【完結】がっこうぐらし! 『誉れある死』獲得RTA 作:ハイカスカス
完結したので初投稿です。
周りで炎が上がる。呻き声が聞こえる。
体の節々が痛みを訴えているが、それすらも無視してその場に立ち尽くす。
「ごめんなさい」
慈へ。
瑠璃へ。
胡桃へ。
悠里へ。
由紀へ。
貴依へ。
圭へ。
美紀へ。
なぎさへ。
…ごめんなさい。あなた達を残して、1人で逝ってしまうことを許してください。
何も遺せないことを、許してください。
口の中が鉄の味に覆われる。これはきっと罪だ。何も成せず、何も言わず、そして、エゴで、たった1人に全てを背負わせた。これはきっと罰だ。
目の前にあるこの刀は、怖い。これがある限り、あの時の胡桃のように、あの時殺したあの見知らぬ人のように、他人を傷つけてしまうのではないか。この刀に乗っ取られて蹴り飛ばしたのと、ついさっき私が蹴り飛ばしたのと、一体全体何が違うというのか。
もう時間が無い。私もああなって生徒達を傷つけるのは真っ平ごめんだ。あのシャッターまで行く体力も、もう残っていない。
暗くなる視界を自覚しながら、一瞬躊躇いながら。腹に向け手に持った刀を突き刺した。
生温い感覚が肌を伝っていく。なぜだか分からないが、痛みは無かった。
「いたくない方法で死にたかったなんて…こんな形で叶えられたくなかったなぁ」
病気が原因なのか。刀が何か悪さをしているのか。それとも、興奮しすぎて痛覚が死んでいるのか。本当に痛くはなかったのだ。
いっそう強まる火の手を目に映しながら。ガタガタと鳴る煩いシャッターの音を聞きながら。2週間という、新生活には短すぎる日常が焼け落ちる匂いを嗅ぎながら。べちゃべちゃと服が背中に張り付くいやな感触を感じながら。口から溢れる鉄の味を噛み締めながら。
ごぼごぼと溺れるような醜い呻き声をあげた。
そのまま、深い、深い眠りに。落ちる。
二度と引き揚げられることのない、その暗い昏い穴へと身を委ねた。
「さむいよ、さみしいよ、めぐみ…」
「なん、で…?」
それは誰の言葉だったのか。その時の私には理解できなかったが、きっと全員の総意とか、そういうものが誰かの口から漏れただけだったのだろう。
その言葉の通り、誰もその意味を飲み込めなかっただけだった。ただ、1人を除いて。
その1人に向かって歩を進める。
「おい!何やってんだなぎささん!開けろよ!」
胡桃は左手を伸ばしたまま固まってしまっている。それ以外はまだ状況が飲み込めないままであるようだ。
怒りを隠そうともしないで襟を引っ掴んで壁に叩きつける。
「っ…!だめ、だ。それが、理奈との約束だから…!」
「どういう…!?」
それ以降の言葉が出る前にめぐねえによって私は引き剥がされた。
「落ち着いてください貴依さん!気持ちは、分かりますが、まずは救助を…!」
「ごめん、本当にごめん!でも、これだけは…!」
少し冷静になった思考が、なぎささんにも何か事情があるということを理解した。でも、それを考えても理奈先生を助けに行かない理由にはならない。
「通せ、通してくれ!早くしないとりー先生が!」
めぐねえを抑えているなぎささんの脇を抜け、シャッターの取っ手を持つ。しかし金属製のそれは火事によって持っていられない熱さになっていた。
不意打ちともいえるその衝撃に手を離す。
だめだ、まだ、みとめない。あの日のように、助けてくれたあの時のように、私がこの扉を開けて…
そこまで思考が至った段階で、冷静な思考がここでシャッターを開けたらどうなるかということを理解させてきた。
ここまで熱がきているということは、きっとこのシャッターのすぐ奥には炎がきている。
「くそっ、くそぉ…!」
開くことは、できなかった。ただ、熱さに耐えながら“返事をしてくれ”と念じて、シャッターを叩き続けることしかできなかった。
シャッターが叩かれる音がひびき始めたあの時。
あのときは、なにがあったのかなんて理解できなかったけど…すぐになんとかみんなを止めようとした。
「めぐねえ、落ち着いて!とまっ、とめっ…!りーさん手伝って!」
「えっ、あっ…え…?」
りーさんはうごかない。うごけない。たかちゃんはずっとシャッターを叩いている。くるみちゃんは固まったままだ。るーちゃんは、まだ何があったのか分かっていない。
「みーくん!けーくん!めぐねえを!」
「分かった!」
「私はなぎささんの方を!」
けーくんは後ろからがっちりとめぐねえの腕を固めて、みーくんはなぎささんをうけ止めた。
「離して、ください!」
でも、めぐねえはそれをふり払ってしまった。
いけない。このまま放っていちゃいけない!
足をひっしに動かして、なぎささんを無理にでも伏せさせようとする。でもそれよりも早く、めぐねえの右手は当たってしまった。
なぐられたいきおいのまま、なぎささんはごろりごろりと転がっていく。それといっしょにみーくんも転げた。
「っ、めぐねえやめて!だめ!」
めぐねえが落ちつくまでけーくんと2人で止めようとする。
それでも抑えきれなくて、2回、3回とにぶい音がひびき続けた。
「あなたがっ!理奈を!」
「何か…何か言ってくださいよ!」
「なんであんなことを…!」
「あなたは、助けられたのに…!どうして…あの時…!」
それが止まったのは、その回数が二桁に乗る前くらい、だったと思う。急にだらりと腕を下げて、体重が全てかけられた。そのままにしておいたら、倒れてしまいそうで、よわよわしかった。
「めぐねえ…」
「なんで、なんで、理奈が死ななきゃいけなかったんですか…!」
そこから先は覚えてない。どこで過ごしたのかも、なにを食べたのかも、なにを話していたのかも。
でも、これだけは覚えている。なぎささんの話。りー先生は、病気でしんじゃいそうで、いざとなったら、おいていって、って。
『大丈夫、安心して。みんな無事に帰してあげるから』
「うそつき…!」
みんな、なんて…!りー先生は、なんでここに居ないの…!
シェルターは、けっこういごこちがよかった。ベッドはやわらかいものがあって、あたたかかった。
「おはよう、りーねえ」
「んぅ…にゃあ…おはよう、るーちゃん」
「先生も…せんせい?」
いない。
「りーねえ、りー先生はどこ?」
「理奈先生は…」
りーねえは泣きだしてしまった。
記おくがはっきりしてきた。先生は、シャッターの奥に居たままで…
でも、きっとだいじょうぶ。りー先生は強いから。シャッターを開けば、いつも通りに笑ってるりー先生が居て…
「るーちゃん…」
悲しそうな顔で頭をなでてくれるりーねえ。その手は、先生のものより小さくて、あの手よりちょっぴりあったかかった。
そんな顔しないで!そう伝えて、シャッターに向けて走りだす。そう、そうにきまってる。今日はねた場所がちょっとちがっただけで、がっこうはいつもどおりで、みんなもぶじ。今日も、明日も、あさっても、きっとそう。
そんな考え方は、すぐにいいえって言われてしまった。
うすぐらいろうかを歩いていても、なにかが歩く音はわたしたちいがいのものは聞こえてこない。
シャッターの前についても、そこをたたく音は聞こえてこない。
うるさいがらがらという音とともに、明るい太ようのひかりがさしこんでくる。
まばゆいひかりにようやく目がなれて、正しいけしきが見えてきた。
かべは焼けこげて、ゆかはがたがたになっている。どこを見てもそう。
…そんな中、きれいにのこっている場所が一ヶ所だけある。
まるで、そこだけなにかに守られているように。
そこに、居た…いや、あったのは…
「い、いや…!」
ぐったりとしたままで。
「おきて…おきて…!」
おなかに刀がささっていて。
「おきてよぉ…!」
もう、血も、流れていない、りー先生だった。
肩をつかんでゆらす。なにも、いってくれない。目をあけてくれない。
わたしの肩がつかまれた。おどろいてうしろを見る。
みんな、いた。みんな、泣いていた。
わたしも。
暑いぐらいに晴れた空とはちがって、わたしたちの顔と心には、きのうのような雨が降りしきっていた。
「お疲れ様、理奈。もっと、色々言ってくれれば良かったのに…」
墓を掘った。グラウンドの隅に穴を空けた。武器として使っていたシャベルも、今日だけは本来の使い方だ。
「…綺麗な死に顔だな」
「ええ…私も、もっと色々話すべきだったの、かも」
「大丈夫ですよ、2人とも。理奈はこういうところで意地を張りますから」
……涙は、流れているのだろうか。
「さようなら。ありがとう。私の、大切な、大切な親友。ちょっと気が利かないけど、不器用で優しい子。本当に、本当に、お疲れ様」
土で体を覆っていく。少しずつ、その体は見えなくなっていく。皆、お別れの言葉を言いながら、全身を埋め切った。
木の破片を使って見窄らしい十字架を建てる。立派ではないが、それでも、精一杯の気持ちだ。
…刀は、置いていくことにした。いつまでも頼り切っているわけにはいかない。あの刀に付いていた六文銭の根付けは、いつの間にか無くなっていた。
卒業をする。そして、進学する。
ヘリの中の地図を見つけた私たちの選択はそれだった。使えそうな物を2台の車に一通り詰め込んで、車を出す。
「…昨日はすみませんでした、なぎささん。あの時は、何か…」
「大丈夫。あれが普通だよ。大事な人を置いて行かれたとなったら、殴りたくもなる。私としても、こうして受け入れられているのが不思議なぐらいだ」
なぎささんの顔には、応急処置として絆創膏包帯が付いている。多少申し訳なさもあるが…それでも、あの時は許せなかった。
「本当、ゆきちゃんには感謝しないと。あの子が“吐血してたかも”って言ってくれなかったら、あのままの空気感だったかもね」
「そう、ですね」
…それに気づけなかったのも、悲しかった。
車に乗り込んで、エンジンをかける。元生徒達はほとんど居なくなって、今のところは安全そう。
「…さよなら、理奈」
そう言い残して、高校を出ていった。
「久しぶりね、理奈。十字架、少しぼろくなっちゃったかしら。またちゃんとしたのを作らないといけないわね」
「みんなのこと、知ってるかしら。まあ、知らないわよね」
「若狭さんは、復興指揮のリーダーになったそうです。みんなにも頼りにされていて、最近は気になる人もできたそうよ。この前、柚村さんが教えてくれてね」
「恵飛須沢さんは、お医者さんになるための勉強をしています。時折見てあげていますが…やっぱり、難しいわね。昔の記憶を引っ張り出さなきゃいけなくて、もう大変よ」
「直樹さんと祠堂さんは、各地を旅しているそうです。時折、手紙も来ます。2人には色々ありましたが…元気にやっていますよ」
「なぎささんは、瑠璃ちゃんと太郎丸の面倒を見ながらラジオを続けています。親代わり…というやつなのかしらね。最近は瑠璃ちゃんもしっかりしてきて、親としての矜持が…って愚痴ってたわ。親でもないし、素直に喜べばいいのにね」
「丈槍さんは…」
「めぐねえ〜!もうそろそろだよ〜!早くー!」
「めぐねえじゃなくて、佐倉先生、でしょう?あーはいはい、押さないで。分かったから…」
「“丈槍先生”、もっとしゃっきりしなさい」
「はーい!」
「じゃあ、行ってくるわね、理奈」
「丈槍さんは、何か言っておかなくてよかったの?」
「んー?んー…大丈夫!多分、どこかで見てくれてるし!」
「それに、私達はここに居るから!元気だよーって、思いっきり言ってあげればいいんだよ!」