シュラハトくん見逃して   作:私貴方私(Y-ou@so-soなフリー)

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【前回までのあらすじ】
ニヒツの裏切りにより、何者かに殺されたと思われた勇者ヒンメル。
しかし、それは王国の暗殺者を回避するためにニヒツとハイターが考えた作戦だった。

ヒンメルの喪失という経験は、フリーレンの心に僅かな変化をもたらした。
暫くの間、なぜか距離感が近くなったフリーレンに勇者は戸惑いを隠せなかったという。

一方、ニヒツはヒンメル達と別れ、陰謀渦巻く王国へ潜入開始。
全ては王国の真意を知り、ヒンメル達が胸を張って故郷に戻れるようにするため。

その結果、二度と彼らに会えなくなったとしても……。


欺く者たち

 

『あの1000歳児、少しはヒンメルの死を意識できただろうか?』

 

フリーレンが考えているよりも、彼女がヒンメル達と一緒にいられる残り時間は少ない。

 

俺はヒンメルの死を偽装し、激おこフリーレンから逃げ切った。

身体()はバラバラになったが些細な事だ。

ニヒツの計画は次の段階に進む。

 

ただ勇者一向から逃げるだけではダメだ。

全てを知ったヒンメルは、必ず俺を追って予定より早く王国へ帰ってくるだろう。

だからハイターの元に "置き土産" を残してきた。

 


『城塞都市ヴァイゼに黄金郷あり』


 

あらゆる物が黄金でできている黄金都市。

古くからあちこちで噂される "おとぎ話" だ。

それが城塞都市ヴァイゼ近辺に現れた。

こんな情報に、迷宮(ダンジョン)探索マニアのヒンメルが食い付かないわけがない。

 

ただし、これは半分嘘だ。

黄金郷はダンジョンではない。

城塞都市ヴァイゼも、この時期はまだ黄金に呑まれていない。

 

()()()()()()()』はいても、黄金化した都市(黄金郷)にはなっていない。

 

原作と違い、何故かフリーレンは既に黄金化解除の魔法を習得している*1

騙して悪いが、今のヒンメル達なら『黄金郷のマハト』も問題なく倒せるだろう。

 

ただ、フリーレンは反対するだろうな。

彼女は一度マハトに敗北している。

余程の理由がなければ、自分から近寄ることはない。

 

それを見越し、ハイターには()()()()()()()()の治療も依頼している。

どういう関係なのか怪しまれたが、ダメ押しで秘蔵の酒を渡し、了承してもらった。

この僧侶チョロい。

まあ、ハイターなら疑問は持っても苦しんでいる人の治療を渋ることはないだろう。

 

ヒンメル達は今最もホットな勇者様御一行だ。

今代のグリュック家当主は、少しばかり怪しくても娘の治療を受け入れるだろう。

あの家は……いや、もう後悔しないって決めたからな。

 

王国への潜入は計画通り、上手く進んでいる。

俺が没落した貴族の出身であり、御家復興を対価に勇者暗殺を請け負った。

という分かり易い筋書きはウケが良かった。

まあ、一部真実を含んでいるため、あながち嘘でもない。

実際、昔はそういう仕事もしていた。

 

俺の目的を明確にしてやるだけで、面白いほど簡単に話は進んでいった。

貴族にとって "家名" というものは何より尊いものだ。

この時代、御家存続のためなら命を賭ける貴族も多い。

 

帝国貴族の家紋入りネックレス。

帝国式の食事作法。

帝国貴族が皆納める帝国式刀剣術。

 

その全てを監視者は目にしている。

そう誘導した。

彼等自ら集めた情報は、俺の口から語る物語よりも信頼性が増した事だろう。

全ての証拠が『ニヒツは没落した帝国貴族』だと示している。

 

霧の墓標は、報酬として王国の男爵位を確約してきた。

今後の働き次第ではそれ以上の報酬もくれるらしい。

……これはマズイ状況だ。

なにせ貴族位のかしを確約できる人物がバックにいることが確定したのだ。

いよいよ勇者暗殺の黒幕が国王である可能性が出てきた。

 

「騎士ニヒツ、此度の魔王討伐。誠に大義であった。それにしても勇者ヒンメルの件は残念であったな。暫くは箝口令を敷く。他言は無用だ。今はしっかり長旅の疲れを癒すと良い。後ほど、ゆっくり話を聞かせよ」

 

王国に到着すると俺はたいそうなもてなしを受けた。

魔王討伐パーティーの前祝いらしい。

残りの勇者一行メンバーが帰還次第、大々的なパーティーが行われる。

原作の1話にあったパーティーはこれのことだろう。

 

勇者以外はしっかり懐柔し、王国に取り込む気満々のようだ。

俺は御家復興のため、命懸けで魔王と戦った高潔な騎士として国王に紹介された。

お伽話(おとぎばなし)に出てくるような物語に感銘を受けた国王は、俺を大層気に入ったらしい。

 

「魔王は討伐され、今後魔族どもの被害は速やかに収束していくことだろう。その剣の腕を腐らせるのは勿体無い。是非、娘の護衛を任せたい」

 

王族の長期護衛任務。

魔王を討伐した勇者パーティーのメンバーとは言え、元他国の貴族に初日から与えて良い役職ではないだろう。

 

予定とは違うが都合が良い。

このまま王国の内部調査と行こう。

 

実物を見た限り、この国王は小物である。

魔王との戦争から遠い地域にある平和な国。

そんな王族特有の楽観的思考が滲んで見える。

側に控えている老いた大臣も似たようなものだろう。

 

まだ断言はできないが、 "霧の墓標" とは帝国にある"影の戦士"に似た組織構造なのかも知れない。

国とは独立した権限で独自に動く軍隊。

独自の判断で平和な王国を裏から支える要。

その組織は俺やヒンメルを倒せるレベルの暗殺者もいる。

 

「貴方が魔王を倒した騎士様ですか?わたくし、勇者ヒンメル様の大ファンなんです。是非、旅のお話をお聞かせください」

 

お姫様は勇者の冒険話が好きらしい。

幸い前日書き終わった著書『勇者ヒンメルの冒険』のネタがたくさんある。

お姫様の退屈を凌ぐだけなら、何十年も時間を稼げるだろう。

数ヶ月かけて護衛 兼 話し相手として、お姫様と友好関係を築きながら王国の調査を進めた。

お姫様は剣術にも興味があったようで、最近ではそっちの練習も見ている。

 

時間は進んでいくが、王国の調査は全く進んでいない。

そんなある日、お姫様から呼び出しをくらった。

流石にそういう目で見るのは無理だ。

お断りの言葉を考えながら、呼び出された場所へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

「ここで死んでくださらない?裏切りの騎士様」

 

()()() が握る剣。

その剣先は、俺に向いていた。

 

 

すまん、ヒンメル。

お前達を王国に戻すの無理かも。

 

 

 

 

 

 

 

 


勇者ヒンメルの魔王討伐から1()5()()()


 

 

『勇者様は魔王を倒し、お姫様と結ばれて幸せに暮らしましたとさ』

 

私が一番好きなお伽話(おとぎばなし)だ。

お伽話の中では、姫も勇者様も幸せそう。

こんな風に私も勇者様と一緒に冒険をしてみたい。

 

私は立場上、たくさんの勇者様を見届けてきた。

好奇心旺盛だった幼い頃の私はよく部屋を抜け出し、城を訪れる勇者を見に行っていた。

誰も彼も、強くてカッコいい私の憧れだった。

 

 

「あなたはだぁれ?」

 

私の言葉に勇者は答える。

 

 

『よお、ちびっこ。オジさんは勇者だ。これから魔王をぶっ飛ばしてくんぜ。ちびっこはちゃんと好き嫌いせず、飯食って大きくなれよ』

 

『ここの姫ちゃんかな?俺は勇者。ちょこっと、魔族の親玉倒しに行ってくるんだ。お前のオヤジには、がっぽり稼がせてもらうぜ』

 

『こんにちは、小さなお姫様。私は勇者。あなたのお父君の命により、これより魔王討伐の旅に行って参ります。ふふ、次に会うときはあなたも立派なレディになっているでしょうね』

 

『うおっ、めっちゃ可愛い子発見!ちょっといい店知ってるんだよね。こんな退屈な場所から抜け出さなねぇか。おれが誰かって?ゆうしゃゆうしゃ。カッケェだろ』

 

『オマエ王族か?オレは勇者ではない。オレは復讐者だ。心配するな。魔王暗殺の任務は達成してやる。オマエ達王族は城の中でぬくぬく暮らしているがいい』

 

 

そして、誰も帰ってこなかった。

 

みんな良い人だった。

お菓子をくれたり、冒険の話を聞かせてくれたり、一緒に遊んでくれたり、剣の握り方を教えてくれたり、城の外へ連れ出してくれたり。

 

でも、彼らが辿った軌跡には何も残らない。

()()()()()()()()()()()()()()()()()

彼らの名前は誰も覚えていない。

その功績も頑張りも全て、いつか現れる本物の『()()』のものになる。

 

まるで彼らなど元から存在しなかったみたいに世界は続く。

 

 

『勇者様は魔王を倒し、お姫様と結ばれて幸せに暮らしましたとさ』

 

私が一番好きな()()()だ。

現実では、勇者は魔王に倒され、人々は魔族に怯えて暮らす生活が続く。

 

『ねえ、君。近くに鏡はないかな?』

「」

『僕が誰かって? ああ、申し訳ない。僕はヒンメル。これから勇者になるーーただのイケメンさ』

「 」

『僕も死にに行くのかって?そんなつもりは毛頭ないよ』

「 」

『魔王を倒して、ここに戻ってくるさ』

「 」

『根拠ならある。 僕はまだ、死ぬわけにはいかない』

「 」

『好きな人には、カッコいい姿を見ててもらいたいからね』

 

……。

そう言って青い髪の勇者は旅に出て行った。

あの優しくてカッコよかった他の勇者達と同じように。

 

「死なないでね。勇者ヒンメル様」

 

私は今日もまた安全な城の中で、彼等の無事な帰りを祈り続ける。

それ以外、私にできることなど何もないのだから。

 

 

 

 

「飽きましたわ」

 

最近、新しい勇者様が生まれなくなった。

だから暇である。

礼儀作法も、お勉強も、図書館の書籍類も全て読み終わり、私は暇を持て余していた。

昔は良かった。

『勇者』という称号を求め、様々な冒険者達が父を訪ねてきたため、冒険譚をたくさん聞くことができた。

彼らの気まぐれで魔法を教えてもらったり、剣の稽古をつけてもらったりもした。

みんなお世辞でも上手いと言って頭を撫でてくれた。

私ももう10歳だ。今では立派な大人(レディ)である。

昔みたいに体力がなくて城の外に出られないような歳ではない。

 

最近では、私が唯一使える変装魔法を使い、城のあちこちに潜り込んで冒険をしている。

騎士団に潜り込んで鍛錬したり、大臣に変装してお父様(国王)を論破したり、それはそれで楽しい。

 

いつも私の護衛をしている騎士達と一緒に訓練を受けるのはとても楽しかった。

普段は仏頂面な彼らの喜怒哀楽の表情がとても新鮮で、お友達が出来たみたいでとても楽しい。

お父様との議論は、いつもお仕事で構ってくれないお父様の視線を独り占めできて、これもとても楽しい。

 

とは言え、同じ出来事が続けば冒険ではなくなる。

数年もすれば、あまりに誰も気が付かないので退屈になってきた。

 

冒険には胸躍るスリルが必要だ。

命懸けでドラゴンと戦ったり、魔族の軍勢と魔法合戦をしたり、おとぎ話の勇者様のような冒険をしてみたい。

新しい勇者様の冒険譚も聞きたい。

 

今の生活には、スリルが足りない。

つまらない。

だから、

 

「良いことを思い付きました!!」

 

勇者様達が帰ってこないなら、私から()()()()()()()()ではないですか!

 

私ながらロイヤルなひらめき。

思い立ったが吉日。

ポケットの中から一つの指輪を取り出す。

 

"父祖と霧の指輪"

 

変装魔法が使える魔道具である。

長い年月の中で使い方が失伝してしまったらしい。

幼い頃に城内を冒険していた際、宝物庫の中に転がっていたところを拾った私の宝物だ。

 

妙に手に馴染むので、ずっと弄っていたら、いつのまにか私は魔法を使えるようになっていた。

それ以来、部屋を抜け出す時に愛用している。

ただ、使()()()()()()()()()ようで、最近はいつの間にか知らない所で寝てしまうことが増えた。

 


真実を偽る霧の魔法(フレクシィーベル)


 

私の姿がぼやけ、身長が伸び肩幅が広くなる。

 

「よし、成功だな」

 

自分の喉から出る少し低い声に、変装の成功を確信する。

部屋に置かれた姿鏡には、()()()()()()()()()の姿が写っている。

 

「今日も完璧だな。僕の姿」

 

真実を偽る霧の魔法(フレクシィーベル)』。

指輪のお陰で使えるようになった便利魔法だ。

その優れた隠蔽効果は10年もの間、私が王国のあらゆる場所へ冒険し放題だったことが証明している。

 

向かう先は城下町にある上から三番目のランクの宿屋、その()()()だ。

ここは馬小屋なのに馬がいない。

その代わりにこの場所は店の備品置き場になっており、普段は誰もいない。

奥から2番目にある扉の前に立つ。

ノックを5回、合言葉は『冷たい土に稲は良く映える』。

合言葉に答え、扉がひとりでに開く。

そこはお父様も知らない古い隠し通路。

 

どこに繋がっているのか?

それは、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秘密結社『霧の墓標』の本部

 

 

 

*1
フリーレンは子犬を拾った




短編:フリーレンは子犬を拾った
https://syosetu.org/novel/350134/1.html
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