渋谷事変・一秒改変   作:つるもちぷに

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12『終わりの続き』

 宿儺と羂索の殺戮的戦闘が始まって四分、既にこの場に居る全ての術師が完膚なきまでに(たお)されていた。

 

「……どいつもこいつも雑魚ばかりだな」

 

 気怠げにポケットへ手を突っ込んで宿儺はぼやく。その隣で羂索も、不満ではないにしろ期待外れの眼差しを向けていた。

 

「悪くないのもまあ居たんだけど、やっぱ現代の術師の平均はこんなもんって事だね」

 

「折角呪力操作だけで相手をしてやったのに、誰も最後まで耐えられんとは」

 

 宿儺は自分の術式の殺傷力が高過ぎて即決着が付いてしまうのを避けるために、呪力操作と体術だけで七対一を相手にしていた。

 

 だが内訳は手負いの一級術師二人と術式を持たない日下部、そして彼らより戦闘力の大きく劣る釘崎、狗巻、真希、パンダだ。

 

 その結果として拷問程度に済ませる筈が、宿儺の攻撃に最後まで耐えられる者は一人としておらず全滅。全身から血を流し、壁にも床にもクレーターを作り、そして全ての心臓は止まっていた。

 

「こういう時って実は一命を取り留めてるとかがお約束だけど」

 

 羂索が少し微笑みながらそう言っても宿儺は詰まら無さそうな顔で反論する。

 

「下らんな。仕留める側の技量不足だ」

 

(つもりが無いまま殴り殺すのも雑だと思うけど……)

 

 という言葉を羂索は口には出さないからこそ、今までずっと宿儺との関係は決裂していないのだろう。そして出口に歩きながら羂索は最後に宿儺へ挨拶しておく。

 

「じゃ、そろそろ私は行くよ。また準備が出来たら会いに行く」

 

 そうして一人残った後で、仲間の死体に囲まれる虎杖に一言だけ言い残して宿儺は沈む。

 

「小僧、せいぜい噛み締めろ」

 

 顔の紋様は消えた。

 

 虎杖悠仁が何処を見渡しても、仲間の死体が転がっているばかりだった。

 

 その更に数十秒後、東堂葵が現場に駆け付けた時に見たのは、自らの頭を地面に打ち付けて咽び泣く虎杖の姿と、血と破壊の痕跡で満たされたフロアの惨状に点在する屍だった。鋼の精神を持ちどんな戦いに投じられても八面六臂の活躍をしてきた東堂すらも、このあまりの状況に頭が一瞬動きを止めた。

 

 だがそれでも、悲痛な面持ちを浮かべながらも東堂は即座に思考のスイッチを切り替える事が出来た。

 

 

 何故ならば同行者に希望を見出したから。

 

 

「急げ新田! 今ならまだ間に合うかもしれん!」

 

「っ……は、はい!」

 

 東堂の野太い叫びに、隣で言葉を失っていた新田(にった)(あらた)が駆け出す。そしてそこで初めて東堂に気付けた虎杖が絶望した顔で振り向いた。

 

「東堂……」

 

 安堵と怒りと罪悪感、そして底無しの悲しみを宿した声で虎杖は呟いた。それを励ますかのように力強く東堂は諭す。

 

「新田の術式は傷の悪化を停止させる。たとえ死んでいても死後短時間なら反転術式で助けられる可能性がある!今すぐここに居る全員を今以上に悪化しないようにし守り切れば、まだ希望はある!」

 

 虎杖の経験しか見られない都合で宿儺すらも想定外の起死回生の術式がここにはあった。現在既に特級呪霊は祓われ、黒幕は立ち去り、残るは呪霊と改造人間。死傷者を連れて行くか治療班を連れて来るか、どちらにしてもこの後到着する京都校の生徒達の手が増える。

 そして最中雑多な敵と戦うのは考えられる中でも屈指の黄金タッグだ。

 

「立て虎杖(ブラザー)!俺達の闘いはこれからだ!」

 

 たとえそれが縋るだけだとしても、虎杖をこの場で奮起させるには十分過ぎるほどこの場で東堂が語る言葉は今の虎杖に届き得た。

 

 

 そしてこれは正史の渋谷事変に於いて釘崎野薔薇の処置にも適用された理屈だ。実際問題、反転術式によって死同然の状態から復活を果たすケースはいくつか確認されている。

 

 呪術界に於いて記録に新しいのは虎杖悠仁の蘇生だ。

 

 少年院の特級呪霊を相手にする任務の最中に宿儺の策略で心臓を失った虎杖は、死後家入に検死される直前で宿儺と縛りを結んだ事で心臓を反転術式で再生され復活を果たしている。

 

 また渋谷事変後の虎杖悠仁の死刑執行人である乙骨(おっこつ)憂太(ゆうた)も、虎杖を一度殺した後に反転術式で心臓を治癒させる事で、虎杖を殺すという縛りを満たしながら虎杖を助ける事が出来た。

 

 他にも五条悟が伏黒甚爾に敗北した時、これは死が確定していたかを判断出来る材料は存在しないが、それこそ甚爾が死だと判断するほどの状況から反転術式によって自力復活を果たしている。

 

 そして今回の状況は宿儺がより露悪的な手段を選んだ故に、誰も宿儺の術式によっては死んでいない。

 全員が殴り殺されている故に、誰も部位が欠損しているような事は無かったのだ。

 

 しかし正史に於いて同じように処置された釘崎の生死は明確に言葉にする事が避けられているとはいえ、虎杖が質問した際の伏黒の反応からほぼ間違いなく死亡したと考えられる。これはただ単に不運だったのか。それとも処置を施す時間が手遅れだったのか。

 

 否だ。

 

 釘崎が助からなかった決定的な要因は『死因』の違いにある。

 

 真人の【無為転変】によって変えられた魂の形は、仮に宿儺の技量を以ってしても反転術式でどうこう出来るものではない。

 

 故にこれによって死んだ釘崎は、誰の反転術式を以ってしても治療する事が出来ず、彼女に施せる治療処置は通常医学しか無かったのだ。

 

 

 

 

 

 二十三時三十六分。

 

 呪術高専京都校所属学生四名、教師の(いおり)歌姫(うたひめ)が渋谷に到着する。その数分後に特級術師九十九が到着。負傷、死亡した術師達を回収し、家入と後に日本に帰還した乙骨の反転術式によって治療、パンダ以外の六名は息を吹き返し一命を取り留め、三日後に全員が目覚め、時間に個人差はあれど最終的に十日後には全員が戦闘を行える程度に回復する。

 

 パンダの三つの核の内『パンダ核』以外の二つは消滅し戦闘能力を失ったが、人格個体としては唯一戦闘を自力で生存。また七海建人の左目と、禪院直毘人の右腕の欠損は負傷から時間が経ち過ぎており、接合のための分離した部位も戦闘で喪失していたため回復不可。等級が準一級術師に格下げされ、一級相当の実力を未だに保有しているかは再度見極めとなった。

 ただし禪院直毘人の生存により禪院家当主の変更は無し。それにより次期当主争いの騒動は少なくとも今は見送りとなる。

 

 五条悟は封印され五条家は失墜。また意識を取り戻した禪院直毘人と日下部篤也は虎杖悠仁の死刑に全面的な賛成を表明し、それからすぐに虎杖悠仁の死刑執行猶予は取り消し、乙骨が死刑執行人となった。ただ夜蛾の処遇に関しては、現場付近で家入の待機を行っていた事により助かった術師が多く、命を救われる結果となった禪院直毘人が特にその点を主張した事もあり、処罰は死刑から資格失効と逮捕拘束へと緩和された。

 

 呪詛師の美々子と菜々子はこれも逮捕拘束となっているが、渋谷事変平定直後の術師達の重症の様子――特に七海のそれを見た時に、自分達の願いが如何に『自分達の努力を考えていない理屈だったか』を痛感し、羂索に敗北した事を責め立てる気持ちよりも、命が燃え尽きるほど戦ってくれた七海達への敬意の方が、最終的に彼女達の中では大きかった。

 

 虎杖は高専には戻らず、渋谷に残った呪霊や改造人間を祓い続ける。そして呪胎(じゅたい)九相図(くそうず)の一番の受肉体である脹相は虎杖悠仁が弟である事を理解し虎杖の味方につく。

 

 その後は天元の情報を元に【獄門疆『裏』】を解除する事を目標として虎杖達は儀式に参加する事となる。

 

 

 歴史自体は変わらない。この日渋谷に起きた被害は全く改善されていないし、結局ある男が変えた一秒の影響で、その男が守りたかった者を守れたかは分からない。

 日本の全土ではコロニーが生まれ死滅回游は始まった。その先で起こる出来事が好転するかどうかは全く異なる話となる。

 

 

 しかしそれでもこの世界では『呪いを祓う者達』がほんの少しだけ増えていた。

 

 

 

 






 あとがきです。

 短かったので最終話まで書き切ってから投稿しましたが、頂いた感想とか見ながら地の文の記述とかを修正したりもしてました。誤字報告も大変助かりました。ありがとうございます。

 今回のコンセプトは「味方の命を救う最小の干渉」から考えたので感想でいくつか予測してくれていたオリ主の呪霊化展開は行いませんでしたが、これで呪霊となって死滅回游に参加する話とかも書けそうですね。

 それから今回は流れが変わりかねないので如何ともならなかったのですが「漏瑚が十本の指全ての力を御せるとは思えない」という感想を見て初めて「滅茶苦茶これは確かに」と思いました。
 私もまだまだ想像力が足りませんね。精進しなければ。

 原作では二本以上の指を取り込んだ呪霊も呪力の暴走という概念も無かったのでどうなるか解釈し切れませんでしたが、乙骨の解呪前の里香ちゃんがそうであったように、自身の欲求を尽くし辺り一帯を焼き尽くすみたいな漏瑚も見ごたえがありそうです。
 無理やり今回の流れを維持するなら「漏瑚が取り込んだ本数は自身を暴走させない限界であった」でしょうか。甚爾との実力差は指二本くらいあれば埋まりはすると踏んでいますが、まあ折角十本持ってるのに二本飲みはちょっと展開がケチか。

 ※追記
 鹿紫雲と秤の戦闘中の秤の説明の中に『無限に溢れる呪力で秤自身が壊れぬように肉体が反射で反転術式を行う』という説明がありましたね。
 つまり呪力が許容量を超えると自壊し、それを即時修復する循環が肉体で起こり続けるという事になりそうです。
 呪霊の場合は肉体の再生を反転では無く通常呪力で行う感じでコスパが良く、消費しなければならないエネルギーを消費出来ないような気もするし、それで溢れた分で肉体が壊れても溢れてる以上はきちんと回復し続けられるような気もします。
 ただもし仮に宿儺の指を一気に十本取り込んだ呪霊にこれが起こるとなると『一定時間は祓われ切れない不死身状態』と解釈出来てしまい、指の力を御すとかどころではない破格の恩恵を受ける事になってしまいますね。
 私個人のイチ解釈ではありますがこれだと恐ろしいイフもありそうです。
 ※追記終わり


 他にも宿儺が契闊を切るかとか、日下部の移動ルートとか、東堂が獄門疆を開けるかとか、それこそ漏瑚が暴走したならどう転ぶかとか、渋谷事変はいろいろ考え応えがありそうです。
 読者への引きとしての一秒に拘らないならば、五条悟が来る場所を特定しておいて直接「相手の狙いが六眼を騙せる術式による夏油の肉体を用いた獄門疆への封印だ」と一言掛けておくとかも、一分以内に話を終えられるなら改変としてはかなりの強選択だと思います。

 他に気を遣った部分で言えば、まずは裏梅が反転術式を出力出来るかどうか。
 出来てもおかしくないものの宿儺が出来る以上裏梅がそれをする場面は来ないと思うので未確定として、出来たならやったし出来なかったなら術式だったんだなーみたいなどちらにも振れる感じにしました。

 他には拙作終盤の宿儺が術式を使うか否かは正直どちらにも転び得ると思います。瞬殺癖と舐めプ癖の両方が半々くらいで見られるので、今回は舐めプ癖にさせて頂きました。術式のダメージは狗巻君の腕の封印を見ている限りでは恐らく回復してくれない以上に深いダメージそうですよね。
 正直ここは構想段階で凄く悩みましたが、虎杖の不幸のためなら結構舐めプの場面が多いのでそう書いても大丈夫な筈と判断しました。多分、渋谷事変の難易度は宿儺と羂索が控えているのが半分を占めていると思います。

 あとは原作釘崎の生死も、私の心情的には原作で最後に五条が個人的に隠したという指(或いはミミナナが知ると言っていたもう一本の説もありますかね)を使って共鳴りして欲しいとずっと思っているので、普通の医術で助かる事があった場合でも矛盾の無いギリギリの地の文にしました。


 今回初めて二次創作をまともに書きましたが、沢山の感想を頂けまして、非常に心躍る時間でした。
 読んでくれた全ての貴方へ、今はただ君に感謝を。

 ご精読ありがとうございました。
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