「フリーレン様、シュタルク様が……」
「……寝ているね」
シュタルクが呪いにかかった、壁を背に眠っている。
リンクはしゃがんでそれを見つめる。
フリーレンはザインに問う。
「一時的にでも目覚めさせられないの?」
「今使える魔法だけじゃ五秒間目覚めさせるのが限界だ」
「ないのと同じですね」
困ったように言うフェルン。
すると、突然オカリナの笛の音が聞こえ始める。
「リンク様?」
「……これでよし」
彼が吹いたのは『時の逆さ歌』時間の流れを遅くする特殊な笛の音。
(多分、呪いがかかるまでには時間が必要、これで少しでも遅く出来れば)
リンクは吹き終えた後、口を開く。
「三人も、眠くなったら寝ても良いよ。僕がどうにかするから」
「リンク様?」
「大丈夫、寝ないのは慣れてるから」
オカリナをしまうリンク。フリーレンは首を傾げる。
「相変わらず、手慣れてるね。でも、寝ないのは慣れてるって、徹夜得意だっけ?」
「うん、得意だよ……三日だけならね」
その顔には、どこか影がある。
「……リンク様、ちゃんと寝てくださいね」
「ちゃんと寝るよ、三日後に月が落ちなければ」
「リンクってたまに変なこというよね」
「とにかく、急いだ方が良さそうだな」
□ □ □
原因を追跡していたら夜になった。
フェルンは小休止だと言って眠り、起きなくなった。
「フェルンが起きない。小休止だって言ったのに……」
「フェルンも寝ちまったか」
「これは、いよいよまずいね」
深刻そうに話すフリーレンとザイン。
リンクは特に反応なく、木によりかかって座りぽけーっとしている。
「……リンク、お前も大丈夫か?」
「眠れない・三日の永遠・繰り返す・迫り来る月・顔怖い」
「何言ってんだ?」
「時の勇者、心の俳句」
芯がありそうで無さそうなリンクの声に、ザインはため息を漏らす。
そんな話をした後、シュタルクとフェルンを結界で守り、歩を進める。
「もう少しだ、反応が近い」
少し歩いた後、ザインの言葉にリンクは警戒心を強める。
「……そう、じゃあザイン、リンク、魔物が出たら起こしてね」
「え?」
フリーレンはそう告げた後、パタリと地面に倒れた。
眠ってしまったらしい。
「……フリーレン、五秒じゃどうしようもねえだろ」
「仕方ないよ、とりあえずこの辺りに寝かせておこう」
リンクはタルでも持ち上げるように担ぎ上げ、木陰に投げる。
「扱い雑すぎるだろ、いくら何でも……」
「大丈夫、彼女はきっと投げるだけで敵を倒せる」
「何言ってんの?」
ザインとくだらない話をしていると、
――ドゴオオォォォンッ!
突如、かなり近距離から轟音が鳴り響いた。
ザインはすぐさま身構える。
「っ! 近いぞ!」
「わかってる、行こう」
リンクは無表情に言った後、移動速度を上げる。
「ふっふっふっふっふっふっ」
でんぐり返しで、だが。
ざざざざざ――ッと地面を抉りながら、ものすごい速度でザインをおいていく。
「うおっはやっ! でんぐり返しってそんな早いもんだっけか!?」
ザインの突っ込みはすぐに遠くなり、聞こえなくなった。
□ □ □
「見つけた」
一人になったリンクは、ようやく呪いの源と思われる魔物を発見。
大型の花の魔物、葉っぱを触手にして戦っているようだ。
「?」
しかし、リンクが想定していない事があった。
既に誰か戦っている。
「はぁ……はぁ……」
少女くらいだろうか、槍を持って魔物のツルを捌いている。
「っ!」
瞬間、その少女が弾かれて尻餅をついた。
ここぞとばかりにツルが彼女を仕留めにかかる。
――シュッ。
だが、それを容易くやらせるほどリンクも甘くはない。
即座に少女の前に立ち、ツルを払う。
「よっと」
その後、すぐさま武器を弓矢に切り替え、炎の矢を魔物目掛けて射る。
その刹那、魔物は隅々まで燃え上がり、撃破に成功。
「思ったより早く終わった、ね、だいじょう……?」
少女の安否を確認するべく、リンクは振り向く。
だが、彼女は人間では無かった。
「え……」
「ん、ゾーラ族?」
リンクは恐れない、何故なら会話が通じる種族だからだ。
赤い鱗に奇妙な肌、見たことがない種類だが、間違いなくそうだった。
(なるほど、この子がファイが言ってた子か)
そうリンクが納得していると、
「リン、ク?」
赤いゾーラ族の少女が、リンクの名を呼んだ。
否、正確には目の前の少年ではない
リンクはくすりと笑い、言った。
「僕は、君の知る勇者ではないよ」
□ □ □
ザインが来るまで、リンクと少女は話すことにした。
彼女の名はミファーと言い、気がついたらこの場所にいたらしい。
「さて、ミファー、だっけ。君はゾーラ族で間違いない?」
「あ、はい。ゾーラ族です」
まずは確認のため、質問をいくつかすることにした。
リンクは退魔の剣を取り出し、見せる。
「じゃあ、これは?」
「それは……マスターソード?」
ミファーは目を見開く、当然の反応だ。
この剣は認められた勇者にしか使えない、伝説の剣なのだから。
「どうして貴方がそれを……」
「時の勇者ってわかる?」
「えっと……確か、過去にルト姫と賢者の方、と共にハイラルを救ったと聞いています」
「それが僕」
「?????」
ミファーがとても目を丸くしている。
「要するに、僕は貴方の知るリンクではないんだ」
「そう、なんですね……」
ミファーはなんとなく悲しげな顔をしていた。
「……時の勇者を知っているなら、未来の方の時間か」
「え、なんですか?」
「いや、なにも。それにしても不思議。ゾーラの姫なのにすごく礼儀正しいんだね」
「ふふっ、ルト姫はおてんばだったと聞かされています。貴方からしたらそうかも知れませんね」
くすくすと嬉しそうに笑うミファー。
「ねえ、君から水の賢者の力を感じたんだけど、それは何故かわかる?」
「あっ、一応神獣ヴァ・ルッタを使役できる、えっと、英傑……っていってもわかりませんよね」
「まあ、詳しくはないね」
「とにかく、それでだと思います。多分私が死んだ後は……水の賢者の称号を弟が引き継いだと思うので、血筋的に近いんだと思います」
「ふーん」
リンクは様々な質問をした後、立ち上がる。
「色々わかったよ、ありがとう」
彼女は近くの村の惨状を知り、いても立ってもいられなかったらしい。
「それにしても……昔のリンクみたい」
つい、ミファーはそう呟く。
目の前の少年が自分の知るリンクで無いことを理解してなお、彼に面影を感じていた。
「そんなに似てる?」
「はい、とっても」
「そっ、悪いね、君の知る勇者じゃなくて」
「い、いやっ! そう言う意味で言ったんじゃ」
ミファーが慌てていると、リンクがある提案をした。
「ねえ、身寄り無いんなら、うちのパーティー来ない? 今人手がほしいんだ」
「え、パーティー?」
ミファーは驚いた後、考える。
リンクは話を続ける。
「今、うちのヒーラーがお姉さんがパーティーにいないって嘆いてて、どうかな? ゾーラ族は長寿でしょ?」
「……すいません、あの、わたし十代です」
苦笑しながら、考えを纏めるミファー。
「時の勇者様に期待されるほど、あんまり実力には自信が……」
「そんなに難しく考える必要ないよ。同じ世界の出身同士、もう少しお話しよ?」
「えと、ならお言葉に甘えて……」
ミファーは控えめに頷き、槍を抱えた。
承諾したのは、なんとなく信用できると思ったからだ。
(この人の目……すごくリンクに似ている……)
幼馴染みが、頭の後ろを駆け巡ったからだ。
すると、ふと脳裏を駆け巡る事があった。
「あ、あのっ。そういえば……」
「?」
「時の勇者様も、食べるのですか?」
「食べる? 何を?」
リンクは言っている意味がわからず、首を傾げる。
「えっと、岩とか……」
「え?」
リンクが珍しく目を見開き、驚く。
「僕、ゴロン族に見えてるのかな?」
「い、いえっ! そうじゃなくて! 私の知るリンクは結構何でも、魔物とか岩とかも普通に食べる人だったので」
「……そうなの?」
リンクは絶句した後、考え込む。
(そんな野蛮な勇者が、あれ、それならマスターソードをピッケル扱いしたり、盾で飛ぶとか言う話って……嘘じゃない?)
たしか、その勇者は英傑と呼ばれていたらしい。
つまり、ミファーのいう人物と、マスターソードをピッケル代わりにした勇者は同一人物?
考えた後、リンクは呟く。
「……どんな人なんだ、英傑の勇者」