超人ロックの二次創作小説です。※以前の公開版から若干修正を加えました。※2026/6/8
ロックはその日、とある惑星を訪れていた。
静寂に包まれた地表は、岩だらけで苔だけが生えている。
恐らく、探していた生命反応の正体は、この苔だったのだろう。
「ここには何もない」
見上げると空は暗く、星々はほんの僅かに瞬いている。
彼は、ため息をつくと、重い足取りで宇宙船に引き返した。
落胆した彼は、ハイパードライブで更に遠く、他の星系へと向かった。
宇宙は、死滅しようとしていた。
ある日、とうとう銀河は死を迎え、連邦の人々は生き延びるため、遠く他の銀河へと旅立った。
彼もまた、その旅をともにした。
既に記憶の彼方となってしまった多くの人々との出会いや戦いに身を投じた日々を思い起こした。
新たな地にたどり着いた人々と再び一緒に土地を開墾し、農業を行った。
様々な事件や戦争もあり、何度も戦いに巻き込まれたこともあった。
同じことの繰り返しだ。
きっと、これからもずっと、これが永遠に続いて行くのだろう。
そう、思っていた。
しかし、長い長い年月を経て、再びその銀河も死を迎えた。
気が付けば、次第に人に出会うことも少なくなっていった。
文明や生命も死を迎え始めていたからだ。
それから彼は、長い長い旅に出た。
生命や文明がまだ残っているところがあるはずだ。
そう、思っていた。
最新の宇宙船を使い、それこそ宇宙の端から端まで旅をし、他の人間がいないか探し続けた。
そうしてせっかく出会った人々も、彼にとってはあっという間に寿命を迎え、いなくなってしまった。
何度、そのようなことを繰り返しただろう?
かつては、人里離れた所に好んで住み着き、人を避ける生活が多かったのにもかかわらず、今は他の誰かに会いたくてたまらない。
どうして、みんないなくなってしまうんだ?
彼は、寂しいと感じるようになった。
それから、数万年、数億年の昼と夜を数えて、やがてそれが無意味だと感じて数えるのをやめた。
宇宙は暗く、瞬く星はほんの僅かになっていた。
その星を目指して旅をするのも、かなり前に諦めた。
どうして自分は死ねないのだろう?
そう自問しても、決して答えが見つかることはない。
わかっているが、そう思わずにいられなかった。
やがて、宇宙はとても狭くなった。
宇宙は高密度に圧縮され始めていたのだ。
そして、圧縮された空間に押しつぶされ、乗っていた宇宙船は何の役にも立たなくなった。
彼は、宇宙船を捨て、自ら作った鏡の中で、体を丸くして胎児のように眠りについた。
それから更に数万年、数億年が経過した。
もはや鏡も維持できなくなり、彼は肉体をも失った。
それでも、彼は死ねなかった。
自意識を失うことができたなら、どんなに幸せだっただろうか。
彼の意識は、いつしか宇宙と一つになっていた。
真っ暗で何も無い虚空を、彼だった存在は漂い続け、これまでに出会った人々の記憶の走馬灯がぼんやりと浮かんでは消えた。
ああ。
やっと終わるんだ。
間もなくこの宇宙は完全に死を迎えることを彼は感じ取っていた。
とても長かった。
もう思い残すことは何もない。
高密度に圧縮された宇宙は、このまま消滅してしまうのか、それとも……?
どうなるかなど、誰にもわかりはしないだろう。
それを思考する知性も、もうこの宇宙には存在しない。
彼の意識は、やっと死ねると思うと、大きな安堵感に包まれた。
……
大自然の小さな村の中、自宅の外を行ったり来たりしていた一人の青年は、その報を受けると、喜び勇んで家に飛び込んだ。
産婆さんたちが、微笑んで彼にそっと囁いた。
「男の子ですよ」
喜び勇んで妻のいる部屋に飛び込むと、少しやつれた彼女は、その腕に小さな子を抱いていた。
青年は、妻と二人、うれし涙を流した。
恐る恐る、赤ん坊を妻から受け取った青年は、その小さな命と奇跡に、激しく心を躍らせていた。
そして、その小さな小さな赤ん坊は、夫婦の幸せの象徴となった。
やがて時は過ぎ、その赤ん坊の男の子は成長し、五歳の誕生日を迎えていた。
綺麗なエメラルドグリーンの髪と瞳を持つ男の子は、優しい笑顔が印象的だった。
近所に住む、幼馴染の少女が彼に誕生日プレゼントを渡した。
男の子の笑顔はとても眩しくて、そして、とても幸せそうだった。
二人は、大自然の中、時に喧嘩をして、時に仲良くしながら育っていった。
そんな二人を、夫婦は微笑みを浮かべ、かけがえのないその営みを守っていかなければ、と思っていた。
この幸せが永遠に続くことを祈って。
しかし、その男の子が十歳を過ぎた頃だった。
とうとう、その日がやってきた。
男の子は、ある夜、その夢を見た。
夢の中で宇宙に浮かんでは消える走馬灯は、彼にその残酷な記憶を呼び覚ますのに十分な情報を与えた。
まさか……!
目覚めた男の子は、びっしょりと汗をかいていた。
ベッドから抜け出すと、ふらふらと洗面所に向かい、自分の顔を鏡で確かめた。
そこには、夢で見た緑の髪の少年、ロックがいた。
大きな音に驚いた夫婦は、慌てて洗面所に駆け付け、そこで青白い顔をした彼がその場に倒れているのを発見した。
それから、大きな騒ぎになっているのを彼は意識の外でなんとなく感じていたが、意識は混濁していった。
その男の子--ロックは、数日間眠り続けた。
その間、体は眠っていたが、意識は絶望の中で自問自答を続けていた。
どうして!?
やっと死ねたはずなのに……!
……また、繰り返すのか?
そう思うと、彼の心は絶望に引き裂かれた。
ロックが意識を取り戻すと、ベッドのそばに、両親がいた。
「ああ! 意識が戻った!」
「良かった! 本当に良かった!」
ロックは、抱きしめてくる二人を身動きもせず、されるがままとなった。
しかし、記憶を取り戻してしまった以上、どんな顔をしてよいかわからず、戸惑いの中、表情はこわばるばかりだった。
話を聞きつけてあとからやってきた幼馴染の少女も、顔をくしゃくしゃにして泣きながら喜びを伝えた。
それからしばらく、ロックは誰とも会わずに過ごした。
感情を表さなくなったロックのことを、両親も、幼馴染の少女も、ずっと心配しているのは痛いほどわかっていた。
だが、考える時間が必要だった。
……おそらく、宇宙は生まれ変わったのだろう。
過去に、多くの親しい友人がいた。
とても愛した大切な人がいた。
しかし、やがては、その短い命を燃やし尽くし、自分の前から去っていく運命だった。
彼らと同じように、老い、人生を全うできたなら。
そう、考えたことも数限りなくあった。
普通の人間として、普通の短い人生を全うする。
長い年月、それを夢見てきたのではないか?
両親。幼馴染の少女。村の親しくしてくれる人たち。
彼らと、もしかしたら、生涯ともに過ごすことができるかもしれない。
それがロックが永遠の日々を過ごして辿り着いた、心からの渇望だった。
今度の人生でも、不老不死の超能力者になるかはまだ分からない。
今のところ、超能力の発現の兆候はない。
ロックは、そんな希望を胸に、再び以前のような笑顔を徐々に取り戻していった。
あれからすっかり大人びてしまい、両親は相変わらず心配してくれていた。
しかし、幼馴染の少女は、彼の新たな魅力に気が付いたようで、淡い恋心を育て始めていた。
時は更に流れ、ロックは、いつしか青年と呼べるまでに成長していた。
幼少の頃から彼を慕う幼馴染の少女は、どことなく、いつか彼が愛した女性に似ているような気がした。
人を愛し、子を生み育て、老いて人生を全うする。
そうできたら、どんなに良いだろう。
彼は、手のひらに浮かべた小さな鏡をくるくると回した。
それを掴むと、これからの人生に思いを馳せた。
また同じ繰り返しになるのか? それは自分次第ではないのか?
その鏡をペンダントにした彼は、幼馴染の少女にプレゼントした。
彼女の生ある限り、守り続けると思いを込めて。
そして、ずっと好きだったと、彼女に告白した。
草木の茂る大地に腰を下ろした二人は、仲睦まじく寄り添った。
再び始まる永遠の日々を思うと、ロックの心は少し痛んだ。
それでも、今、この時を大切に生きよう。
そう、ロックは心に誓った。
END
超人ロックの短編二次創作小説です。※以前の公開版から若干修正を加えました。※2026/6/8