公国商人   作:ゔぇにすのしょーにん!

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5 貴族との会合

 

 

 

 

 

 大公国東部

 大公国軍補給基地

 

 

 

 

 

 

 

「モデル95ライフル銃の在庫数は?」

 

「現在、この補給基地には4万梃が保管されています。」

 

「4万?…私にはその数字が1万に見える。」

 

 

 補給担当者の公国軍少佐は、また大佐殿の悪い癖が始まったので軽くため息を吐く。

 

 

「お言葉ですが…大佐、あまりにも露骨ではないでしょうか?」

 

「案ずる事はないぞ、少佐。陸軍兵站総局の背広組トップが変わった。記念大学出身のエリートで、どうやらご子息を合州国に留学させたいらしい。」

 

「なるほど。ですが書類上の誤差は既に相当なものです。抱き込むのは良い手ではありますが、取り分が減っては困りますよ。」

 

「んんっ…少佐、北側の古い倉庫はそろそろ整備が必要ではないかな?この季節は空気が乾燥しているし、全木造の建築物は容易に燃えてしまうぞ?」

 

「………んんんっ!確かにおっしゃる通りです。()()()()()()()()()()()()…何らかの理由で出火して、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。早急に手配致します。」

 

「そう急ぐこともない。倉庫の建替え予算はまだ降りておらんからな。まあ…あの倉庫には中身がいっぱいになるまで働いてもらうのがよかろう。」

 

「承知いたしました、大佐。ところで"小火器の不足"についてはいかが致しましょう?」

 

 

 

 

 

 大公国首都

 官公庁街

 

 

 

 

 

 軍の兵站基地から"要請"を受け取り、必要な処置を勘案して実行するのが兵站総局の業務だった。

 破損した武器の修理、消耗した部品の交換、老朽化した建物の建替え…そういった業務の必要・不必要、緊急性等を検討して必要な予算を分配する。

 しかしこの日、兵站総局長は大して中身も見ずに兵站基地からの要請を通す事にした。

 

 

 

「兵站局長、東部第三補給基地からの報告です。どうやら小火器類の保有状況が定数の4分の3にまで落ち込んでいるようです。」

 

「よろしい、早急に補充したまえ。」

 

「承知いたしました…しかし、ここまで派手にやっても誰も気づかないとは、我が大公国の官僚組織も地に落ちた物ですね。」

 

「気づいていないと思うかね?」

 

「えっ?…」

 

「全く!君も少しは想像力を身につけると良い!…他の人間も我々が何をしているのかは知っているよ。なぜ告発しないのか、それは連中も我々と同じことをやっているからだ。他の連中が我々の弱みを握っているように、我々も他の連中の弱みを握っている。だからこそ、明るみには出ない。」

 

「なるほど…」

 

「私は息子を合州国に留学させたいし、君の娘は王国に行きたいのだろう?なら細かい事など放っておいて指示に従いたまえ!君や私の俸給では、夢のまた夢なんだからな!」

 

 

 

 

 

 

 

 公国-共和国国境

 

 

 

 

 

 十何両ものトラックが車列を組んで来るのを見た時、新米の国境警備兵は思わずライフル銃を構えてしまった。

 昔々はマルダヴにいたベテランの警備兵が隣にやってきて、その新米の軽率な行動を正すべく、ライフル銃の銃身に手を当てて銃口を降ろさせる。

 

「ああ、君は初めてだったな。私が応対しよう。」

 

 初老の警備兵は、国境検問所のゲート前に停車した車列の先頭車へと向かっていく。

 

 

 この国境で、自動車など見る事は滅多にない。

 大戦を終えてなお、少なくとも公国において自動車はまだまだ高級機械の類だった。

 だからその高級機械の群がこんな辺鄙な地域にやってくる事自体不審である。

 ところがベテラン警備兵は何も恐れるような様子もなく、笑いながら運転席の男に話しかけた。

 

 

「やあ。時間通りとは勤勉なものだね、感心するよ。」

 

「まぁな、俺たちの雇い主は時間にうるさいのさ。…積荷目録を提示しようか?」

 

「ああ、頼むよ………よし。問題はないな。積荷は"杖"だろう?」

 

「その通り。見てみるかい?」

 

「いいや、余計な詮索はしない。"積荷目録"は確かに受け取った。…二等兵!ゲートを上げろ!」

 

 

 新米の国境警備兵はベテランの様子を訝しみながらもゲートを開ける。

 車列は難なくゲートを通過して、運転手達がベテランに手を振っていた。

 

 

「本当に問題なかったんですか?」

 

「ああ、問題はなかった。…ほらよ、こいつはお前さんの取り分だ。」

 

 

 そう言ってベテランが差し出した物を見て新米は驚愕する。

 それはフェデラル・ビルの束だった。

 

 

「…なに、驚く事はない。この辺では普通のことさ。私はカミさんを喜ばせるなきゃいけないし、君は来月結婚するんだろう?」

 

「ええ、しかし…」

 

「いいかい、二等兵。長生きするコツはな。余計なことを考えないことだ。」

 

 

 新米国境警備兵はベテランの言葉に激しく頷くと、札束をコートの内ポケットに仕舞い込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………………………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 共和国

『オペラ座』本部

 

 

 

 

 

 

 イルドアに上陸した合州国の機銃手が持っていた45口径のリボルバーは、今は革のホルスターに仕舞われて私の腰からぶら下がっている。

 共和国でロイヤル・ノートはフェデラル・ビルに次ぐ優位を待っているので、私はレパブリカルを使うより遥かに割安でこの拳銃を買うことが出来た。

 

 中古のリボルバーをぶら下げて何をしているかといえば、我が国の腐敗と武器密輸によって多大なるご迷惑をお掛けしている隣国の防諜機関へご挨拶にお伺いをしにきた次第。

 こんな気の滅入る役回りと言ったら、他には宣戦布告文書を手渡す事になった外交官くらいなものであろう。

 

 正直入口で罵倒されるものと覚悟していたので、目の冴えるような美人に礼儀正しく迎えられた時は驚いた。

 ヨランダ・ロフスキ少佐は軍務省法務局公衆衛生課独立大隊とかいう長ったらしい名前の防諜機関の課長という地位である。

 軍務省は分かるのだが、法務局は司法省の役割なような気がするし、公衆衛生は厚生省の役割なような気がしてならない。

 ただしこの組織は防諜機関であり、対外的に役割をぼやかす必要があることを考えれば、"機能的な"名称である事は否定できないだろう。

 

 この防諜機関は『オペラ座』と呼ばれているらしい。

 そのオペラ座の現場指揮官は私と副官を本部の応接室に迎え入れると、素晴らしい香りのコーヒーで迎えてくださった。

 

 

「紅茶の方がお好みでしょうか?」

 

「い、いえ、どうかお気遣いなさらないでください。」

 

「我々はこれから共に戦う同志となるのです、大尉。この程度はさせていただきたい。」

 

 

 とても貴族軍人とは思えない物腰の柔らかさには感銘を受けた。

 大公国の貴族といえば、旧帝国領ダキアに勇んで出ていくような傲慢で無能な連中ばかりだったのに。

 

 応接室の内装とコーヒーカップその他諸々の物品を見るに、この貴族軍人はほぼ間違いなく隊員の勤務環境の為に私財を叩いている。

 なんてこった!

 共和国政府にこんな品の良い品物を揃える財政能力があるとは思えない。

 例えそれが"予算が潤沢な特務機関"であったとしても、こんな立派な応接室に使おうものなら大蔵省の役人がすっ飛んでくるはずだ。

 

 大公国の場合はまさにそうだった。

 首都勤務の時、私の使っていた机は旧帝国軍が撤退していった時に残していった机だったのだ。

 事務机の購入に充てられた予算は、どこかの誰かに横領されていた。

 

 

「同志など…とんでもない……」

 

「大尉、武器の流出はあなたの責任ではないはずです。お言葉ながら…貴国軍は正常に機能していない…そうですね?」

 

「お恥ずかしながら収賄が酷いものでして…軍の高官から兵卒に至るまで汚職に手を染めています。我々としても全力を尽くしておりますが…」

 

「御心労のほどお察し致します。…貴国の正常化のためにも共に力を尽くしましょう。」

 

 

 少佐から差し伸べられた手を、震える手で握る。

 簡単調整と、今後についての考えを述べ、今日は切り上げることにした。

 幾多の戦場を潜り抜けたであろう歴戦の気高い貴族将校は、微笑みで持って私を送り出す。

 どこか優しげな、温もりのある微笑みで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………

 

 

 

 

 

「怖えええよおおおおおおおお!!!」

 

 マリーが運転する車の助手席で、私は頭を抱えて悲鳴を上げた。

 公国政府が我々に用意したのは旧帝国製の中古車で、私の悲鳴のせいでサイドウィンドウが震えるほど各部が老朽化している。

 運転手を勤めるマリーも私の突然の発狂には驚いたようで、車が少し揺らぐ。

 

 

「ちょっ、大尉?怖いって…優しそうな物腰柔らかいお貴族様だったじゃないですか?」

 

マリィイッ!お前それ本気で言ってるのか!?同志とか何とか知らないが、あの少佐絶対そんなこと思ってないぞ!!!何なら蛆虫か何かだと思ってるぞ!!!」

 

「そんなっ…大尉!言い過ぎですよ!根拠もなしに!」

 

「根拠…?お前なぁ、マリー?共和国では流出した公国軍の銃を使って右派が暴れてるんだぞ!首相官邸まで襲われてるんだぞ!。『オペラ座』だって死傷者出してんだぞ!!」

 

「はぁ…」

 

「半分仲間の仇みたいなものだろ?それをあんな応接室に迎えて?高級豆のコーヒーでおもてなし?…信じッ、られるかあああッ!!!

 

 

 マリーは何も気づいてないが、私にはハッキリわかる。

 まず、あんな華麗な応接室に迎えた理由。

 平民将校の私でさえ、あの貴族軍人が私費を投じたと分かる応接室へわざわざ迎え入れたのだ。

「私はこれだけ戦友を大切にしているのよ、ん?」と宣言されたに等しい。

 そしてあの高級コーヒー!

「こんな真似している相手をここまで丁重に迎え入れる意味くらい察しなさいよ、ん?」と言われたに等しいッ!!!

 

 ダメだ…公国から離れて適当な間合いでプラップラッやりながら「あー、頑張ったけど無理でしたー(裏声)」みたいな適当な事をすれば殺される!

 絶対に殺される!

 

 正直完全に舐めていた!

 我が公国より財政状況が酷いなら、公国よりかは楽だろうと!

 とんでもない間違いだ!

 どうやら…私は自分のプランを練り直す必要がある!

 

 くそぉ、どこかにもうちょっとやりやすい交渉相手はいないものか…

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………

 

 

 

 

蛆☆虫

 

「…えっ?」

 

蛆☆虫

 

 国産のタバコを吸いながら、ロフスキ少佐は新任のモニカ・シルサルスキ少尉から問われた、あの大尉の第一印象を述べる。

 

「…まあ、()()にしては上出来でしょうね。あなたにはあの大尉がどう見えるかしら?」

 

「どこにでもいる普通の将校に見えました。」

 

「ええ、そうね。大公国なら、どこにでもいる将校でしょう。彼の武装は見たかしら?」

 

「いいえ、詳しくは」

 

「中古の合州国製リボルバー…列強では下士官すら使わない旧式銃よ。大方、共和国に入ってから調達したのでしょう。軍服も官給品以外身につけず、装飾もない。…典型的な吝嗇家ね。」

 

「………はぁ」

 

「普通の大公国の将校、それも吝嗇家なら簡単に賄賂で転ぶわ。監視をしておく必要があるでしょう。」

 

「大尉が武器の密輸に関わっている可能性は?」

 

「おそらく、ないでしょうね。吝嗇家というのは既に手に入れた物を失う事を極度に嫌うものよ。密輸に関わっているなら、どんな手段を使ってでもこの国には来なかったでしょうね。」

 

「なるほど…」

 

「とにかく、注意が必要よ。あの大尉はこちらの意図に気づくだけの能力はある…手が震えてたでしょう?それに、共和国にはフェデラル・ビルをばら撒く"素敵な糞"がいるから。」

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