「今月末に引っ越すんだ」
 突然告げられた別れの時。遠い所へ引っ越してしまう片思いの君。

「最後の夏祭り。遅刻しないでね」
 毎年二人で行っていた夏祭りも、今年で最後。

 それなのに、君は…。





※誤字脱字は温かい目で見てね…
※オリジナルソングのバックストーリーを小説化しました。
原曲:
 Blue Wind / 竹モチ Feat.花隈千冬
 Youtube -> https://youtu.be/LWKlTwQfZ58
 niconico -> https://nico.ms/sm42577297?ref=share_others_spweb

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Blue Wind

 

 

 今日も蝉がうるさく鳴き喚く。夏の中旬に入り、厚さがピークを迎える時期。これから少しづつ涼しくなるだろうと期待を込めて縁側に座り、棒のついた青いアイスを食べている。お気に入りの白いワンピースを着て。

 縁側から眺めるひまわり畑。いつ見ても綺麗だな。

「な~!こっち来て遊ぼうよ!」

 君は元気そうに私を呼ぶ。正直日陰で涼んでいたい。だって熱いもん。それに。

「やだ。だって虫苦手」

 君は虫取り網とカゴをもって、虫取りに行こうと誘う。

「えぇ、この時期のカブトムシは最高にかっこいいんだよ!」

「あんた、中学生にもなって虫取りが趣味なんて変わってるよ」

「少年の心…いつまでも」

「うっさい。せっかくアイス用意してもらってるんだから食べなよ。溶けちゃうよ?」

 お皿の上にもう一本アイスが置いてあり、少し溶け始めている。

「よかったら食べていいよ」

「二つも食べたら、お腹壊しちゃう」

「よわ」

「黙れお前」

 同い年とは思えないほど、性格が子供過ぎる君に少し呆れる。まぁ元気なことはいいことだと思うが、少しは大人になったら?とは思う。

 しかし、虫取り以外で遊ぶというのもかなり難しいのは確か。私たちの住む街はかなり田舎で、あたりを見渡せば田んぼ。大きな木造建築の家がぽつんぽつんと建っている。

 駅なんて一つしかなく、3時間に一本というペースで来る。乗り遅れたらその1日の予定がパーになる。

 スーパーはあるのだが、かなり距離があるため子供たちで行くのは困難。カラオケやボーリング。遊園地なんてものはテレビの中の幻想だ。

 テレビをかけていてもニュースや天気予報ばっかりでつまらない。アニメというものが若者には人気らしいが、こっちで放送されているアニメなんて幼児向けばかり。

 なので自然のもので遊ぶようになるのは仕方ないが…大の虫嫌いである私にとっては苦痛でしかない。

「あ、そういえばさ。この話したっけ?」

「ん?なんのこと」

「今月いっぱいで引っ越すんだよ」

「…え?」

 

 

 

 

  △▼△▼ Bloue Wind △▼△▼

 

 

 

 

「東京だぜ!東京!」

「…。」

「あれ?死んだ?」

「生きてる」

「よかった」

「え?いつ決まったの?その話知らないんだけど」

「一週間前ぐらいかな?」

「なんで私に早く言わないの!?」

「え、ごめん。言った気でいた。そんな起こることないじゃん」

「別に怒ってないわよ」

「確実に怒ってたぞ」

「気のせい!」

 引っ越すなんて聞いてないよ。私たちずっと一緒にいるものだと思っていた。

 この街に同い年…いや子供が全くいなくて、私たちが唯一の子供たちだった。だから、引っ越しちゃうと私は独りぼっちになる。とてもさみしい。

 …それだけじゃない。離れたくない理由。

「引っ越すんは今月末だから、まぁあと2週間ぐらいあるな」

「じゃあ、二人で行く夏祭りは、今年で最後なんだね」

「ん?まぁ、遊びに帰ってくることはあるかもしれんが、いつになるかわかんないしなぁ。実質最後になるだろうな」

 毎年夏になると、街総出で大きな夏祭りが開催される。屋台が立ち並び、地元でとれた新鮮な野菜をふんだんに使ったB級グルメが堪能できる。特に、夏野菜カレーが絶品だ。しかし、君は野菜嫌いなので食べれないという。もったいない。

 そして、最後には大きな花火が打ちあがり。とても感動する。

 君と二人で見る花火が、とても好きだった。それも今年で最後。

「引っ越しって、みんな?」

「おん。じいちゃんとばあちゃんはいやそうだったが、こんな何もないところでいるより、東京に行った方が安全だって。その理屈は正直分からんが」

「でも、おじさんとおばさんを置いて引っ越すのはちょっと心配だね」

「年々熱くなってるし、気づかないうちにぽっくりいかれたらな」

「まぁでも誰かしら気づくよ。この街の団結力というか、みんな家族みたいなもんじゃない」

「確かにそれはそう。でもうちの親がそれを嫌ってるみたいでな。引っ越す理由の一つになってるらしい」

「そうなの?」

「おん。引っ越す理由が母方の実家の近くに行くためなんだよな。父さんはここ出身だが、母さんが東京出身で。この田舎生活が耐えられなくなったみたいだ」

「都会は怖いところって聞くよ?田舎ののんびりした感じが私は好きだけどね」

「でもよ~。さすがになんも無さすぎる…。退屈なんだよな」

「きっと、帰ってきたくなるわよ」

「そうなのかな?」

 噂でしか聞いたことないけど、都会は危険がいっぱいだ。何を考えているかわからない人たち。犯罪に巻き込まれるかもしれない。車とか電車とか、危ないものだらけ。あと自然が少ないから空気が悪そうだ。

 テレビで見る都会はこんなイメージ。

 そこに、虫取りが楽しいとか言っている無邪気な少年が行って、平気とは思えない。とても心配だ。

「お盆の時期とか帰ってこないの?」

「ん~。まぁ父方の家系のお墓があるから、定期的に帰ってくるとは思うぞ。きっと」

「きっと…」

「おん」

 まぁ、一生の別れというわけでもないから。そんなに気を落とすことはないか…。でも次会えるのは一年後。二人とも携帯なんてものは持っていない。両親さえも持ってなく固定電話がメイン。簡単に連絡とることもできないのがつらいところ。

「てか、引っ越し先の住所教えてくよ。紙とペンある?」

「ちょっと待ってて、取ってくる」

 そう言って、メモ帳とボールペンを持ってきた。

「東京都の~千代田区~ん~」

 そう呟きながら住所を書き出していく

「はい!これ住所」

「ありがと。向こう行ったらさ、手紙書いてよ。私も送り返すから」

「え、めんどう…」

「書いて」

「はい…」

「携帯買ってもらったら、番号教えて」

「うん」

「手紙には写真も一緒に入れてね」

「え、まじで?」

「まじで」

「えぇ…」

「私も写真…って言おうと思ったけど印刷するものがないね。チェキでも買ってもらおうかな?」

「別に要らないんだけど」

「は?」

「え、そんな怒る?」

「ちゃんとサインも書くから」

「いや別に…」

「ほしいよね?(圧」

「ほしいです…」

「よろしい」

 これで、君が向こうでも元気にやっているかどうかわかる。ちゃんと手紙書いてくれればの話だけど。

「ふぅ」と君はこっちに来て私の隣に座る。

「あ、俺のアイス」

「もう完全に溶け切ってるよ。もったいないなぁ」

「あ!あたり棒じゃん!ラッキー」

「…よかったね」

「お前のは?」

「なんも書いてないよ」

「へへっ」

「むかつく顔。殴るよ?」

「貧弱なお前なんかに負けないもんね」

 こぶしを握り殴りかかる。しかしよけられてしまう。

「へーんだ!こっちまで来な!」

「は?ちょっと!」

 君はひまわり畑の中へ突っ込んでいく。私もそのあとを追う。ひまわり畑の中で追いかけっこ。小さいころからずっと変わらない。君が私を怒らせて、私は君を追いかける。そして足の速い君には追い付けない。

 楽しい。君とこうやって駆け回って。

 こんな日々がずっと続くんやって思っていたのにな。

 引っ越しちゃうのか。

「はぁ~!」

 ひとしきり走った後に、君は清々しい笑顔で仰向けに寝転ぶ。

 私は隣に立って、君を見下ろす。あのころに比べてずいぶんと大きくなったな。なんて考えてしまう。

「お前も寝転んでみなって。下から見るひまわりはきれいだぜ」

「ワンピースが汚れちゃう」

「気にすんなって、洗えばいいじゃん」

「それはそうだけど…きゃっ!」

 君は私の手をつかみ下に引っ張る。バランスを崩して君の隣に倒れこむ。腕枕になって。

「ちょっと!危ないじゃん!」

「ほら、上見てみなって」

「…あ」

 目の前には、ひまわりの隙間から見える青い空と白い雲。花びらを光が通過して黄色く照らされている。確かにきれいな光景だった。

「…。」

「…。」

 私は、君の顔を見る。まぶしい笑顔で空を見ていた。

 そんな君が、私は好きだった。

 

 

    △▼△▼

 

 

「もう…最悪」

 ひまわり畑から出てきた私たち。お気に入りの白いワンピースが泥まみれになって、非常に萎えていた。

「ごめんって、でも綺麗だっただろ?」

「まぁね。でも、それとこれとは話が別!」

「ごめんだぁ」

「どつくよ?」

「申し訳ございません」

 はぁ、お母さんに頼めばきれいにしてくれるかな?

「そんなに気に入ってるんだな。そのワンピース」

「そりゃ…そう…よ」

「歯切れ悪いな。どした急に」

「うっさい!」

 私のお気に入りのワンピース。デザインが好きだからとか、動きやすいとか、そういう理由ではない。君が私の誕生日プレゼントとして初めてもらった服がこのワンピースだったのだ。

 そりゃまぁ、高級なものでもない。スーパーの中にある小さな洋服コーナーにあった服だけど、私にとっては一番大切なものだ。

「ねぇ、虫ついてない?」

「ついてない」

「本当に?」

「我、嘘つかない」

「もうそれが嘘じゃん」

「え、なんでそんなこと言う…」

「日頃の行い」

「俺、そんなに普段から行い悪いか?」

「女の子を無理やり倒して汚くした」

「なぁ、言い方よ…」

「間違ってはない」

「それはそうやけど」

 さっきまでいた縁側に戻ってきた。早く服を着替えたかった。

「服着替えたいし、今日は帰るね」

「おん。夏祭り遅れるなよ~」

「こっちのセリフ。まじで」

「なんのことかにゃ~」

 君はいつも遅刻してくる。5分や10分ではない。一番ひどい時で30分だ。これは殴ってもいい。

「最後くらいちゃんと時間通り来てね。時間いっぱい遊びたいから」

「さすがに頑張る」

 私は小指を立てる。

「約束!」

 君は私の近くに来て小指を絡める。

「指切りげんまん嘘ついたら、針千本飲ま…」

「指切りげんまん嘘ついたら、針千本飲ました後に原型をとどめないほど殴る」

「え、何それ怖い…」

「指切った!」「指切った…」

「よし、じゃあ約束だからね」

「おん。じゃあな」

 ここで別れた。

 さすがに泥まみれのまま家の中に入るとめちゃ怒られると思うので、縁側から母さんを呼ぶ。

「ごめん母さん。着替えの服持ってきてくれない?汚れちゃったから」

「あ~い。ちょっと待っててね」

 数分後。母さんが着替えの服を持ってきてくれた。

「あんた、ずいぶんと汚したわね。お気に入りって言ってたのに」

「あいつが悪いの!まったく」

 スカートをしたから持ち上げて服を脱ぐ。外で。

「ちょっとあんた、外で脱がないの!」

「誰にも見られてないから別にいいよ」

 泥まみれのワンピースをお母さんへ渡す。キャミソールとパンツのみの姿で外に立ち尽くしている中学生。田舎ならではの光景かもしれないな。なんて思う。

 とりあえず持ってきてもらった服を着よう。Tシャツにスカート。とても動きやすい。

「そろそろ、ブラ必要なんじゃない?」

「あれつけるの大変そうだからやだ」

「慣れれば苦じゃないわよ。あとブラがないと垂れてきちゃうわよ」

「…考えとく」

「垂れるのは嫌なのね」

 そりゃそうだろうよ。

「母さんと同じで、胸の成長が遅いから気にしたことない」

「母さんと同じは余計よ」

「父さんが言ってた。あいつは小さいころから胸のサイズがあんまり変わらないって」

「あのやろう。帰ってきたらボコボコにしてやる」

 ごめんね父さん。私は簡単に人を売るよ。

 母さんは泥まみれのワンピースをもって洗濯室へ。

 再び縁側に座って空とひまわり畑を眺める。

「最後の夏祭り…か」

 新しい浴衣を買って、化粧もお母さんから教えてもらおうかな?いつも以上にきれいな私を見てほしい。そう思った。

 

 

    △▼△▼

 

 

 明後日にある夏祭りで着る浴衣を母さんと見に来ている。父さんにお願いして、隣の県にある福屋まで連れてきてもらった。ありがとう父さん。この前はごめんね。宣言通りボコボコにされている父さんの姿を見てさすがに罪悪感が芽生えたので、頭をよしよししておいた。その時の「貧乳だからいいんだよ」っていうのはきもすぎたので、私も一発殴ることにした。

「ねぇ!見てこれ!すっごいかわいい!」

 私よりもはしゃいでる母さん。まぁ、滅多に来られないからはしゃぐ気持ちもわかる。

「そうだな。似合ってるぞ。俺の嫁が世界で一番かわいい」

「もう!あなたったら」

 お願いなのでいちゃつかないでほしい。人目を気にしろ。あとこの前に大喧嘩(母さんが一方的に殴ってたけど)したばっかじゃん。

 まぁ、仲がいいことは良いこと。

「さて、二人はほっといて私の浴衣見ようかな」

 夏限定のコーナーが設置されており、夏コーデがマネキンに着せられて展示されている。どれも確かにかわいい。しかしそろそろ夏も終わりかけ。いまかうのもなぁ。なんて思っていると、その隣に秋コーナーが設置されていた。早いな。

 夏コーナーに戻り、浴衣を見る。

「…あ」

 一つの浴衣が目に留まる。薄いピンク色で大きな花がデザインされている。パット見た感じだと桜をイメージしているのかな?って思う浴衣だ。夏なのに?と少し疑問に思っていたが、妙に気になっていた。ほかの浴衣を見ていても、この春っぽい浴衣を超えるものはなかった。

「どうして…春…まぁ、でもこういう時は一番最初に気になったものを買うべきだってどこかの誰かが言ってた」

 私は、その浴衣をもって母さんの所へ。試着するから見てほしい。

「母さん。試着するから見てて」

「あら、ピンク色でかわいい浴衣ね。春っぽいけど」

「やっぱり春っぽいよね。でも、すごい気になる」

「ファーストインプレッションね」

「は?」

「第一印象って意味よ」

「いやまぁ、知ってるけど」

 なんで得意げな顔をしているのかわからないけど、とりあえず試着する。

 帯は難しいので、とりあえず巻くだけ。

「…かわいい」

 姿見に移る私の姿は、とても可愛らしく映っていた。

 シャーっと試着室のカーテンを開けて母さんと父さんに見てもらう。

「あら!かわいいじゃない!帯もちゃんと結んであげるわ」

 そう言って、母さんに帯を結んでもらった。

「おぉ!すごい似合ってるじゃないか!母さんの幼いころにそっくりだ」

「ね!本当に可愛らしいわ」

「ちょっと…そんなかわいいって言われると、ちょっと照れる…」

「これで夏祭り行くの?」

「うん。これがいい」

「わかったわ」

 試着室のカーテンを閉めて、浴衣から来ていた服に着替える。そしてその浴衣をもってレジへ。5,200円のものが割引されて3,700円に、春モデルの売れ残りだったらしい。夏コーナーに置くなよ。と思ったがそのおかげで買うことができた。今回ばかりは感謝。

 とても気分がいい。ルンルン気分で浴衣の入った袋を抱えて車に乗り込む。

「どうする?飯」

 父さんが尋ねる。時刻は午後1時過ぎ。さすがにお腹すいてきたしどこかで食べたい気分だった。

「お腹すいた」

「そうね~。何食べたい?」

「私、うどんが食べたい」

「…なんかこう…ステーキとかハンバーグとか…子供らしいものを」

「あんまり油濃いものはちょっと…体重が」

「気にするほどじゃないだろ。まだ中学生だし。うどんも炭水化物だから対して変わらんと思うが」

「なんか、ヘルシーなイメージ」

「まぁいいけど…じゃあうどん屋行こうか」

 そうして車のエンジンをかける。

 

 

    △▼△▼

 

 

 夏祭り当日。今回こそは遅刻しないために早めに準備をした。

「よし!完璧!やればできるじゃん俺!」

 夏祭りの開催は午後5時から。それまでかなりの時間がある。早めに準備したのは良いものの暇だな。

「ん~。漫画でも読んでようかな」

 俺は本棚から、もう何回読んだかわからないほどくたびれている漫画を取り出す。スーパーの中にあった小さな本コーナーで見つけた漫画。親に頼んで買ってもらったが一巻だけしか置いておらず、続きは入荷されなかった。まぁ東京行けば続きも読めるだろうし、もっといろんな漫画が読めるはずだ。

 東京への引っ越しは楽しみでもあるが、やっぱりあいつと離れるのはさみしい。この街で唯一の同級生。小さいころから一緒だった。

「あいつ、俺がいなくなって大丈夫なのか?本当に独りぼっちじゃん」

 まぁ、でも学校の友達ぐらいはいるだろう。

 この街には学校がない。そのため隣町まで電車で通学している。三時間に一本の電車なため友達がこっちに遊びに来るなんてことは滅多にない。だからあいつが学校で友達がいるかどうかを知らない。学校では全く合わないしな。

「手紙。ちょっと面倒だな」

 あいつと連絡取れるのは素直にうれしい。しかし手紙はちょっと不便。携帯を買ってもらったら、俺からそっちの家に電話をしよう。

 なんて思いながら、漫画を読み始める。布団に寝転び仰向けで読み進める。

「何回読んでも面白いなぁ」

 小さな少年が仲間と一緒に冒険して敵を倒していくバトル漫画だ。

「…。」

「…。」

 そして読み終わる。

「まぁ、全然時間潰せないんだけどさ」

 さすがに漫画一本では全然時間はつぶれない。まだ余裕がある。

「ちょっと寝るか」

 仮眠を取ろう。そう思い布団にくるまって寝ることにした。

 いつも夏祭り前に仮眠を取ってから行くんだが、大体寝過ごして遅刻する。でも今回は違う!早めに準備しているし遅刻しない!って意気込みがあるから何とかなる!

 多分!

 ということでおやすみ。

 

 

    △▼△▼

 

 

「母さん。化粧教えて。というかやって」

 夏祭り当日、浴衣を着て準備を進めている。

 私は母さんに頼んでメイクしてみることにした。今まですっぴんのままで行っていたけど。今回ばかりはちゃんとおめかししたかった。

「そのままでも十分かわいいわよ?」

「もっとかわいくなりたい」

「あらあら、あの子が気になるのね」

「そうじゃないけど…」

 無意識に目をそらす。

「わかったわ。私に似て素材がいいから、ちょっとするだけでかわいくなるわよ」

「確かに母さんかわいい顔してるよね。童顔っていうか。おばさんのくせに」

「最後の言葉が無ければすごい良かったんだけどなぁ」

「痛い痛い!ごめんって!」

 グーでこめかみをぐりぐりされる。それ結構痛いんだよ?

「すぐ暴力ふるうのよくないよ」

「あんたが余計なこと言うからよ。口の悪さは誰に似たのかしら」

 お前だよ。と言いかけたが必死にこらえる。

「セット持ってくるから、ちょっと待っててね」

「あい」

 そう言って、母さんは自室へ向かった。

「お?浴衣かわいいじゃねぇか。似合ってるぞ」

「父さん。もういいって」

 姿を見るたびに褒めてくる。正直ちょっと鬱陶しい。

「何回見てもかわいいんだからよ。推しは推せる時に推せ」

「アイドルじゃないんだから。あと娘を推しにするな」

「目に入れても痛くないかわいさだからな」

「試してみる?」

 そう言って私は手でチョキを作り、目つぶしの構えをする。

「え、やめて怖い。ほんと似てきたよな。母さんと」

「それは自覚してる」

「何の話?」

 タイミングよく母さんが返ってきた。

「お、逃げろ~」

 父さんはそのまま部屋から出て行った。

「何の話してたの?内容によってはボコす」

 ボコす…

「私が母さんに似て、かわいいって話」

「あらやだもぉ~」

 チョロいな。まじで。

 

 そのあとは、母さんにメイクを教わりながらやってもらう。アイラインやらチークやら、なんかよくわからないものを顔に書いていく。でも着実にかわいくなっているのがわかって楽しい。

 いつか自分でもできるようになりたいな。

 来年の夏までにはできるようになって、君に見せたい。

「はい。できたわよ」

 ものの十数分でメイクは終わった。そこまで大きな変化はないが、心なしか明るく幼い感じがする。

「あ、ちょっと待ってて」

 そう言って母さんは駆け足で自室へ向かった。私は鏡に映る自分を眺める。軽く微笑んでみた。かわいい。

 化粧するだけで、どうしてこんなにかわいくなるんだろう。不思議な気がした。

「お待たせ。これつけてみよう」

 そう言って、母さんは髪留めを私に渡してくる。桜と三色団子がデザインされた髪飾り。いよいよ春だな。

「あら!めっちゃ可愛いじゃない!」

 本当にかわいい。

 これなら問題ない。君からかわいいって言ってもらえるはず。最後の夏祭りだから気合い入れました。って感じがすごいするけど。

「ありがとう。母さん」

「あの子、引っ越しちゃうのさみしいわね」

「そうだね。でも、来年の夏には遊びに来てくれるって」

「あら、よかったじゃない」

「だから、それまでにメイク覚えたい」

「いいわね」

 時計を見ると、午後4時過ぎ。なんだかんだでいい時間だ。そろそろ向かおうかな。

 浴衣用の小さなバッグにお財布と手鏡、櫛、扇子などを入れて準備万端。

「よし、じゃあ行ってきます」

「行ってらっしゃい。気を付けてね」

「気ぃ付けろよ~」

 父さんがひょいっと顔だけ出して挨拶してくる。

「うん」

 そして玄関を抜ける。

 まだまだ太陽が照り付ける。扇子で仰ぎながら会場へ向かう。

 会場に近づくにつれて徐々に人が増えてくる。この街で開催される夏祭りは割と有名な方で、隣街や県外から足を運ぶ人もいる。そのためかなりの人でにぎわう。

 何度、会場内ではぐれたことか。二人とも携帯を持っていないので普通にはぐれたら終わりだ。

 でも、会場近くにある神社。はぐれたときはあそこに集合しよう。と言っているので何とかなっている。

「今日は、はぐれないでずっと一緒に居れたらいいな」

 そうつぶやく。

 気づけば会場の入り口に到着していた。時刻は午後5時手前。ちょうどいい時間に到着。来るまで待っていよう。

 

 

    △▼△▼

 

 

「はぁ~…おはよう世界」

 気持ちよく寝た。といった感じに背伸びをする。夜もしっかり睡眠をとっているのにこんなぐっすり眠れるのはどうしてなんだろう。少し疑問に思う。

「…なんか忘れてるような」

 まだ寝ぼけている頭を掻きながらあたりを見渡す。

 カバンが近くに置かれており、何やら準備万端といった雰囲気を感じる

「…あ!時間は!?」

 夏祭りに行くことを思い出して時計を確認する。まだ間に合う時間だが急がないといけない。

「やばいやばい!今日ばっかりは遅刻するわけにはいかない!」

 荷物を取って、急いで玄関から外に出る

「いってきま~す」

 

「走れ~走れ~」

 急がないと!そう思い全速力で走る。

 田んぼ道を進む。

 道路を進む。

「ふぅ!疲れてきた…」

 少しスピードを落として小走りで向かう。

 電車の踏切が近づき、渡ろうとする。

 

 

 

 

 なぜ、左右を確認しなかったか。それはサイレンが鳴らずバーが下りてなかったから。

 汽笛の音が、鳴り響く。

 俺が最後に見た景色は、

 

 

 

 電車だった。

 

 

 

 

    △▼△▼

 

 

 腕時計を確認すると、午後5時。夏祭りは開催された。

「まったく!来たらボコボコにしてやる!遅刻しないでって言ったのに!」

 結局最後も遅刻か。呆れる。

 まぁ、君らしいといえばそうかもしれないが。ちょっと辛いな。

「まぁいっか。来るまで待ってようかな」

 次々と会場の中へ入っていく人たち。みんなの会話が聞こえてくる。

「今日楽しみだね!」

「腹いっぱい食べるぞ~」

「花火っていつから?」

「いやぁ、いつも以上に混んでるなぁ」

「人身事故で電車止まって、大変だった」

「駐車場探すのに苦労したわ」

「今日のために浴衣新しく買ったの!」

「最初、何食べる?」

 など様々な声が聞こえてくる。

 人身事故で電車が止まってる?物騒だな。確かに今日はいつもより人が多くなるから。必然的に事故も増えるか。

 なんて考えながら、君が来るのを待つ。

 時間の進みは、案外早かった。

 

 

「来ないんだけど」

 大体40分ほど待ってみたけど来ない。女の子を40分も待たせるとかありえない。なんて思う。

 もしかしたら私が気づかないうちに会場の中に入って探しているのかも?出入口に立ってはいるが、もしかしたらね。

 そう思って、会場の中へ。

 いつにもまして人が多い。こんな中で君を探すのは困難だ。

「と、とりあえず神社行ってみるか」

 はぐれたとき用の神社へ向かう。

 しかし

「居ない。じゃあまだ来てないのかな?」

 もしかしたら、出入り口にいるかも。戻ってみよう。

 

「やっぱり、まだ居ないじゃん」

 くまなく探したわけではないけど、どこにも見当たらない。時刻は午後6時過ぎ。1時間の遅刻は初めてだ。

 ちょっとずつ不安になってくる。

「もしかして、私嫌われちゃったのかな?」

 根拠のない不安が私を襲う。

 もしかしたらまだ、会場内にいるかもしれない。私を探してるかもしれない。早く会いたい。

 私は会場の中へ入り、目的もないまま歩いていた。かなり日が落ちてきて、提灯の明かりがぼんやりとあたりを照らす。

 屋台の出し物は毎年あんまり変わらない。場所も変わらない。歩いていると、去年のことを思い出す。

 夏野菜カレー。おいしいのに君は野菜嫌いで食べない。

 たこ焼き。暑さのあまり叫んでたよね。周りから見られて恥ずかしかったな。

 綿あめ。食べるのが下手で口の周りがべたべたしてて、私が拭いてあげたっけ。

 的あて、苦手なくせに何回も挑戦してお金溶かしてたな。

 去年の私たちが、残像のように目に映る。

 どうして、君はいないの?私のこと嫌いになったから?実はもう引っ越しが終わって今東京に行っちゃったから?わからない。きっとすべて私が悪いんだ。

 そう思うと、涙があふれ出てきた。

 だめ。泣いたらメイクが落ちちゃう。

 時刻は午後8時。もう、帰ろう。

 

 会場から出て、トボトボと歩く。涙をこらえることはもうできなかった。

 涙がメイクを落としていく。きっと汚い顔してるんだろうな。

 頭の中では、君のことを考えていた。どうして、来てくれなかったのか。

 私自身、きつい言い回しなのは自覚してる。きっと嫌われた。

 意外にも家に着くのは早かった。

「…ただいま」

「おかえり~早かったわね…どうしたの!?」

 母さんが出迎えてくれた。私の顔を見て驚いていた。それもそうだろう。私は母さんに抱き着いた。

「うぅ…来てくれなかった…最後の夏祭りだったのに!私、嫌われちゃったんだ…!愛想つかされたんだ!」

「そんなことないわよ。あんなに仲が良かったじゃない。きっと何か事情があったのよ」

「違う!私が全部悪いの!私が嫌われるようなことしたんだ!あいつは優しいから、何も言わなかっただけで、今まで我慢してたんだ」

「我慢なんてしてないわよ。あんた十数年も嫌いな人と一緒に居られる?嫌いだったら一年も持たずに離れて行っちゃうでしょ」

「うぅ…んんん…」

 私は、母さんに抱き着いたまま大泣きした。人生で一番泣いたんじゃないかな?ってぐらい大泣きした。

 

 そのあとは、母さんと一緒にお風呂に入ってメイクを落とし、ごはんを食べる気にならなかったから食べなかった。

 縁側で腰おろして空を見上げる。多分そろそろ花火が打ちあがる時間だろう。実は家からでも花火は見える。

「なんで見に来たんだろ」

 君がいないのに、花火なんか見ても何も楽しくない。ただむなしくなるだけ。でも、私は動こうとしなかった。

 ヒューと花火が打ちあがる音が聞こえ、パっ!ときれいな花火が咲く。それを皮切りにたくさんの花火が打ちあがり、空一面に鮮やかな花火が咲き乱れていた。

「…。」

 確かにきれいなのに。心にぽっかりと穴が開いた気分だ。

「…。」

 花火が終わるまで、私はここで眺め続けた。

 

 次の日もなんだかやる気が出なくて、ずっとベッドの中にうずくまっていた。

 次の日も、さらに次の日も、抜け殻のように生きていた。

「どうしてなんだろ…わからない」

 私は君からもらったお気に入りの白いワンピースを着て、ひまわり畑の中にいる。空を見上げると曇り空。いつ雨が降り出してもおかしくない。そんな天気。

 ぼんやりと空を眺めていると、ぴかっと空が光る。雷だ。

 光ってから30秒ほどして雷の落ちた音が聞こえる。その数分後。雨が降り始めた。

「雨…」

 お気に入りの白いワンピース。雨でぬれてぐしゃぐしゃになっている。

 私の心みたいに、雨は降り続く。

 

    △▼△▼

 

 

 夏祭りの日、娘が泣きながら帰ってきてとても驚いた。行くときはあんなに楽しそうにしていたのに、帰ってきたらあんなことに。

 次の日にあの子の家に電話をかける。

「あ、こんにちは。先日はどうも」

「いえいえ、こちらこそ~」

 向こうのお母さんが出てくれた。他愛もない挨拶。

「今、息子さんいらっしゃいますか?」

「…。うちの子、昨日亡くなったんです」

「…。」

 驚きのあまり声が出なかった。

「昨日、夏祭りに行く最中に電車と…急いだまま踏切を渡ろうとしてそのまま」

「…そうだったんですか」

「えぇ…」

「…。」

「…。」

 会話が途切れてしまった。

「ごめんなさい…」

 受話器の向こうで涙をこらえる声がする。昨日の今日だ。辛くて仕方ないはず。

「こちらこそごめんなさい」

「いえ」

「お悔み、申し上げます」

「ありがとうございます…」

「では、失礼します」

 ここで電話を切った。

 確かに昨日、人身事故で電車が止まった話はテレビでやっていた。しかしあの子だったなんて思いもしなかった。

 娘には、この話したほうがいいのか。

「父さん。ちょっと」

「ん?なんだ?」

 私は手招きで父さんを呼び、娘に声が届かないところに行く。

「昨日。あの子泣いて帰ってきたじゃない」

「あぁ、来てくれなかったって」

「電車の人身事故で、亡くなったそうよ」

「え…」

「ねぇこの話、あの子にした方がいいかしら」

「…絶対にした方がいいのは確かなんだが、今じゃなくてもいいんじゃなかなって思う」

「そうね。しんどい思いをしている中で追い打ちをかけるようなこと、できないわよね」

「あの子は強い子だ。きっとすぐに立ち直るさ。その時に話してやろう」

「そうね」

 とりあえず私たちは、黙っておく選択をした。

 

 

    △▼△▼

 

 

 約一週間が経過した。確か、君が言うにはまだこっちにいるはず。私は家まで行って確かめたい。

 私のこと、本当に嫌いになったのか。

 どうしても、直接会って確かめたかった。そう思うと居てもたってもいられず、ベッドから降りて着替え、早速向かう。

「行ってきます」

「どこ行くの?」

 母さんが尋ねてくる。余計な心配させたくないと思いごまかすことに。

「ちょっと、コンビニ」

「あんた、ここから一時間もかかるのよ?」

「…気晴らしに散歩ついでだよ」

 そう言って、母さんの次の言葉を待たずに玄関を抜ける。

 そういえばコンビニ遠いんだった。言い訳にしては少し適当すぎたかな?ってか往復二時間、外で時間潰さないといけないのか…しんどいな。

 君の家まで、大体20分ぐらい。

 まぁ、家に上がらせてもらって、面談と行こうじゃないか。どうして来なかったのかを小一時間問い詰めてやる。

 そう意気込み、君の家の方向へ進む。

 

 到着する。

 車が一台もない。出かけてるのかな?でも、確か二台車があって、両方とも出てるのは珍しくないか?

 念のためインターホンを押す。

「…。」

「…。」

「ん?」

 インターホンをもう一度押す。

「…。」

「…。」

「…音が鳴らない」

 インターホンを押すと、音が聞こえてくるはずなのに聞こえてこない。小さな音量に設定しているわけでもないだろう。電源を切っている?どうして?

「ちょっと、失礼しますねぇ」

 両手を合わせて、お辞儀して庭の方へ入らせてもらう。

「…え?」

 縁側に移動する。そこは透明な窓で閉められており、中を確認することができた。すると家具一つも置かれていない。

 家の周りを見渡して、窓から中をのぞく。

「何もない」

 もぬけの殻だった。もうすでに引っ越しが終わっているのか?君が言うにはまだ一週間あるはずなのに。

 ますます不安になっていく。

「…東京、行くか」

 これは、本気で問い詰める必要がある。そう感じるともう今すぐにでも東京に行ってやる。

 約束したじゃん。嘘ついたrあ針千本飲ました後に原型をとどめないほど殴るって。

 

「ただいま」

「はや。やっぱりコンビニ嘘じゃない。どこ行ってたの?」

「途中であきらめた」

「あ、あぁ…」

 私は母さんと顔を合わせないまま自室へ向かう。机の引き出しから封筒を取り出す。そこには大量のお金があった。

 物欲があまりなく、小さいころからお年玉や誕生日なのでくれたお金はすべてここに貯めていた。そのおかげで、ざっと30万ほど貯まっていた。

「今こそ、散財の時」

 そう言いながら、封筒ごと大き目のリュックサックの中へ入れる。一泊分の着替えと手鏡、櫛、扇子をもって部屋を出る。

「母さん」

「なに?どうしたのその大荷物!?」

「私、東京に行ってくる」

「は?」

「大丈夫、一泊して帰ってくるだけだから」

「ちょっと待って、いくら何でも危ない」

「止めないで。お願い」

 真剣なまなざしで母さんを見る。母さんは知っているはずだ。私が一度決めたことを簡単には曲げない性格だということを。

「じゃあ、行ってくる」

「ちょっと待って!」

 玄関を思いっきり閉めて、振り向かずに歩く。

 

 まずは電車に乗るところからだね。とりあえずここから出て、あとは駅員さんとかに聞きながら東京を目指そう

 切符を買って電車が来るのを待つ。

「3時間に一本はさすがにきついね」

 あと、30分ぐらい待たないといけない。

 

 無心で電車を待つ。

「まもなく一番線に、電車が参ります。危ないですので黄色い点字ブロックの後ろまでお下がりください」

 ホームの放送。そして電車が来る。

 電車に乗り込む。案の定席はガラガラなため問題なく座れる。

 ガタンゴトンと心地の良い音が鳴り響く。

 そして、電車が来ていることを知らせる踏切のサイレンが聞こえ、窓の外を見てみる。そう言えば踏切もあんまり見たことないなと思って。

 踏切の近く。たくさんの花が添えられていた。

「あぁ、そういえばあの日、人身事故があったみたいなことを言ってる人がいたな。ここか」

 一瞬で通り過ぎていく踏切と花束を眺める。

 

 終点。

 東京へ行ける路線へ乗り換え。

 さすがに人が混んできて、座ることはできなかった。

 

 新幹線。

 乗車券と特急券の二枚が必要らしい。高い。

 

 東京駅。

 ここが東京駅…広い、広すぎる、何が何だかわからない。

 ホームに立ち尽くしていた駅員さんに聞いてみる。

「すいません。この住所にはどの路線で行けばいいですか?」

「ここらへんだな?あぁ、神田駅が近いね。山手線か京浜東北線…あの緑色か青色の路線に乗ればいいよ」

「はい、ありがとうございます」

 そして、改札で切符を通す。券売機で買おうと思うがやり方がわからない。

 近くにいたお兄さんに話をかけてみる。

「すいません。神田駅に行きたいのですが、切符の買い方がわからなくて」

「ICは?」

「あいしー?」

「スマホ持ってないの?」

「持ってないです」

「おぉ…珍しいね。カードを買ってチャージするといいよ」

「カード?」

 困っていると、話しかけたお兄さんは券売機らしきところに連れて行ってくれて、買い方を教えてくれる。

 そして無事カードを購入することができた。

「改札入るときは、あの光ってるところにカードをかざすと入れるからね」

「何から何まで、ありがとうございます」

 そうお礼をして、私は解説の方へ向かう。

 ドキドキの瞬間だ。

 

 ピピッと改札口が青色に光、改札を抜ける。

「おぉ~」

 感動。

 

 

「次は、神田。神田。お出口は…」

 電車の放送が聞こえてくる。目的地に到着だ。

 電車お降りて、改札へ

 ピピッと音が鳴り青く光る。

 感動。

 

 しかし、ここからどうしようか。

 さすがに地図なんて持っていないし…道行く人に聞いてみるしか。

 ちょうど優しそうな尾根遺産が通りかかったので声をかける。

「すいません。少し大丈夫ですか?」

「あ、かわいい。中学生?どうしたの?」

 …大丈夫かな?

「ここの住所、どうやって行けばいいですか?」

「ん~と、マップで見てみるね」

 するとお姉さんはスマホを操作してマップを調べている。

「ここの道をまっすぐ行って…交番があってそれを…一緒に行く?」

「え、大丈夫なんですか?」

「いいよ。まだ打ち合わせまで時間あるし、すぐそこだし」

「ありがとうございます」

 優しい人で良かった。

 お姉さんと一緒に歩く。

「きみ、どこから来たの?」

「え?田舎の方からです」

「お父さんやお母さんは?」

「家に居ます、振り切ってきました」

「振り切って…家出少女なの?」

「いえ、用が済めば帰りますよ」

「うち来てもいいんだよ」

「遠慮します」

「振られちゃった」

 …冗談だよね?大丈夫だよね?

「はい、ついた。ここだよ」

「ありがとうございます!なんとお礼すれば」

「うんん。いいよ。JCと会話できただけで満足」

「気持ち悪いですね」

 あ、やばい口が滑った

「うぅ!毒舌キャラもあるのか!最高!」

 怖いよこの人。

「冗談はこのぐらいにして、じゃあね。がんばれ」

「あ、はい、すいません。ありがとうございました」

 そう言って、お姉さんは手を振って帰っていった。

「…。」

「…。」

「…。」

 深呼吸。

 インターホンを推す。

 

 

    △▼△▼

 

 

 息子の友達が尋ねてきた。「息子さんいますか?」と。

 亡くなったことを知らないのかな?向こうのお母さんには伝えたはずなんだけど。

 何か事情がありそうな気がしたので、とりあえずリビングでお茶を出すことにしよう。

「いらっしゃい。上がって。ここまで大変だったでしょ?お父さんやお母さんは?」

「振り切ってきました」

「家出なの?」

「いえ、話が済んだらすぐ帰ります。あ、でもどこかで一泊してからですね」

 年のわりにしっかりしてるな。と感じる。

「お邪魔します」

「適当に座って、お茶用意するから」

「はい。ありがとうございます」

 お茶を用意するふりをして、向こうの親御さんへ電話する。

『あ、もしもし。お久しぶりです~」

「お久しぶりです~」

 向こうのお母さんが出てくれた。

「あの…もしかしたらうちの娘がそちらに伺ってるかもしれないのですが」

「そうですね。ちょうど今いらして。うちの子が亡くなったことご存じない様子でしたけど」

「あの子、夏祭りの時に来なかったことが相当ショックみたいで、そこから立ち直ってからゆっくり話をするつもりだったんですけど。急に東京へ行くって言いだしまして…。一度決めると簡単には引き下がらない性格なんです」

「あ、そうですか」

 にしても子供だけで、ここまで来させるのは危なすぎると思う。

「もし、差し支えなければ…その…事故のこと、あの子に話してやってくれませんか?」

「まぁ、せっかくここまで来たんですし、知りたいのであれば教えるまでです」

「ありがとうございます。すいません。私たち親がのんびりとしていたせいで」

「いえいえ、そんな」

 と、とりあえず言っておこう。逆にすぐ伝えてあげた方がよかったのではないかと感じる。どうして来なかったのか不安でたまらなかっただろう。どんな残酷な結果であれ、真実を知ったうえで向き合うべきだと私は思った。

 優しさが、あだとなった。

 なんて口が裂けても言えないので、心の中でとどめておく。

「さすがに日帰りは難しいと思うので、問題なければうちで一泊させてから帰らせます」

「あ、ありがとうございます。助かります」

「はい、では失礼します」

「失礼します」

 ここで通話を切る。

 さてと、話すの相当つらいんだけどな。でもうちの子とずっと一緒にいてくれたお友達だもの。ちゃんと真実を話してあげるべきよ。

 

 

    △▼△▼

 

 

「お待たせ」

 お茶を入れるにしては、少し長くないか?なんて思ったが言わないでおこう。連れてきてくれるのかな?って思ったけど…今いないのかな?

「いえいえ、ありがとうございます」

「…あのね。大事な話があって」

「…?」

「亡くなったの。夏祭りの日」

「…。」

 聞き間違いかな?脳が追い付かない。

「えっと…もう一度いいですか?夏祭りの日。なんて」

「あの日、夏祭りに行く最中に電車の踏切事故で亡くなったの」

「…うそだ」

「本当のことよ」

 夏祭り会場の入り口で待っているときの会話がフラッシュバックする

『人身事故で電車止まって、大変だった』

 確かに人身事故で電車が止まったって噂で聞いた。それに、ここに来る途中。踏切に花束が置かれているのを見た。

 嘘だ。信じたくない。

 そんな…約束したじゃん。

 …!最後だから遅刻しないでって言ったから急いできてた?それで事故に巻き込まれた。

「私の…せいだ」

「そんなことないわよ!あの時は踏切がうまく動作しなかったの。だから誰も悪くない」

「私が…最後だから遅刻しないでって、言ったから。急いできてて…」

「自分を責めちゃだめよ」

「でも…」

 気づけば、お母さんが抱きしめてくれてた。

 私も抱き返し、静かに泣いた。

 

 

「うちで一泊していきな。そろそろ父さんも帰ってくると思うわ」

「いえ、そんな!急に押しかけといて一泊させてもらうなんて」

「遠慮しないの。ここら辺のホテル。馬鹿にならないほど高いのよ」

「う…」

「それに、息子がお世話になってたんだし、心配でここまで来てくれたんでしょ?感謝だよ」

「ありがとうございます」

「よし、晩御飯は何が食べたい?」

「あ、えっと…じゃあカレーを」

「おっけ、まずは買い出しね」

 そう言って、二人で近くのスーパーへ足を運ぶ。物価の高さに驚愕した。特に野菜。

「野菜…高すぎません?」

「まぁ、あっちに比べれば…ねぇ」

 私に都会暮らしは難しいかもと感じた。

「お菓子とか、ほしいものある?」

「いえ、大丈夫です」

「ほんとに?」

「…あのチョコ菓子を」

「うん。いいわよ」

 すごく優しくしてくれる。そのせいで罪悪感を感じる。

 

 買い物が終わり、帰宅。

 カレーの準備をしている間に、私はテレビを見させてもらっている。地元でやってる番組とは全く違ってて、バラエティ番組が豊富。

 テレビってすごい面白いんだね。地元だとニュースとかよくわかんない番組ばっかり。

 テレビに釘付けになっていると、お父さんが帰ってきて、ちょうどカレーが完成したみたいだ。

「あれ?久しぶりじゃん。え、ここまでよく来たね!」

「お久しぶりです」

「はーい晩御飯で着たわよ」

「今日はカレーか!夏野菜たっぷりだな」

「…。」

「夏野菜カレー、好きってあの子がよく言ってたから。俺は野菜嫌いだからわかんねぇ~って」

「あいつ、ほんと野菜嫌いだったよな。しかも食わず嫌い」

「ね。おいしいのに」

「…ありがとうございます」

 

 

 カレーはとてもおいしかった。お代わりしてしまうぐらいに。

 そのあとは、お風呂も貸してもらって、君が使うはずだった布団を借りて寝た。

 相当疲れていたのか、ぐっすりと気を失ったかのように眠ることができた。

 翌日は、東京駅まで送ってもらい。新幹線で買えることに。

「わざわざ、ここまで連れてきてもらってありがとうございます」

「まぁ、すぐ近くだしな」

「気を付けて帰るのよ。ご両親によろしくね」

「はい。…良ければまた遊びに来てもいいですか?」

「もちろんよ!いつでもいらっしゃい」

「ありがとうございます。では」

 そう分かれて、改札を抜ける。

 

 帰りは、なれたものだ。問題なく地元まで帰ってくることができた。

 そして、自宅の最寄り駅へ向かう電車の中。もちろん人はガラガラで。ほぼ貸し切り状態だった。

「…あ」

 踏切の近くを通りかかる。多くの花束が置かれている。

 あそこに、君がいるんだね。

 

 

「ただいま」

「おかえり」

 私のお母さんが出迎えてくれた。

「亡くなってたって。夏祭りの日」

「そう…」

「私、お花あげてくる。父さんいる?」

「あなた~!帰ってきたわよ」

 すたすたと奥の方からお父さんが来る。

「おぉ、大丈夫だったか」

「うん。ねぇ庭のひまわり。いくつかもらってもいい?」

「…いいぞ」

「ありがとう」

 そして、玄関を抜けて縁側の方へ、そしてひまわり畑に入る。

 いくつかひまわりを取って、花旅にする。

「あいつ、ひまわり好きだったもんね」

 

「おはよう」

 踏切の近く。花束が置かれた場所へとやってきた。

「来るのが遅れてごめんね」

 今までの思い出が脳内でフラッシュバックする。あの無邪気さがとても好きだった。今でも鮮明に思い出す。

「もう、そろそろ夏が終わるね」

 心地よい風が、私の髪をなびかせる。少し涼しい夏風。

 私は抱えていた小さなひまわりの花束を君のそばに置く。

 

「いつか。またね」

 

 


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