。…合州国が連邦右派の活動を抑えるためにスタンを雇ったと考えたのはあまりに早計でした。」

 

「共和国を作ったのは合州国だ。だから壊すのも奴らの自由だと言わんばかり、だな。」

 

「何にせよ、共和国はまだ真実の核心には気づいていない。このままでは抑えが効かなくなる。やはり『オペラ座』に警告を与えた方が良いのでは?」

 

「もう遅い。スタンは武器密輸の捜査に協力し、一応の信頼を得ている。『オペラ座』は我々を買収された腐った上層部としてしか見ないだろう。」

 

「ならばその認識を改めてやれば良いことです。」

 

「簡単に言うがなぁ、メチニコフ准尉」

 

「確かに難しいかもしれませんが、こう考えてみるべきでは?『公正取引委員会』の目的が公国への報復だけとは思えません。連中は合州国から何らかの形で報酬を受け取っている…そしてそれは金銭の類では無い。」

 

「連中の給料なら、買収できる国家は合州国だけではないだろうからな。合州国は他の国家が提示できないものを報酬とした。」

 

「それが何かは分かりませんが、どちらにせよ、連中が私利のための仕事をする以上、共和国は実害を負わされるはずです。」

 

「確かにどれだけ上手くやろうと、それは避けられんだろうな。『オペラ座』は『公正取引委員会』を排除しようとするだろう。」

 

「ですがスタンは合州国の庇護を受けていますから、『オペラ座』は公国政府に訴えたところで無益だと承知でしょうし、かと言って小協商が締結された手前直接攻撃するわけにもいかない。」

 

「なるほど。我々が『オペラ座』に攻撃の口実を与えてやるわけか。」

 

「連中が動けば動くほど口実はできますよ。私たちはそれに少しだけ、もっともらしい口添えをしてあげれば良い。」

 

「…近々『オペラ座』と接触できそうだ。スタンは私を脅威とは感じていないらしい。」

 

「案外、その辺は迂闊なようですね。彼は私たちの活動には気が付いていない。…真の騎士は仕える主人からどんな仕打ちを受けようと揺るぎません。『オペラ座』なら、私たちと共通の理念を分かち合えるでしょう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 共和国-公国国境付近

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「帰ったらサンドラにどやされます。それはそれは、もうこっ酷く。」

 

「私も口添えをする、心配するな。…君の負傷は半分は君自身のためかもしれないが、もう半分は王国のためのものだ。そのくらいの義務はある。」

 

 

 王国大使館の用意した特装貨車で、ベッドに横たわりながら帰国する事になるとは思わなかった。

 ルィバルコ少佐には感謝だが、それにしてもこんなことになるとは。

 

 

「………サンドラは元々薬局で働いていましたが、そこでは勘が鋭いと評判でしたよ。下手な嘘は言わない方がいい。」

 

「では正直に話すとして…君は誰から襲われたと思っているんだ?」

 

「公国の…ナショナリストの連中でしょう。」

 

「おいおい!君は連中を台頭させるつもりなんだろう!?」

 

「少佐殿、私は連中の手綱を握ったわけではありません。それに握りたいのは連邦右派の手綱です。………そもそも、今回私を襲ったのは少佐殿の思っている公国右派とは別人ですよ。」

 

「………?どういうことだ?」

 

「私の言う公国右派、ナショナリストというのは芯のある本当の愛国者共です。あんな仕打ちを受けてもまだ国家の利益たり得るを欲している…正気とは思えませんがね。」

 

 

 一瞬冷たい視線を感じる。

 少佐殿にとってはそれが本来のあるべき軍人の姿なのだろう。

 しかし私にとっては単なる苦痛だ。

 軍人という職業は単なる食い扶持でありそれ以上の意味を持たない、だからこそ私はビジネスに徹する。

 損を加えられたら、当然代償を払わせる。

 

 

「とはいえ正直、少し油断していました。連中も本気のようです。」

 

 

 私がルィバルコ少佐とこんな話をしてられるのは、公国が連邦のサブマシンガンをデッドコピーする際、工業水準が連邦のそれと釣り合っていなかったからだ。

 公国は9ミリ弾の衝撃に耐えられるレシーバーを作れず、32口径弾で妥協した。

 だから合州国製公用車の分厚いサイドドアに挑んだ弾丸は、私に至るまでに殆どの運動エネルギーを使い果たしていたわけだ。

 

 つまり連中が連邦製のサブマシンガンを使っていたら、私は死んでいた可能性が高い。

 横っ腹をぶち破られて失血死していただろう。

 そんなド派手な武器を街中で、それも伝統的同盟国の公用車に向けてぶちかますのだから、連中も連中で相当な覚悟を持っていたはずである。

 

 

「では君は奥方に『愛国者に嫌われていて、サブマシンガンで滅多撃ちにされた』というわけか?『今まで黙っていたけど、実は国を裏切ったりしている』と?」

 

「……()()()()()()()()()()。」

 

 

 ルィバルコ少佐殿が手に持っていたマグカップを落っことした。

 彼女にとって、国民から本当の意味で愛想を尽かされる国家というものは信じられないのだろう。

 

 

「………………」

 

「我々が合州国から何を受け取るとお思いです?金や銀なら別に合州国でなくとも良いんです。」

 

「……つまりは、そういうことか…………」

 

「残念ですが。」

 

「…ふっ………なら、()()()に来る気はないか?」

 

「それでも良いんですがね。………仕事の話に戻りましょう。私はあの中佐を見くびっていたようです。刺客は中佐の差金でしょう。我々が王国の公用車に乗っていて、あのホテルに泊まっていたことを知るのはあの男くらいだ。」

 

「君はボンクラ、だと言ってたがツケが回ってしまったな。」

 

「ええ、反省しますよ。…お手数なんですが」

 

「分かっている。オペラ座との接触を遅らせられるようにこちらから妨害してみる。だが、いずれは干渉も出来なくなるぞ?」

 

「小協商が締結された以上、国境警備の意見交換だとか言えば口実は作れますからね。…しかし、少佐殿には時間を作って欲しいのです。」

 

「その時間で何をするつもりなんだ?」

 

「はぁ………来客を迎えるんですよ。」

 

 

 そう、来週には客が来る。

 客というには、すこしばかり厄介が過ぎるが。

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