黒鉄一輝の七つの魔剣の説明、今のところ使う予定がない設定集みたいなものです。お目汚しになるかもしれませんが、よろしければ見ていってください。
五歳の誕生日、父は悲しそうな眼差しと共に告げた。
“何もできないお前は何もするな”。
言っている内容は理解できなかった。でも、父が今にも泣きだしそうな顔をしていたから、悲しませたくなくて僕は自分に何ができるのかを試してみた。
庭においてあった石を切ってみた、生えていた樹を斬ってみた、自分の寝床だった別邸を断ってみた、すごくおおきな本邸を割ってみた、邪魔する人は寝かしつけた、怒る人は五月蠅かったので潰してみた。
今の自分にできそうなことをできる限り、やってみた。
褒められたくてやったわけじゃない、ただ父が泣いてしまいそうだったから、父に笑ってほしくて剣を振るった。でも、僕が霊装を実体化できるのは三分くらいだ。霊装が消えてしまうと、仕方がないので手ごろな木刀を使って同じようなことをやってみた。
“一輝、一輝、お前は何もかもできてしまうのだろう。望みさえすれば、その強さは全てに、星の彼方にさえ手が届くのだろう。だからこそ…………だからこそ、お前は何もしてはならない。何も、するな”。
父はやっぱり、泣き出しそうなくらい悲しい表情を浮かべて、僕から背を向けて去ってしまった。何を間違えたのか、何をすれば良かったのか、何も分からない僕は家を出て冬の山奥へふらふらと迷い込んだ。
山中の奥深く、人の踏み込まない深山幽谷。
吹雪の中の自然は何もせず、そこにあるだけというのにあまりにも美しく、残酷なほど綺麗だった。ただ、生きるということの尊さをなんとなくわかりかける。
美しい世界の在り方。
なんとなく、それを理解した時、“斬れるな”という確信が芽生えた。
だから斬ってみた。
両断される山脈、別たれる命の息吹、山河の流れは捻じ曲がり、深い森林はその形を無くす。やってみて、もっと、もっと切れるのでは、という確信が手に入ったとき、僕は背後の視線と剣の気配に気が付いた。
首めがけての鋭い一刀。
怖い、危ないと感じたのが一瞬なら、対処もまた一瞬。
放たれた絶技は、それを越える理外の技によって凌駕された。
刀を弾き飛ばされ、膝を付いた老爺を見下ろす。どうしよう、殺されそうになったのは初めてだ。とりあえず、殺しておくか、と木刀を握り直すと老爺は呵々大笑とするや、空になった両手を挙げた。
「ボウズ、そりゃあ、身内に向ける剣気じゃねぇぞ」
身内?“どう殺そう”。はて、誰だろう。“首を落とすか、胴体を両断するか”。自慢ではないが自分の家は偉く親類親戚が数多い。“心臓を一突きするか、臓腑に衝撃を与え内側を砕くか”。でも、これほど強い人はいなかった気がする。“面倒だ、頭頂部から一刀両断しよう”。名前だけは聞いておこうかな。
「あなたは誰ですか?」
「……黒鉄、龍馬。お前さんの曽祖父、いや、お前さんにはこう名乗る方がいいな」
そういうとお爺さんは立ち上がって、ぺこりと頭を下げ名乗り直す。
「剣に生きる一人の侍だ」
その名乗りが僕を救ったんだ。
弱くても誇り高く、力がなくても真っすぐに前を向く姿。懸命に生きようとする、侍という生き様。力のあるなしで変わることのない心のありようとの邂逅。
おじいさんとの出会いが僕の世界に色を付けた。
おじいさんとの三日間の稽古は、本当に楽しかった。
一日目は我も忘れて、剣を振るった。どうすれば、もっとうまく剣を振るえるか、楽しめるか、とひたすらに剣を工夫するのは本当に楽しかった。
二日目は剣を振るう心の在り方をお爺さんから学んだ。
弱い人を守ること、誰かの夢を守ること、穏やかな日常を暮らす人は斬ってはいけない。敵の剣技を笑ってはいけない、相手の努力を否定してはいけない、斬れる、と思ってもすぐには斬らず、ちゃんと話をしてあげること。
本気をださないこと。
三日目は剣を見てあげることにした。
おじいさんの剣技で何を加えれば、どこを削れば、より速く巧みになるのか。実際に剣を交えて、どうすれば剣がより上手になるのかを教えてあげた。おじいさんは父と同じように悲しそうな顔をしていたけど、悲しませないよう一生懸命、力の限り教え導いた。
残った時間で、おじいさんは僕の剣技に名前をくれることになった。
でも、剣技とまで持ち上げられるのは、ちょっと。
「そんなに大げさなことかなぁ、あれって単なる工夫だよ?誰でも頑張ればできることに、大げさな名前が必要なのかな?」
「一輝よ、お前の工夫は余人には届かぬ高みだ。誰も手を伸ばそうとしないくらいの、孤高で孤独な高みだ」
「魔力がないとできないことと違って、魔力がない人でもできるのに?」
「お前にしかできないことだ」
「ほんとうに大げさだなぁ」
三日間の稽古が終わると、おじいさんはもう何処にもいなかった。家に帰ると、みんなが苦しそうな目で僕を見てくる。ああ、おじいさんほど強い人は此処にはいない。寂しさが身に染みわたる。でも、大丈夫だ。おじいさんは僕に夢をくれたから。
魔導騎士になる、この夢がきっと僕を導いてくれる!
夢の叶った後はどうすればいいんだろう?
騎士になるためにもっともっと頑張ろう!
魔剣の話をしよう。
魔剣とは理論的に構築され、論理的に行使されなくてはならない。
────黒鉄一輝が行使する七つの魔剣────
第一の魔剣、
地面に剣を強く接地させ、充分な助走距離を滑走したうえで放たれる一刀。その威力は助走距離に影響を受け、十メートルで巨大な岩石を粉砕し、二十メートルで小さな建造物を半壊させるに至る。百メートルになると一撃のもとに高層ビルを粉砕する威力となる。二百メートル以降になると、生物に使える威力でなくなると黒鉄一輝は語る。
使用条件は、助走距離と黒鉄一輝の気分。
第二の魔剣、劣化の太刀打ち。
この魔剣に特徴はない。余人が一見すると単なる斬り合いだが、実情は相手の剣技や才能を鈍らせ、相手を徹底的に弱体化させる外法の剣である。相手のコンディション、重ねてきた努力、才能の底を把握した後、相手の戦闘勘や経験、才能の毒となる剣戟を浴びせる。剣聖、黒鉄龍馬は十七合ほど第二魔剣と剣を交えた結果、長年積み重ねた戦闘センスと剣技の大半を喪失することとなった。
黒鉄一輝と相対する者の積み重ねた経験、独特の世界観、華開かせた、あるいはまだ眠る才能を枯滅させる恐れるべき魔剣。
使用条件は、黒鉄一輝の嫌悪する者である事と黒鉄一輝の気分。
第三の魔剣、
相手の剣を受け、自分の剣と相手の攻撃が交差した瞬間の運動エネルギーを螺旋状に回すことで相手を転ばせる技。気分で相手の放った破壊力をカウンターで放つこともあるが、自分が放つ技の方が威力は高いのでカウンターは滅多に行わない。七つある魔剣の中で、もっとも温厚かつ安全な技。
使用条件は、相手の攻撃を受けること、あるいは黒鉄一輝の気分。
第四の魔剣、
別名、逆さ殺し、ぎゃくさつの魔剣。黒鉄龍馬は黒鉄一輝にある剣士の存在を教えた。世界最強を冠する比翼の戦乙女。初速、加速、終速の概念なき最速にして最巧の剣技。音すらなく、運動エネルギーを全て力に変える絶技の存在。
その存在と剣技を聞き、黒鉄一輝は疑問に思った。なぜ、そんなことをする必要があるのかと。剣の最高速度は剣士が最も秘め隠さなくてはならない秘奥。それを軽々と晒すことの意味が黒鉄一輝には分からない。
第四魔剣はその時、抱いた疑問から完成を見る。逆しまに巡る魔剣は相手の剣の技量、剣の通過位置、威力、到達点と流れを完全に予測、理解することで後手の攻撃から相手の先手を討つことを可能とした。いかな最速も、最巧も、後より出でて相手を確殺する第四の魔剣は攻略不能。どれだけ早い剣速だろうと、黒鉄一輝の剣はその先の先の先に待ち構えている。この魔剣を崩すには、黒鉄一輝の予測か、技量を越える必要がある。
使用条件は、相手の剣技を理解する事と黒鉄一輝の気分。
第五の魔剣、
強い峰打ちによる相手の武器破壊。同時に体内へ
第五の魔剣には遅効性と即効性の両面がある。遅効性の場合は半年から一年ほど、臓器が液状化していく痛みに苦しみながら、やがて死ぬ。肉体の全細胞を交換する以外に治療法は無し。即効性の場合は即死する。
使用条件は、黒鉄一輝が相手に殺意をもった場合と黒鉄一輝の気分。
第六の魔剣、
相手に特定の行動を強制する技。
相手が自信と誇りをもって
そして、相手が先ほど行った動きを強制し、同じ動作へと誘導する。これを無限に、相手が諦めるまで延々と繰り返す。相手が剣を手放すまで、ずっと。
なお、黒鉄一輝が飽きることはない、なぜなら彼は最初からすべてに絶望し飽きているから。第六の魔剣を喰らった黒鉄龍馬、南郷寅次郎は、もう二度と使うなと厳命している。
使用条件は、相手の剣理に黒鉄一輝が興味を持つこと、黒鉄一輝の気分次第。
第七の魔剣、絶影。
居合抜刀術。黒鉄一輝の最速剣。絶対の剣才と天性の身体能力によって繰り出される黒鉄一輝の最高速度を叩き出す居合魔剣である。
黒鉄一輝の個人的な主張として、剣士は自分の剣の最高速度は絶対に隠さなくてはならないものというのがある。何故なら、剣士の振るう剣の最高速度を見せることは剣の底を教えることだと認識しているためだ。ゆえに、この第七魔剣は誰も目撃することはない。
使用回数はただ一度だけ。最後に構築された魔剣にして秘剣。
黒鉄龍馬の命を影と共に絶ち切った神速の剣である。
使用条件は、黒鉄一輝が戦うに値するという認識を持つことのみ。
備考 黒鉄一輝について
黒鉄一輝の魔剣について、最も恐ろしいことは二つ。魔剣の使用条件は、黒鉄一輝の気分に左右される点。もうひとつは、黒鉄一輝の認識において、これらの恐るべき技は技術ですらないことである。
魔力でも異能でもない、平々凡々なありふれた技。魔力の無い者は無力無才であるという黒鉄家の教育によって、魔力を一切使わない技巧を黒鉄一輝は技術と認めない、力と認めない、強さと認めない。
ゆえに黒鉄一輝にとって、六つの悍ましき魔剣は全て通常技に分類される。奥義と呼べるのはたった一つ、精神的な師であり、理解者になり得る可能性を秘めた曽祖父を屠った第七の魔剣のみ。