公国商人   作:ゔぇにすのしょーにん!

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25 クーデター

 

 

 

 

 公国

 首都

 

 

 

 

 

 

 

 反体制派が大通りを制してしまったので、政府軍は部隊を機動させることもままならなかった。

 もたついているうちに反体制派に合流した元正規軍のR35軽戦車が何両もやってきて、37ミリ歩兵砲を出鱈目に撃ちまくりながら接近してくる。

 この距離で撃っているのはまだ可愛らしい部類だが、対戦車砲を持っていない政府軍がそう言ってられるのも時間の問題だった。

 

 政府軍少尉は今では20名足らずの部下を率いる"大隊長"であった。

 バリゲートで踏ん張る20名の他の大部分は逃げ出して、その他は戦死した。

 彼らはいまだに円頭弾を用いるモデル95歩兵銃の速射を反体制派めがけて撃ちまくっていたが、R35軽戦車の装甲がそれを歩兵に寄せ付けない。

 少尉はモデル90カービン銃の照準器越しに、反体制派戦車隊の先頭の戦車が、ハッチ上に1909年式軽機関銃を据えつけているのを見てとった。

 短身砲よりよほど正確だし、歩兵にとっては厄介この上ない存在だ。

 

 先頭のR35軽戦車の背中に後続歩兵が飛び乗って、布ベルトの弾帯を軽機関銃に差し込み始める。

 少尉はカービン銃を慎重に構えて、短くてバランスの悪いカービン銃の照準器を覗く。

 軽く息を止めて静かに引き金を絞ると、短銃身故の大きな発射音と発射光に目が眩んだ。

 照準器の向こう側では、軽戦車の背中に乗った歩兵がつんめって戦車から転がり落ちていく。

 ひとまず脅威は去ったが、そう長くは続かない。

 

 

「畜生!もうダメだ!」

 

 部下の1人が歩兵銃を投げ出して、陣地に背中を向けて走り出す。

 しかしすぐに銃声が追ってきて、少尉が言葉を発する前に部下は20名から19名になった。

 敵の歩兵は今や戦車の背後から展開して、小銃による制圧射を掛けている。

 陣地に立て篭もる政府軍を制圧している間に、他の歩兵が軽戦車の背中に飛び乗って機関銃の装填を完了した。

 

 1909年式軽機関銃は発射速度の遅い機関銃だったが、強力な8mmルベル弾の速射は陣地制圧任務を歩兵たちから引き継ぐのに充分な威力を有していた。

 少尉は頭を上げることもかなわず、カービン銃の銃口を土嚢の上から覗かせて、照準もせずに敵方に向かって速射する。

 当然効果は薄く、敵が止まる様子はない。

 

 手元のクリップは既になく、少尉は遮蔽物の影に隠れてホルスターからダブルアクションの8mm回転式拳銃を取り出した。

 それと同時に反体制派の歩兵が陣地に飛び込んできて、銃剣で少尉の部下をまた1人減らす。

 少尉はそいつを拳銃で撃ち抜くと、続いてやってきた別の歩兵にも2発お見舞いした。

 しかし、そのまた後ろを続いてくる歩兵に照準を合わせる前に、今度は相手側からライフル弾を撃ち込まれる。

 もんどり打って倒れ込む少尉の胸に、嬉々とした表情の兵卒が銃剣を差し込んだ。

 

 

 

 

 

 

 …………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 合同共和国

 首都

 オペラ座本部

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よくもまあ疫病を持ち込んでくれたな!!!」

 

 

 それを言うなら、ロフスキ少佐が怒るべき相手は私ではないだろう。

 ハイネマン局長がいなければ本当に殺されかねない勢いだったから、私は自身の考えを押さえ込んだ。

 

「殺してやる!」

 

「やめないか、少佐!大公陛下は我ら共和国の同盟者だ!隣人が苦難にある時、見捨てたとなれば共和国の信頼に関わる!」

 

 共和国の内情を外国軍担当者の面前で曝け出すなど、仮にも情報機関の人間なら恥ずべき過ちである。

 それを鑑みると、般若の形相でこちらに迫るロフスキ少佐とそれを文字通り留めているハイネマン局長のやりとりは噴飯もののやりとりだった。

 

 彼らの"ミス"を冷笑しているのではない。

 私が冷ややかに思うのは、彼らが「激情のあまり理性を失っている」からではなく、「激情のあまり理性を失った()()をしているからだ。

 これが茶番に思えるあたり、私も目が肥えてきたのだろう。

 

「陛下の亡命を受けれて下さったことに関し、公国は貴国からの友情に感謝いたします。しかしながら、陛下を"疫病"とは………」

 

「部下の失礼を許してもらいたい、スタン少佐。ただし、我々としても大公を追う反体制派が国境地帯に殺到している現状を快く思えないのだ。」

 

 

 反体制派は首都を奪取した後、守備部隊が粘っている間に脱出を果たした大公を追い、共和国との国境に迫っていた。

 大公は共和国に政治亡命し、彼の政権は崩壊したのだ。

 しかしながら反体制派には、首都を抑えるという軍事的成果だけでは不十分。

 彼らは新しく発足する政権の正当性を確保するために大公陛下の首が必要なのだ。

 さもなければ大公が共和国か、或いは別の国から亡命政権の樹立宣言を出す。

 クーデターを起こすなら、首都を奪取した後力尽くでもなんでも良いから国内を自身の統制下におく必要があるのだが、大公が生きている限り公国は分断されたままになるだろう。

 足元が不安定な反体制派にとって1番のネックはそれで、故に公国の政府機能が失われているのを良いことに、越境攻撃を敢行して何がなんでも大公を殺すつもりでいるらしい。

 

 こんなとんでもない連中によるクーデターを支持したのだから、公国国民の皆様には本当に愛想が尽きる。

 

 

「君も他人事ではないだろう、スタン少佐。君の身分は大公の政権によって保障されたものだ。」

 

「その通りです。私としても2度目の亡国は避けたい。故に、大公陛下の警護は我々にお任せいただきたいのです。」

 

「当然だ、この能無し共!貴様らの落ち度は貴様らで始末をつけろ!」

 

「いい加減にしろ、少佐!!!…警護に関しては我々を信用してもらいたい。ロフスキ少佐が担当する。」

 

 な ん で や。

 正気か、この爺さん。

 

 

 ロフスキ少佐が、まるで士官学校卒業初日に参謀本部での勤務を命ぜられた成績優秀な士官候補生のような顔をして、ハイネマン局長の方を見ている。

ゑ?私()、ですか?

 絶句はしているが、表情は雄弁に語っていた。

 それもそうだろう、今さっきまで我らが大公陛下を疫病呼ばわりしていた人間に、その疫病の"お世話"をしろと命じたのだから。

 

「あの………それは……ええ……」

 

 私も言葉が出ない。

 あまりに想像の斜め上過ぎる。

 理解が落ち着いて言葉を発する前に、ハイネマン爺さんが勝手に取り決めを進めていった。

 

 

「心配はわかるが安心して欲しい。ロフスキ少佐は優秀な軍人だ。私情を任務に持ち込むようなことはしない。」

 

「…しかしっ……局長、私は」

 

も・ち・ろ・ん…同盟国将校の面前で、その君主の侮蔑とも捉えかねない失言をした以上、汚名の返上に全力を尽くしてもらえるな、ロフスキ少佐?」

 

 

 なんと言うことだろう。

 合同共和国軍においては、現代においても中世フサリアそのままの統御をするのか!?

 巨大なパワーによるパワーハラスメントならぬパワーオーダーを食らったロフスキ少佐は、魚屋に捕まった泥棒猫よろしくシュンとしてしまった。

 

 

「…失礼だが、君ら2人だけでは荷が重いだろう。共和国国内においては最近右派の活動が活発化している。先ほどのロフスキ少佐の失言と同じ考えをしている愚か者も多い。…同盟国として、是非とも協力させてもらいたい。」

 

 

 いわゆる"小協商"は排外的かつ拡張主義的な公国反体制派によって廃される可能性が高い。

 だから共和国としては、大公の安全を確保して再起を図らせ、再び南の国境を安全な状態にしたい。

 辻褄は合う。

 ただし、オペラ座も詰めが甘い。

 この辻褄は、あまりにも綺麗に合いすぎる。

 

 

「…分かりました。貴国のご協力には、感謝の言葉もありません。我々としても全力を尽くす所存です。」

 

「情報は共有する…共に手を取り合っていこうじゃないか。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

「と、ここまで聞けば美しい国家間の友情劇ですね。」

 

「ロフスキ学生、分かっているだろう?国家に感情などない。あるのは()()だけだ。」

 

 

 先ほど本部を後にした公国軍少佐が合州国の仕事をしている以上、"演劇"は殆ど意味をなさないに等しかった。

 ただし無意味ではない。

 先のやり取りで、イロディオン・スタン少佐は大公の警護に共和国側が加わることを許さざるを得なくなった。

 

 

「大公の殺害が果たされれば、公国は共和国に本格的に疫病を持ち込むようになる。今度は冗談では済まん。」

 

「国内には忌々しい可燃物共がいます。今のうちに燃やし尽くしては?」

 

「ロフスキ学生、合州国と連邦右派が既に国中に油を撒き散らした。燃えるのは奴らだけでない。」

 

「…分かっています。何はともあれ、大公陛下は必ず守り通します。」

 

「くれぐれも任務に励め、ロフスキ学生。公国軍少佐は大公を消したがっているし、君は奴と行動を共にしなければならない。」

 

「ああ…本当に……反吐が出る。」

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