公国商人   作:ゔぇにすのしょーにん!

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 チュファルテク合同共和国

 連邦軍官舎

 

 

 

 

 

 

「合州国から連邦に入り込んだのは資本だけじゃないわ、少佐。それは、進歩と自由の精神だけでもない。」

 

 

 2児の母親は受話器を片手に、電話の相手にそう語りかける。

 ディアナ・フォン・バルヒェット大佐は連邦軍の階級章がついた軍服を着て、その上からエプロンをして子供達のためのお菓子を作っていたところだった。

 

 

()()()()よ。確かに合州国の資本のおかげで連邦経済はかつてない好況にある。共和国人からすれば私達の機密費は垂涎物でしょう。ただし、その裏では所得格差が広がっている。失業率も目立ち始めたでしょう?」

 

『政府は公共事業を行なって失業率を抑える方針です。左派の伸長はそこまで問題ではないでしょう。』

 

「楽観が過ぎるわね、少佐。国内経済が好況でも財政には限界があるし、失業率を徹底的に改善しようとするなら金本位制じゃ無理よ。与党が考えてるような公共事業をやり通すなら、それはできない事はないでしょうけど…」

 

『やり遂げた瞬間に債務不履行に陥りますね。債権国に戦争を仕掛けるなら話は別ですが。』

 

「まあ、お金の仕組みはあなたの方が詳しいでしょう。私達が取り組むべき問題は他方にあるわ。…国内の右派はあなたが今言ったことをやろうとしている。」

 

『大戦が終わってまだ5年ですよ?…戦争なんて正気の沙汰じゃありません。』

 

「首都の連中が正気だった時なんてあるかしら?ダンスホールはあの退廃具合なのに。」

 

『ジャズも案外悪くありませんよ。大佐の趣味には合わないかもしれませんが。』

 

「あんなドンチャン騒ぎ、混沌(カオス)以外に相応しい表現があるの?…ともかく、右派は議席を伸ばすために共和国を利用したいのでしょう。私達にとってはただの縦深だけれど、右派にとって理想の共和国は"主権国家"足り得ることよ。」

 

『分かりやすい対外脅威があれば、右派は"政府の無策"を叩きやすいですからね。』

 

「連中はそのために大公国にまで根を張っているみたいだけど…ところで、例の大尉の情報は?」

 

『調べはついています。典型的な平民将校ですが、吝嗇家ですね。勤務時間外の飲み付き合いはなし、祝勝会にも参加どころかカンパもしないような男です。正直、軍での評判はあまりよくありませんね。それと…つい最近、連邦鉄道社の社債を購入しています。』

 

「それは素敵、良いお友達になれそうだわ。大公国はどこまで自分の非を承知しているの?」

 

『公国自身分かっていないかと。何せ軍・政府問わず賄賂が横行しているような状態ですから。』

 

 

 なんてこと。

 バルヒェット大佐はため息を吐く。

 共和国のような政治的混乱のどん底にあるような国でさえ、軍装備品の流出はあれど公国程度ではない。

 公国からの流出はまさに"国家ぐるみ"そのもの。

 軍が正式採用するような高性能銃器が近隣諸国へとばら撒かれている上に、それを押し留めるはずの部署が買収されて機能していない。

 

 これが…こんな連中が…"大戦に勝利した"国の成れの果て、か。

 

 

『………大佐?』

 

「ああ、ごめんなさい少佐。何の話だったかしら?」

 

『公国の状況です。連中の態度からするに、今回の派遣はただの"見せ剣"でしょう。どこから、どれだけの物が流出しているのか、特定できるとも思っていないし、特定する気もない。』

 

「投げやりな態度じゃ困るのだけど。彼らには当事者意識を持ってもらいましょう。…少佐、"お土産"を手配して貰える?」

 

『あの男が喜びますね。』

 

「喜ばせるだけじゃないわ。しっかり頑張ってもらわないと。…ただ少しだけ、私達の視点で仕事をしてもらうだけよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 チュファルテク合同共和国南部

 

 

 

 

 

 戦時昇進とは、言ってしまえば、平時に優秀な成績を収めていた優秀な人材が消えていったので、代わりとなる人間にその役割を負わせるような行為である。

 戦時中に昇進が早くなる傾向があるのは、要するに上の椅子に座っている人間がバタバタと死んでいくからだ。

 戦争が終わると異常なまでの速度の昇進というのは無くなっていく。

 多くの場合においては、平時に相応しい階級へと戻される。

 

 当然のことながら平時においては、戦時ほど昇進は早くない。

 私は戦時昇進で少佐まで行ったが、終戦によって大尉に戻された。

 一時とはいえ俸給が上がったのは嬉しかったのだが…まあ、平民将校では大尉が限界か。

 

 

 今、私は大公国からチュファルテク合同共和国を繋ぐ唯一の列車に乗っている。

 国が用意してくれたのは三等席。

 つまり、合同共和国や大公国の市民が日常の風景を醸し出す中に、相変わらず馬鹿でかいライフル銃を抱えた場違いな大公国将校として座っている。

 あまりに場違いすぎて、さっきから目の前に座るマリーナ・ルチェス(マリー)ク中尉に睨まれていた。

 

 

「スタン大尉、拳銃を買いましょう。私も一緒に行きますから。」

 

「今日は移動して、新しい宿舎に入って身の回りを整理して………明後日からは関係機関への挨拶回りだ。いつ、どこへ買いに行くと言うんだね。」

 

「チュファルテクは何度も行ってますから、銃砲店の場所も知ってます!軍人手帳があれば買えますよ!挨拶回りが始まる前に買っておくべきです、大尉!戦時手当貰ってたでしょう!?」

 

「アレは連邦鉄道社の債券を買うのに使ってしまったよ。手元には残っとらん。…そもそも規則上、軍は私に拳銃を支給する義務があるだろうが。」

 

「建前ですよ、大尉!大人になってください!私だって平民将校ですが、拳銃くらい持ってますよ!」

 

「君のとこの家は富農だろう?」

 

「大尉のご実家も裕福なはずですが?」

 

「おまっ…上官の人事書類を盗み見るのか…」

 

「こう見えて抜け目ないんですよ、私は。」

 

 手癖が悪い、の間違いでは?

 

「嫌ですよ、私!今時、兵卒でも使わないような古い歩兵銃を持った大尉と一緒に挨拶回りなんて!…大尉、連邦や王国や合同共和国の担当者達は、私たちを大公国の代表として見るはずです。それなのに!その代表が今にも機関部が吹き飛びそうな歩兵銃なんて背負ってきたらどう思います!?」

 

 

 普通は逆の立場なのだろう。

 私が彼女に我々は国家の代表云々思われるだのどうだの言うべきなのだろう。

 確かに、この若い女性将校の言い分は真っ当な部分もある。

 軍自身が義務をおざなりにしている事を忘れてはいるが、将校たるからにはその程度の気概が必要なのかもしれない。

 

 

 ……………ナンセンス!

 

 確かに私の実家は裕福な中産階級だが、出自に関係なく本来は国が負うべき役務を肩代わりするつもりなどないし、懐事情に余裕があってもそうするつもりはない!

 

 とはいえこんな会話はもう何回も繰り返しているので、今回は…効果は見込めないものの…上官に対するものの言い方について咎めるに留めた。

 

「ルチェスク中尉。君が妻の同窓でなければ酷いやり方で処分している。…もう少し発言に気をつけ」

 

「アレクサンドラも言ってましたよ、やめて欲しいって。」

 

「んぇえっ、サンドラが…?」

 

「ええ。制服の大尉がところ構わず長い歩兵銃を担いで回るものだから、内心は辟易しているみたいです。」

 

「うううううそを吐くな、中尉!妻はこの件にりりりり解をををを」

 

「大尉の言い分に理解を示しているのは確かでしょうけど、アレクサンドラみたいな子でもおかしいと思っているんです。…彼女、余分にお金を渡しませんでしたか?」

 

「サンドラがこちらに来るまでの当面の分だけで良いと言ったんだが…確かに、かなり多めに貰ったよ。これなら拳銃くらい買える。」

 

「確かに国家は私たちへの義務を怠りました。大尉のお気持ちも分かります。ですが」

 

「その上で我々にはより多くの義務を果たせと言っておるんだ。国家が義務を果たさん限り、私も国家への義務を果たそうとしないは自然な事だろう?…それに、せっかくこのライフル銃を"貰った"んだ。わざわざ新しく購入する必要は…」

 

「待ってください、大尉。"貰った"?」

 

「ああ。マルダヴ従軍の記念品として贈られた。…どうした?」

 

「………まさか…大尉、気づいていないんですか?中佐は"折れた"んですよ。」

 

「中佐が"折れた"?」

 

「中古の軍用歩兵銃は、民間では散弾銃への改造母体として需要があります。大尉のライフルは圧力の高い軍用実包なら不安でも、散弾程度の圧力なら十分耐えられますよ。…まだ分かりませんか?」

 

「何が言いたいんだ?」

 

「中佐はそのライフル銃を売り払って、自前の拳銃を買えと暗に促しているんですよ!どれだけ鈍感なんですか!」

 

 

 ルチェスク中尉が頭を掻きむしりながら取り乱す。

 このライフルは転勤が決まった際に私の"私物"扱いになったのだが、まさかそんな意図があるとは思っていなかった。

 

 

「なら…何だって中佐はそう言わなかった?」

 

言えるワケねーだるぉおッ!!!仮にも官給品"だったもの"で、"記念品"ですよ!売っ払えなんて言えませんよ!」

 

「なるほど…」

 

「ああ!もう!しつこく言っておいて良かったです!共和国に着いたら銃砲店に直行しますからね!」

 

「分かった分かった…そこまで言うなら……待て。中古のライフル銃を売り払えるなら…中古の拳銃もあるだろう…何かこう…屑みたいな銃を買って差額分を債券の足しに」

 

「大尉…そこまでいくなら、大公国軍人として本当に軽蔑しますよ?」

 

 

 ルチェスク中尉が青筋を浮かべて微笑んだので、私も中佐と同じように"折れる"事にした。

 どうせ使うこともないのだし…何かこう…中古の合州国製拳銃でもあれば良いのだが。

 

 

 

 

 

 

 

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