基本街をブラつき、たまに試合をこなす日々の中、勇者パーティーが街へと訪れる……。
だらしないアラサー闘士が、激動の時代をその拳とちょっとの魔法で生き抜いてく、格闘魔法ファンタジー!
※思い付きで仕上げました。色々粗削りです。反響があれば続きを書くかもしれません。
1歩、また1歩。闘技場へと繋がる廊下を進む度に、俺の心臓は鼓動を強めていく。どうしてこんなことになったんだろうか。
10年前、俺は、ごく普通の高校生だった。漫画やアニメ、ラノベを読み漁り、男友達とゲーセンに通い、彼女欲しいだとか、リア充爆発しろだとか、そんな非モテ街道まっしぐらな人間。
そんな俺が、ある日目が覚めると、まるで創作物でよく見るような中世ヨーロッパ(俺の把握基準。)あたりのスラム街みたいな場所の道端に転がされていた。流行りの異世界転生…いや、異世界転移ってやつだ。
転移特典か何かなのか、肉体がこの世界の一般人よりもずっと強くなっていた。言葉もなんか通じた。それを駆使して何とかスラム街でチンピラ共を殴り飛ばして自衛したり、日雇いのバイトで食いつないでいた時、この世界での俺の保護者となることとなる、クレ爺に拾われた。
この世界は、魔法と剣のファンタジー世界って奴だ。
モンスターもいるし、冒険者もいるし、魔王もいるし、勇者だって存在していた。クレ爺は元々凄腕の冒険者で、今はこのクルナーの街で1番の娯楽である闘技場のオーナー兼トップ闘士(闘技場で闘う戦士たち)だったのだ。
クレ爺に拾われた俺は、あれやこれやとボコボコにされながら仕込まれたり、前の世界で嗜んでいたサブカルチャーの知識から再現出来てしまった武術的な何かを習得し、数年のうちに闘技場の人気闘士へと成り上がり、最終的には闘技場四大闘士と呼ばれる最も実力のある闘士の末席へと名を連ねることになった。
“不動のケント(俺のこと)”と言えば、ちょっとした有名人だ。
それがいけなかったのかもしれない。俺は今、史上最悪の危機に直面している。
『さぁ!東の門からは我らが四大闘士!その在り方、まさに不動!今日も彼の拳が!闘技場最大とも言える七難八苦を打ち砕くのか!?闘技場最強のヒューム族!不動のケントの、入場だああああああ!!!!』
ヒュームとはいわゆる人間のことである。この世界にはエルフとかドワーフとか色々いるのだが、今回はマジで相手が悪い。
『西の門からはチャレンジャー……いえ、この場ではケントこそチャレンジャーかも知れません。……その爪は岩をも切り裂き、その炎は鉄をも溶かす……最強のモンスター、ドラゴンは皆さんももちろん知るところでしょう、我々が今目撃するのは、ドラゴンの力を宿した人……最強種族、伝説のドラゴニュート!加えて彼女は勇者パーティーの戦士であると言います。そのとんでもない肩書きを背負う彼女の名はぁぁぁ!!!エル・ドラグニル・フレア2世ィィィィィ!!!』
現れたのは、鱗に包まれ、巨大な爪を搭載している両手両足を宿した、赤髪の少女だ。側頭部からは黒いツノが伸びており、とても好戦的な顔をしている。
「ヒュームごときが……我の……我が主の邪魔をすると言うなら、容赦なくーーーー殺す……!」
彼女の周りから突風が吹き荒れるような錯覚を覚える。それほどまでの気迫。生まれながらにして強者であるドラゴニュートの殺意が、俺一人へと襲いかかる。
『さぁ!両者が出揃い……試合開始の合図が、今鳴り響くぅぅぅぅ!』
腹の底に響くような、鑼の音が鳴る。
……本当に、なんで俺はここに立って居るんだろう。
★
確か、あの日は試合も何も入っていない休日。四大闘士筆頭のクレ爺に呼び出されて、四大闘士が全員クレ爺の家に集められたんだったか。
クソでかい円形のテーブルの前に、4方向に腰かけているのは、4人の闘士だ。
「よく集まってくれたわい!儂の可愛いガキどもよ!」
クレ爺こと、ヘイラー・クレスパイン。闘技場最強の闘士にして、最高責任者的なやつも兼任してる爺さんだ。種族はヒュームとジャイアント…巨人族とか言われてるやつのハーフ。3mくらいの身長と、全身に搭載されたはち切れんばかりの筋肉。結構な歳のはずだが、その毛根は健在であり、まるで獅子を思わせる程ボリュームのあるヘアースタイルを見て、少なくとも弱そうとか思うやつはいないだろう。
「珍しいじゃないかクレ爺。ボク達を集めるなんて……何か美しくないことでもあったのかい?」
キザったらしい返しをしたのは、ヒルデ・ウィンベルト。水魔法の派生である氷魔法とレイピアを扱う、銀髪ウルフカットの魔法軽戦士。種族はエルフの女。長身と抜群のスタイル、そしてまるで騎士のような煌びやかな衣装に身を包み戦う姿から、氷雪の王子騎士なんて呼ばれてるキザなヤツだ。見た目が派手なだけの奴とは違い、闘技場のNo.2の実力を持つまさに才色兼備とか言うやつである。
「……クレ爺が呼び付ける時は面倒事と相場が決まってる。任せて、全部吹き飛ばしてくるから。」
物騒な返しをしたのは、メイ・ディメス。火、水、風、土、雷という魔法における基本5属性の適性を全て持ち、それらを高水準で使いこなす魔法のスペシャリスト。種族はフェアリー…この世界で言う妖精のような生物とヒュームのハーフだ。ピンク髪ロング+ガキのような身長なその見た目から、一部の層にバカウケらしい。闘技場のNo.3だ。
「……いいからさっさと話せよ。今度はどんな無茶ぶりだクソジジイ」
……で、若干不貞腐れながらテーブルに足を掛けてる20代後半の、異世界転移者で日本出身の成人男性ことケント……まぁ俺のことね。
種族はヒューム。魔法は死ぬほど修行したけど適性は土属性だけ。基本の戦闘スタイルは格闘……に土魔法の小細工を混ぜた喧嘩殺法+なんちゃってサブカル再現武術だ(流水岩〇拳とか)。身体能力強化という転生特典(?)とクレ爺の死ぬ気の修行のおかげか、一応闘技場のNo.4を名乗れるまでに強くなりましたとさ、めでたしめでたし……。
……まぁ後から入ってきたヒルデとメイに余裕で抜かれたんだけどな。悲しすぎるだろ。
「うむ、ぶっちゃけた話、女の子4人組の勇者パーティを名乗る者たちが「英雄の血を引くヒルデをパーティーに入れたいから寄越せ」と言ってきたんじゃ。どうしようね?」
「ワォ、情熱的な勧誘だね。ところでボクって英雄の血引いてるの?初耳なんだけれど?」
「…すごーい」
「呑気かお前らァ!!闘技場の稼ぎ頭持ってかれようとしてんだそオイ!」
いやもうツッコミ所満載すぎて笑えてくるな今思い出しても……。
まず、ヒルドはどうやら本当に英雄の血を引いてるらしい。英雄とは、かつてウン百年前に世界を救ったヤツらの事で、勇者パーティが持つ特殊な道具を使えば、その血を色濃く引いている者が分かるらしい。なんだよそのご都合主義ドストレートな道具……。
で、勇者っていうのがまたベタなもんで、伝説の聖剣を抜く事が出来る唯一無二の存在であり、その聖剣ってのが、この世界を侵略しようとしている魔王に傷をつけられる数少ない手段の1つなんだそうな。
大体2年くらいに勇者が見出され、英雄の血を引く者を仲間に引き入れ最終的に魔王を倒すために旅をしていたところ、偶然この街に立ち寄り、ヒルデが英雄発見機に見出されてしまった……ってのが事の顛末らしい。
ベタベタな展開で進んでいくのね世界……。
まぁ闘技場のNo.2のヒルデを簡単渡すわけにいかないし、極端な話世界の命運を預けることになる勇者様ご一行の力も見てみたいっていうことで……。
「つーわけで、闘技場四大闘士のワシらと戦って、2勝以上したらヒルデは勇者パーティへ。出来なかったらしばらく闘技場の闘士として働いて貰うこと。こんな感じじゃな。」
「色々問題はありすぎるが、お国を救うために来た奴らを突き返す訳にもいかねぇのな……ヒルデはそれで良いのかよ。」
「心配ありがとうケント。でも大丈夫さ。ボクの居場所はココだ。負けるつもりなんて無い。」
「……私達は闘士。戦って意を示すべき。」
「ま、なるようになるじゃろ!カッカッカ!」
そういう訳で、勇者様ご一行と戦うことになった訳だ。闘技場スタイルで観客もいっぱい集めてイベント化してな。いきなり訪れたんだから、経済を回す糧くらいにはなってもらわないと釣り合わねぇよホント。
そんで……トップバッターは四大闘士としてドンケツの俺になるのは良いんだけど……
なんで俺がドラゴニュートとか言うバカ強種族と戦わねぇといけねぇんだよ!!!最強カードも良い所じゃねぇかクソッタレが!!!!
ファンタジーのお約束、ドラゴンってのはもちろん生き物の中でも最強談義に名が上がるくらいやべぇのに、なんでそのスペックが人間サイズに押し込められてんだよォ!
組み合わせは宣伝のために事前にクレ爺が決めてたんだとよ!!!ふざけんじゃねぇ!!!
もちろん抗議したさ、しまくったさ!お前がドラゴニュートの相手しろクソジジイってな!!!
「うーん……多分いけるじゃろ。ケントファイト!……今のちょっと韻を踏んでてちょっと面白」
思わずクレ爺の顔面に蹴りを入れた俺は……まぁその後色々あって、不満タラタラながらも闘技場に立ってるってわけ。あらすじ終わりだ。
★
現在の状況はというと……
「チィ!良く躱すな劣等種風情が!!!」
「一撃がでけぇんだよこの優等種がよ!!!」
何とか相手の攻撃を躱したりいなしたりして、勝機を探ってるってワケ。肉体スペックが違いすぎて辛い。転生特典の身体能力強化があっても、そんなのワケ無いくらいに、まさに文字通り力の差がありすぎる……!
救いなのは、攻撃が直線的な事と……ドラゴニュートの特徴らしい炎のブレスとか魔法を使ってこない事か……。
「これならばどうだ劣等種!!!」
シビレを切らしたのか、全力の右ストレートを俺の鳩尾に叩き込もうとして来た、チャンス!
「かかったなアホが!腕関節取ったァ!!」
いなしつつ腕の間接を外すサブミッションに以降!このまま力をかけて……あれ?
「……そりゃドラゴンの骨と筋肉は段違いですよねッ!」
「触るな汚らわしいッ!!!」
力任せに振り払おうとしてきた。その前に素早く距離を取ったつもりだったけど俺の右腕に掠っちまった……掠っただけでアザ出来てんだけど…痛ってぇ!
さてどうすっかな、触った感じ、俺が全力の一撃をクリーンヒットさせたとしても致命傷は与えられなさそうだ……なら、相手の勢いを利用してカウンターキメるしかないか……。
「……もういい。遊びは終わりだ。」
……とても不穏な雰囲気だなぁ。帰りてぇッ!
「主の前で醜態を晒す訳にはいかん。……消し炭にして終わらせてやろう。」
オイオイ……!魔力が炎という形になって、全身から立ち上ってきやがった……!しかもどこに格納してたのか、背中から翼も一対……!
「消えろ、劣等種。この私に本気を出させたことを誇りに思えッ!!!」
右手に炎の魔力が集まって行く。それは龍の形を型取り、その姿を巨大に……やっば、死んだかも俺。
「『ドラゴニック・インパクト』ォッ!!!!」
目の前に広がる炎の龍の顎。巻き込む範囲がデカすぎて躱すことも出来ねぇ……悪い皆、ヒルデ……俺、負けちまいそうだわ……。
☆ とある観戦者の少年side
その闘士は、僕の憧れだ。
たまに街の広場にふらっと現れて、僕を含めた子供たちと一緒に遊んでくれる。
まるで子供みたいに怒ったり笑ったり、僕らの目線に一緒に立ってくれる。
周りの大人は、その闘士のことをバカにすることもある。
でも本気でそうしてるわけじゃないんだ。彼が優しいことを知ってるから。
文句を言いながらも、武具店の店番をちょっとだけ代わったり。
不機嫌な顔をしながら、酒場の開店準備を手伝ったりしてる。
悪ぶってるけど、困ってる人は放っておけない。
そして、これが一番尊敬してるところ!
約束だけは絶対に破らない!
ケントは強いけど、派手じゃないし、たまに負けることもある。
だけど、勝つって約束した試合は何がなんでも勝ってくる!
だから……お願い。立ってよケント。僕と約束したじゃん……。
試合の前の日、あのドラゴニュートのお姉さんに、たまたまぶつかっちゃって、凄く怒られて……でも悪いのは僕だからごめんなさいってしてた。でも…
「これだから劣等種は嫌いなんだッ!……明日の我の相手もヒュームだったか。“どうせ軟弱なゴミ”だ。試合なんてやるだけ無駄というものだと言うのに……」
「と、取り消せっ!!!」
気がついたら、僕は叫んでた。だって悔しいじゃないか。僕の憧れが、目の前のドラゴニュートのお姉さんには眼中にすらないんだ。僕はいくら怒られても良いけど、ケントの悪口は許せなかった。
でも、あとは震えることしか出来なかった。怖くて動けない……。
「我に口答えするか劣等種が……仕置が必要なようだな……!」
手が伸びてくる……怖い……ッ。誰か、たすけ
「ちょーっと待てよ」
伸びてきた手を掴んで止める、見覚えのある男の人。
……やっぱり、ケントは僕の憧れだ。
「試合は明日だし、お前の相手はコイツじゃなくて俺だろうが。ガキ相手になんて殺気だよ。勇者様ご一行ってのはこんなに血の気が多いのか?」
「触るなッ!劣等種が!」
手を振り払って、ドラゴニュートのお姉さんがケントを睨みつける……これしか言えないけど…怖いよ…!
「随分と尊大な態度だなドラゴニュートってのは。人には名前ってモンがあんだよ、知らねぇのか?」
「黙れ不快だ口を開くな。名など呼ぶ価値も無い劣等種の分際で、我に意見をするとは何事だ。」
「おーおー怖いねぇ……」
「劣等種。試合の相手はどうやらお前らしいな……試合なんて待つまでもない……今ここで消してやるッ!」
え、えぇ!?ここで始まっちゃうの…?街での戦いはご法度なのに!?
「待って!……エル、行くよ。買い出しについてくるって言ったのはあなたでしょ?ホンッとうにごめんなさい!!!!ほら!!!行くよ!!」
怖いドラゴニュートのお姉さんに声をかけたのは、金髪の長い髪をしたお姉さんだった。高そうな鎧つけてて……強そうだったなぁ。
「ぁ、主ッ!違うのだ…これはその……っ!覚えていろ劣等種!!!」
……ドラゴニュートのお姉さんは、そのまま金髪のお姉さんに連れられて行った。……怖い人がいなくなったからかな、僕はその場にへたりこんだ。
「……大丈夫か?」
力無く、頷いた。……そして、涙が出てきて……。
「ぼぐ、ぐやじいんだ……あのひと、ケントがよわいっで……なにもじらないぐぜに……!」
言葉にならない声で、しばらく話してた。
ケントは黙って僕の話を聞いて……
「……よし!わかった!俺もあのトカゲ女にはムカついたしな……明日の試合ちゃんと見に来いよ。“勝ってくる”。約束だ!」
☆side out
極大の炎で焼かれた会場。そこに立っているのは、ドラゴニュートの戦士。エル・ドラグニル・フレア二世。
倒れ伏すのは、四大闘士が末席、ケント。
「所詮は劣等種。この姿を晒したことは恥ではあるが、勝利には代わりない」
その事実を認められない少年がいる。
「立ってよ……ケントォォォォォォォ!!!!」
会場には、無常にも声が響く。ケントが立ち上がることは無い。
闘士に背を向け、会場を後にしようとするエル。
『しょ、勝負ぁ』
審判が終わりを告げようとしたその時……
「ッ!殺k」
容赦ない右飛び膝蹴りが、殺気を感じて振り向いたエルの顔面へと突き刺さった。
「まだ終わりじゃねぇぞ……トカゲ女ッ!!」
バウンドしながら、壁へと激突するエル。
この時の光景を、闘技場観戦者のベテランは、ケントがどんな闘士かを交えて語った。
☆観戦者の男side
ケントがどんな闘士かって?そりゃお前、2つ名の通りよ。“不動”だよ、あいつは。
どういう意味かって?……お前さん。ケントの本気の試合見た事ねぇだろ。
確かに、アイツの戦績は四大闘士の中じゃ一番下だ。斧使いのクレ爺の弟子なのに、武器も使わねぇステゴロだし、調子悪い時はたまに負ける。
でもな、アイツ、勝つって決めた試合の時はすげぇのよ。
どんなに殴られても蹴られても、魔法ぶち込まれたってよ。ボロボロな身体に平気なカオ貼り付けて、何度でも、何度でも立ち上がるんだ。
ケント相手に勝ちを確信して油断する奴は多い。
この間のドデカイ試合もそうだったろ?ドラゴニュートの姉ちゃんの時だ。
その油断をついて見事な膝蹴り一発ッ!シビレたねぇ。久々に“不動”が見れるんだって。勝つって決めてた試合だったんだなありゃ。
え?結局その不動ってのはなんなのかって?
そりゃお前……
“心の在り方”が不動って話よ!
☆エルside
何故だ
何故だ何故だ
何故だ何故だ何故だ
何故だ何故だ何故だ何故だッ!
奴はなぜ立ち上がれるッ!
確実にドラゴニック・インパクトは直撃した筈だ……!
なのに何故だ!?何故私は劣等種に攻撃を受けた!?
何故我の攻撃が当たらない!?
何故……“奴の攻撃が我に効いている!?”
「……ッ!!!」
腹筋が奴の拳に貫かれ!蹴りを受けた腕は痺れ始めたッ!
ありえない……!奴は決して少なくないダメージを負っている筈なのに……ッ!
飛び膝蹴りもそうだ……奴と我の距離は離れていたにも関わらず一瞬で…相当な脚力が無ければ無理な筈……まさか……!
「正気では無いな劣等種!“物に触れるインパクトの瞬間に局所的に魔力を集中させ身体強化する”とはッ!」
「意外と賢いな優等種ゥ!」
本来、近接戦闘を行う際全身を魔力を全身にめぐらせて身体強化をする。これはドラゴニュートでも例外はなく、魔力量が膨大であるからこそより強大な身体強化をすることが出来る。
元々持っている強靭な肉体に、膨大な魔力による身体強化。これがドラゴニュートの身体能力の真実だ。
故に、肉体、魔力量で劣るあの劣等種の攻撃が効くことなど有り得ない。
しかしだ、あの劣等種は全身に張り巡らせている魔力を、拳や蹴りが命中する瞬間、魔力を局所的に集中させることによって爆発的に威力を高めている!
魔力を集中させているその瞬間は、全身を強化している魔力はほぼゼロに等しい……何かの間違いで我の攻撃が命中したその時、奴は尋常じゃないダメージを負う……!
だが……!
「おのれ……ちょこまかと……!」
「直撃しなけりゃなんとでもなるっての……!」
我の攻撃が躱され、いなされ、その殆どは奴まで届かない……ッ!
我の動きを予測しきっている……身体能力では我が完全に上回っているというのにこのもどかしさよ……!!
そして……これが一番気味が悪い……!
例えやつの予測を超えて
鳩尾に拳を入れても!
脚に蹴りを入れても!
奴からダウンを奪ったとしても!
何度も!何度も!すぐさま立ち上がるのだ、血反吐を吐きながら!気味の悪い笑顔を貼り付けて……ッ!
このままではダメだ。コイツは折れぬ。負けることは無くとも、これ以上醜態は晒せぬ……!
我を見出して下さったご主人様……勇者アリィ様を失望させる訳にはいかんのだ!
この強さしか取り柄の無い我が、苦戦する姿など見せられない、見せたくない!
「……遊びは終わりだ。」
翼を使い、上空へと舞い上がる。
ここからは、ドラゴニュートとしての力を存分に振るう。“今まではご主人様の「やりすぎ注意」という命令を守り加減していた”。
右手を天に掲げ、魔力を練る。炎の属性を持つ魔力を圧縮する。
高密度の魔力を拳に集中させ、空から地に向けて翼を使って加速して放つ奥義。
ドラゴニック・インパクトが範囲攻撃とするならば、こちらは最強の単体攻撃だ。当たれば間違いなく只ではすまない。
「喰らえ……ドラゴニック・クラッシュッ!!!」
速度は今までとは比べ物にならない。例え動きを予測されていたとしても、予測よりも速く動けば良いだけの話……!
ご主人様へ、今こそ勝利を捧げようッ!!!!
今、奴に攻撃が届く……これでッ!!!
————我の試合の記憶は、ここで途切れている。
目が覚めた時に聞かされたのは、我が試合に敗北したという、認め難い事実だった。
☆side out
格闘技において、最強の技とは何か。
手技、足技、組み技、絞め技……論争は絶えないかもしれない。
ケントは、それを返し技……カウンターであると結論づけた。
自身が相手よりも劣っていたとしても、相手の力が強大であればある程作用する。力の差を埋めることができる技術。
ケントは、このカウンターを使って勝利を収めたのだ。
エルが上空からケントに向けて急速に降下し、魔力を込めた拳によってケントを屠らんとした時、ケントはそれに合わせてカウンター技を仕掛けたのである。
具体的には、ドラゴニック・クラッシュによる衝撃で吹き飛ばないように、足を土魔法で固定。
そして、攻撃が命中する瞬間、エルの頭に自らの掌を“添えるように”突き出した。
結果、全速力で固定された棒に自ら突っ込むように、エルは全速力で固定されたケントという棒に激突してしまったのである。
自分の勢いをそのまま利用された形だ。
頭に衝撃を受け、エルはそのまま気絶。
ケントは見事、試合に勝利した……。
☆ケントside
「……右腕見事に折れてる。バッキバキ。可哀想。つんつん。」
「いででででで!!!!?!?正気か!?!?!?分かってるなら早く治してくんない!?」
折れてる腕つんつんするバカいるゥ!?居たわ!!!
まぁ、何とか試合に勝利した俺は医務室に運ばれ、四大闘士No.3である魔法の天才メイ・ディメスに回復魔法をかけてもらっていた。
いやーーー二度とやりたくないね!!!!一撃でも相手の攻撃クリーンヒットすれば即ゲームオーバーだったし……。
最初の……ドラゴニック・インパクトだっけか。アレも土壇場で土属性の魔法の障壁を展開したから致命傷をギリギリ避けれたけど、同じの来られたら魔力量的にアウトだったしな!!!綱渡りすぎぃ!!
右腕はカウンターの代償でバキバキだしよ……。何だよあのトカゲ女……衝撃をそっくりそのまま返して、かつ俺への衝撃は地面に逃がして軽減したってのにこのダメージだよ。勝利者の俺の方がボロボロ何だけど……。殺し合いなら負けてるな絶対。
「君は相変わらず泥臭いね……でも、美しかったよ。お疲れ様、ケント。」
俺を労うのは、英雄の血を引いてるらしい四大闘士No.2のヒルデ・ウィンベルト。今回の勇者パーティの目的とも言えるキザなエルフは、嬉しそうに俺に声をかける。
「本当にボロボロになってまで戦って……ボクが取られる事が嫌だったのかい?」
「あ、ごめん。その気持ち5割くらいしかなかった。というか戦ってる間忘れてたわ。必死だったし……。」
「つれないな……まったく、人の気も知れないで……」
膝抱えていじけ始めたイケメンエルフ(女)である。
そうやって談笑していると、3人ほど医務室に足を運んでくる奴が居た。
1人は闘技場オーナーであり、四大闘士No.1のクレ爺
1人は勇者パーティのリーダー。すなわち勇者である少女。名前は確か……アリィだったかな。
そして最後の1人は、先程まで激闘を繰り広げていたドラゴニュート。エルなんたらかんたら(忘れた)二世だ。
「……何の用だ。」
思わずぶっきらぼうに声をかけてしまう。
つーかもう立てるのかよドラゴニュート……タフすぎんだろ。
「……お気を悪くしてしまったなら、ごめんなさい。でも、どうしてもあなたに謝りたくて……本当にウチのエルがすみませんでした!!!!」
……何か全力で謝られたんだがどうすればいいのかなこれ。というかドラゴニュートも頭下げてるし……あの様子からは想像できない光景だなこれ。
「……我は、貴様を侮り、そこを突かれ、敗北した。……貴様は種としての力は弱い。……だが、その技術で我を圧倒してみせた。敗者となった今、我の価値は無いに等しい……」
めっちゃ凹んでらっしゃる……。
「……力を誇示せんとばかりに、貴様や、あの少年を愚弄してしまったこと、大変申し訳……なく……くっ……!」
「すげぇ謝るの嫌そうじゃん……」
「こら!エル!!!」
勇者パーティは俺が思ってるより愉快な連中なのかもしれない。
「……まーあれだ。これに懲りたら誰かれ構わず喧嘩売るのは止めろや。なんか凄い貴族っぽい名前だし偉いんだろ?だからほら……なんだっけ…ノーブラシースルーだっけ?そんな感じで寛大に生きろよ」
「それ多分ノブレスオブリージュ。ノーブラな上シースルーならただの変態。ケントはえっち」
「ワシは好きだけどノーブラシースルー」
「我にそのような屈辱的な……っ!?」
「ボクはしてあげても良いけどね……夜まで待っててケント?」
「あれ?今ツッコミ不在?聖剣でツッコミした方がいいですか……?」
……悪い奴らでは無いんだろうな。
「これだけ言っとくぜトカゲ女。アンタが最初から本気だったら俺は勝てなかった。というか勝ってるのに怪我してるの俺だし。……戦ってる時、アンタの攻撃からは“恐怖”が伝わってきた」
「!」
「何に怯えてんのかは知らねーけど……腹ァ割ってそこの勇者サマとかと話し合えよ。喧嘩でも良いけどな。仲間なんだろ。」
「…………」
黙りこくっちまったな。それだけこいつにとっては譲れない所なのかね……。
「まー色々解決したらもっかい闘技場こいや。それまでには俺も強くなって、お前をもう1回叩き潰してやるからよ!……あ、それとも俺の強さにビビっちまったかぁ~?」
「それは無いじゃろ、お主こんなバキバキの右腕してるし。つんつん」
「つんつん」
「バッ!?!?!?クレ爺にメイこの野郎ッ!!!いでぇぇぇぇぁぁぁ!!!!?!?」
ホントに覚えてろよ……!!
「……ふふっ。不思議な人達ね。」
この後まだ3試合も控えているってのに、戦うはずの奴らが談笑している光景ってのも変な感じだが……辛気臭いよりはまぁいいか。
「さて……そろそろ時間かのう。メイよ、準備せい!このまま二勝目をもぎ取るのじゃ!」
「……ん。負けない。ケントの仇は獲る。」
「死んでねぇし勝ってんだよッ!」
ったく……ヒルデを連れていかれないためには、俺たちはあと2勝しないといけない。今考えてみると自信満々な条件だよな。だって4試合の内半分勝てれば勇者パーティー側は勝ちなんだぜ。……まぁ妥当かもしれねぇけどな。メイもヒルドもクレ爺も……世界で見たって上位の強さを持つ奴らだ……さて、奴さん達はどう出るのかね……。
まぁ怪我してる俺はここで寝て過ごすけどなガハハハ!
「さて、ケントもいくぞっと。」
「クレ爺?俺病人なんだけど?何ベッド持ちあげてんの?クレ爺?ちょっとなんでそのまま移動するの?寝かせろって、オイ待て!!!せめて高度下げろ!!ドアと天井の間にある壁にぶつかアアアアアアアっ!!!!」
この先の試合の勝敗は、また語る機会があれば話すことにする。
この世界はファンタジーだ。異種族も沢山居るし、脅威になる生物も沢山居る。そんな世界ならではの理不尽だって腐るほどある。
だけど、心の在り方だけには、誰も干渉できねぇのさ。コレって決めたモンにを動かさない覚悟を決めれば……案外生きていけるんだ。
「あっすまん思いっきりぶつけてもうたわい。」
「痛ッ~~~!!!!!!!!!」
やっぱクソだな異世界ッ!!!!
ご察しの通り、作者は格闘系の作品大好きです。