Twitterでめっちゃ刺さるイラストがあったんで書き殴りました(細かいところは気ニスルナ)

1 / 1
 1000年間人間の可能性を信じ続けた羂索が人間を知ろうとするフリーレンに人間の尊さを教える…ある意味"最強"だ(欺瞞)


1000年の魔法

「焼こう」

「いいや蒸すね」

 

 ――ぱちぱち。

 心地よく耳に入る、火花を放ちながら揺れる焚火を囲う形で座る二人。

 片方は銀髪の少女、もう片方は胡散臭い糸目の顔を更に、胡散臭い笑顔で染め上げて言葉を交わす。

 男は少女の言葉にうんうんと頷いて、そして自分の隣を指差し、そして聞いた。

 

「この猪を見てみようか」

「うん」

「どうだい?」

「とても大きい」

 

 だが、そのほのぼのとした会話とは裏腹に、言葉に込められた威圧感は、重い。

 少女たちの傍には、でん!と効果音の付きそうな程の、最低でも10mほどはありそうな巨大な身体が。

 完全に絶命し、これから捌かれるであろう哀れな食料となり果てた、立派な猪の姿があった。

 

「知ってるかい?"焼く"という行為は…人類がある意味最初に生み出した調理法…調味料と言っても過言ではない、由緒ある王道の選択だと思わないかい?」

「うん、一理あるね」

「じゃあこの猪の行く末は…わかってるね?」

「勿論」

 

 ニコニコ。

 糸目の男が見せるその表情、しかしまるで蛇が獲物を定めたかのような眼光、そしておちゃらけた喋り方だ。

 しかし騙されてはいけない。その表情、そして言葉の奥の奥…彼が見せる腹の底にある確かな憤りと、そして不快な感情を。

 少女は既にそれを看破した。ならば、その選択の答えは決まっている――

 

 

 

 

「蒸すよ」

「いいや焼きだ」

 

 それは、勇者ヒンメルが魔王を討伐してから数年のこと――

 

 

 

 

 

 "利害の一致"強いて言えばそれだけだ。

 魔王は討伐され、世界は平和になって、自分たちの冒険は幕を閉じた。

 適当に数年、暇な数十年、魔法を収集し、見聞を広げる果てのない歩みを、少しでもより意味のあるものにするための。

 その中の、偶然拾った出会いが今の少女、フリーレンの収集に混沌を産み落とした。

 

「…駄目、これ以上は使えない」

 

 少し埃の匂いが充満する、町はずれの小さな店。

 フリーレンの目の前には、特売品としてピックアップされている店主おすすめの魔道具。

 この店に来たのは召喚に必要な素材、それに日用品の補充も含めており無駄遣いをする余裕などない。

 ただでさえ前者の買い物で予算ギリギリだったのだ、これ以上の出費は旅の維持にもかかわる。

 

「我慢」

 

 フリーレンはそれを持ち上げた。

 重さはそれほど、希少性もそれほど、しかし妙に心揺さぶられる。

 

「我慢」

 

 フリーレンはそれを元の位置に戻した。

 フリーレンは魔王を討伐した偉大な魔法使いである、この程度の煩悩に負けるほどの女ではないのだ。

 

「我慢…」

 

 最後に一度だけ、目の前で瘴気と存在感を放つ魔道具を見つめる。

 

「………危なかった」

 

 パシっと快音を響かせて、フリーレンは息を吸う、そして吐く。

 両手で軽く頬を叩いた後、その後の余韻を誤魔化すようにむにむに…と揉んで。

 誘惑に負けそうになった己の弱さ、そして目の前の元凶とその強さを認めた。

 

「天晴れ、生涯お前を忘れない」

 

 エルフにとって生涯は果てしないため、これはただそれっぽいことを言っただけ、冗談の類である。

 しかし生涯は誇張しすぎだとはいえ、このサキュバス顔負けの誘惑を放つ強敵は記憶するに相応しいと、そして今度こそ別れを済ませようと。

 そう決めて、それに背を向けて。

 

「…それ、今日売れなかったら処分するんですよ」

 

 店内の奥の椅子に座る店主が、ぼそりと呟いたその言葉を聞いて。

 フリーレンは、ピクリとそのエルフ特有の長い耳を反応させてから――

 

 

 

 

「買っちゃった」

「なんだい?それ」

 

 フリーレンが彼と出会ったのはその後だった。

 空っぽになった貯金と懐を撫でながら、どうしたものかと戦利品を前にぼやいていた時。

 投げかけられたその声には、自分と同じ、積み重ねてきた年齢の重さが込められていた。

 

「この骨に肉入れておくと、一晩で美味しい燻製肉になるんだよ」

「どういった仕組みなんだろう、やっぱり未知の生物は面白いねぇ」

 

 それは、フリーレンが買った魔道具の一種…というよりかは、正確には道具化した魔物の死体。

 ヤギに似た形をした、うめき声を上げる頭蓋骨を一緒に撫で、ぐつぐつと沸き立つ食欲を唆る肉の煙。

 それを流れるような動きで隣に座って、共に二人で吸う。

 そして、生物と当たり前のようにそう言った男に対して、フリーレンは一瞬だけへぇと興味の湧いた顔をした。

 

「生物?」

「ギリ生きてるでしょ、それ」

 

 魔法の収集をする者というのは揃ってある目をする、隠し切れない好奇心の目を、そしてどこまでも突き抜けた我と夢の輝きを。

 そして例外なく、彼もそうだった。

 

 好奇心の行くままに、まるで幼子のように純粋な知識欲。

 

 同時に、彼の()()も瞬時に理解し、一瞬その情報の濃さに全力で顔を顰めたりもしたのだが。

 

「面白いものが見たいんだ」

 

 まるで期待するかのように、彼はそう話し始める。

 動きづらそうな珍しい衣装に身を包みながらも、その体格や空気に一切の隙は無い。

 そして、もう一度顔を合わせて問う。

 

「魔法は好きかな?」

「…そこそこほどほど」

「そっか」

 

 ――私は大好きさ。

 男、ケンジャク(羂索)はそう言って、胡散臭い顔を更に胡散臭い笑みで染め上げた。

 

 

 

 


 

 

 

 

「畑の被害…」

「はい…どういうわけか毎晩…決まってある数だけ無くなるんです」

 

 勇者ヒンメルが魔王を討伐して数年。

 絶対的君臨者である魔王の上下関係が崩壊したことにより、あくまでもそれの下についていただけの魔族たちは瓦解、散り散りにあらゆる地方へ姿をくらました。

 魔族を討伐するにはそれなりの準備が、そして犠牲を覚悟しなければならないから。

 

「害獣被害…なら最初から言うだろう?つまりそうじゃないと確信できる何かがある…ってことでいいかな?」

「はい…森へ捜索に出た者も帰って来なくて…それにこの村には魔法に詳しい者がおらず…」

「まぁどうせアレだろうけど…ま、そういうことなら容易いさ」

 

 フリーレン、そしてケンジャクの順に村人へ問答、そして瞬時に頭の中で推測を立て、仮定による真実を作り上げる。

 だがとりあえず、物的証拠を見ないと話にはならないだろう。

 

「報酬の件は…改めて聞くけど、本当にいいのかい?」

「えぇ構いません。先ほども言った通り…この村にいる人間は魔法に疎いのです、私たちが持っていても宝の持ち腐れ…どうか持って行ってください」

「交渉成立だね」

 

 今回、彼女たちがこの村に来たのは魔法収集のためだ。

 凍てつく雪と風を越え、降り注ぐ熱射を日陰を伝うようにやり過ごし。

 そうやって、何度も日と月が昇るのを見た。

 

「じゃあさっさと行くよ」

「せっかちだねぇ、いつもはあんなにぐーたらなのに」

 

 その言葉にムッと不機嫌そうな顔をして、フリーレンは歩みを進める。

 魔法収集の旅、エルフにとって100…1000にも満たない一瞬だけ、この同行者との利害の一致は続く。

 

 

 

 

 

「ケンジャク、どう」

「見事に森森森…森だね、ここに苗を埋めてみたいものだ」

「下手な冗談」

 

 フリーレンはそう言って、()()()観察を続けるケンジャクに視線を向けずに、今自分の前にある景色の考察を続けていた。

 あの村人の言っていた通り、一見するとただ害獣に畑を襲われ、そして食料を奪われただけのようにも見える。

 だが人がいなくなった、という言葉を聞いた瞬間、フリーレンは己の勘が囁くのを感じた。

 

「…ここかな」

 

 不自然に隆起した土、フリーレンはすぐにそれを見つけてから近寄る。

 この依頼を受けた時に「畑はそのままにしておいて」と言っていて正解だったと、そう内心で呟いて。

 

「何か見つけた?」

「軽い土だ」

 

 いつの間にか地上に降り、隣にいたケンジャクの問いに、フリーレンは視線を動かさずに返した。

 

「ここで育ててる作物は、根が張りやすいように柔らかく…そして水で形が崩れないようにある程度、畑の土を硬くしたりする」

「懐かしいね。私も一時期、害獣害虫対策に躍起になってガーデニングに精を出したりもしたよ」

「あっそ」

 

 いつもの自分語りと気色の悪い笑みを無視して、フリーレンは目の前の土を軽く振り払う。

 水を含まない軽い土が吹かれ、そしてその下に隠された痕跡を露わにした。

 

「取られてるね」

「取られてる」

 

 被害にあったのだからそれは当然。

 フリーレンとケンジャクは並んで目の前の窪みに視線を向けて、そして違和感の正体を見破る。

 軽い土の下は硬い土、そして何かの生き物の痕跡。

 互いに答えにたどり着いて、問答を再開した。

 

「これ、動物だと思う?」

「ある意味動物じゃないかい?害獣という点でも合ってるね」

「まぁ猛獣みたいなのは確かだけど」

「弱ってるのかな、それとも新しい生態?にしてもやることは一つだね」

 

 視線の先には、動物の残した痕跡と、人が土を掘った跡を含めて二つのみ。

 

「出発はどうするんだい?」

「時間もちょうどいい、適当に森の捜索も含めて今行こうか」

「同意だね、何事も行動あるのみだ」

 

 本心からの言葉なのだろう、その時のケンジャクの笑みはいつもより不気味に輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スネークアイって植物を知ってるかい?」

「…私が知らないと思った?」

「いや?ただの楽しいコミュニケーション、その一つの形じゃないか」

「ふぅん」

「ただそっちの意味じゃなくてね」

 

 捌き終え、細かく複数に保存された猪肉を片手に、右手のみで器用に火を起こすケンジャク。

 フリーレンはあの日買った燻製肉を作るためだけの頭蓋骨を前に、魔導書を読みながら適当に返事をする。

 

「中央諸国で最近軽く流行ってるお話、そこに出てくるスネークアイのことさ」

「それは知らない」

「じゃあちょうどいいか。――それは夏の暑いある日のことである」

 

 芝居がかった喋り方と、大げさに手と指を使った表現の仕方。

 それはまさに職人のように、高度で洗練されたもの。

 

 

 

 

『これはスネークアイ。かつて人を食い…腹が膨れて苦しむ蛇が、それを舐めることで苦しみを紛らわすもの』

 

 男は旅の道中で、その逸話と禍々しくも、宝石のように輝く植物の話を聞いた。

 男は、それを手に旅を続ける。

 

『大量だ、誰にも渡さん。これは全て己のもの』

 

 男は欲に正直で、どこまでも欲に素直な存在だった。

 立ち寄った村、そこである日たまたま討つことのできた巨大な猪の肉。

 

『どうか分けてください、子供たちが腹を空かせているのです』

『いいや駄目だ、これは全て己のもの』

 

 男は貪欲で、どこまでも我を貫く存在だった。

 誰にも渡さない、誰にも譲らないと叫び続け、とうとう村人たちが怒りだす。

 それをきっかけに、とうとう男は狂気に走る。

 

『ならば無理やりにでも奪ってみるか?やれるなら』

『誰にも譲らぬ、誰にも渡さぬ』

『全ては腹の中、己の中』

 

 男は焼いた肉、蒸した肉、焦がした肉に焼けていない肉。

 肉肉、更には猪の内臓の全てに至るまでを、文字通り平らげて見せたのだ。

 

 

 

 

「早食いだね」

「早食いの魔法か…いいね。私もあらゆる危機に対応するため、無防備な時間を減らせる手段は積極的に取り入れるべきだと思うよ」

「でも、なんで今それを話したのさ」

 

 よりにもよって今、ちょうど同じ猪の肉を食しているタイミングでだ。

 わざとやっているのか?それとも…いや、この男は多分自分が話したいから話しただけだろう。

 

「スネークアイ…本来は特筆するほどの効力があったりしなかったはずだけど」

「ま、これはあくまでお話だからね…お話にはお話の、奇想天外で愉快な意味があるのさ」

「それって」

「あぁ、スネークアイの場合は…」

 

 と、そこまで話してから突如、ケンジャクは言葉を止めた。

 それにフリーレンは疑問を感じない、他ならぬ彼女自身も、耳を澄ませて意識を集中させている。

 

「あーなんだったっけ、途中までは覚えてるんだけど忘れちゃってさぁ」

「相変わらず適当だね」

 

 顔を合わせながら、しかし視線だけは左右交互に向けて。

 まるでお喋りのさなかですとアピールしているかのような姿勢で、そのまま動きを止める。

 

「そういえば、最近見つけた魔法の中で面白いのがあってねぇ」

「動物を飼い慣らす魔法のこと?それなら前にも聞いた」

 

 まだ、まだだ。

 

「いやいや、今回はその発展系さ、なんとこれを改良した結果判明した事実が…」

「いやいいよ、あんたの考える理論はどれも悪趣味だから」

「うーん勿体ない、きっと気に入ると思うんだけどなぁ」

 

 まだ、もっと続けろ。

 

「それより、私はこの村の魔法の方が興味深いかな」

「私と同じ意見だね。確かに一家に隠された魔導書、伝えられた民間魔法はどれも個性豊かで興味深くて――」

 

 

 

 

 ――ガサッ

 

 

 

 

「フリーレン」

「そっちこそ」

 

 たとえ談笑に浸っていても、彼女らに油断は存在しない。

 

 

 

 


 

 

 

 

「――ッ」

 

 聞こえてきたのは声だけだったが、それと同時に一気に空気が冷えた感触が。

 そして身の毛がよだつ殺気が白髪の少女から、同時に吐き気を催す気色の悪い視線が男から。

 

(とにかく距離を…)

 

 これ以上音を立てないよう、全神経を注いで足を動かそうとした瞬間。

 ――目の前には、地面が。

 

「あ」

 

 ――ズンッ

 

「ッが!?」

「駄目じゃないか、そんなに力を込めちゃ」

 

 内臓がぺしゃんこに、骨が崩れそうなほどの巨大な圧迫感と不快感。

 ガサガサと音を立てながら、草木を退かして男は続ける。

 

「ふぅん、やっぱ魔族か」

「大分弱ってる、ケンジャクならすぐに殺せるでしょ」

「まぁね」

 

 すぐに後を追うように、数mは先にいたはずの白髪の少女が並び立ち、隙の無い立ち姿で杖を取り出す。

 どうする、生き残るにはどうすればいい?必死に答えを求め、()()は叫ぶ。

 

「待て!待ってくれ!」

「じゃあコイツは私がやるから、フリーレンはもう片方を」

「…まぁいっか」

「役割分担さ」

 

 フリーレンはじっと、何かを探るような視線をケンジャクに向けてから、そう言って逆方向へ歩き出す。

 その間もずっと、ケンジャクは足元で苦しむ魔族へ視線を固定したままだった。

 しばらくそのまま、フリーレンの姿が完全に見えなくなった瞬間。

 

「君、お腹空いてるんだろう?」

 

 ぼとぼと。

 魔族の目の前に積み重なって出来た肉の山、ケンジャクはそれを手で掴みながら話す。

 

「魔族って不思議だよね、別に人間を食べないといけないってわけじゃないのに…人間を優先して殺すし食べる、もう少し食の自由は増やすべきだと思わないかい?」

 

 ――たとえば()()()ね。

 そう言って、ケンジャクは魔族の首を持ち上げて肉を押し込んだ。

 

「ぉごッ…!」

「はいあーん」

 

 重力のような圧迫感が、無理やり首を動かしたことでより強くなる。

 しかし魔族はそれに抵抗できる力もなく、無抵抗のままその奇行を受け入れる。

 一つ、二つ…

 

「ぅオ"…」

「はーい飲ーんで飲ーんで」

 

 四つ、六つ、八つ…

 

「ォ…………お…ァ」

「はーいもっと頑張ろうね~」

 

 二十、三十、四十…

 

「……」

 

 六十、八十………

 

「…」

「お、やっと満タンになったか」

 

 魔族の優れた肉体でも、適応が追い付かない程の大量の摂取。

 常人ならば腹が破裂するどころか、途中で惨めに嘔吐するであろうこの現状でも、魔族は耐えて見せた。

 吐けば少しは楽になる、しかしそんな姿を見せるのは魔族のプライドが許さない。

 

「ゥぐ…き、さま…!」

「あははっ凄いねぇ、まるで妊婦みたいだ」

 

 ――昔を思い出すなぁ。

 そう呟いたケンジャクの瞳は、そこのない闇が映し出されていた。

 

「魔族が限界を越えて肉を…人肉は流石に用意できないからね、猪肉で代用だけど上手く行ったよ、実験成立だ」

「……おのれ…!」

「あ、じゃあ飽きたから帰っていいよ」

「……あ?」

 

 殺す。

 魔族の頭に浮かぶのはその言葉しかない。

 あくまでも冷静に、血が出るほど歯を食いしばりたい殺人衝動を理性で押さえながら、魔族は問う。

 

「…いいのか?」

「勿論、君がいてもいなくても何にもならないからね。あ、どうせなら最後に手伝ってよ?」

 

 魔族の返事も聞かず、ケンジャクは再び魔法によって何かを取り出し、そして地に這いつくばったままの魔族に、それを向けた。

 

「これ、舐めて」

 

 そう言って、目の前に差し出された謎の植物。

 小さく咲いた紫の花と、そして鮮やかな緑色の葉っぱが目に移り、その異質さに一瞬思考が止まる。

 

「私が魔法で作ったんだよ?ほら、早く」

 

 ニヤニヤ。

 その相変わらず胡散臭い笑顔を更に胡散臭いものにして、ケンジャクは魔族に向けて笑いながら言う。

 ――選択の余地はない。

 

「…わかった」

 

 その瞬間、魔族は意趣返しも含め、ケンジャクの指ごと噛みちぎる勢いで植物を口にし、そして飲み込む。

 余裕そうに指を動かしながら「おーこわ」と笑いながら、再び腕で印を結んだ。

 

「じゃ、お好きにどうぞ」

「――死ね!!!!」

 

 身体を支配していた謎の圧が溶けたと同時に、魔族は目の前で楽しそうに笑うケンジャクに向かって、鋭利な爪を向ける。

 足を踏み込み、魔族の身体能力による絶命の一撃が放たれる…と、思っていた瞬間。

 

 

 

 

 ――ドロリ。

 

 

 

 

 膝から、下がない。

 

「人げ…ん…?」

 

 べちゃりと音を立てながら、魔族は自分の腹、そしてなにより視線の先で、凄まじい勢いで溶け始める己の腕を見た。

 ぐちゃっ!とより一層強い音を立て、今度は肩までが溶け始めて。

 

「――それは夏の暑いある日のことである」

 

 再び、芝居がかった口調で"お話"を始めた。

 

 

 

 

『肉が、下を向けば全てを失う』

 

 旅を再開した男は、己の喉の上まで重なった肉と内臓の重さ、欲望の質量に苦しみ、それでも歩く。

 

『気を紛らわせるなにか、何でもいい、これでいい』

 

 旅の道中で聞いた、ある蛇が人を食し、膨れた腹を元に戻す薬草の一種。

 スネークアイを男は舐め、いつもの健全な自分を夢想し、意識を失う。

 それが、蛇にとっての薬草でしかないことを忘れて。

 

『男は肉体が溶けていく』

 

 蛇がそれを舐めたのは、腹の中身を無条件で溶かすものではなかったから。

 

『気づいた時には既に遅く、後悔するには早すぎた』

 

 男が意識を失う瞬間、そこにあったのは己の強欲そのもので。

 

『スネークアイが溶かすのは人間、あくまでも蛇は腹に溜まった食事ではなく、人間そのものを溶かしていたのさ』

 

 溶ける指先を最後に、男は絶命。

 気づけばそこには――

 

 

 

 

「服を着たお肉が座っていたとさ、めでたしめでたし」

 

 目の前にある、崩れた肉の山を後目に、ケンジャクは心底愉快そうにその"お話"を終わらせた。

 観客は存在せず、どこまでも自分本位の欲望によって作られた惨劇、その終わり。

 ――ぱちぱちと、誰かが手を叩く音が聞こえた。

 

「中々愉快でしたよ、ケンジャク」

「なんだ君か」

 

 むっと、少し不快そうな顔をしてケンジャクは振り向く。

 もう少し余韻に浸りたかった、そんな自分の気持ちを無下にされたからというのが理由だろうか。

 

「相変わらず君たちは冷たいね、復讐でもするかい?」

「冗談を、我々は血で血を争う関係はやめにしたいのです」

「ハハッ、本気で言ってんの?それ」

「えぇ、勿論」

 

 目の前にいる、もう一人の魔族も負けじと、芝居がかった口調でそう返し、綺麗なお辞儀をしてみせる。

 互いに無音、しばらく腹の底を探りあう視線のやり取り。

 

「数日後ですが…和睦に向けた本格的な準備をしようかと思っているんです」

「へぇ、どの口が言うんだって言われるよ、多分」

「もう言われました」

 

 互いに微笑み、背を向ける。

 その時、魔族は一瞬だけ足元に散らばるかつての同族を見た。

 

「近くに腕のいい魔法使いがいますね」

「そうだね、多分君も知ってると思うよ?呼ぼうか?」

「遠慮しておきましょう、それに色々と準備に時間が必要なので」

 

 そう言えば。

 そう付け加えてから、魔族は話を続ける。

 

「魔族にとって、言葉は人を欺くためのもの」

「知ってるさ」

「魔族同士でも例外はなく、人間の言う家族といった関係は存在しない…が」

 

 一瞬、一瞬だが背後から間違いなく。

 ケンジャクは誇りある一人の魔族としての威圧感を感じた。

 

「魔族でも交流そのものはします、それに気遣うことも、何より魔法の美学も」

「どこまで本当やら」

「くれぐれも、でしゃばらないように」

 

 それだけを残し、その魔族は姿を消した。

 残るはケンジャクのみ、彼は魔族が消えた後、しばらく背中を震わせて。

 

「クク…交流?君たちがそれを言うのか?」

 

 その表情には、侮蔑の色が浮かんでいた。

 

「たった数十年ちょっとで、人を殺す魔法(ゾルトラーク)の解析は進んだだろう?所詮君たちの美学はそれだけじゃないか」

 

 ケンジャクは信じている、人の、人間の、人類の可能性を。

 一つの目的の為、ただひたすらに"生きる"者は無条件で尊敬し、逆ならば無条件で軽蔑する。

 種族に甘え、生まれつきのそれに甘え停滞をするなど論外、文明の発達と同じ、魔法は人類こそが誇るべきものだ。

 

「それを君たちが?しかもよりにもよって交流と来たか…ハハッ」

 

 ニヤリと、よりその笑みを深くして。

 

「よく言うよ、魔族の分際で」

 

 心底馬鹿にした口調で、そう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見たことないものを見たいだろう?面白いものが本当に面白いか確かめたいだろう?」

「そうかな」

「それが、生きるってことじゃないのか?」

「じゃあそうなんだろうね」

 

 あくまでも利害の一致。

 ただ自分は魔法の収集がしたい、そして彼も同じだけ。

 魔族は殺すし害虫も駆除する…ただそれだけ。

 

「ケンジャク」

「なんだい?」

「魔族の血、かなり匂ってる」

「ありゃりゃ、香水ふっとくべきだったか」

 

 ――彼から腐臭はしない。

 その本性を知った後だと余計疑問に思う、なぜ彼ほどの者が、人を殺していないのか。

 なぜ魔物だけを殺すのか。

 

「人は殺さないから安心してよ」

「どうかな」

 

 じっと見つめても、ただ胡散臭い笑みを深くするだけ。

 一人でも人を殺した者というのは、決まって腐臭がするものだ。

 しかし彼の秘密を知ってしまうと疑惑が湧く、今喋っている()()()()はどこから調達したのかと。

 質が悪い、本当に質が悪い。

 

「私は長生きしたいからね」

「それはちょっと同感かな」

 

 魔物を殺すことに問題などありはしない。

 所詮彼らは姿が似ているだけ、人の形をした害獣であり、所詮魔族を殺すことは害獣を殺すことでしかない。

 それに楽しみを見出すのも、不健全ではあるが、人類からすれば功績でしかない。

 間違ってはいない、間違ってはいない…が。

 

(まぁでも…)

 

 共に食事を取り、共に魔導書の解析を進めた。

 たまに夜空を眺めても、しかしどこか、何かが違う。

 

 ――あの、お人好しの勇者といた頃とは違う。

 

 たった10年、エルフにとっては百分の一にも満たない筈のそれ。

 なぜか、無意識にそれが比較材料に持ち出されていることに疑問を感じることはなく。

 

(…やっぱり違う)

 

 ――ケンジャクは、彼らのような"人間"とは違うのだ。

 似ても似つかない、このドス黒い本性を隣にして。

 フリーレンはふと、約50年後に来るであろう流星を思い出し、足を運ぶ。

 ――互いに、向ける感情は同じ。

 

「次は何処に行こうか」

「とりあえず真っ直ぐ、道を選ぶ時の初心さ」

 

 ――いつか、この男の好奇心が自分とその周りに牙を剥くのなら。

 ――いつか、この女の力が自分の好奇心を阻むなら。

 互いに向ける視線は同じ。

 

(私は、()()が同じ人間だとは思いたくないな)

(これからもいい関係を築きたいものだね)

 

 互いに同じ、その首へ狙いは定めてある。




ケンジャク(呪術関係ない純フリーレン世界のメロンパンさん、勿論死体を乗っ取ったりして生きてる)
 スネークアイの元ネタはもろ蛇含草です。
 多分この世界戦ではアウラの額に縫い目があります(適当)

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

五条悟に転生したから呪いの王に勝ちたい(作者:ごごてぃー)(原作:呪術廻戦)

宿儺つよ。。。▼五条どんだけ強化すれば行けるかね


総合評価:2583/評価:8.27/完結:8話/更新日時:2023年11月08日(水) 19:01 小説情報

ユメ?「何で分かるのかな」 パカ(作者:パカパカメロンパンナちゃん)(原作:ブルーアーカイブ)

???「やっ、ホシノちゃん、久しぶり」▼???「危機感の欠如」▼???「戦いを楽しんでいます」▼???「今はただ君に感謝を」▼???「ぶぅー、ぶふぅー」▼???「全力でお姉ちゃんを遂行する!!」▼なんかユメ先輩は頭が開いて何かに乗っ取られてるっていうのが流行ってるらしい。笑っちゃうよね。▼内容は大体羂索っぽいオリ主inユメ先輩と渋谷事変組っぽい生徒たちが色々…


総合評価:3892/評価:8.33/短編:4話/更新日時:2026年02月14日(土) 07:26 小説情報

一人歩き型スタンドなオリ主と承太郎(作者:ラムセス_)(原作:ジョジョの奇妙な冒険)

一人歩き型スタンドになってしまった転生オリ主が承太郎に憑りついて原作を走り抜ける話


総合評価:39589/評価:8.95/完結:85話/更新日時:2024年04月21日(日) 12:08 小説情報

黄金寓話(作者:いなほみのる)(原作:呪術廻戦)

羂索がマハトと悪友やる話です


総合評価:2107/評価:8.3/連載:23話/更新日時:2026年04月19日(日) 00:00 小説情報

羂索 in ユメ先輩が征くゲマトリア(作者:Nikich)(原作:ブルーアーカイブ)

※注※▼この小説には呪術廻戦最終話までのネタバレを含みます!▼乙骨に倒された後、ユメ先輩の体に憑依した羂索がゲマトリアに加入する話▼神秘、そして生徒の可能性を彼はどう見出すのか……!?


総合評価:2308/評価:8.63/連載:15話/更新日時:2025年12月23日(火) 13:47 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>