シュラハトくん見逃して 作:私貴方私(Y-ou@so-soなフリー)
「フリーレン、王国に帰った後はどうするだい?」
今日、ヒンメルは
「うーん。しばらく腰を据えて魔法の研究をしていないからね。魔道書の充実しているオイサーストへ行こうかと考えているよ。
あの子なら良い仕事紹介してくれそうだしね」
それも、人生で最も難しい
「そうか……なあフリーレン。君がもし良かったら、しばらく王都に滞在しないかい?住む場所なら」
今日、ヒンメルはフリーレンに。
「ん? いや、王都は魔法の研究に向いてないからやめとくよ」
告白するつもりだった。
「そ、そうかい……それも…そうだね」
だったのだ。
「ヒンメル、ひでぇ顔だな。振られたか? あぁ…まあ、お前のことだから……ん、だいぶ重症だな。甘いものでも作ってやるから少しそこに座ってろ」
ヒンメルは落ち込んでいた。
彼は隠し事が下手な勇者だった。
当然、仲間に出会えば落ち込んでいることがバレる。
ニヒツが即席で用意した甘味を摘み、ヒンメルはぽつりぽつりと先ほどの会話を話す。
それはあまりにもあんまりなお話だった。
うちのエルフは鈍過ぎる。
まあ、勇者も奥手過ぎるが。
「あちゃあ。ヒンメル側はだいぶ育ったが、フリーレン側の経験値がまだ足りなかったか。あっちの計画を進めるしかないか……」
「ん?今何か言った?」
ヒンメルの言葉に、ニヒツは被せるように言葉を続ける。
「ヒンメル、久しぶりに剣の訓練相手になってくれよ。魔王を倒してから統率取れなくなった魔族相手だと鈍っちまうからな。ついでに賭けもしよう。『勝った方は負けた方の言うことをなんでも聞く』ってのはどうだ?」
ヒンメルの食べ終えた皿を下げながら、ニヒツはいつもの調子で訓練に誘う。
しかし、その内容は首を傾げるものだった。
「正気か?剣だけで、君が僕に勝てるわけないだろ。魔法もありにしよう。そうすれば、僕も心置きなく晩御飯に絶品ルフオムレツを楽しめるってものさ」
「たく、油断し過ぎだろ。ボコボコにしてフリーレンに泣き付かせてやるよ」
魔王を下した勇者の表情に敗北の二文字はない。
それは過剰な自信ではなく、ただの事実だ。
ニヒツの腕では、全て出し切ろうとヒンメルに勝つことはできない。
「それで?君が勝ったら僕に何をしてほしいんだい?」
「まあ、取り敢えず移動しようぜ。そこで話そう」
いつのまにか食器を整理したニヒツは、アイゼンに留守中の火守りを任せ、ヒンメルを森の中へ連れ出した。
「……どういうつもりだい?」
思いがけない魔法の気配に眉を顰める勇者。
違和感。
ヒンメルは下手人である騎士へ問う。
しかし、騎士は振り返らない。
その口からは決闘のルールがとうとうと語られるのみ。
「勝者が敗者の生死を自由にできる古い魔法だ。そして、決闘が参加者の意思で破棄された場合、その命を奪う効果がある。俺は魔法を体外に放出できない。この魔法はお前と俺を参加者にしてあるが、デメリットは俺だけが受ける。つまりだ、ヒンメル。お前が決闘を破棄したら俺だけが死ぬ。もちろん魂ごとな」
騎士の表情は見えない。
その意図は、出会った頃のように分からない。分からなくなった。
まるで10年共にした旅路などなかったかのように。
「勇者ヒンメル。俺と全力で戦え」
「…普通自分を人質にするか?僕に戦うメリットがないじゃないか」
いつの間にか抜刀したニヒツ。
対照的にヒンメルは剣に触れもせず首を傾げる。
いや、ニヒツがこのような制約を己に課した意図自体はヒンメルも理解している。
「でも『
「……」
騎士ニヒツならそう言う。
彼はそう言う人間だ。なんでも利用する。
勇者パーティの騎士は勘がいい。
しかし、勘だけでは処理ができないほど、
元々貴族の嫡子として育ったと聞いていたため、それが原因なのだろう。
ヒンメルが気付かない些細な悪意や罠に気付き、今までもこっそり取り除いて来てくれたことは知っている。
だから、今回もそういったものから自分たちを助けるための行動だろう。
「俺が勝ったらフリーレンをもらう」
ヒンメルは無言で剣を抜いた。
勝敗は5手でついた。
当然、
宣言通りニヒツは剣以外を使わなかった。
ルフオムレツは僕のものだ。
フリーレン?なんのことかな。
「もう十分だろ?お腹が空いた。約束のルフオムレツを頼むよ。特製のソースも付けてくれ」
「やっぱ正面からじゃ無理かぁ。分かったよ。いてぇ、ムキになり過ぎだろ。ちょっと肩貸してくれ」
地面に這いつくばり、カタカタと音を立てながらゆっくりと立ちあがろうとする
中身が空洞とはいえ、鎧は金属の塊だ。
少し力を込めながら抱き起こす。
ガコッ
プルプル震える筋肉痛?の騎士はようやく立ち上がる。
それを見届け、僕は気分良く彼より先に歩き出す。
ルフオムレツができるまでに、フリーレンに再度アタックする方法を考えないといけない。
勇者は諦めない。
僕の
「なぁ勇者様、ちょっといいか」
僕の料理人が僕の名前を呼ぶ。
「なんだい?」
この期に及んで、賭けたものを渋ろうというのだろうか?
いいや、今回ばかりは譲れないね。
『
気づいた瞬間、僕は剣に手を当て、『それ』へ距離を詰めた。
しかし、勇者の剣は
「なに、お」
「油断し過ぎだよ勇者様」
ヒモで縛られた勇者の剣は引き抜けない。
走り出したはずの身体は『
見たこともない魔導具だ。
相当強力なものなのだろう。
魔王討伐の長旅の中でもここまで嫌な気配を感じた魔導具は少ない。
しかし、もはやそんなことはどうでもいい。
身体の中に何か異物を感じる。
そして、何かがこぼれ落ちる感覚。
「ヒンメル、フリーレンによろしくな」
「ニヒツ、またひとりで抱えて…後で説明しろ…よ」
勇者ヒンメルは崩れ落ちた。
それを支える者は誰もいない。
「勇者様、楽しかったぜ。お前との友情ごっこ」
騎士は剣から滴り落ちる
『天秤』の傾きは緩やかに元へと戻っていった。
待ってた?
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待ってた
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待ってない