落第騎士の備忘録   作:悪事

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 エイプリルフール投稿です。


 魔剣秘聞、七つの秘剣と七大魔剣。

 導入編、すごく短い。



十八話

 

 汝、死の門をくぐる者。

 

 

 ──修得剣技、未完、否、完了

 

 ──身体機能、途上、否、完成

 

 ──心理構造、未だ至らず、否、到達

 

 ──運命因果、不確定、否、臨界

 

 

 青年は堕ちて、墜ちて、落ちて、底に沈む。

 

 身体はどうにも動かない、轟轟と吹き荒れる嵐の気流にかき混ぜられて、青年は此度だけの形を得る。その形はどこまでも未熟であり、なによりも完成された矛盾の造型だった。

 

 

 汝、未だ至らぬ落第騎士(ワーストワン)

 

 汝、己が何者であるかを識った無冠の剣王(アナザーワン)

 

 汝、七星の頂に登り詰めた七星剣王(しちせいけんおう)

 

 汝、切り拓いた運命の果てを臨む剣神。

 

 

 

 強さを渇望するための動機を装填。

 

 己を認めさせるため、親しき同胞らがため、これまで戦ってきた好敵手たちのため、剣の道を探求するため、妹の誇りたらんとするがため。

 

 愛する者(ステラ)の隣に立ち続けるため──。

 

 

 青年は奈落の底に到達すると、風にかき消されながらも鮮烈に聞こえてくる託宣を受けた。

 

『汝、輝ける恒星に手を伸ばす者。完成され、未だ完了されぬ剣理なれど、それは魔剣に至る可能性を持つと判断──。征け、お前ならば掴むことが出来る。魔剣の全てを──』

 

 

 

 

 そうして、少年は思い出す。

 

 自分の名前、自分が何者たるかを。

 

 

「──僕は、黒鉄……黒鉄一輝。剣によって、運命を切り拓く魔導騎士だ」

 

 

 彼は、閉ざされていた目を開いた。

 

 此処はどこだろうと辺りに神経を尖らせる。そこは瓦礫の山、一面が朽ち果てた世界で構築されていた。ただ、周囲に存在する瓦礫群が明らかにおかしい。

 

 瓦礫と化しているのは、自身の通う学び舎、破軍学園の校舎。

 

 あの熱い夏を戦い抜いた七星剣武祭のリング。

 

 ステラの故郷、ヴァーミリオン皇国の居城と城下の街並み。

 

 比翼のエーデルワイスが居を構えるエーデルベルクの霊峰。

 

 死闘、巨悪としのぎを削ったクレーデルラント首都、リュシリール。

 

 落第騎士にとって最後の決戦の舞台となった大教授(グランドプロフェッサー)、カール・アイランズの研究所。

 

 

 すべて、悉くが瓦礫の山に埋もれていた。

 

 砕かれ、えぐられ、切り裂かれ、全てが残骸に成り果てている。

 

 混乱の中、一輝は立ち上がる。己の最愛の好敵手、ステラを探して。

 

 

 ああ、今日という日は自身にとって最も幸福な、あの花嫁と共に歩く結婚式の──。

 

 今日は七星剣武祭に優勝した輝かしい──。

 

 学内最強、あの雷切、東堂刀香から勝利をもぎとった──

 

 選抜戦、第一、因縁ある桐原静矢に勝利した──

 

 

 “全てが是であり、否である”。

 

 

「誰だ!!」

 

 声のする方に振り返り、一輝は身構える。この記憶が混濁した状況、自分を呼び寄せた者は誰なのかと。

 

 振り返った先、そこには一本の朽ち果てた野太刀が突き刺さっていた。黒鉄一輝はその霊装(デバイス)を知っている。あれこそは兄、黒鉄王馬の愛刀、“龍爪”だった。

 

「どうして、兄さんの霊装(デバイス)が……いや、そもそも此処は一体?」

 

 

 近づくたび、一輝は突き立った龍爪の過酷な戦闘の痕跡に震え慄く。刃は見る影もなく毀れ、柄には罅が入り、切っ先は折れている。だというのに、この野太刀には凄まじい圧力を感じさせられた。

 

 野太刀に触れようとした瞬間、一輝は己が何を為すためにこの破滅の果てに呼ばれたのかを知る。情報が脳に流れこみ、戦闘技能と精神が最適化される。

 

 

 此処は戦場、遠く別たれた可能性の世界で生き抜いた黒鉄王馬が最期に構築した世界、名を封絶(ふうぜつ)

 

 

 

 剣技の果て、剣理の窮極に至った一人の魔剣を祀る神域である。

 

 此処に召喚された者は、最も強く完成しながら、最も可能性に満ち足りた状態で具象される。それこそ、落第騎士や無冠の剣王、七星剣王でありながら剣神と謳われる記憶を持つ黒鉄一輝の正体。

 

 ようするに、今此処に立つ己は本来の己の影法師なのだろう。だが、影であっても偽物ではない。此処に在るのは最も強さを追求した形を持つ最強の黒鉄一輝。戦うための理由や動機は、生まれ落ちた瞬間から既に装填されていた。

 

 帰らなくては……。

 

 この神域に祀られる“魔剣”と呼ばれる存在。それを倒せば、僕は元の世界に帰還する。もっとも、戻るのが結婚式の当日か、七星剣武祭直後か、選抜戦の真っただ中か。それは判別付かないが。

 

 それでも帰りたい、と望む声が魂に刻まれている。

 

 

 瓦礫を踏みしめ、一歩ずつ黒鉄一輝は歩を進める。そびえ立つ瓦礫の山の中腹に来たところで、ある見慣れないものに気が付いた。

 

 

 黒い鳥居、注連縄まで漆黒に染まった神社仏閣に於いて内と外を区切る器物が中腹付近から瓦礫の頂上を囲むようにぐるりと設置されていた。ぶるり、と一輝は言い知れぬ恐怖を覚えた。この先に待つのは、一体何者なのか。

 

 それでも。

 

 一輝は黒塗りの鳥居をくぐる。

 

 この身に、記憶、魂に刻まれた戦いと愛しい人の記憶を支えに一輝は着々と瓦礫の巨峰を登っていく。しばらくして、一輝は瓦礫の頂、そこに何者かが佇んでいるのを見つけた。あれが、自分が対峙しなくてはならない相手。

 

 何者だろう、と足を急かし、進んでいくと彼は息を呑んだ。

 

 瓦礫の頂、積み上げた破滅と終焉の上に坐していたのは一人の剣客。明らかに一輝がこれまでに出会ったことが無いほどの底なしの存在感を放つ魔の具現。しかし、それ以上に、何よりも看過できない事象を一輝は目にする。

 

 瓦礫の頂に坐す存在を煌々と照らす漆黒の太陽。その中心には、禍々しい鎖に捕らえられた最愛の騎士、ステラ・ヴァーミリオンの姿があった。四肢を漆黒の鎖に縛られ、眠るかのように瞳を閉ざす竜の乙女。

 

「ステラッ!!」

 

 黒鉄一輝の思考が一気に燃え盛る。熱を持った思考のまま彼が駆け出した、その時、一輝はこの封絶の頂に祀られた人影が何者であるかに気づいた。

 

 

 見慣れた、人影だった。

 

 黒鉄一輝と似たような黒髪、黒鉄一輝とは少し違う垂れ目がちな双眸、よく鍛えられ均整の取れた肉体。

 

 僅かながら差異こそあれ、黒鉄一輝は理解する。いや、理解せざるを得ない。

 

「──君は」

 

 

 

 

 おや?どうしたことだろう、この封絶に踏み込めるだけの力を持った実力者が未だいたなんて。少なくとも運命を観測できるだけの一定の力を持った存在はこの宇宙、いや可能性から一掃してしまったものと考えていたが。

 

 驚きながらも久しぶりに声を掛けられたことに気づいた絶対者は、瓦礫山脈の麓から登ってきた相手に目を向ける。

 

 その相手を見て、“黒鉄一輝”はなんと、という素振りで目を見開く。

 

「君は──」

 

 

 

「……黒鉄、一輝、なのか?」

 

「あ、黒鉄一輝だね?」

 

 

 

 

次に投稿するかもしれないエピソードについて

  • ラスベガス水着剣豪七色勝負
  • 本作一輝VS原作一輝
  • エーデルワイス戦
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