シャーレ所属傭兵レイヴン   作:猫又提督

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今回最終回です。


第76話

 彼女の機体が私の元へと歩いて来た。

 

「生きてる?」

『何とか』

「ここから脱出しよう。そろそろ爆発しそう」

『無理かもしれない』

「どうかした?」

『お腹が痛すぎて動けないし、操縦も効かない』

「あれ、オートパイロットは?」

『何も起動しない』

「無理が過ぎたのかな? まあいいや。私が何とかしてみるし、ちょっと待って」

 

 私は先生たちがいたところを見た。そこには先生だけが座っていた。彼の前にある残骸はプレナパテスの物だ。彼は死んだのだろうか。いや出会った時から彼は死んでいたのだから、なんといえばいい、ようやく成仏したとでも言うべきか。

 

 他の生徒の姿は見えない。色彩のシロコさえも。彼はプレナパテスの前に座っているだけで一切動こうとしない。

 

『先生も脱出しないと』

「ああ、先生ならね、自分用の脱出シーケンスを色彩のシロコに使っちゃったからもう脱出できないよ」

『そんな、じゃあ先生は』

「このまま箱舟と一緒に爆発かな」

『そんなのだめ。私が抱えれば脱出できる』

 

 私は操縦桿に手を伸ばそうとしたがすぐに激痛が走って手をひっこめた。

 

「無理良くないよ。機体動かないんでしょ? 私が何とかしてるからちょっと待って」

『早くしないと崩れる』

「あともう少しだから――」

 

 その瞬間、体が浮いた感覚がした。視界が暗くなったかと思うと、次に見えたのは空だった。ついに耐えきれずに玉座まで崩壊してしまった。私と彼女の機体は猛スピードで落ちていく。

 

「まずいまずい。まさかこんなに早く床が抜けるなんて。あとはここをこうして……行けた!」

『オートパイロットを起動』

 

 真っ逆さまに落ちていた機体はブースターを吹かし、姿勢制御を行った。

 

『先生が、先生が落ちる。早く助けないと』

「もうオートパイロットが起動したからあなたは動かせないよ。切ろうとしても無駄だよ。地上に着くまでは絶対に切れないように再プログラムしたから」

『お願い、先生を助けて』

「でももう瓦礫でいっぱいだし、この中から人間一人見つけるなんて難しいんだけど」

『お願いだから、私には先生が必要なの』

「そう言われてもねえ。この高度で生身の人間が耐えられるとは思えないけど」

『そんなこと言わないで、お願い。どうか――』

 

 急に体全体に力が入らなくなった。視界が徐々に暗くなり音が遠くなっていく。ここにきて意識の限界がやって来た。痛覚も鈍くなり、脇腹の痛みが薄くなっていく。せめてあと少し、先生を回収するまでは持ってほしかったが、体は言うことを聞かず、私はゆっくりと意識を失った。その直前に崩れ落ちる箱舟の残骸から漏れる光が見えていた。

 

 

 

 私は学校の前で揺れる縄を見ていた。縄は屋上から垂れていて、生首の先生が笑顔で揺れていた。私はその縄にしがみついて先生と一緒に揺れていた。夕暮れでヒグラシが鳴いていた。

 

 私は旅館の二階で窓から見える夜景を眺めていた。下には川が流れている。横を向くと先生が布団の上に座っていた。眼窩は真っ黒だった。スマホを開くと、目の前の先生と同じ構図をした写真が大量に入っていたが、次の瞬間それらの写真は新しい物からどんどん消えていった。同時に目の前にいた先生がどんどん若返っていく。大人から青年へ、青年から少年へ、少年から赤ん坊へと変わっていく。まだ時間の逆行は止まらない。赤ん坊となった先生はそれよりも若返りグロテスクな姿へと変貌する。

 

 

 

『地上への着地を確認、オートパイロットを解除』

 

 COMの声で目を覚ました。浮遊感は無く、ゆっくりと顔を上げると、スクリーンには地上が映っていた。大量の瓦礫が積み上がり、その上には宇宙戦艦に乗っていたメンバーたちが立っている。彼女たちは私に向かって手を振っていた。

 

 先生はどうしただろう。玉座が崩壊して真っ逆さまに落ちてから……私は先生がどうなったのか見ていない。彼女は最後まで先生と助けることを渋っていた。嫌な予感がして冷や汗が出てきた。まさか先生はあのまま落ちて死んだんじゃ。ついさっき見た夢ともリンクして確かめる事すら躊躇われる。

 

 誰かが画面下から移りこんだ。その人物は私の掌から降りて、手を振っている彼女たちへ向かって走り出した。その後ろ姿は先生だった。私は安堵の息をついた。良かった生きていた。どうやってあの状況から生き残って私の掌に乗っていたのか疑問だが、今はそんなことより先生が生きていたことが何よりうれしかった。だから彼が真っ裸でシッテムの箱だけ持って彼女たちの元へ全力疾走していることもどうでもよかった。

 

 彼女たちは真っ裸になった先生を見て悲鳴を上げていた。その場で目を隠したり、呆れたり、逃げたり、ハナコだけじっくり観察していた。

 

「生きてる?」

 

 彼女が、三週目の私が声をかけた。

 

『生きてる、なんとか。ありがとう、先生を助けてくれて』

「いいよ別に。どっちかと言うと助けたのは私じゃなくてアロナの方だから。私は回収させただけだし。私の機体じゃ人を乗せるのには適してなくてね」

 

 私の前にACの腕が映った。それは手と言うには少し抽象的だった。アームと言った方が正しいだろう。

 

『機体もいっしょに下りたの?』

「あなたが下りれたんだから私も下りてきてるよ」

「レイヴン!」

 

 いつの間にか先生が私の前に立っていた。仁王立ちしているせいでその股間にぶら下がっているブツがはっきりと見えている。

 

「わーお。あれが男のブツか。私ウォルターのすら見たことなかったのに」

「その機体は」

『ああ、これは彼女だよ。なんどか会ったでしょ』

「君の中にいるもう一人の君か。これも大人のカードの力で? でもあの時は赤い光は集まらなかったけど」

『どうなの?』

 

 私は彼女に聞いた。

 

「違うよ。あなたが今乗ってる機体と同じように作った代物だよ。とは言ってももうあんな量を作ることはできないけど。色彩が襲撃して空間がゆがんでたから出来た代物さ」

 

 私は彼女が言ったことをそのまま先生に伝えた。

 

「じゃあその機体には彼女がいるってことだね?」

『そういう事だね』

「そっか、びっくりしたよ。急に五体もロボットが下りてきて、あれ全部AC?」

『うん』

「レイヴンを助けに来てくれたんだよね。ありがとう」

『気にしないでだって』

「その、君たちの戦いは見ていたよ。もう一人、プレナパテスのレイヴンの最期を。正直僕は別の道もあったんじゃないかと思う」

 

 先生の顔が曇った。

 

 ああ、そうだった。彼女は死んだんだったな。きれいさっぱり消えたからまるでその実感はなかった。引き金を引いたのは私ではないが、私も彼女を殺すつもりで戦っていた。勿論彼女もまた私を殺そうとしていた。

 

 言い訳をするなら向こうも殺そうとしていたから、私も殺す勢いで戦う必要があった。しかし本音を言えば、私は彼女を相手した時、殺そうという考えに何の疑問も思い浮かばなかった。ACと相対した時の勝ち負けなど死ぬか生き残るしかないのだ。最初から話し合いで解決するだとか、和解するとかいう選択肢はない。ACで敵対した以上どちらかが死ぬしかないのだ。

 

『私にとってはあれが最善策だったんだ。でもごめん。私は先生を失望させてしまったかもしれない。先生の言う通り私はキヴォトスでも人殺しになってしまった』

「そんなことは……いや、そうだね。庇っても仕方がないか。でも終わったことをいつまでも責めるのも違う。それが君の選択であったのなら、私は君を尊重するほかない」

『ありがとう、助かるよ先生。いたたた』

「どうしたのレイヴン、大丈夫?」

『ちょっと脇腹に怪我を負っちゃって』

 

 アドレナリンでも出ていたのか、それとも寝ぼけていたせいか痛みを感じていなかったが、実はまだ傷口は抉れたままだ。幸い出血は酷くないがここにきて痛覚が戻って来た。

 

「大丈夫? 今出してあげるから」

『う、ぐっ。こんなに痛かったんだっけ。まずい』

 

 その時、背後からボンっと何かがはじける音がした。

 

「あ、まずい」

 

 彼女があからさまに不吉な言葉を口にした。もはや何が起こったのか聞きたくもない。

 

「せ、先生! レイヴンさんの機体が炎上してます! 危ないですよ!」

「え、ええ!? は、はやくレイヴンを助けないと! だ、だれか手伝って!」

 

 先生の言葉で皆がこっちに近づいてきたが、ハナコ以外は中々先生の隣まで来れない。

 

「み、皆レイヴンを出すのを手伝って!」

「ぎゃああ!? こっち向かないでください先生! レイヴンさんを出す前に先生は隠してください!」

「とりあえずレイヴンさんの救出をしましょう」

「なんでハナコさんはそんなに冷静なんですか!? 頬を染めないでください!」

「いけない。燃え残った全てに火がついてしまう」

『絶賛火がついてるんだけど。代わりに強制射出して。ボタンが反応しない』

「射出は機構の部分から故障してるから無理。開ける事ならできるよ。はい」

 

 コックピットの扉が開いた。真っ裸の先生がブラブラとブツを揺らしながら顔をのぞかせた。

 

「レイヴン!」

 

 久しぶりに直接面と向かった先生の顔は笑顔であったが、私の惨状を見るとたちまち危機迫る顔になった。

 

「レイヴン!?」

 

 いざ見てみれば、コックピットの中は血まみれ、私の脇腹の傷は先生が思っていたよりも深かった。コックピットが開くと燃えている音がより鮮明に聞こえた。

 

「だ、誰か救急車! 早く救急車呼んで!」

 

 私は先生に引っ張り出された。その際体勢を動かしたことにより、一層激痛が走った。

 

「あ、ご、ごめん」

 

 先生は私が痛がったので手を放そうとしたがハナコはそのまま引きずりだすように言った。

 

「このまま出しましょう。機体に火がついている以上爆発しかねません。レイヴンさんには我慢してもらいます」

 

 そう言って先生の代わりにハナコが私を引っ張り出した。案の定激痛が走ったが、ハナコは「我慢してください、救急車を呼んでますから」といって構わず引っ張り出した。私は激痛に耐えるように掴んだハナコの腕を強く握った。みるみるうちに来ていた真っ白な服が血に濡れる。だがそんなことは意に介さずに私を抱いてくれた。

 

「れ、レイヴンさん大丈夫ですか!?」

 

 外で待機していた人たちが私を見るや否や同じような言葉をかける。

 

「皆さんここは危険ですから一先ず距離を置きましょう。爆発するかもしれません」

 

 ハナコの言葉に皆従って先生ともども機体から距離を置いた。

 

 救急車が来るまで私はずっと痛みに耐えていた。ハナコが応急処置をしようと傷の具合を見たがすぐに断念した。

 

「これは流石に……下手に触ればかえって傷を悪化させてしまうかもしれません。とりあえず地面にも置かずにこうして抱いていた方がいいかもしれません」

 

 救急車が来るまでの間はよく分からなかった。ずっと俯いて血に濡れた包帯を睨みながら痛みに耐えていた。やがて救急車のサイレンが聞こえてくるとハナコはそちらに向かい、私は救急車に乗せられた。すぐに麻酔をかけられて、私の意識は沈んでいった。

 

 

 目を開けるとそこは知らない天井だった。右を見れば窓があり、左にはカーテンが掛かっていた。ここはどこだろうか。シャーレの医務室では無かった。

 

 起き上がろうとすると腕に点滴が刺さっているのが分かった。どうやら病院らしい。そのまま起き上がろうとすると脇腹に痛みが走った。そういえば脇腹が抉れていたんだったか。起き上がるのは止めてそのまま寝転がった。

 

 誰もいない病室で暇をしながら天井を眺めていると、恐らくドアが開いたのだろう音がした。カーテンをめくって私の前に姿を現したのはカンナだった。彼女は私が目覚めていることに気づかず、私の隣に座って顔を確認したところでようやく気付いた。

 

「れ、レイヴンさん!? 目覚めてたんですか?」

 

 私は頷いた。

 

「良かった。中々目を覚まさないんで心配してたんですよ。待っててください、ちょっと人を呼んできます」

 

 そう言ってカンナはすぐに席を立って病室を去っていった。しばらくすると病室にはカンナと一緒に医者らしきロボットが入って来た。

 

 私は医者から簡単な説明を受けた。ここがD.U.にある病院であること。病院に運ばれてから一週間近く経っていること。抉れた脇腹は再生手術で治したが、体が再生した部分と適合するまでの間は痛みがあること、幸い内臓までは抉れてなかったことを教えてもらった。

 

 キヴォトスの技術ってすごいな。

 

「さっき先生にも連絡を入れたのですぐに来るでしょう」

 

 私は返事をしようとしたが周りに書くものが一切なかった。私がキョロキョロ探しているとカンナは察してくれたようで、自身のスマホを貸してくれた。

 

「レイヴンさんのスマホは残念ながら紛失してしまいまして、ひとまずこちらを使ってください」

『ありがとう。カンナがお見舞いに来てくれたの?』

「ええ、毎日ではありませんが。私のほかにもいろいろな方が来てたようですよ。ミレニアムやトリニティの方々にRABBIT小隊の連中も」

『先生も?』

「ええ、はい。今回の事件の後処理で中々来れないそうですが」

『そっか。いろんな人が来てくれたものだね』

「ええ、レイヴンさんの人徳は高いですからね」

『私にそれを言うなんて皮肉も極まってるね』

「そうでしょうか? 私はそうは思いませんが」

『いや、なんでもない。気にしないで』

「はあ……あ、そういえばレイヴンさんへの見舞いの品が沢山あるんですが見ます?」

『見る』

 

 カンナは立ち上がり、カーテンをめくった。そこには机の上に収まらず、なぜか机の横に置いてある車椅子の上にまで見舞いの品が積まれていた。その車椅子は作戦時にアビドスに置いて来たものだ。

 

『これは大量だね』

「果物に、お菓子、紅茶に、ゲーム……色々と積まれてますね」

『その車椅子私が使ってたやつだ』

「そうだったんですか。綺麗にされてますね。そうだ、何か食べます? 内臓にダメージは無いそうなので食事は大丈夫みたいです」

『じゃあお菓子でも』

「分かりました。ベッドを少し上げますね」

 

 カンナがベッド横のリモコンを操作すると、ゆっくりと体が起き上がった。上半身が四十五度上がったところで止まった。

 

 カンナとお菓子を食べながら談笑していると、またドアが開いた音がした。

 

「レイヴン」

 

 中に入って来たのは先生だ。少し息が上がっている。多分走って来たのだろう。私は先生に手を上げた。

 

「良かった、カンナから連絡を受けて走って来たよ。大丈夫? 傷は痛む?」

『まだ少し。でも起き上がらない限りは痛くないよ』

「そっか、良かった」

「それでは先生も来ましたし、これで私は」

 

 そう言ってカンナは帰ろうとした。

 

『もう帰るの?』

「ええ、仕事が溜まってるものでして」

 

 私はカンナにスマホを返した。彼女は「ありがとうございます」と言ってスマホを受け取った。お礼を言いたいのは私の方だったのに。

 

「カンナもお疲れ様」

「いえいえ、シャーレに比べれば私など。それでは失礼します」

 

 先生が立ち上がってカンナを見送った。ドアを閉めるとまた先生は私の隣に座った。

 

「レイヴンが起きてくれて良かったよ。このまま目覚めなかったらどうしようかと」

 

 私は返事が出来なかったので車椅子横のポーチを指さした。その中にあるノートとペンが欲しい。先生はすぐに察してポーチから出してくれた。

 

『どうやら生き残ってしまったみたいだね。そういえば機体はどうなったの。燃えたけど』

「ああ、それならもう一人のレイヴンが近くの川に沈めて鎮火したけど」

『それならもう使えそうにないね』

「そうなの? ACって防水性高そうなのに」

『あんなにボロボロになってから水没したら流石にね。多分もう動かないよ。彼女はどうしたの』

「ああ、もう一人のレイヴンの機体ならシャーレに置いてるよ」

『そっか』

 

 私は布団をめくって脇腹を見た。包帯が巻かれていて手術の後は見えなかった。

 

『跡残るかな』

「多分……レイヴンが嫌なら上着か何か着ておくかい?」

『ううん。むしろ残っててほしい』

「え、どうして」

『先生とおそろいだから』

 

 私は微笑みながら言った。一方先生は嬉しいような悲しいようなどっちともつかない顔をした。

 

『命がけで守って、飼い主と同じ跡が付くなんて猟犬冥利に尽きるよ』

「そ、そっか」

 

 突然先生がスマホを取り出し画面を見た。すると「ごめん」と言って先生は席を外した。どうやら電話らしい。

 

「もしもし……うん……あー、うん……それで……分かった。戻るよ」

 

 先生は戻ってきたが、その顔は申し訳なさそうだった。そして申し訳なさそうな顔で私に言った。

 

「ごめんレイヴン。ちょっと急用が入っちゃって、申し訳ないんだけどシャーレに戻らないといけなくなって」

『いいよ。先生が大変なのは知ってるから』

「ごめん。またお見舞いに来るから」

 

 そう言って先生は早歩きで病室を後にした。

 

 一人になった病室は静かだった。外の声がくぐもりながらも僅かに聞こえる。重機の音だ。近くで工事でもしてるのかもしれない。久しぶりの平和は、空が青く透き通っていた。

 

 

 更に数週間経って私はようやく退院できた。その際、いろんな人が私を迎えに来てくれた。ゲーム開発部やエンジニア部に、補習授業部まで来てくれた。

 

 カンナが車でシャーレまで送ってくれるという。見舞い品が沢山あって手持ちで持って帰るのが大変だったから丁度いい。

 

 D.U.では至る所で工事が行われていた。どうやら復旧作業が始まっているようだ。人的被害は少ないものの、建造物の被害は酷く最悪年単位で復旧工事が行われるかもしれないと。特にペロロジラと私が暴れたところは被害が甚大らしい。それを聞いて思わず私は目を逸らした。

 

 シャーレに帰ってくるのは数か月ぶりだ。平和なシャーレだともっと久しぶりだ。私の機体が置いてあった場所には、彼女の機体が代わりに置かれている。

 

 見舞い品を自室に置くと先生からオフィスに来てほしいと言われたので、ついて行った。

 

「ただいま」

「あ、先生! 帰って来たのですね。おかえりなさい!」

「先生、おかえりなさい」

 

 オフィスに着くと二人の声が先生を迎えた。アロナともう一人、確かプレナパテスのアロナだ。なぜシッテムの箱にいるのだろう。

 

「レイヴンさんも帰ってきたのですね」

「うん。あ、そうだ。レイヴンにはまだ紹介してなかったよね。彼女はプラナだよ」

「よろしくお願いします。レイヴンさん」

『ん、よろしく』

「まさかレイヴンさんにも私の声が聞こえていたなんて予想外でした。今まで無視してごめんなさい」

 

 アロナが私に向かって初めて声をかけてくれた。

 

『いや、いいよ。気にしてないから。紹介ってプラナのこと』

「あ、いや。もう一人いるんだけど。彼女は?」

「教室の外にいるので今呼びますね。レイヴンさん! 帰ってきましたよ!」

 

 は、え? レイヴン? 私のことか? いや、でもアロナは私にではなく画面の奥に声をかけていた。少しして教室に入って来たのは、どこかで見た姿、学生服を着た私の姿だった。

 

「やあ私。退院おめでとう」

『なんでそこにいるの』

「いろいろあってね。というかあなたがいないと会話ができないからちょっと空間を弄ってシッテムの箱に入れてもらったんだよ。と言うわけでこれからは夢の中じゃなくても直接声をかけられるからよろしく」

『えぇ、それコーラルとか大丈夫なの?』

「問題ない。問題ないようにしてるから、問題ない」

『ああ、そう』

 

 私は二度とルビコンには戻れないだろう。そもそも戻ろうとも思わない。どうせルビコンに戻ったって私の居場所はないのだから。キヴォトスであれば私にはたくさんの居場所がある。仲間もいる。キヴォトスから出て行く理由が無い。これからも私はシャーレ所属傭兵として先生の猟犬として生きていく。どうかこの日常がより長く事を祈って。




病院エアプなんで許してください。

約五か月の間ありがとうございました。シャーレ所属傭兵レイヴンはこれにて完結です。一時の感情に任せて書き始めた作品ですが、無事完結出来て安心しました。最終的にレイヴンは犬として生きることを選んだみたいですね。犬の方がより命がけで飼い主を守りそうなんでいいんじゃないですかね。

改めましてここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。

後日談だとか番外編だとかは……多分書きません。万が一何か思いついたら書くかもしれませんが。

余談ですがレイヴンが落ちた後に見た夢は私が実際に見た夢とほぼ同じです。
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