更新一年振り!?!?!?(こっちの方が問題)
鼻につくアルコールの匂い、全身に巻かれた包帯。
優しく、穏やかに吹く風ですら傷に障り。
普段なら酒の肴になるような夜空でさえ、目が霞んでぼやけて見える。
一体どれほどの間、気を失っていたのだろうか。
感覚のない右半身……否、そこに“ない”右半身を再生しようと試みるが……
「……傲慢すぎた、か……」
いくらなんでも“一度に引き受けすぎた”のだろう。
肉体の回復に使えるだけの妖力が、リソースが残っていない。
セイアは大丈夫だろうか、既に彼女の苦痛を引き受けるためのパスは切れてしまっている。
様子を見ることも出来ない、気を抜いたら自分という存在が曖昧になる可能性すらある。
幻想郷ではない、このキヴォトスという箱庭で“水橋パルスィ”という名を見失ってしまったら……
……無粋な事を考えるのは止そう、これ以上の無理をしなければきっと大丈夫な筈だから。
未練があるわけではないが、こんなところで消えるのは性に合わない。
“運良く”近くにいた“誰かさん”が応急処置をしてくれたお陰で、最悪の事態は免れたようだし。
「救護騎士団、団長さん?」
「喋ると傷が開きますよ」
額に汗を流しながら眉を顰め、忙しなく働く生徒。
地面に寝かされた私に処置を施すのは、先程まで私と対峙していた生徒、蒼森ミネ。
私の目が開いたのを見て一息、安堵の様子を見せた……
が、それで手が止まる事はなく、適切と思われる治療を私に施してくる。
「開かないわよ、その程度じゃ」
人外に人間に対する治療を……いいや、キヴォトス人に対する治療を行っていいのかは疑問に思えるけれどね。
「……私と“打ち合えた”という前提を加味し、平常な人間よりは何倍も頑丈だと考えたとしても」
彼女は発砲してこなかった、武器を用いての反撃を行ってこなかった。
途中から明らかに加減されていたのは、私にも分かる。
私にヘイローがない、私がキヴォトスの住人ではないという事がバレたからこその行動なのだろう。
にしては当たりが強かったようにも思えるけれど。
「あなたの失血量は、既に……」
そんな彼女から見た“仮定人間”が半身を失い多量の失血をしている。
普通ならまず助からない、しかし私は“助かっている”。
それは勿論私が人間ではなく、妖怪、或いは神、正確には橋姫……
所謂“人外”であるからなのだが、彼女はそんな事を知る由もない。
疑問を浮かべるのは当然の事だろう、だが……
「問診は遠慮しておくわ、語れない事が多すぎるもの」
私の正体は無闇矢鱈に話さない方がいい。
私に着いてくる事を選んだ側の人間ではない限り、話さない方がいい。
これは貫き通す、私の存在をこの世界に定着させないためにも。
そして、要らぬ混乱を生まないためにも。
「力尽くで吐かせようものなら“死ぬ”わよ、私は」
「……これ以上の無理はなさらぬように」
「はいはい、そもそも出来ないわよこれじゃあ」
実際そこまで重症ではない、再生出来ないとはいえ“身体”が保てているのがその証拠だ。
二、三日安静にすれば、再生自体は問題なく出来る。
そこから一週間も休めば、コンディションだって元に戻る筈だ。
“今すぐに”というのは無理だけれどね。
だから私は抵抗出来ない、嫌でも安静にするしかない。
「……ぁ、電話だけしてもいいかしら?」
しばらくの間気を失っていたのだ、余力がない以上自力で様子を見る事も叶わない。
ミカは、セイアは、ナギサは。
先生は、レイサは、補習授業部は……
そして何より、ケイは。
“きっと無事”だが、心配にはなる。
「……まあ、いいでしょう」
こんな状況でも画面が割れていない、壊れていないケータイに対し得体のしれない恐怖を感じながら。
ぼやけた視界の中で押した、通話開始のボタン。
ぎこちなく耳に当てた、ケータイ電話。
「もしもし」
着信音が鳴り始めてからものの1秒……
いいや、それよりも早い速度での応答。
電話が通じたという時点で無事を確認出来た、耳を傾けてみれば……
『後でお説教ですからね』
開口一言。
「一言目がそれってどうなのよ……」
要件を告げる前に、または告げられる前に。
相手から、ケイからかけられたのはその言葉。
『……着信履歴、確認しましたか?』
「………」
未だ使い慣れない文明の利器を操作し、履歴とやらを見てみれば。
何回も何回も、十回はゆうに超えている数の着信。
それら全て、ケイからの連絡である。
『……きっと、大丈夫だろうと信じてはいました……』
声色は変わらない、普段と比べて苛立ったような。
怒りの混じった声、焦りを感じるような声。
『ですが』
だが、それ以上に。
能力が使えていない今でも、電話越しにも分かる程度に。
分かりやすく見える、その感情。
『心配してたんです……心配してたんですからね、本当に……』
それは弱々しく、上擦った声に聞こえた。
彼女らしくもない……いや、ある意味で彼女らしいその感情。
……直接会いに来てたら卒倒してたんじゃないかしら、今の私中々にグロテスクなことになってるわけだし。
だからこそ私は取り繕わなければいけない、見た目ほど傷は深くない。
問題なく治る傷を、あの子の傷として残してはいけない。
「ごめんなさいね、私も私で立て込んでたのよ」
そのためにもこれ以上私は動きたくない、働きたくない。
物語に積極的に干渉し、改変するべきではない。
あとは先生とその仲間達に任せ、ゆっくりと休みたいというのが本心。
「……それで、そっちはどうなったの?」
しかし、状況を確認せずにその選択を行うのは少々無責任。
……というよりも、もしもの事があった時に私自身の寝覚めが悪い。
こちらに、キヴォトスに来てから何度もやらされている時間外労働を覚悟しながらの言葉。
そう考えると毎日のように追加の仕事を押し付けられているヒナは中々に可哀想に思えてきたが、それはまた別の話。
できれば確認だけで済んでほしい、という意味での問い。
ケイの無事は確認出来たが、他のメンバーがどうなったかというのも知っておきたい。
『……えぇ、少しばかり長くなりますが』
『こちらの方は……』