シュラハトくん見逃して 作:私貴方私(Y-ou@so-soなフリー)
勇者の声に応え、仲間達は輝きだした」
「いるぞ」
聞き覚えのある声が応える。
瞬間、無限に広がっていると思われた魔王城の天井が砕け散った。
何かが瓦礫に紛れて広間へ侵入する。
天井に気を取られた魔族は、向けられたその暴威に気付けない。
「な、なにガッ!?」
瓦礫に紛れて鈍く輝く刃が走る。
構える間もなく両断され、かつて『七崩賢』と呼ばれた魔族はチリと化した。
降り立った男は斧に積もったチリを振り払う。
天から差し込んだ陽の光が、その男の背を煌々と照らし出す。
私達はこの
「なんだ。俺が最後だったか」
勇者パーティが、ここに再び集った。
その錚々たる光景に、レンゲは息を呑む。
心なしかヒンメル達の体が光って見える。
「!? フリーレン様、光ってます。光ってますよ、体!!」
「ふぇッ?」
フェルンの慌てた声に驚き、フリーレンは自分の体に目を向ける。
比喩表現ではない。
彼女達の体は実際に光を放っていた。
それは昼間の太陽の如き輝きだった。
「フリーレン様、眩し過ぎるのでもう少し抑えられないですか?」
「うーん。わかんない」
なんだか力が湧いてくる。
魔力もみるみる回復していき、ここ1000年の中でも特に調子がいい。
お隣では、黄金に輝くアイゼンが往年の筋肉を取り戻し、シュタルクへ見せつけるように敵の魔法を殴り返している。
「おそらく『
「でしょうね。私も無性にあの魔族を引っ叩きたくてしょうがない。この輝く聖典で!」
ハイターが聖典を振り回すたび、その輝きは増していく。
女神様もやる気に満ちているようだ。
レンゲの推測は正しいのだろう。
フリーレンは七崩賢達の呪いに対抗するため、『防護魔法』をかけながら魔力の動きを常に観察し続けていた。
実際、先程よりもマハト達の魔力が弱まっている。
これならば、1対1でも七崩賢と戦えるかもしれない。
「ヒンメル、断頭台のアウラは俺が
「ニヒツ……死ぬなよ」
「ハッ、もう死んでるっての」
軽口を叩き合う二人。
鎧の騎士は勇者に別れを告げ、怨敵の元へ向かう。
狙うは『断頭台』の首、それだけだ。
「ちょっと、ゲシヒテ。私の下僕はどこよ。私はこんな前線で戦うスタイルじゃ無いのよ」
「はあ? 誰よそれ…ッ!?」
アウラは気付く。
自分に対して強烈な殺気を向けている人物が一人。
見覚えのある甲冑。
自分が死ぬ間際に下僕として使役していた騎士のものだ。
中々頑丈で使い勝手が良く、長い間愛用していた。
なるほど、ゲシヒテの言うことにも一理ある。
何故
天秤を相手に突き付け、魔法を行使する。
………。
「………?」
おかしい。
手応えがない。
天秤がぴくりとも動かない。
頬を汗が伝う。
アウラはこの事象に心当たりがある。
これは昔、戯れに行ったとある『遊び』と同じ結果だ。
でもそんなはずはない。
ここに来てから、私は一度もこいつに魔法を使っていない。
なのになぜだ?
私の魔法は『
「ようやく、仲間の敵討ちができる。まさかこの手で果たせる時が来るなんてな…」
騎士が何かを呟いている。
訳の分からない事を話す相手に、文句を言ってやろうとしたアウラ。
しかし、不意に彼女はつまずいてしまう。
悪態をつく。
先ほどから身体の調子がおかしい。
『断頭台』は体勢を立て直し、再び天秤を構えようとする。
しかし、そこに天秤はなかった。
「はぁ?」
棒立ちになった自分の体が見える。
足元には、チリに埋もれた天秤の皿が見える。
500年を生きた大魔族。
彼女はこうして、再び人の手で討たれることになった。
「…ありえない…この私が…」
光り輝くヒンメル達の勢いは凄まじく、怒涛の勢いで七崩賢達を倒して行った。
本来の歴史では、5人全員で七崩賢1人と激戦を繰り広げていた。
それが今では残り5人になった七崩賢に対し、むしろ優勢に戦っている。
フェルンやレンゲといった新しい世代の冒険者達が加勢しているとは言え、まるで『物語』のように劇的な逆転劇がそこにはあった。
「はあああ」
聖典と融合し、女神様のような翼を生やしたハイター。
「オオオォ」
髭が逆立ち黄金に輝くアイゼン。
「ダァあああ」
残像と分身による物量と見えない斬撃を飛ばすヒンメル。
もはや生前のヒンメルに追いすがるほどの剣技で、ゲシヒテを足止めするレンゲ。
アイゼンと共に戦えることが嬉しくて、いつもより力が入って魔王城の柱を『野菜みたいに輪切りにする』シュタルク。
ハイターの活躍に自慢げな表情を浮かべ、かの『腐敗の賢老』の如き魔法さばきを見せるフェルン。
「えぇぇ…」
そして、自分の記憶と違い
勇者側が圧倒的に優勢。
戦いは佳境に差し掛かっていた。
「ゲシヒテ、キサマ敵を強化してどうするのだ…」
「これではどちらが味方か分からんな」
ベーゼとマハトから小言を受けるゲシヒテ。
ゲシヒテとしても、自分の用意したシナリオとかなり乖離が起こっており、あまり面白くない状況だった。
『
『
『
『
『
『
『
ゲシヒテによって、各地でうたわれた強大な魔物達が再び解き放たれる。
「おい、ゲシヒテをなんとかしないといつまで経っても終わらないぞ」
「でもあいつは不死身だ。何かの条件を満たさないと倒せない。周りの七崩賢から崩すしかないよ」
アイゼンと気を持ち直したフリーレンが魔物の触手を切り払う。
「フリーレン様、これが『物語』なら終わり方が決まっているはずです。レンゲさん、この『勇者ヒンメルの冒険』を読んだことがあるんですよね。最後はどうやって終わるのですか?」
フェルンが推測を立てる。
敵すら再現してしまうほど、『物語』に忠実な魔法だ。
その終わらせ方も『物語』が鍵になっているはず。
「そうだね…」
フェルンの言葉にレンゲも納得する。
『勇者ヒンメルの冒険』
レンゲの大好きな物語。
その内容なら全て暗記している。
「ヒンメル様が勇者パーティ全員の心を一つに束ね、『
「………あれかぁ」
「おおぉ、あれをついに使う時が!」
とてつもなく嫌な表情のフリーレン。
子供のように表情が明るくなるヒンメル。
「ニヒツ、カウント3」
「アウラ倒してきたぞ…と言いにきたんだが、なんでこのエルフ不機嫌なの?」
ちょうど戻ってきたニヒツに、レンゲが状況を説明する。
『いや、ちょうど5人だから戦隊モノみたいで合体技とかいいかなと思って…。ヒンメルもノリノリだったし』
ボソボソと何か言い訳を呟くフルプレートの騎士。
ニヒツは当時のことを思い出していた。
昔、勇者パーティ内で必殺技を作ることがブームだった時期があった。
ニヒツの『七宝剣』もその一つだ。
その流れで、ニヒツが合体技を作ろうと提案し、男心をくすぐられたヒンメル達4人は徹夜で色々考えたのだ。
そして翌日、実用的ではないという理由でフリーレンに却下された。
つまり、実戦では一度も使わずお蔵入りになった代物。
それが『勇者奥義 超合体必殺技』の原型だ。
諦めきれなかったヒンメルとニヒツはそれを『物語』の中に託したのである。
「いや、こうなったらやるしかないじゃないかフリーレン。諦めてくれ」
「ヤダァー!」
フリーレンは気乗りしない。
「合体魔法なら昔よくやったじゃないですか」
『ハイターならそう言う』
「俺は割と好きだぞ」
『アイゼンならそう言う』
「後生だフリーレン。俺も一度はやってみたい」
『ニヒツならそう言う』
「師匠!もう保たないぜ。何かやるならさっさとやってくれ!」
シュタルクが叫ぶ。
アイゼン達が前線から下がったため、自然と足止めはシュタルク達だけで行っていた。
しかし、弱体化しているとは言え『七崩賢』と『多数の魔物』が相手である。
そう長くは保たない。
「フリーレン、行こう」
勇者が手を伸ばす。
彼らはゲシヒテの魔法で生み出された『まぼろし』だ。
それでも
フリーレンは決断した。
そんな彼女を仲間達は笑顔で迎え入れた。
「シュタルク、30秒間お前達だけで足止めしろ。お前達ならできる」
「無茶言うぜ師匠!」
師匠に頼られたことでシュタルクの気分は高揚する。
普段は絶対出ない軽口も思わず出てしまう。
「そのまま全部倒しちゃっても怒らないでくれよッ!」
戦士は笑った。
ヒンメルを中心に、4人の仲間が祈りを捧げる。
「我は僧侶ハイター。女神の代行者にして仲間を癒す者なり。勇者に我が
ハイターから女神の翼が消え、ヒンメルに宿る。
「我は戦士アイゼン。仲間の矛なり。勇者に我が
アイゼンから黄金の輝きが消え、ヒンメルに宿る。
「我は騎士ニヒツ。仲間の盾なり。勇者に我が
ニヒツから覇気が消え、ヒンメルに宿る。
「我は魔法使いフリーレン。仲間の知恵なり。勇者に我が
フリーレンから魔力が消え、ヒンメルに宿る。
「みんなの想い、確かに受け取った」
勇者側ヒンメルが目をゆっくりと開く。
『仲間の想い』を全身に感じる。
勇者はその
刹那。
辺りに満ちていた全ての輝きがその刀身に集まる。
世界が黒く染まる。
その異常事態に、魔族も人も動きを止めてしまう。
今この時、この世で光を放つものはただ1つだけ。
幾重にも編み込まれた『魔力』と圧倒的な力で圧縮された『闘気』によって、固められた『鈍色に輝く刀身』のみ。
そして、それは放たれる。
「だせぇ!?」
『ヒンメルの剣』から放たれた光は全てを飲み込んだ。
魔王城を埋め尽くす魔物も、人類を恐怖に陥れた七崩賢も、そして忌まわしい魔王城も。
「終わったな」
「ええ」
「そうだな」
「………」
「ヒンメルの馬鹿野郎!!」
「ぶッ!?」
七崩賢討伐の余韻に浸るヒンメル。
その彼をニヒツが張り倒した。
「土壇場でアドリブ入れるんじゃねぇ。あの時、『【勇者合体奥義】パーフェクトフルスロットル勇者ブレイク』にみんなで決めたじゃねぇか。『勇者ヒンメルの冒険』に載せた技名から変えたら、倒せないかもしれないだろ!」
「いいや、僕は『
「ずりぃぞ。こんにゃろう!」
「どっちも変わりませんよ」
「……シンプルに『勇者斬』も悪くないな」
ヒンメルとニヒツが取っ組み合いを始める。
戦いが終わり、一気に空気が緩む。
ハイターとアイゼンが仲裁に入る。
いつものくだらない喧嘩を思い出し、自然とフリーレンは笑顔になった。
「私が憧れた物語は実在したんですね。おねえちゃん達の想いは無駄じゃなかった」
レンゲは、目の前で起きた奇跡に涙が溢てくる。
嬉しいのに涙は止まらない。
フェルンはそんな彼女に、そっと寄り添った。
色んなことがあった。
あり過ぎたのだ。
神話のゲシヒテはまだ生きていた。
しかし、すでに満身創痍だ。
ヒンメルの攻撃で何度も死と再生を繰り返して消耗したのだろう。
フリーレンが前に進み出る。
あの合体技は力のほぼ全てを『ヒンメルの一撃』に重ね合わせるものだ。
みんな動くことすらままならない。
特にヒンメル達は『幻想でできた体』だ。
既に形を保つことさえ難しくなっているだろう。
だから私は反対していた。
もう少し夢の時間を楽しみたかったから。
生者の自分は既に魔力を少し回復している。今なら倒せる。
「私が終わらせるよ」
フリーレンの歩みは止まらない。
足が止まる。
ゲシヒテはフリーレンの様子を見て少し余裕を取り戻す。
しかし、
「それは嘘」
ゲシヒテの嘘を見抜く者はいる。
『
力を、知識を、想いを。
「七崩賢の呪いは死後も残る。殺されて再現された人間にも元の魂が宿ることは、私の兄姉達が確認している。そして、魔法の効果は再現時のみ発揮される。『
「だろうな。俺達のように死んでから随分経って再現された者たちは別として、遭遇しても被害がないと伝わっているほど直ぐに再現してんだろ。体を複製できても、魂の複製は不可能だ。おおかたそのまま再利用してるんだろう。アウラに魂をずっと握られてた俺が言うんだ。間違いない」
ニヒツの証言がそれを補完する。
ゲシヒテは素早く魔法を発動する。
「これでぼくはもう人間だ。魔族じゃない。魔族じゃないなら殺す理由はないだろう?」
「ヒンメルもフリーレンも人間は殺したことがない。物語の主人公はそんなことしない。君たちはぼくを逃すしかないよね」
勝ち誇るゲシヒテ。
手を止めるフリーレン。
そっと剣に手を添えるニヒツ。
しかし、彼はフリーレン達への理解が浅かった。
「それはもう昔見たよ」
こうして、『
芸術都市シャーデンフロイデに夜明けが訪れる。
この騒動で死んだ人間は誰1人存在しない。
あれだけ大規模な戦闘があったにも関わらず、芸術都市にはいつもと変わらない喧騒があった。
もちろん原因は明白だ。
『物語』が完結した為、消えてしまったのだ。
ゲシヒテが作り上げた魔王城も、魔物も、七崩賢も、彼らとの戦いの跡も。
もちろん、『
七崩賢の魔法は本人が死んでも、途中で解除されたりしない。
彼らの『物語』という名の人生はこれからも続いていく。
ただ、この真相は知られるべきではない。
そもそも証拠がないため、誰も信じないだろう。
そして、自分たちが一度死んだことを知ったとしても、誰も幸せになれない。
『神話のゲシヒテ』はヒンメル達が70年前に倒した。
それが正しい歴史でいい。
これがレンゲとフリーレン達の結論だった。
それでも別れはある。
『勇者ヒンメルの冒険』から出てきた登場人物は、魔族や魔物だけではないのだから。
「お別れですね。フェルンさん」
「………はい」
ハイターは、自分達がもう長くないことを悟っていた。
『物語』はいつか終わる。
彼らの物語は既に終わっているのだ。
「ハイター…」
「フリーレン、あなたともここでお別れですね。あなたはあの頃から随分変わりました。フェルンさんに魔法を教えたのはあなたですね。戦い方がそっくりだ」
「そうだね」
輝きが弱まる。
「心配しないでください。ゲシヒテの魔法を受けた影響で分かったことですが、シャーデンフロイデの住民達はちゃんと魂を持った本物の人間です。女神様のお墨付きもあります。私達のような創作物の再現体ではありません。ニヒツも言ってましたが、ゲシヒテの魔法が解けたとしても消えたりしません」
「そうですか…よかった」
「…浮かない顔ですね。フェルンさん」
「はい」
「こんな可愛いお嬢さんに別れを悲しんでもらえるんです。未来の私は必ず天国に行けたことでしょう。羨ましい限りです」
「…はい…」
「ではお元気で、
「はい、ハイター様もお元気で!!」
フリーレンは2人の別れをそっと見守った。
彼女自身はハイターにかける言葉はない。
ハイターもそうなのだろう。
ハイターはフェルンの肩越しにフリーレンへ微笑みかけ、消えていった。
「師匠」
「シュタルク」
師匠と弟子。
親と子。
2人は見つめ合う。
久しぶりの再会だが、シュタルクの表情は暗い。
「…そうか、俺は間に合わなかったんだな」
「ん?」
シュタルクが話を切り出す。
その声音には後悔が滲み出ている。
「師匠。俺はあの日、衝動のままに家出をした。でも今はあれで良かったと思ってる。俺、たくさんくだらない冒険をしたよ。師匠がたくさん話してくれた冒険に負けないくらい、くだらなくて楽しい旅だった」
弟子が拳を握りしめる。
しかしそこに攻撃の意思はない。
何かを食いしばっている。
アイゼンには、シュタルクの言いたいことが分からない。
「だから旅を終えた後、たくさんたくさん思い出を持って帰るつもりだった。師匠が旅に出れなくなった代わりに、色んな話をするはずだったんだ」
「今話せば良いじゃないか」
アイゼンとしては、むしろそれが聞きたい。
大変興味がある。
「そうだな。でもここにいる師匠は俺が知ってる師匠じゃない」
「ん?そうなのか?」
「だって師匠は…もう…」
「………ああ。俺は生きてるぞ」
!?
「アイゼン、無事でよかったよ」
「ああ」
フリーレンが辺りをキョロキョロ見渡す。
「ヒンメルならいないぞ。先に帰っちまった」
「そう…」
寂しそうなフリーレン。
「ヒンメルから伝言だ『僕達は生前、十分語り合えた。二度目のサヨナラは野暮だろう。今度会うときは1万年分の思い出を天国で聞かせてくれ』だとさ」
苦笑いを浮かべながら伝言を伝えるアイゼン。
つられてフリーレンの表情も少し明るくなる。
「フフッ、流石に1万年も生きる予定はないかな」
「それで、アイゼンはどうしてこんなところにいたの? たしか、道場の経営をしてたはずだよね」
みんなが気になっている疑問をフリーレンが問う。
「ああ、戦闘指南の依頼で帝国まで出向いていた。まさか、噂の特務隊による護衛付きの快適な空の旅になるとは思わなかったがな。それで、帝国で差出人不明の手紙を受け取った。これだ」
芸術都市でフリーレンが死ぬ
神話は生きている
隠し文字?
特定の人間が魔法で紙を
それはフリーレンにとって、見知った筆跡だった。
「アイツは生きているかもしれんぞ、フリーレン」
「そんなはずは…じゃあゲシヒテの魔法じゃなくて、まさか本物だったの?」
フリーレンは辺りを見渡す。
しかし、いない。
「俺も戦闘後、直ぐに声をかけようと思ったんだが、すでに見当たらなかったぞ」
騎士ニヒツは生きている?
決して無傷ではない。
しかし、確かに『神話』は生きていた。
そのことをフリーレン達は知らない。
でも、もう知る必要はない。
「いいえ、あなたはここで終わりです。ゲシくん」
短い刃が『神話』の胸から突き出る。
それに驚き、体を振り払うが、地面に転がってしまう。
そして、『神話』は自分を刺した人物に視線を向けた。
ゲシヒトの体は刺された周囲からチリと化していく。
「これは神代の大魔法使いゼーリエ様に頂いた『永遠に終わりをもたらす短剣』です。貴方のような死なない化け物を殺すために用意しました。カーテンコールで出しゃばる監督は嫌われますよ…」
すでに声帯すら消失したゲシヒテの頭部がその場に崩れ落ちる。
彼は笑顔のまま満足げに消えていった。
レンゲはそれを最後まで看取った。
ただ、そこには喜びも達成感も存在しなかった。
それを分かち合えるはずの人達は、もうこの世にいないから。
レンゲは失い過ぎたのだ。
ゲシヒテがいた場所には、短剣に貫かれた本が一冊残った。
役目を終えた少女は最後の仕事に取り掛かる。本から短剣を引き抜き、己の首元へ添える。
「お姉ちゃん、お兄ちゃん…」
彼女は『神話のゲシヒト』から故郷を解放するためとはいえ、多くの人々を巻き込んだ。
既に帰るべき場所も愛する家族もいない。この世に未練などない。自分は死んでもみんながいる天国には行けないだろう。
あとはただ、無に帰すのみ。
刃は容易く彼女を引き裂いた。
「お前は馬鹿だと思っていたが、今まで私の元にいた弟子の中でも一級の馬鹿だな…」
この時、レンゲは絶対に聞くはずがない声を聞いた。
彼女がここにいるはずがない。
「女神…様…」
「違うわ馬鹿弟子が! お前は死んでいない。この短剣は使い捨てだと説明しただろう。物覚えの悪いやつめ」
現代において、女神様に最も近いと言われる大魔法使いがそこにはいた。
ゼーリエが言った通り、レンゲが手に持っていた短剣は既に跡形もない。
引き裂いたはずの喉に手を当てる。
そこには傷ひとつない。
涙が溢れる。
「こんなもののために弟子一人失うなど、釣り合いが取れないからな」
ゼーリエは何気ない動作で手を払う。
すると地面は燃え上がり、打ち捨てられた本はチリすら残らず消えてなくなった。
レンゲの様子がおかしいことはゼーリエも把握していた。
薄らとベールのようにかけられた他者の魔法。
魂に絡みつくナニか。
何かを話そうとすると
そのため、レンゲには監視用の使い魔を何匹かつけ、一級魔法使いの監視もつけていた。
これまで報告には異常がなかった。
しかし、嫌な予感がして来てみればこのザマである。
優秀な弟子を2人も失うところだった。
「申し訳ございません。先生」
レンゲはその場に崩れるように座り込み、ゼーリエに謝罪する。
自分のやったことは、彼女の同族であるフリーレンを危険な目に合わせ、ゼーリエを良いように利用した最低の所業だ。
何故、今も生かされているか分からないが、女神の如き師に裁かれるのであれば本望である。
「罰は如何様にも受け入れます」
「何のことだ。貴様は何も私の命に背いていないだろう。それよりも覚悟しておけ、メトーデのやつが凄まじい形相でこちらへ向かっている。命乞いをするならそちらにするんだな」
『メトーデ』という単語に身体が反射的にゾワッとする。
彼女のことは苦手だ。何故かいつも撫で回される。
「あとは任せたぞレルネン。こいつには任せたい任務もある。しっかり休ませて早く復帰させろ」
そういうとゼーリエは来た時と同じように、いつの間にか消えていた。
代わりに残ったのはゼーリエの一番弟子レルネン一級魔法使い。
「ゼーリエ様は相変わらず不器用ですね…。レンゲ一級魔法使い、そういう事なのでさっさと撤収するよ。君の故郷の復旧は他の一級魔法使いに任せよう。私の最も信頼する
そう言って、腰が抜けて立てなくなっていたレンゲを軽々と背負い上げるレルネン。
その表情は、頑張った孫を労う祖父のようであった。
√mf 勇者ヒンメルの死から40年後。
■ 実績解除
* 【DOING】ヒンメルとフリーレンのふれあいイベントを加える
* 【DOING】原作にいない七崩賢との戦い
* 【DONE】最弱の七崩賢
■ 裏話
『勇者ヒンメルの冒険』が出版された当時。
子どもたちの間で勇者ヒンメルごっこが流行ったが、誰ひとりとして必殺技名には触れなかったという。
「小さな子供から大人まで広く楽しめる本にしたかったからな。分かりやすく派手なハッピーエンドが必要だったんだよ…」
「いいじゃないか、かっこいいだろう」
■ おまけ
■
「私、この本が欲しい。ねぇ、お母さん買ってよ」
「魔導書なんて何に使うのよ。高いからダメです」
「えぇえええ、この本が欲しいの。頑張って勉強するから、それで魔法使いになるんだよ。それに銅貨一枚だって」
「あら、安いわね。まあ、あんたが珍しく勉強するって言うんだからしかたない…か」
母親は店先にあった魔導書を購入し、娘に与えた。
娘は嬉しそうに本を抱えて満足そうにしている。
「それで、なんて書いてあるの?」
「えあつぇ〜るんぐ? よく分かんない。でもなんか欲しかったの」
母親はすでに続きそうにない娘の勉強意欲を見て、ため息をつく。
それでも娘は可愛い。何より自分も子供の頃は勉強が嫌いだったのだから、責められない。
二人は手を繋ぎ、晩ごはんの話をしながら、父親の待つ家へ歩みを進めた。
【最弱の七崩賢】END
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