ロキの”夫”を目指して 作:ロキの夫(自称)
続きました。皆さん、本当にありがとうございます…(泣)
『貴方に惚れました、俺と結婚してください』
――俺が、まだ冒険者になって一年も経っていない頃。
初めて彼女に会ったあの日――……気づいたら、俺は求婚をしていた。それぐらいにあの時の俺にとって、ロキとの出会いは衝撃的なものだったんだ。
『――……何を言ってん?』
あの時のロキは、困惑とした顔だったのを今でも鮮明に覚えている。後から振り返ってみたら……そりゃそうか、と自分自身に苦笑をこぼしていたな。
【ロキ・ファミリア】の主神にて、トリックスターの名を持つロキ。当然、神であるが故に求婚に応えてくれるわけがない――と思ったことはなくもなかった。
だが、そんな些細な事すら気にならないほどに、俺はロキにぞっこんだった。
もちろんといっていいのか、ロキは俺の求婚を断った。なんでも、『互いによく知らん内に求婚に応えられるわけないやろ』との事だった。
冷静に考えたら、誰かも知らないヤツに求婚されてそれに応えるって相当ヤバいんじゃないか?
分かり切った事なのにそれでも尚自分を律することが出来なかった。それぐらいに本気なんだな、と我ながら思うぐらいに。
……それから、俺は時間を見つければロキに会いに行った。一番の近道が、ロキのファミリアに入るということは分かっている。だけど――自分がそれを許さなかった。
あくまで自分の考えであるが、"ロキの事が好きだから"。その理由だけで、ファミリアに入りたいなんて――ロキ・ファミリアに属する人達にも、何よりもロキに対して失礼だと思っていたから。
だから俺は彼女のファミリアには入らなかったし、志願もしなかった。それを察したのか、ロキからファミリアに誘われることもなかった。
……それでよかったんだ。"彼女と一緒の時間を過ごす"ことを考えるあまり、周囲の事が見えなくなる、のではダメだと思っているから。
何よりも自分自身が、彼女と過ごすにあたって相応しい人になりたいという気持ちもあったから尚更。
――『冒険者の誰よりも強くなりぃ。そうなったら考えといたる』
交流を続けていたある日――彼女に言われた言葉が、これだった。俺にそう口にしたロキは、笑っていた。その笑顔に――どうしようもなく、俺の心が締め付けられた。
あえて臭い言葉を言うのであれば、"ロキの笑顔があれば、それだけで生きていける"。本気でそう思うぐらいに魅力的だった。劇薬といっていいぐらいだった。
あの時は、頭がどうにかなってしまっていたのだ。普段の彼女とは違う反応が返ってきて、その上その言葉を投げかけられたとくる。
心臓がバクバク言っていた。今にも喜びを表したくてたまらないほどに身体が震えていた。今にもハッキリと心臓の鼓動を感じるほどに感情を揺さぶられて。
『それは……ッ、つまり、誰よりも強くなったら求婚を認めてもらえるんだな!!?』
気付いたら、自分の心境を表すかのように俺はそうロキに聞き返してしまっていた。
『――ああ、そうや』
そう口にしたロキは、相変わらず笑っていた。ただ、それだけなのに俺は今にも死んでしまいそうなぐらいに心臓が飛び跳ねている。
……もしかしたら、からかっているだけかもしれない。そもそも"考える"とロキは言っているだけで、考えた結果やっぱなしで……となる可能性がないとは言い切れない。
それでも尚――"やらない"という選択はなかった。
彼女に共にあれる未来。そんな輝かしい未来を切り開いていける可能性が――今、ここにある。
ならば、やらない理由がどこにある。むしりやらない理由を作っても尚軽々しくやる理由が上回るだろう。
……誰よりも強くなるには、今まで通りでは出来ない。そりゃそうだ、"好きなことをするためにそれ相当の努力・我慢が必要"という話があるぐらいだ。
その為には――ロキと離れなければならない。
このまま彼女のそばにいると、気持ちがぐらつきそうだからだ。天から降りかかってきた思わぬチャンス。それを確実にものにするには、揺るぎない心が必要だ。
いっそ、求婚を諦めてただ彼女のそばにいるという選択肢はあった。実際、それでも良いかもと思う自分がいたことは事実。ただ彼女のそばにいるだけなら、それほど傷つかないし、ロキとの関係がそのまま続けていくということ。それが"気持ちがぐらつく"というものであった。
――それでも、俺はロキと離れることを決めた。確かにロキと離れるのは苦しいし、寂しく感じる。まるでこの世界が色褪せてくるぐらいの感覚がする。
だけど、これを乗り越えた先に"可能性"があると知った今ならば――甘んじて受け入れよう。
そんな気持ちでいっぱいだったんだ。
ロキに言われたあの日から俺の人生は変わった。いや、正しく言えばロキという彼女の存在を知ったその時から、既に変わり始めていたんだなと今なら理解できる。
それぐらいに――――ロキの言葉は、俺にとって大きなモノをくれたんだ。
「あぁ、ちっとも変わらねぇなぁ」
迷宮都市オラリオ。最後に目にした時から多少変わってはいた。だが、オラリオという都市が持つ"雰囲気"はちっとも変わらなかった。それが男に"懐かしさ"をもたらす。
本当に、色々あったなぁ……と、オラリオから離れて暮らしていた日々を振り返りながら……オラリオの門をくぐり抜けて、その地に一歩踏み入れる。
――帰ってきたぜ、オラリオ。
"ラルク"とそう呼ばれる男は、心の中で清らかにそう声を上げたのだった。
これは、アイズがダンジョン内で会った"
◇
そして、時間軸は現在に戻り――夜。
「あー……どないしよ、これぇ」
ロキの部屋にて、ロキは腕を組みながら部屋中を歩き回っていた。理由としては、もちろん"ラルク"のことである。
「……珍しいな」
「ん、何がや?」
そして、その場に居合わせるリヴェリアは妙なものを見ているような表情だった。この時刻になるといつもロキは目を盗んで酒を飲む。ただそれだけではなく時にべらぼうに高い酒をカブ飲みすることもしばしば。
だからこそ不本意だがリヴェリアは時折ロキの部屋に行き、酒を飲み過ぎていないかを確認している。これでは本当の意味で"ママ"なんじゃないか――と最近、悩みの種になっているのはここまでの話。
「いやな、酒がどこにも見当たらんのでな……」
リヴェリアが訪れる際には、いつも酒がある。机の上だったり、テーブルの上だったりとまばらに置かれているのが日常茶飯事。
だというのに、珍しく酒が見当たらない上ロキは珍しくブツブツ言いながら歩き回っている。だからこそリヴェリアは珍しいとそう口にしたのだ。
「そらそうや――今酒なんて飲んどる場合じゃあないもん」
「――――――……な、なんだとッ?」
あまりにもロキらしくない言葉が飛び出してきた為、一瞬呼吸を忘れるリヴェリア。
「酒だぞっ? あの酒だぞ? 飲まないのか?」
「……なんでそんな酒を推すねん? 普段は飲むなとかゆーてるくせにして」
「――ッ、本気か?」
意を突かれたロキの言葉に、ややたじろぐ。
あの男――"ラルク"に関しては、多少話した程度で親密な関係かと言えばそうでもないリヴェリア。だが、少なくともロキにとっては"酒を飲んでる場合ではない"と言わせるほどのようであった。
「……なんかなぁ」
信じられないと言いたげな顔をするリヴェリアに、弁解したくなったのかロキはそう口を開いて。
「久しぶりにアイツと会う時、酒回ってる状態でいたくないというかなぁ……そんな感じ?」
その言葉を聞いたリヴェリアは、僅かに目を見開く。それは――まるで、"ラルク"を意識していると言わんばかりの言葉。
「あ、別に深い意味はないで? ただ何となくシラフで会いたいというか、そんだけやで?」
「――ふっ、ああ。分かっている」
妙に念押しをしてくるロキに、思わず笑いが零れたリヴェリアは、そう返答するのだった。
あの酒豪であるロキに、"酒を飲まない"などという選択肢を与えることが出来るラルクを、悪い意味でもいい意味でも見直したリヴェリア。
――求婚か。
その単語を思い浮かぶと同時に、こんな思考が浮かび上がる。
もし……もしだ。もし……ロキが結婚するとなると――ファミリアで一番の"行き遅れ"は私、ということに……?
改めて考えてみると、リヴェリアは一種の焦りを覚えた。
「――ダメだ! 断じて認めるわけにはいかないッ」
「うわっ、急にどうしたんや?」
この日の夜、リヴェリアは妙な焦りを自覚した。