ロックはその日、とある惑星にいた。
静寂に包まれた地表は、岩だらけで苔すら生えていない。
「ここもか」
見上げると空は暗く、星々はほんの僅かにしか見えない。
ロックは、ため息をつくと、諦めて宇宙船に戻ることにした。
宇宙船を飛ばし、この星系の他の惑星をセンサーで監視するも、目当ての物は見当たらない。
落胆した彼は、ハイパードライブで更に遠く他の星系へと旅立った。
宇宙は、死滅しようとしていた。
銀河は死を迎え、連邦の人々は遠く別の銀河へと旅立って行った。
その混乱の最中に多くの人々と出合い、別れ、ある時は敵対して戦ったこともある。
別の銀河に散った人たちと再び出会い、一緒に土地を開墾し、農業を行ったこともある。
やがて新たな政府が形成され、様々な事件や戦争もあった。
しかし、長い時間を経て、再びその銀河も死を迎えた。
そんな事を繰り返しているうちに、次第に人間に出会うことも少なくなった。
ロックはそれから長い長い旅に出た。
自動メンテナンス可能な最新の宇宙船を使い、宇宙の端から端まで旅をし、他の人間がいないか探し続けた。
そうしてせっかく出会った人間も、彼にとってはあっという間に寿命を迎え、居なくなった。
寂しいと感じる様になって久しい。
かつては、人里離れた所に好んで住み着き、人を避ける生活が多かったのにもかかわらず、今は他の人間に会いたくてたまらない。
それから、数万年、数億年の昼と夜を数えて、やがてそれが無意味だと感じて数えるのをやめた。
宇宙は暗く、瞬く星はほんの僅かになっていた。
その星を目指して旅をするのもやめてから随分立つ。
どうして自分は死ねないのだろう?
そう自問自答しても、答えが見つかることはない。
わかっているが、そう思わずにいられなかったのだ。
やがて、宇宙の果てが迫るのを知った。
宇宙の果ては空間が曲がっており、辿り着く事は永遠に無いのだが、その距離がどんどん小さくなっているようだった。
宇宙は高密度に圧縮され始めていたのだ。
遂に、圧縮された宇宙に押しつぶされ、乗っていた宇宙船は役に立たなくなった。
ロックは、鏡の中で冬眠する様に過ごすしかなくなった。
それから更に数万年、数億年が過ぎた。
鏡も維持出来なくなり、彼は肉体を失った。
それでも、彼は死ねなかった。
意識は真っ暗で何も無い虚空を飛び、これまでに出会った人々の記憶を辿った。
宇宙は、間もなく完全に死滅する。
高密度に圧縮された宇宙は、このまま消滅してしまうのか、それとも……。
彼の意識は、やっと死ねるという安堵感に包まれていた。
……
大自然の中、自宅を追い出されていた一人の青年は、その報を受けると、喜び勇んで家に飛び込んだ。
産婆さんとその補助の女性とがにこやかに彼にそっと囁いた。
「男の子ですよ」
喜び勇んで妻のいる部屋に飛び込むと、彼女は小さな赤子を抱いていた。
小さな小さなその赤ん坊は、その夫婦の幸せの象徴だった。
やがて時が過ぎ、その赤子の男の子は成長し、五歳の誕生日を迎えていた。
綺麗なエメラルドグリーンの髪と瞳を持つ男の子は、優しい笑顔が印象的だった。
近所に住む、同世代の少女が彼に誕生日プレゼントを渡した。
二人は、幼馴染で大自然の中、時に喧嘩をして、時に仲良くしながら育っていった。
その男の子が十歳を過ぎた頃に異変は起こった。
そうか……。
ロックは、自分が死ねなかったのだと気が付いた。
過去の記憶を呼び覚ました彼は、突然大人びてしまい、両親も幼馴染の少女も、変わってしまった彼を、心から心配していた。
きっと、宇宙は生まれ変わったのだろう。
そうロックは結論づけた。
今度の人生でも、不老不死の超能力者かどうかはまだ分からない。いっこうに超能力の発現の兆候は現れなかった。
普通の人間として、短い人生を全う出来たら。
長い年月、それを夢見てきた。
平凡な人生を送ること。それが彼が辿り着いた心から渇望する希望だった。
時は流れ、ロックは、いつしか青年と呼べるまでに成長していた。
幼少の頃から彼を慕う幼馴染の少女は、どことなく、いつか彼が愛した女性に似ている気がしていた。
人を愛し、子を生み育て、老いて人生を全うする。
そう出来たら、どんなに良いだろう。
彼は、手のひらに浮かべた小さな鏡をくるくると回した。
それを掴むと、これからの人生に思いを馳せた。
その鏡をペンダントにした彼は、幼馴染の少女にプレゼントした。
そして、ずっと好きだったことを告白した。
草木の茂る大地に腰を下ろした二人は、仲睦まじく寄り添った。
これからの永遠の日々を思うと、ロックの心は少し痛んだ。
それでも、今、この時を大切に生きよう。
そう、ロックは誓った。
END
超人ロックの短編二次創作小説です。