ある場所で、トナカイ族と呼ばれる人達が集団で暮らしていました。
その人たちは穏やかに野草やキノコ、動物を狩って暮らしていました。
でもその人の中でもいつも笑われている少女がいました。
名前をルドルフといいます。
その少女は髪は茶色の髪に白のメッシュ、そして頭頂部の左右には角を模したかの様な二つの盛り上がりがあります。
しかしその少女が周りと違う点が一つだけありました。
その少女は鼻が赤く光っていたのです。
きっと貴方も彼女を見れば"光ってる"と思うことでしょう。
「やーい、お前の鼻は真っ赤っか!!!」
今日も数人の少年少女に囲まれて笑われています。
中には石を投げている子だっています。
その少女は何も言えずに涙と共にただうずくまる事しか出来ませんでした。
「どーせ、お前にはサンタさんのそりを引く役は任されないだろうな!」
「鼻が赤い子が引いてるのを他の人に知られたらサンタさんがかわいそうだわ」
口々にその少女に向かって言い始めました。
その村にはある風習がありました。
毎年12月24日にはある遠い場所からサンタクロースがやってきて、この村のトナカイ族を一人選び、クリスマスイブにある星の子供たちにプレゼントを渡す為のそりを引く大役を任されるのです。
その村の人たちはサンタさんのそりを引くことが大変な名誉で小さいころからの夢でした。
赤い鼻の少女もその例に漏れず、サンタさんが自分を選んでくれることを夢見ていました。
今年からソリを引ける年齢になったのです。
「任せてくれるもん……」
蚊の鳴くような声で少女は言いました。
少女としてはただ涙を抑え自分を鼓舞するために無意識に出たものですが、不幸なことに周りの子たちに聞こえてしまいました。
「はあ?お前なんか無理だから」
「そうそう、調子乗んな」
さっきまでの罵声がより一層強くなったのを少女は感じました。
少女は耐えることしか出来ませんでした。
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ついに待ちに待ったクリスマスイブです。
心做しか村の人達も浮き足立っているように見えました。
家族と少しばかり豪華な夕食を食べると、村の中心にある広場に行きました。
そこでサンタさんを村の人達で迎えるのです。
「おい、お前来たんだな」
「無駄なのにね」
「どーせ選ばれないんだから家帰れよ」
いつもの事です。少しでも可能性があるなら彼女は行かない訳には行きませんでした。
するとシャンシャンと鈴の音が聞こえました。 サンタさんの来る合図です。
「サンタさん、ようこそいらっしゃいました。私達の村へ」
「やあ、どうもありがとうございます」
村長が前に出て挨拶をしました。
彼女はサンタを一目見て"この人のソリを引けたらどれだけ幸せだろうか"と思いました。
「それで今年のソリを引くのは誰にしましょう。うちの息子は中々に優秀ですよ」
「私の娘もきっとサンタさんのお役に立てると思います」
「ぜひ私を選んでください」
村の人達は口々に言い始めました。
少女は言うことができませんでした。やはり鼻が光っている私は選ばれないだろうと思っていたからです。
そう思うと涙が溢れて来て周りの人にバレないように俯きました。
サンタは立派な白い髭を指で擦りながら吟味しました。
「今年は貴方に任せることにしましょう」
誰かに決まったようです。誰だろうと目を擦り顔を上げるとサンタさんの指が真っ直ぐ私を刺していました。
村の人達は驚いた顔で私を見ていました。
「サンタさん、お言葉ですがあの子は鼻が光ってます。貴方がバカにされてしまいますよ。もっと良い人はいます。考え直してください」
村長が慌てたように言いました。サンタさんは"そうか"と頷きました。
「でも私は変えるつもりはありません。あの子にします。」
サンタはそう言い私の傍まで歩いてきました。
「実はプレゼントを配る時は暗い夜道を通るんだ。その明るい鼻で私のソリを先導してくれないか」
「はい、私が役に立つなら」
少女の鼻が役に立つ時があるなんて彼女は思いもしませんでした。
「赤鼻のトナカイ……」
誰かが呟くように言いました。そうすると次々に"赤鼻のトナカイのルドルフ、バンザイ!"と言い始めました。
村の人々が次々に大きな声で歓喜を上げ始めたのです。
悪い気持ちはしませんでした。初めて村の人々に受け入れられたのです。少女は大変喜びました。
赤鼻のトナカイのルドルフ!きっと歴史に残るでしょう!
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サンタと少女はずっと長い間二人でしていたかの様に息がピッタリ合いました。
暗い夜道は彼女の赤い鼻が優しく照らしてくれました。
サンタの役に立てているという満足感を彼女の身体いっぱいに満たされていました。
なぜなら悪口を言われてた自分が感謝の言葉を言われるようになったのです。
プレゼントを子供達に運ぶ途中、少女はサンタに問いかけました。
「サンタさん」
「どうしましたか?」
少女の先程とは違う雰囲気にサンタは疑問が浮かびました。
自分が何かしただろうかと考えましたが、思い当たる事はありません。
「サンタさんのお陰で私が虐められなくなりました。悪口を言う人さえいなくなりました。逆に皆が賞賛をしてくるくらいです」
「そう、それは大変でしたね。それが無くなって良かったですね」
サンタは嫌な予感がしました。彼女の周りを重圧感のある空気の様な物が包んでいます。まるで鉛を吸っているかのようです。
今すぐそりを捨てて逃げてしまいたいくらいです。
しかしサンタを待つ子供達の為にそれは許されることではありません。仕方なく手綱をしっかりと持ち直しました。
「サンタさんの事は私は命の恩人とさえ思ってます。貴方の為なら私はなんだってします。命だって捧げられます」
彼女は辞書から言葉を探し出すみたいに五秒ばかり間を置きました。サンタにとっては人生で一番長い五秒でした。
「これからずっと私だけを選んでください。その代わり貴方の望みは何だって叶えます。貴方の傍に私を居させてください」
彼女の視線が蔦のように自分を縛る様な感覚をサンタは覚えました。
サンタは彼女を選んだ事を激しく後悔しました。
サンタには明るい鼻は暗い道を進む上で便利だろうという考えしかなかったからです。
しかし、断る訳には行きませんでした。決して気迫に負けたわけではありません。仕方なくサンタは了承をしました。
それからというものサンタは手綱を握っているのは自分のはずなのに、逆に彼女に手綱を握られているような気分でした。
何故ならサンタの家にまで彼女は侵略をしてきたのです。甲斐甲斐しく世話を焼き、片時もサンタの元を離れない彼女はサンタは恐怖でしかありませんでした。
これからもサンタと彼女は沢山の子供にプレゼントを届けることでしょう。
そして枕元のプレゼントを子供は幸せそうに開けるでしょう。
サンタは願っています、貴方達に幸せが訪れますようにと。
めでたしめでたし。