落第騎士の備忘録   作:悪事

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書きだめ分、終了。
稚拙な本作を見ていただき、ありがとうございました。


三話

 

 

 

 今にして思い返すと、それは不思議なことだった。剣しかとりえがなく大して頭の回らない自分からすると意味不明だと口にするくらい不思議なことがあったのだ。かつて自分の親戚たちはお世辞にも自分を好いているとは思えない態度を取り、自分をいないものと扱う者や面と向かって痛烈な罵倒をしてくる者もいた。

 

 実際、黒鉄家に生まれながら騎士としての才覚を持たなかった己に言い返す余地はなく、ただ黙って聞いていた。それを生意気と取る人は更に声を荒げたが事実である以上、反論は出来ず僕は沈黙を貫いた。

 

 

 しかし、あるとき親戚の子供たちが自分を遊びに誘ってくれたのだ。いわく学んだことを実際に訓練したいと、今まで無視されてきた僕にとってそれは始めての親戚との交流だった。それは今まで無視され続けていた自分にとって喜ばしいことだった。

 

 どれくらい喜んだかというと、初めて親戚の遊びに誘われた日の夜は楽しみで眠れなかったくらいだ。

 

 あくる日は本当に楽しかった。一緒に遊んだ子供たちのことはもう忘れてしまったが、その日の霊装を使ったチャンバラは楽しかった。ボクは霊装を三分くらいしか使えなかったから途中から竹刀でチャンバラしたけど、やっぱり楽しかった。

 

 でも、次の日からなんと大人や武術指南役の人たちまで遊びに加わるようになった。別に遊び相手が増えるだけで特別、困ったようなことはなかったが分別のある大人が遊び終わったら、人目もはばからず泣きじゃくっているのが本当に不思議だった。

 

 

 

 ああ、不思議でたまらない。これはある種の謎だ。

 

 どうして、彼らはいつも自分を“勝たせてくれた”のだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 意識が浮上していく。真っ暗な深海から海面に上がるかのごとく意識が鮮明になっていくのを彼女は、ぼんやりとだが確かに感じ取った。それは起床のときのようにも思え、また蘇りのようにも思えた。

 

 目を開けると、そこには知らない天井があった。周囲は白のカーテンがあり、ここが医療関係の施設だということを伺わせる。しかし、ステラは自分がどこにいるのかが分からないという状況に陥っていた。自分はいったい、どうしてこんな場所にいるのか。

 

「……ここ、どこだっけ?……」

 

「目が醒めたか」

 

 

 

 声のするほうに視線を向けると、そこには黒髪をまとめ黒いレディーススーツを着こなした美しい女性。この人を私は知っている、確か名前は……。

 

「待て、安静にしていろ。まったく、あれから大して日も経っていないというのに凄まじい回復能力だな」

 

 そう彼女は、留学先の理事長の…………。

 

「新宮、寺……黒乃……先生…………」

 

 ぼんやりと理事長の名を口にすると、彼女は安心したかのように微笑み手を差し出した。

 

「起き抜けですまないが、君はどこまでを覚えている?あれから何日が経過したか、自分がどうしてこの場にいるか、認識は出来ているかね」

 

 何日が経過?認識?どうして此処にいる?どこまで……覚えている?

 

 矢継ぎ早に言われたことを脳内で噛み砕き、ようやくステラは自分が戦闘をしていた、ということまでを思いだす。こうして病院関係の施設で横になっていたということは、自分はあの落第騎士に。

 

「負けちゃったんですね……わたし」

 

「う、うむ……まぁ、その。なんだ」

 

 言いよどんだ理事長が慰めの言葉をかけようとしているのかとステラは予想したが、実際に理事長が口にした言葉は思いもよらぬ内容だった。

 

「今日は始業式だ。難しいとは思うが、気を取り直して指定された教室に行ってこい。動けそうにないなら、しばらくは安静にしているといい」

 

「へっ?」

 

 おかしい、だって自分は入学式前に幾日か余裕を持って留学したはず。それがいきなり、始業式が始まる?だって、編入初日はまだまだ先のはずでは?

 

「あの、先生。私って……何時間くらい寝てたんですか?」

 

「ヴァーミリオン、お前は……言いにくいが生死の境を行ったり来たりしていた。意識を失っていたのも何時間というレベルの話ではなくiPS再生槽に数日間、放り込まれていたんだよ」

 

 理解が追いつかない、気が付いたら時間が吹き飛んでいたというくらい理解不能だ。

 

「ひょっとして、それってなんかのジョークとかじゃ」

 

「いや、現実さ。どうしようもないくらい、な」

 

「いやでも、iPS再生槽まで使って数日も眠っていただなんて!?」

 

 現代の医療において技術の革命ともいえる医療器材iPS再生槽。時には四肢の損失レベルの外傷でも根治させる機材を使って意識を取り戻すのに数日を要する事態。

 

「いったい、私はどうやって負けたの……」

 

 

「ヴァーミリオン、いいか。落ち着いて聞け、先の黒鉄との戦いでお前は上半身と下半身が千切れ飛ぶ瀕死の重傷だった。それをどうにか私の魔術とiPS再生槽で治療したが回復までに時間がかかってね。こうして起きるのを待っていたというわけだ」

 

 上半身と下半身が千切れていた、あまりに現実離れした話にステラは目を見張るが、黒乃のあまりに真剣な眼差しにこれが紛れもない事実なのだと知る。自分がどうして眠っていたのかは説明と理解がようやく追いついた。

 

 数日前は瀕死の重傷で生きるか死ぬかの瀬戸際にあったという現実を突きつけられ、取り乱さないという強固な精神を見せつけられ、黒乃はステラ・ヴァーミリオンがまさしくAランク騎士という傑物だと改めて認識する。

 

 

 現状の、今の状態でもセミプロの騎士リーグの程度の頂になら容易に手が届くはずだ。更に鍛え、より多くの難敵と切磋琢磨すれば下手なプロなど歯牙にもかけぬ領域に至るのは必定。七星の頂点を目指す今の時期にステラの完敗は懸念事項だったが、この調子ならメンタルに問題はないだろう。

 

「いったい、何が起こったんですか?彼は霊装さえ出していなかった、ただのバンブーブレードで、魔力を纏った騎士の肉体を両断するなんて」

 

「黒鉄の強さについて、正確な表現はおそらく誰にもできない。だが、あえて黒鉄を評するなら騎士の才能に恵まれなかった剣の天才、かな」

 

「剣の、天才?」

 

「うむ、奴の強さはその全てが剣術、卓越どころか超越した技巧にある。騎士の才能がないということを差し引いても余りある異端の才。魔力がないということなど、無意味とする絶才。並みのプロなら一分と相手にならんだろうな。かくいうわたしも黒鉄に痛い目を見させられた口でね。今のお前が勝てる相手ではないのさ」

 

「騎士の魔術に匹敵する剣技、信じられないけど実際に体験している以上は、そういうものと理解するしかありません。……けど、教えてください、理事長。なぜ、それほどの実力を持つ者が落第したのか、そして最後に私が喰らった技はなんだったのか」

 

 

「……まず、一つ目の質問だが奴の家は日本でも騎士の名家、黒鉄家であることに起因する。きみはサムライ・リョーマを知っているかね?」

 

「はい、確か第二次大戦で日本に勝利をもたらした英雄の…………まさか!」

 

「そう、そのまさかだ。かの騎士のフルネームは黒鉄龍馬、黒鉄の曾祖父にあたる。付け加えるなら、黒鉄家は優秀な伐刀者を輩出してきた日本有数の名家でな。騎士の世界に強い影響を持つ。そんな家から騎士ランクは最低で霊装さえまともに展開できん落ち零れがいるとなると、家名が汚されると考えたのだろう」

 

 その結果が落第なのか、Aランクの騎士を霊装さえ使わぬまま歯牙にもかけず打ち倒したというのに力を認められない騎士。歪に過ぎる事実にステラは眩暈を覚えた。あまりの理不尽、その愚かしさに怒りを顕わにする。

 

 

「二つ目の質問だが、これについて私は上手く説明が出来ん。単純に私の理解の範疇を超えているからな。それでもいいなら、語るがどうするね」

 

「教えてください、自分がどうやって負けたかも分からないままだったら、私は一歩も進めない。敗北すること自体よりもそっちの方が私は……」

 

 ステラの懸命ささえ感じさせる視線を受け、黒乃はタバコをくわえステラを生死の境に放り込んだ魔剣について語り出す。

 

 

 

「黒鉄いわく、奴の剣技には奥の手と呼べる七つの魔剣があるそうだ。特定の条件を満たしたなら、それはおそらく伐刀絶技(ノウブルアーツ)と大差ない代物。その中でも、先日、君が喰らったのは助走距離を必要とする魔剣。黒鉄の間合いから十メートルでも離れようものなら、あれと同等かそれ以上の威力の一撃が放たれる。助走距離が長ければ長いほど累乗的に威力を上昇させ続ける第一の魔剣」

 

 

 

「その名は…………震犀(しんさい)。奇遇なことに、この国で最も恐れられる災害の一つと同音の名を持つ魔剣だ」

 

 

 




 備考:黒鉄一輝について


 幼少時代、親戚の子供や大人、黒鉄家の指南役と行ったチャンバラで黒鉄一輝は自分だけ勝ち続けてしまっては相手も面白くないだろうと、途中からわざと負けるようになった。自分は怪我をせず、相手にも怪我をさせず、相手と打ち合った末に竹刀や霊装が手元から離れるという黒鉄一輝にとって都合の良すぎる負け方。



 なお負け方の詳細。相手が斬りかかってきたら、三合打ち合って十二秒、鍔迫り合い、距離を置いてから十合ほど剣を交えて、一輝の手元から竹刀か霊装が離れる。

 黒鉄一輝は数十~数百回ほど同じ負け方をし続けた。相手がどんな手段や伐刀絶技(ノウブルアーツ)を使おうとも。


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