此方は同人即売会エアブーにて開催された【統合世界生誕祭】のwebイベントにて掲載したものになります
「…珍しいな。ロジンが遅れてくるなんて」
いつものようにロジン-一応恋仲の彼女-を教室で待っていた。いつも通りなら授業が終わって帰る準備をしている頃には彼女は来ていた。だけど三十分経ってもくる気配はない。
「…何かあったのか?いや、優しい彼女のことだし誰かに頼みごとをされている可能性も…」
ガラッ
「ロジン、遅かっ」
「アリトン、まだ帰らないのか?」
「兄さん?何しに来たんだよ」
ドアのほうを見るとロジンではなく双子の兄であるアオトがいた。そしてその横にはフワフワと浮いている一人の女性が。確か…精霊のウンディーネと言ったか。
そしてウンディーネは僕を見た後に何かを疑問に思ったのか周りを見渡していた。
「あら?ロジンちゃんはどうしたの?もう教室は出たのだけれど」
「え?それは本当…ですか」
思わず敬語を使って聞いてしまうとウンディーネは優しく笑いながら僕の前に来た。
「うん、今日も楽しくお話させてもらったの。ロジンちゃん、今日もアリトンのことを嬉しそうにね…」
「え?ロジンが?」
「そうなの。あの子本当にアリトンのことがね」
「ウンディーネ、それよりもロジンの」
「ああごめん、つい。ロジンちゃんならいつも通り授業が終わってすぐに『アリトンの所にいきますね』って教室を出てるのよ。こっちに来ていないの?」
「いや、まだ来ていない…です」
僕の無理した敬語にウンディーネはクスッと笑いながら言葉を続ける。
「うふふ。無理に敬語じゃなくていいのよ?でもそっかぁ。探しに行ってあげないと。お手伝いしようか?」
「いや…大丈夫。自分で探しに行く」
「わかった。でも帰り道で見つけたら連絡するわね」
「僕も辺りを探しておくよ」
「ああ、二人ともありがとう」
そうして二人は先に帰っていった。
……ウンディーネは数多の人間から告白されてその全てに『興味がない」と断っていたあの堅物の兄さんを口説き落としたのだから素直にすごいと思う。
「さて…探しに行くか」
~数十分後~
「見つけた」
学校中を探し回り、様々な生徒に聞き込みをしてようやく居場所を突き止めた。薄い紫色の髪に水色の瞳、蒼の傘を持っている。間違いなくロジンだとわかった。
だけど彼女は『校舎裏』という絶対に行かないと断言できる場所にいた。
極めつけに三人の男に囲まれている。
それを見た瞬間に僕の中で何かがグツグツと煮えたぎるのがわかった。人生で一番気分が悪いかもしれない。近寄る脚に思わず力が入り、自分でも驚くほど速く彼女の元にたどり着けた。
「おい」
彼女の服に手をかけていた男を蹴り飛ばし、彼女の前に出る。
「ア、アリトン…ごめん」
「いや、僕の方こそごめん。すぐに気づいてあげられなくて。お前ら『僕の』ロジンに手を出したんだ。覚悟はできてるんだよな?」
「な…どういうことだ!早すぎるだろ!」
「しらねえよ!聞いてた話と違う!」
「僕を前に随分と余裕だな?」
意味の分からないことを喚いていたが、三人とも何かを思い出したかのように急に薄ら笑いを浮かべ、刀型のドライバを取り出してきた。
「かまうな!別に来たところで恐れる必要はないって話だろ!
そもそもこいつらは『水』だ!『風』の俺たちに…」
「水の僕たちが、なんだって?」
リーダーであろう男が動き出すより先に水刃を手に纏い首に食い込ませる。このまま手を引けば致命傷を負わせることができるだろう。彼女の目の前でそのようなことはしないが。
「いくつか聞かせてもらおう。嘘を言えばお前たちの安全は保障しない」
「な、何を勝手な…」
「心して答えた方がいい。僕は今、君たちの命に気遣えるほど冷静じゃないんだ。で、お前たちは何の為にロジンに手を出した?」
「っ……」
「そうか、だんまりか。仕方ない」
「っ、アリトン待って!殺しちゃ……」
手をほんの少しだけ引き僅かに傷を負わせ腹に蹴りを入れる。盛大に吹っ飛びそれを見て茫然していた残りの二人も同じように蹴り吹っ飛ばす。
「今回は彼女の優しさに免じて見逃してやる。二度と僕達の前に姿を現すな」
すると男たちはふらふらと立ち上がりながら逃げて行った。はぁ…とため息をつくとロジンが弱弱しく僕の袖をつかんできた。
「ん?どうしたんだい?」
「そ、その…ありがとうアリトン」
「気にしていないよ。彼女を助けるのは当然のことだから。でも一体何があったんだい?」
「え!?そ、その…ちょっと…」
「?まあ言いたくないならいいよ」
「う、うん。ごめんね」
「……」
強がっているのかどうかはよくわからなかったがロジンの眼に浮かんでいた涙を見て、らしくない考えが思い浮かんでしまった。だけど偶にはいいだろう。
僕は彼女を思いきり引き寄せた。
「え?ど、どうしたのアリトン?」
困惑しているロジンの背中に手を回し、更に近づける。
そして
口付けをした。
「!?!?!?」
「ん…いつもは君からだったからね。偶にはいいだろう?」
「え、う、うん…」
「さ、帰ろう」
顔が真っ赤なロジンの手を引いて帰路へ着いた。
~昨日 とある一室~
「え?」
この学園の絶対的なアイドル、その親衛隊の1人であるオリエンスは珍しく相談事を持ちかけてきたロジンの発した言葉に思わず思考を停止していた。彼女と一緒にいた同じく親衛隊の1人であるパイモン、そして絶対的なアイドル(と勝手に言われている)クロウリーも同じ顔をしていた
「だ、だから……本当にアリトンって私のこと大切に想ってくれてるのか…時々心配になっちゃって。私、いつも迷惑かけちゃってるし。それに…」
「うーん、アイツに限ってそれはないと思うんだけど。どう思う?」
「ああ、私もロジンの考えすぎだと思う」
「私も同意見だな。それにアリトンは大事にしすぎるタイプだろう」
「で、でも、アリトンいつも表情一緒だし、私といても楽しくないのかなって…」
不安そうな声と顔をしていたロジンとは裏腹にオリエンスは深いため息を、パイモンとクロウリーは苦笑していた。そしてオリエンスはロジンに向き直り口を開く。
「逆だよ逆。あいつはね、ロジンといるのが楽しいし嬉しすぎるから、頬を緩めないよう我慢してんの。あいつ曰く『かっこ悪い』とか思ってるらしいけど。それに独占力も相当強いからね。たぶんロジンが思ってる以上に大事に想われてるよ?」
「そうなのかな。でも…」
「そんなに気になるなら確かめてみる?」
「確かめるって…どうやって?」
「けひひ…任せてよ。手っ取り早い方法があるから」
「おい、何しようとしてる」
「だいじょーぶ、ロジンがちょっと怖い思いをしちゃうだけだから。それさえ我慢してくれたらきっとアリトンの想いを知れるよ?」
パイモンとクロウリーも何時ものことと思い止めようとしていなかった。それはオリエンスが親しい人間を傷つけるような真似はしないという信頼から来るものだったからに他ならない。ロジンもそれを知っていたからか、拒否をしなかった。
「うん…お願い。オリエンス」
「お願いされましたぁ。それじゃ明日の放課後、教室で待っててね」
「う、うん」
「確かに少し怖かったけど…貴女の言ったとおりだったよオリエンス。ありがとう」
「何か言ったかい?」
「何でもないよ。それよりもありがとうアリトン。とても嬉しかった」
「感謝されるようなことはしていないよ。その…彼氏としての当然の責務を果たしただけだ」
そう言う彼の顔はどこか赤かった。それはきっと夕日のせい、というわけでは無いのが分かり、それがとても嬉しかった。
「ふふ…アリトン」
「なんだい?」
私は精一杯のお礼と、彼への愛を込めて言葉を紡ぐ。
「私は、貴方と出会えたこの人生が、細孔の現世だと、確信できる。だから……」
そうして今度は私から彼に抱き着いた。
「これからもよろしくお願いします、アリトン」
「…ああ、僕もだよ、ロジン」
そしてもう一度、口づけを交わした。