そして、ベネリットグループはその全貌が明らかになっていない。
ということは。
ベイラム寮とかアーキバス寮とかが存在したり、ハンドラー・ウォルターみたいに後ろ暗い強化人間を斡旋して学園に入学させたりする人が存在する可能性も、微粒子レベルで存在する……?
小惑星。
小なりとはいえ天体の一種であれば、サイズの差は多岐にわたる。
塵に等しいようなものから、直径数百kmに及ぶものまで。
ならばその中には、人が手を施すことで学園をまるごと一つ擁することができるものが存在しても不思議はなく、ここにその実例が存在する。
フロント73区に浮かぶ小惑星と、そこに埋め込まれた人工物。
4つの遠心重力区画と、それらをつなぐ各種構造体。
人類の叡智を結集して作り出されたこの人造の世界が成すことは、「教育」。
巨大複合企業<ベネリットグループ>によって運営される、アスティカシア高等専門学園。
それが、アーシアンとスペーシアンの狭間で騒乱渦巻くこの宇宙に浮かぶ、世界の縮図の名であった。
学園、と称していてもその実態はベネリットグループの下部教育機関に近い。
入学の条件は企業の推薦を受けることであり、学生たちはバックにつく企業の用意した寮で生活し、実力主義の名のもとに、勝利があらゆることを肯定する。
まさしく世界の在り方そのものともいうべき学園は、だからこそいくつかの例外を孕んでいる。
たとえば、ベネリットグループ内の企業からの強い影響下に良くも悪くも収まっていない「地球寮」が許されていること。
さらには、中途編入を果たす生徒も存在することもそのうちの一つだ。
水星という辺境出身の17歳、スレッタ・マーキュリーがそれであり。
今日、もう一人。
◇◆◇
こつ、こつ、とつ。
左右の足音と、もう一つ。3音からなる足音が輸送艦のタラップから降りてくる。
足に不自由を抱えるらしき初老の男性。落ち着いた所作と鋭い眼光が印象的なその人物は、杖を突きながらも危なげなく重力区画の階段を降り、来たばかりの通路を振り返る。
「――どうした、不安か?」
「……べつに、へいき」
突き放すようにも、危険から遠ざけるようにも聞こえる平坦な声は、男が連れてきた者に外への一歩を踏み出させた。
輸送艦のハッチからゆっくりと姿を見せる、一人の少女に。
学生らしき年の頃。
透き通るような白い肌。
見た者に「人形のよう」という印象を抱かせる理由は、溜息をつきたくなるほど整った容姿と、それでいて無垢という言葉ですら収まらないほど感情の見えない無表情のせい。
美しい少女が、初めての土地を前になんの感慨も興味もないとばかりに、ただぼうと立っていた。
港湾区画としてのざわめきや騒音があるとはいえ、この輸送艦が運んできたのはこの二人だけ。
立ち止まる少女を急かす者はなく、目を向けるものも同行者の男程度のもので、なにもなければいつまでもそこに立ち続けそうですらある虚無の少女は相変わらず無感情のまま。
目を、男の先へ向けた。
「生徒番号Rb23、レイヴンですね」
そこには、いつの間にか一人の女性が立っていた。
スーツ姿で、うっすらと歓迎の笑みを浮かべたビジネスウーマンといった風情。
有能そうな気配と、どこか違和感を覚える笑顔が印象に残る、そんな女性だった。
「申し遅れました。私は学生支援システム<オールマインド>。アスティカシア高等専門学園へようこそ。レイヴン、あなたの編入を歓迎します」
「かんげい」
その口ぶりは学園側の人間のもののようで、首をかしげるレイヴンにかまうことなく事実編入に伴う手続きのいくつかを手際よく済ませ、至極あっさりと去っていった。
「――ふふふ」
最後に、レイヴンと呼ばれた少女を横目に奇妙な笑みを浮かべながら。
◇◆◇
「621……いや、ここでは<レイヴン>と呼ぶべきか。お前の住む寮は手配が済んでいる。じきに迎えが……」
「――ハンドラー・ウォルター」
「……617か。紹介しよう、お前の先達になる。ハウンズのメンバーたちだ」
そうして、621と、レイヴンと呼ばれた少女の学園生活が始まる。
出迎えてくれたのは、どこかレイヴンと似た雰囲気を漂わせる3人の少女たち。
寡黙で、虚無。そして芸術品のように美しい、
ただの偶然で揃ったとは思えない共通項を見せる少女たちが存在し、この学園に籍を置く。
そこにある意味をただ一人知る男、ハンドラー・ウォルターが杖を握りしめる手に力がこもる。
アスカティシア高等専門学園。
それはすなわち、善意の色で悪意を塗り隠した世界というものの似姿だった。
◇◆◇
『はっ、甘いな! その程度で俺に、俺のディランザに、敵うと思ったか!?』
『くっ、くそおおおおおお!』
「……」
「アレは、<決闘>。戦っているのはこの学園トップの<ホルダー>と、挑戦者」
寮へと案内する道すがら、近くのMS演習場で繰り広げられる模擬戦を目の当たりにし、しかしハウンズたちとレイヴンは動じない。
淡々と説明する617の言葉を理解しているのかいないのか、感情の色が浮かばない瞳で大質量を誇るMS同士の激しい戦闘をただただ黙って見ているレイヴンたち一団は、周囲から明らかに浮いていた。
「あれ、MS?」
「そうだ。MSの、生徒の<決闘>だ。……ホルダー相手とまではいかなくとも、お前もいずれ決闘に参加することになるだろう。よく見ておけ、と言いたいがここは危険だ。離れるぞ」
「ウォルター、スクーターある」
『ビジター、悪いが俺はスクーターではない。乗ると危険だ』
なお、学園内をうろつくハロつきスクーターの中でもとびきり浮いている車いすのような形で対話型AIを搭載したスクーターともひと悶着あったようだが、さすがに決闘より目立つことはなかったらしい。
◇◆◇
「シャディク、情報通りハウンズにメンバーが加わった。……相変わらず、情報はなし。レイヴンという名も、どこまで信じていいのやら」
「あのハンドラー・ウォルターの子飼い、か。数こそ少ないが一端の戦力だ。あまりお近づきになりたくないな」
「あー。前にチーム戦で決闘してたときもかなりヤバかったもんね。なんで一切迷わずミサイル打ちきったらビームに突っ込むの……?」
「そういうところを抜きにしても、強いから。私たちもまともに戦うべきじゃないと思う……」
「同感。でも立ち回り次第でしょ。案外節操ないから、引き込むこともできるかもよ?」
「ハウンズだけなら、ね。……むしろ彼女たちより、ハンドラー・ウォルターの動向を気にした方がいいと思う」
レイヴン編入の噂は、波紋となって学園の中に広がっていく。
グラスレー寮の一室で交わされる、シャディク・ゼネリたち次世代のグラスレー社幹部候補たちにとってすら、無視できないほどのものとして。
◇◆◇
そうして、621は、レイヴンはアスティカシアに入学を果たした。
ただの学生として過ごすこと。それが621の身柄を引き受けたウォルターからの指示であり、621は、ハウンズたちはその通りに行動した。
「おい、見ろよ! ハウンズたち……一人増えてないか!?」
「<独立傭兵>、か。あの新入りもそれなりの腕かもしれないな……」
ハウンズたちは、容姿が目立つ。
ただ食堂でそろって食事を取っているだけでも異彩を放ち、とりあえず絡みにいけそうなアーシアンがいればいやがらせをする根性の持ち主揃いなスペーシアン系アスティカシア生であっても遠巻きに噂するだけに収めるほどだ。
いずれ劣らぬ見惚れるような美しさと、それに反してどこか人間味を感じさせない感情の乏しさ。
容姿に向けられる賛辞の裏で、機械や人形のようという陰口が常について回っている。
そしてなにより彼女らが他と異なる点を評した言葉が、<独立傭兵>であった。
アスティカシアにおいて、生徒たちの紛争解決手段として用いられる決闘。
本来は騒動の渦中にある当人同士で行われるのが常だが、決闘とはかつて代理戦士を立てて行われていたものでもある。アスティカシア式の決闘でも、それを禁じるルールもマナーもない。
決闘の開始時に宣誓される「ただ結果のみが真実」という言葉が、黙認として作用する程度には。
だが同時に、代理人を立てることは極めて難しくもあった。
アスティカシア学園に入学するために必要な資格は、ベネリットグループ傘下企業からの推薦を第一の前提とする。
つまり、全ての学生は大なり小なり自身を推薦した企業の庇護下にあることを意味し、他企業から推薦された生徒との間で大きな問題が発生すればその影響は推薦元の企業にも及ぶことになる。
そういった状況で、わざわざ他人の決闘代理を引き受ける酔狂な輩は当然存在しない。
企業推薦とは別枠で入学を許可された、
ハウンズとはすなわち、そういった生徒たちの総称でもあった。
企業に与しないためにあらゆる闘争の場に乗り込むことができ、自らの糧は全て自身で勝ち取らねばならない。
だからこそ、ハウンズたちは強かった。
様々な決闘に代理として顔を出し、その都度用意される装備も性能も全く違うMSを苦も無く使いこなす。
その戦いぶりを誰が呼んだか独立傭兵。
学生の身でありながら、戦いの渦中でこそ生存を許された存在だった。
「……おいしい」
「わかる」
「こっちもおいしい」
「はんぶんこ」
なお、当人たちはその辺あまり意識していない、割と普通の少女たちであることを特筆しておく。
◇◆◇
アスティカシアの生徒たちは寮で生活を営んでいる。
とはいえ在校生の数は多く、一つや二つで足りるものではない……という建前の元、ベネリットグループの各企業が寮を構え、推薦した生徒たちをそこに住まわせている。
生徒の住環境の良し悪しはすなわち後援企業の力と期待の度合いを示し、平等という概念は存在しない。
豪華、高機能で知られるのはベネリットグループ御三家たるジェターク寮、ペイル寮、グラスレー寮。
逆に設備の古さと改造の足りない倉庫の様相を呈しているのはアーシアンのクラス地球寮。
そして当然のことながらそれ以外にも複数の企業が寮を構えているものであり。
「……あ”ぁ”!? 野良犬!? なんでお前がベイラム寮にいやがる!」
「イグアス。ごはん」
「誰がご飯だ!? てかお前、まさか……!」
「イグアスッッッ! お客に絡むんじゃないよ! とっととあんたの飯を取りにきな! 今日はいつもの倍の大盛だ! 残したらげんこつだからね!!」
「うるせえババア! またあんたが呼んだのか!? どうして野良犬に餌付けしてんだ!」
「その子が大豊娘々に向いてるからに決まってるだろうがッッ!!」
企業寮の一つ、<ベイラム寮>。
質実剛健、実力主義を貫くこの寮においては、後援企業たるベイラム・インダストリーの専属部隊<レッドガン>のうち4~6位のナンバーが学生に貸与されることで知られている。
そのうちのナンバー5、
そしてそんなイグアスの脳天に容赦ないげんこつを叩き込む女傑こそ、ベイラム寮の食堂を預かる壮年の料理長。女性ながらに鍛え上げられた両腕で大鍋を振るい、ベイラム寮生たちの腹を満たす。
なおこの料理長、レッドガン部隊の人間は大体全員殴ったことがあり、現総長であるG1ミシガンですら頭が上がらないともっぱらの噂である。
「我が寮の食事を平らげるとは、やるな独立傭兵! いいだろう、お前には特例として先日空きの出たラッキーナンバー
「おかわり」
「遠慮ってものを知らないね、新しいG13は! 気に入ったよ、デザートも食べていきな!」
「やあ戦友、よく来てくれた。アーキバス寮を案内しよう。……スネイルには秘密でね。
「おっ、レイヴンじゃないか! 決闘しよう! お前が勝ったら食事を奢るぞ!」
「……フロイト、今は私が戦友をエスコートしているから遠慮してもらえないか。戦友も、食事に惹かれてついていこうとしないでくれ。私が奢るから」
「アーキ坊やパフェ」
「……わかった、パフェを奢ろう」
「アーキ坊やに目をつけるとはなかなかいいセンスです。……あなたが部外者である、という点を除けばですがねえ、駄犬!!」
「止めなくていいのでしょうか、ホーキンスさん」
「気にしなくていいよ、ペイターくん。血圧の上がったスネイルは人の言うことを聞かないからねえ」
アーキバス寮は母体となるアーキバス・コーポレーションの企業的性格を反映した先進的設備が多く、柔軟な思想が故に生徒たちも比較的自由な気風を持っている。
結果として実力トップの
◇◆◇
分け隔てなくと評するか、節操なくと評するか。
学生として過ごせというウォルターの言葉に忠実なレイヴンは、かくのごとく交友関係が広い。
時に独立傭兵として決闘代理の任をこなす傍ら、普段の感情の薄さとのギャップが人を引き付けるのか、機会があるたびに声を掛けられ、そのまま交流を持つことが多かった。
その対象はベイラム寮、アーキバス寮にとどまらず地球寮にも及び。
「ぱ、ぱーてぃー……! アーカイブで見たことあります! 豪華なホールでドレスを着てダンスを踊ったりするんですよね!?」
「ん」
自身と同時期に編入してきたスレッタ・マーキュリーとも知り合っている。
地球寮に誘われ、お茶会のような時間。とりあえず食べられればなんでもいいというタイプのレイヴンは、出されたものを屈託なく平らげながら淡々と受け答えするのだが、なぜか話が膨らみ、受けがいい。
今日の話題は、ベネリットグループ創設15周年を祝うインキュベーションパーティー。
総帥の娘であるミオリネ、その婚約者であるホルダーの地位にあるスレッタも当然参加者として名を連ねており、どういう流れかレイヴンもまた招待されているのだという。
状況を理解しているのかすら怪しいレイヴンに対して、スレッタの顔色は青い。
水星育ちで社交の知識などないスレッタは、だからこそかつて見聞きした情報に飲まれて不安に駆られ。
「ど、どうしよう私ダンスなんてしたことないし、誰かに教わらないと……」
「なっ、バカ! なんてこと言うのスレッタ! この学園でそんなこと言ったら、ヤツが……!」
地雷を、踏んだ。
「――ダンスのことでしたらお任せを。多少の心得がありますので、私がお教えしましょう」
「ふぇ? だ、だれですか……?」
「やっぱり出たわね!? 失せなさい――ブルートゥ!!」
地球寮は当然ながら地球出身者の住まう寮であり、特例で住むスレッタとミオリネ、客人であるレイヴン意外はほとんどが顔見知りのハズながら、いつの間にかその男はいた。
聖人のように柔和な表情。落ち着いた声音から繰り出される親切な提案。
相対すれば誰もが良い第一印象を抱くだろうこの男が、借金踏み倒し常習犯のノーザーク、アーキバス寮トップランカーのくせに誰彼かまわず適当な理由で決闘を申し込む戦闘狂のフロイトに並ぶアスティカシア学園三大ヤバいヤツと見抜くことは不可能に近い。
「おや? ミオリネのご友人でしたか。……素敵だ。ならば私にとっても友人同然です。楽しみましょう。――スロー、スロー、クイッククイックスロー」
「うっさい! そもそも、私とあんたは友人でもなんでもないわよ!」
「どうしましょう、ミオリネさん。様子がおかしい人です!」
「……知ってるわ。手の施しようがないから距離を取りなさい」
アスティカシアは、平和である。
たとえそれが、嵐の前の静けさだとしても。
◇◆◇
「わ、わ……! すごいですよ、ミオリネさん! いっぱい人がいて、MSも飾ってあって、すっごく豪華です! ……あ、見てください! あ、あんなところにすっごいおっぱい大きいチャイナドレスの人が!?」
「落ち着きなさい、スレッタ! あんたはホルダーなんだから、堂々としてるの! チャイナドレスって、どうせ大豊娘々でしょ。ベイラム系企業が出てくるイベントには大体いるキャンペーンガールだから気にしないの!」
インキュベーションパーティは華やかにして盛況だった。
豪華でありながら品のある調度と内装。飾り立ててられた展示用MS。そして、それに負けず劣らず着飾る人々。
同時にこの場は示威と商談の場でもある。
展示されるMSの周囲には隙なくスーツを着込んだビジネスマンと、衆目を集める美女が侍るのが常だった。
その中の一つとして、しかし他の追随を許さず燦然と輝く大輪の花。
それが、ベイラムのグループ企業である大豊核心工業集団が誇るキャンペーンガール、大豊娘々であり。
その歴史は長く、大豊の製品コンセプト「樹大枝細」を体現した美女たちはイベントの華としてベネリットグループ内外から深く愛されている。
「大豊ブース、こっちー」
「で、でもあの人、なんだかレイヴンさんに似てるような? ……っていうかそれも気になりますけど、ミオリネさん! 向こうで着ぐるみが殴りあってます!?」
「アーキ坊やとベイ太郎よ。気にしなくていいわ」
「見向きもせずに断言!?」
ベイラムグループのロゴからたくましい手足が生えただけ、というデザイン的にも中の人的にもストロングスタイルなマスコット、ベイ太郎の剛腕がうなりを上げる。
それを着ぐるみらしい鈍重で無駄に大きな動きで転がり避けるのは、頭巾でも被ったような姿にどこかかわいらしい顔つきのアーキ坊や。
ベイラムとアーキバスが誇る二大マスコットが、パーティー会場の片隅で殴る蹴るの大乱闘を繰り広げていた。
もとより、ベネリットグループ内でも競合関係にありライバル視が顕著な二社の関係性そのままのような光景である。
「あんたもホルダーなんだから覚えてなさい。こういうイベントごとだと必ずと言っていいくらい大豊娘々がいて、その近くでアーキ坊やとベイ太郎が殴りあってるから。常識よ」
「違う会社のマスコット同士がけんかしてていいんですか!?」
叫ぶスレッタ。
なお、アスティカシアも決闘で大体決めてるからそういうもんかと、壮絶なクロスカウンターをキメてダブルノックアウトするアーキ坊やとベイ太郎を眺めながら納得した模様。
「スネ……アーキ坊や!? しっかりしてください!」
「えっ!? ミオリネさん!?」
「……私じゃないわよ。ほら見なさい、アーキバス寮のメーテルリンク。声が私とやたら似てるのよ……おかげでよく間違えられるわ」
◇◆◇
「621。決闘の前に、一つ昔話をしよう」
ハンドラー・ウォルターは語る。
決闘前、陣営のメンバーと言葉を交わす機会は相応にあり、それは621にとっても同じ事。その時間を、あえて2人だけで用意したウォルターの思惑に、621は思いをはせる。
「ある科学者がいた。家族を捨てパーメットの研究に没頭した男だ。……狂った成果が山ほど生み出された。強化人間も……強化人士も、その一つだ」
悔恨。
初めて聞くハンドラー・ウォルターのその声音に、感情が薄いながら感じ取った色がそれだった。
「善良な科学者もいた。男の罪を肩代わりし、全てに火を付け、そして満足して死んだ」
絞りだすようなその言葉。
それこそがハンドラー・ウォルターの生きる意味であると、621は知る。
そしてそれはすなわち、ウォルターの猟犬たる自身の生きる意味でもあるのだと、心に刻む。
言葉を、熱を、使命を。
「この話には教訓がある。『一度生まれたものは、そう簡単には死なない』」
くすぶる火種はいくつもある。
それは今も増え続け、致命的なことになる前に終わらせなければならない。
誰かが、必ず。
「621。――火を付けろ、燃え残った全てに」
『両者、向顔』
決闘開始の合図が届いた。ディスプレイに開いたウィンドウに決闘相手の、スレッタ・マーキュリーのどこか戸惑ったような顔が映る。
レイヴンが、友人が独立傭兵として故もなく立ちはだかるという事態が理解できないとばかりに。
『勝敗はモビルスーツの性能のみで決まらず』
今日の仕事は、決闘代行。
対戦相手は、アスティカシア高等専門学園のホルダー、ミオリネ・レンブランの婚約者、この学園最強を意味する、忌むべき機体<ガンダム>を駆る魔女。
「――操縦者の技のみで決まらず」
それでも621は、独立傭兵はためらわない。
戦う機会を、戦う相手を選ぶことなくただ勝利する。それこそが存在意義なれば。
『「ただ、結果のみが真実」』
『――
決闘が、始まった。
◇◆◇
――あなたは……旧式の、強化人間
――あなたには、私の「交信」が届いているのですね
――私は、『ルビコニアン』のエア
――目覚めてください。あなたの自己意識が……
――パーメットの中に散逸する、その前に
登場人物紹介
オールマインド
学生支援システム<オールマインド>の職員を名乗る女性。
総合的なスペックは普通に高いものの、部分部分ではトップクラスの相手に勝てないせいもあってか絶妙に抜けている感が漂う残念美人。
ことあるごとにオールマインドのエンブレムに似たシールをくれる。
達成した内容によって種類が違うらしいが、どれもマイナーチェンジレベルでほぼ一緒なので学生からは全部同じものとして扱われている。
本名は不明だが、一説によるとケイト・マークソンというらしい。
レッドガン食堂のババア
ベイラム寮の食堂を支配する料理長。
なので正確には「ベイラム食堂」のババアなのだが、なぜかレッドガン食堂の、と評されている。
レッドガンのメンバーは大体一度は殴られている。イグアスはなんやかんやほぼ毎日殴られているので、殴られない日は逆に周囲の生徒たちから心配される有様。
料理は美味しく、ベイラム寮のひそかな人気の源。女生徒は大豊娘々になれるくらいまで食わせないと気が済まないともっぱらの噂。最近は621がその標的らしい。
かつて、初代大豊娘々キャンペーンガールだった。ついでに初代G13だった。
レッドくん
ベイラム寮所属の愛され系後輩。G5イグアスとG4ヴォルタを「先輩!」と呼んでめちゃ慕う。
苦学してベイラムからの推薦を勝ち取りアスティカシアへの入学を果たし、初日の挨拶一発で総長ミシガンからG6のコールサインを賜った将来性のある優等生。
なんか通じ合うものがあるのか、ジェターク寮のラウダとは立場を超えて仲がいい。
ハウンズ
ハンドラー・ウォルターが見出し、アスティカシア高等専門学園に特例入学してきた生徒たちの通称。いずれも独立傭兵として決闘代行で高い実力を示し、チーム戦においてもグラスレー寮に引けを取らない戦闘集団。
特に血縁などはないはずだが、いずれ劣らぬ寡黙で神秘的な美女たちなのはウォルターの趣味と噂されているが……。
人呼んで「ウォルターの猟犬」「死神部隊」「ビジター」「ごすずん好き好き♡クラブ」。