原神 トロフィー『少女がふたり、神はなし』獲得RTA 作:水の国の底から
※雰囲気ぶち壊しの超絶蛇足、閲覧注意
500年の時を生きてきたヌヴィレットにとって、その瞬間はあまりに刹那的だった。
判決の瞬間暴走した諭示裁定カーディナル。
その中に潜んでいたという本物の水神フォカロルス。
全てをひっくり返す起死回生の策。
衝撃的な出来事は、その短い間の出来事を、しかし一生涯忘れることはないだろうなと思わせた。
今でも、あの劇場の様子は余すことなく思い出せる。
フリーナによく似た、しかしまるで異なる超然とした少女。
その上で胎動する、『神座を殺す』力。
自身の死を目前にして、フォカロルスは言った。
「500年に及ぶ君の役、気に入ってくれたかな?」
ヌヴィレットが何か言葉を返すよりも先に、こんな声が聞こえたのだ。
──気に入らない。一丁嫌がらせしてやろう。
フォカロルスが浮かべた「げっ」という引き攣った表情は、先ほどまで悠然と微笑み、軽やかに舞っていた人物と同じとはとても思えない。
ヌヴィレットは、きっとこれが本来の「フリーナ」なんだろうな、と感じた。
次の瞬間、ヌヴィレットの後方から強烈な水元素の奔流が襲い来る。
先日封印した原始胎海の噴出よりも激しく、フォンテーヌのすべての海をひっくり返すよりもなお凄まじい水量。
露骨にヌヴィレットを避け、フォカロルスへ殺到する水のかけらが口に入ったとき、ヌヴィレットは最初に「苦味」を感じた。負の感情が強い水にありがちだ。
そして次に、それが「深み」へと繋がる。苦さを呼び水として、味蕾を一気に深みへと引きずり込まれたのだ。しかしそれは、確かに深いが不快ではなかった(sn)
一見さんを拒絶する強烈な苦みの暖簾を乗り越えた先にあるのは、弾けんばかりの香り高さと、それでいてまるで下品ではない高貴な旨味の暴力。何千年も熟成したワインを巡って天使と悪魔がバチボコに殴り合うのと同じぐらいに、世の水龍という水龍が殺到し、この美味を巡って戦争を起こすであろうことは間違いなく、このとき初めてヌヴィレットは喜びから来る涙を一滴垂らした。
一方そのころフォカロルス、こっちはこっちで500年続けてきた深謀遠慮がようやく終わると一息ついていたところである。そんなだから、突如現れて強襲を仕掛けてきた同輩に対して成すすべは無い。
「な、ハルモロス!? やめ、離せ!! 僕は水神様だぞ!!」
──ざまぁねぇな。
元が純水精霊であるから、当然ながらフォカロルスはハルモロスがやろうとしていることを理解した。
『融合』
純水精霊が他者を知り、他者と同化し、他者と思いを伝え合う手段。
時には挨拶に、時には出会いに、時には告白にもなり得るその手段を、捻くれ者のハルモロスが真っ当な手段で使うなどとはとうてい考えられない。ましてやこのような非常時においては、なおさら。
「何すんだキミっ……はーなーせー! 離せよ! 流行らせコラ!」
そもそもなんだこいつ、人様が「あなたと合体したい……」とお願いしてもめんどくさそうに断り続けた挙句、自分とよく似た、だけど別人の人間の少女にはホイホイと融合してしまい、「まぁこれも神の責務だしな」って思ってたら最後の最後で現れるとかっていうかキミ僕のこと追い出そうとしてるよねやらせるか!
溢れる水に飲み込まれて暴れるフォカロルスはまるで溺れる要救助者のような姿を晒していたが、フォンテーヌは水の中でも息ができるので問題はない。
「ハルモロス、やめ、やめて、あぁもう逃れられない! 溺れる! 溺れる!」
そして、あれだけあった水――すなわち純水精霊ハルモロスが、すべてフォカロルスに吸収される。
ヌヴィレットは少しだけ悲しそうな顔をし、フォンテーヌには記録的な豪雨が降った。
途端、大騒ぎしていたフォカロルスも動きを止める。
役者としては三流もいいところの猫背姿で俯くフォカロルスは、やがて肩を震わせる。
泣いているわけではない。むしろ、逆。
「……くく」
笑っていた。
フォカロルスは――否、フォカロルスの体に入った男は、全身を震わせて笑っていた。
「フゥーハハハハハ!」
俯きがちから、正面を向き、やがて天を仰ぎ、顔に手を当てて哄笑する。
「ねんがんの まじんのからだをてにいれたぞ!」
笑って、笑って、笑って、むせて。
散々喜んだ男は、やがてその身に纏うペラッペラの服のどこかに腕を突っ込んだ。
そして、何かを掴む。
「ブゥン!」
奇声とともに、スライム状の何やら名状しがたい物体が引き抜かれる。
それが、純水精霊のもう一つの能力である『排出』によって本体からはじき出されたフォカロルスの人格だと、誰が分かろうか。
何やら耳をすませばピーピー聞こえる気がするそのスライムを、なぜか頬を紅潮させた彼は容赦なくヌヴィレットの方へ放り投げた。
「この体は貰っていくぜ」
「な……!?」
慣れない体のせいで上手く投擲できず、スライムがヌヴィレットの顔面に直撃したが、それはまぁ些事だろう。
なんせ限界まで待ったのだ。
貯まりに貯まったエネルギーは今にも弾けそうなぐらいパンパンである。
それでいい。
こうすることで、フォカロルスが入念に練り上げた計画は全てパーになる。
逆張り偏屈天邪鬼。
ハルモロスはいつだってそうだった。
純水精霊として生み出されたからには、一人で生きよう。
創造主が一人になりたいようなら、あえて側にいてやろう。
天理が法を敷くのなら、網の隙間を突いてやろう。
同輩がフォンテーヌを去るようなら、むしろ誰にも会わなくて済むフォンテーヌに残ろう。
人間の少女が神になりたいと望むのなら、人間らしさを失わせないようにしてやろう。
そして、友人が完璧な計画を立ててほくそ笑んでいるのなら、最後の最後の大一番で乱入して全部めちゃくちゃにしてやろう。
しかし友人は神になり、この身は未だに精霊のまま。どうしたものか。
そこでハルモロスは、あえて民草に自身の存在を匂わせた。
要はフリーナへ向けられる信仰のタダ乗りである。
神は信仰されることで強くなる。
そしてフリーナは、形はどうあれ、フォンテーヌ人によく信仰されていた。
そのリソースを間借りして蓄えれば、500年引きこもっている神にも負けやしない。
ほれ見ろ、負けなかった。ざまぁねぇ。
彼の行動指針は、いつだってこう。
そして最後は、華々しく爆散して死ぬのだ。
なんて素晴らしい末路だろうか。純水精霊万歳!
しかし彼は、こうも思った。
「この結末すらも、運命に定められたものなのだろうか?」
テイワットに生きる全ての者は、自身の星座に支配されるという。
あるいは、ハルモロスの行動も何かに支配されているのかもしれない。
「それもまた、気に食わない」
――フリーナは、いつ気付くだろうか。
ハルモロスは、ずっと融合していた彼女と別れる前に、彼女に己の一片を残してきた。
もうフリーナは不変ではない。
人間として彼女が歩み始めた時、神に奪われた『時間』は、彼女に帰ってくる。
成長して、たくさんのことを知って、彼女はいつか
そうやって、彼女は真に人間になる。
そうなれば、不要になった欠片は排出されて、それもやっぱり自由になる。
その欠片の名は、恐らくきっと、ハルモロス。
偏屈で、何事にも
「じゃあな、ヌヴィレット」
コイツには礼はいらないだろうと、ハルモロスはあえて一人分の名前だけを呼んだ。
ほら……怪獣映画とかで不穏な終わり方するやつあるじゃん……
ちなみにこの後走者のゲームデータは「ゲームオーバーなのに進行中」みたいな状態になってアカウントが使えなくなっちゃったみたいですよ。ロックだね。