魔法少女リリカルなのはStrikerS 七課の剣銃士   作:ヒアデス

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第7.5話 報告会

 フォワードとフィルダーの初出動から一週間後。両部隊の新人たちはこれまで通り訓練の日々に戻り、その一方で彼ら以外の部隊員は、先日のレリック密輸とレリックを強奪するために現れたガジェットの捜査を行っていた。

 そして今日の20時、それぞれの捜査の進捗と判明した事実を報告しあうために、隊長陣は六課の部隊長室に招集されることになった。通常業務もとっくに終わり、部隊員の半分ほどが仕事終わりを満喫している時間にだ。

 

 

「じゃあまず私から。もうみんな知ってると思うけど、今日『陸士108部隊』のナカジマ三佐に会ってきて、レリックの密輸ルートの捜査協力をお願いしてきた。御神三佐も一緒や――そうやったね」

 

 同意を求めるはやてに俺はこくりとうなずく。

 

「挨拶やチンクの近況報告をかねて同席させてもらった。状況によってはギンガもうちに入れるかもしれんしな」

 

 そう言うと、なのはたちは不満そうな顔をする。できれば六課の方に彼女を入れたいと思っているのだろう。他部隊からの出向者や協力員は『保有制限』の対象外だからな。

 だが、ギンガの資質や能力はスバルと全く同じだ。妹と同じ部隊にするより別々の隊に置いた方が効率がいい。

 とはいえ、今はそんな議論をしている場合じゃない。

 

「そう睨まないでくれ。あくまで仮定の話だ。それより、テスタロッサ執務官の報告を聞きたいんだが」

 

 俺はそう言ってフェイトに視線を向ける。夕食を切り上げてこんな時間に集まることになったのも、彼女が突き止めたものが原因だ。

 

「私は、本部でシャーリーと一緒に押収したレリックとガジェットの残骸を調査していたんですが、その最中にガジェットの内燃機関から動力と思われるロストロギアと"ある男"の名前が入ったプレートを見つけたんです」

 

 そう言ってフェイトは俺たちの前にモニターを浮かべる。そこには“菱形の青い宝石”と“ある男の名前が入ったプレート”が表示されていた。

 

「《ジュエルシード》……また懐かしい物が出てきたな」

 

 十年前、地球に落ちてきていくつかの騒ぎを起こした宝石もどきを見て、思わずそうこぼす。とはいえ、あれのお陰でリンカーコアを奪う真似をせず《夜天の魔導書》を完成させる事ができたのも事実ではあるんだが……。

 

「でも、十年前に使っちゃったもの以外は全部、本局の保管庫にあるはずだよ。それがなんでガジェットの中から?」

 

 あの事件の当事者だったなのはは思わず元の口調でそう口にする。それに対して俺は腕を組み……

 

「考えられるとしたら未発見のジュエルシードか、もしくは何らかの方法で本局から盗み出したかだが……」

 

 言いながら前者の可能性は低いと考える。

 あの事件の後、ジュエルシードが発見された遺跡はユーノたちスクライア一族の立会のもと管理局が徹底的に調査を行い、ジュエルシードや他のロストロギアがもう存在していない事が確認されているからだ。数百年前に異世界に流れ、《時の庭園》の動力源として利用されていた《改良型ジュエルシード》の例もあるから絶対とは言えないが。

 

「それに関してはフェイトちゃんの方で調べといてもらえる。もう一つ、プレートにのってる名前なんやけど……」

 

 はやての言葉と視線につられ、俺たちもプレートが映っているモニターに目をやる。そこで新たに白衣を着た男が映ったモニターが現れた。短い紫髪の端整な顔立ちの男だが、金色に光る細い両眼からは狂気の色がにじみ出ている。

 

「『ジェイル・スカリエッティ』。優れた技術者でありながら、違法研究者として指名手配されている魔導師です……私も何年か前からこの男を追ってる」

 

 報告しながらスカリエッティが映る画像を睨むフェイトを見て、俺たちは一様に押し黙る。

 こいつのことも十年前にプレシアさんから聞いたことがある。プレシアさんがかつて所属していた研究施設の創設者で、《プロジェクトF》をはじめとするいくつもの違法研究を立ち上げた研究者――いわば、フェイトやエリオが“作られた”元凶でもある男だ。

 それに俺たちも“8年前の事件”で奴とは因縁がある。

 

「スカリエッティがガジェットを造って、レリックを探させてるんかな? 過去にも映像や音声を残したりしてるし、チンクもスカリエッティがガジェットを製作してたって言ってたし」

 

「いえ、スカリエッティからガジェットを買い取った人間や奪い取った者が、奴の名を騙ったり利用している可能性が残っています。今の段階で決めつけるのは早計かと」

 

 (たしな)めるように口を挟むと、はやては素直にうなずく。

 確かにスカリエッティがガジェットの制作者で異常なほどの自己顕示欲の持ち主なのは疑いようもないが、何者かがそれを逆手にとって局や六課の裏をつこうとしているのかもしれない。もう少し捜査を進めてから判断するべきだ。

 

「じゃあ次は私。捜査じゃなくて教導の報告になりますが、フォワードたちは個別訓練に入って私とヴィータちゃんがきっちり教えています。午後まではフェイトちゃんもエリオとキャロを見てくれてました。フィルダーたちにも一度フォーメーションの教導をしましたが、その後はまたガジェットやゴーレムと戦う訓練に戻っているみたいですが……」

 

 問題ないの?と言いたげに視線を向けてくるなのはに、俺はうなずきを返す。

 

「前にも言ったとおり、あいつらの技能やスタイルはかなり特殊だ。下手にこちらの戦い方を押し付けるより、戦闘訓練を繰り返してスキルを高めていった方がいいだろう。俺やリインとの模擬戦も予定しているが、もう少し様子を見てからにしたい」

 

 そして俺の方でも捜査に進展がないことを報告し、一度咳払いをしてから言った。

 

「では、各々の報告も終わりましたので、少将から依頼された出張任務の話に移りたいと思いますが……部隊長、あの話、本当に受けるつもりですか?」

 

「うん。後見人になってくれたカリム直々の依頼やし、教会の騎士団も局の他の部署も今は手が空いてないみたいやから。――場所は第97管理外世界・地球、しかも日本の『海鳴市』。当然健斗君もなのはちゃんたちも行くやろ?」

 

 はやての笑みと久しく帰っていない故郷の名を聞いて、なのはとフェイトは笑みとうなずきを返す。

 俺は……。

 

 

 

 

 

 

「出張……管理外世界に?」

 

 オレの問いにティアナはうなずき。

 

「その世界からロストロギアの反応が現れたらしくてね、教会のお偉いさんからの要請でうち(六課)が行くことになったらしいわ。たぶん、あなたたちも一緒じゃないかしら」

 

 そう答えてティアナはサラダを口に運ぶ。

 今日の訓練が終わって、オレたちは六課の食堂でフォワード四人と食事を摂る事になった。

 あの任務以来、御神さんやリインさんからフォワードとの親睦を深めるように言われ、こうして食事を摂る機会などが設けられるようになったからだ。

 

「なのはさんたちの生まれ故郷で、うちのお父さんのご先祖様がいた世界なんだけど、レツヤの家族もそこの出身なの? 名前もうちやなのはさんたちと同じ国の言葉みたいだけど」

 

 そう聞きながらスバルさんはトングで山盛りのパスタを掴み、オレの皿に載せてくる。内心もう食えねえよと顔を引きつらせつつ、受け取りながら彼女の問いに答えた。

 

「ああ。母方の祖父が魔法の才能を持ってて、局員だった祖母に誘われてミッドに移住したって聞いてる。レツヤって名前も祖父が付けたらしい。オレは一度もあっちに行った事ないけど」

 

「あははっ、あたしたちと一緒だ! うちの家族も一度も行った事ない――そうだよね、チンク姉」

 

 話を向けてくるスバルに、チンクは「ああ」とうなずく。その様子と“チンク姉”という呼称に、オレを含め何人かはいまだに慣れず戸惑うような顔をした。

 スバルはチンクより頭二つ分は大きく、傍から見ると彼女の方が姉にしか見えない。その一方で性格面はチンクの方が落ち着いており、そこを見ればチンクが姉に見えなくも……やっぱり見えないな。

 

「私とエリオ君は何度かフェイトさんに連れて行ってもらった事があります。オールストンっていう遊園地で遊ばせてもらったり、フェイトさんの家に泊めてもらったりしました。プレシアさんとアリシアさんも私たちを本当の子供や兄弟のように可愛がってくれて。ねっ!」

 

「う、うん……」

 

 嬉しそうに話すキャロに、エリオは相槌を打ちながら恥ずかしそうに目をそらす。人前でそういう話をされるのは恥ずかしいんだろうな。同じ男だからよくわかる。

 

「じゃあエリオとキャロは久しぶりに、あたしたちは初めて地球に行くわけだ! いい所みたいだからティアとルーテシアもきっと気に入るよ」

 

 97外世界(地球)と接点がない二人を気遣うように、スバルは彼女たちに向かって声をかける。しかし、ルーテシアは淡々と食事を摂りながら――

 

「そう言ってくれてるところ悪いけど、私たちはたぶん――」

 

 

 

 

 

 

「行きません。俺たちはここに残ります」

 

「えっ……?」

 

 きっぱり言うとはやては間の抜けた声を漏らし、なのはとフェイトはきょとんとした顔になる。そんな彼女たちに続けて言った。

 

「部隊長たちも覚えていると思いますが、機動六課はレリック事件に対処するために地上の施設と人員を借りて設置された部隊です。本局や教会からの要請とはいえ、そう簡単に異世界へ行くわけにはいきません」

 

「で、でも、海鳴に現れたロストロギアもひょっとしたらレリックかもしれんよ。この間のことを考えたらジュエルシードの可能性もあるし、行かないわけにはいかんとちゃうかな」

 

 ジュエルシードの力と危険性を思い出し、思わずうなずきそうになる。しかし……。

 

「では、現地の世界に誰を送るつもりですか?」

 

「えっ、それはもちろん私と――」

 

 はやては言葉を止めながら、俺となのはとフェイトを順に指さし――。

 

「ヴィータとシグナムとシャマルとリイン――あっ、もちろんアインスとツヴァイ二人ともや。それからフォワードとフィルダーもみんな連れて行くつもり!」

 

主力のほぼ全員じゃないですか!! 明らかに過剰です。主力がごっそり抜けてる間にこっちでレリックやガジェットが現れたらどうする気ですか!?」

 

 思わず大声を上げた途端、はやてはびくりと背中を反らす。しかし、彼女は考えを変えず姿勢を正しながら言葉を返した。

 

「もちろん、六課を完全に空けるわけやないよ。本部にはロングアーチと交替部隊を残して、グリフィス君に指揮を任せる。それとザフィーラも残ってくれるって言ってるし、問題ないやろ」

 

 問題だらけだ……。

 確かにグリフィスは優秀な士官候補だが、階級はまだ准陸尉で指揮官資格も持っていない。部隊長代行はまだ荷が重いだろう。ザフィーラも高い実力を持っているが、防御に比重が寄っていて攻撃面に不安が残る。

 そのような体制では、敵の撃退どころか本部を守れるかすら怪しい。

 久しぶりに故郷に帰れる喜びのあまり、はやてはそんな問題に気付いていない様子で――

 

「そういうわけやから、健斗君たちも一緒に行こ! すずかちゃんと美由希さんもきっと喜ぶよ。ひょっとしたら美沙斗さんも帰ってきてるかもしれないし」

 

「行かないと言ってるじゃないですか。グリフィスたちとザフィーラだけで有事に対応できるとは思えません。俺たちも残ります。そちらもせめてシグナムだけは置いていってください。彼女は交替部隊の隊長でもあるんですから」

 

 言い聞かせるように言うと、はやても考えるようにしばらく沈黙するが、ふいに非難めいた目つきをしながら……

 

「健斗君は地球のみんなが心配やないん? すずかちゃんやアリサちゃん、健斗君のお母さんとお姉さんもロストロギアやガジェットに巻き込まれて危険な目に遭うかもしれへんよ」

 

「――っ」

 

 その言葉に思わず口からうめきが漏れそうになる。友人や家族が巻き込まれてしまったらと考えると、正直俺も海鳴に駆けつけたい。しかし、その気持ちを胸の中に追いやって――

 

「心配じゃないと言えば嘘になります。ですが、今の我々はミッドチルダの住民たちの命を預かる立場についています。それを投げだしてのこのこ戻ったりなんかしたら、それこそ母に斬り殺されかねません」

 

「……」

 

 最後の一言を聞いてはやてとなのはは神妙な顔になる。あの人の厳しさはこいつらもよく知っている。それに、母さんや姉さんたちならガジェットぐらい返り討ちにできそうだしな。

 

「はやての気持ちはわかるし、俺の家族のことまで気にかけてくれて正直ありがたいと思っている。だが、やはり今のミッドから離れるわけにはいかない。カリムさんへの義理立てやレリック・ジュエルシードの可能性を考慮して要請を請けるとしても、人員の見直しを含めていくつか条件を飲んでくれ。それができないのなら、カリムさんに直訴して依頼を取り消してもらう。本当に危なくなったら、向こうにいるハラオウン家から連絡が届いてくると思うしな」

 

 友達としての口調で訴えたのが効いたのか、はやては根負けしたようにため息をつき……

 

「わかりましたわかりました。三佐殿の言う通りにします。高町隊長とテスタロッサ隊長もそれでええですか?」

 

 はやてはわざとらしい呼称と丁寧語で二人に尋ねる。なのはとフェイトは複雑そうな表情を浮かべながら首を縦に振った。

 

 

 

 

 

 

 それから数日後。

 

「これからフォワードと部隊長たちが戻ってくるまでの間、俺たちはこの隊舎で勤務をする。早ければ一日、遅くても三日以内に戻ってくるはずだ……そう約束させたからな」

 

 そう言って御神さんは六課の隊舎に入り、リインさんとオレたちも続く。

 ルーテシアの言った通りになったな。まあ、考えてみればガジェットがいつ現れるかわからない状況で、戦力のほとんどを他世界に向かわせるわけないか。

 

 残念に思いつつ、初めて訪れる六課本部に感動を覚えながら歩いていると、通路の先から大柄の局員が歩いてくるのが見えた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 白い髪に筋骨隆々な褐色肌の男だ。頭の上についている犬のような耳と腰からはみ出ている尻尾を見るに、誰かの使い魔なのかもしれない――そうでなければ彼の印象が160度ぐらい変わってしまう――。

 

 局員はその場で足を止め、御神さんとリインさんに向かって一礼しながら言った。

 

「健斗――いえ、御神三佐、お久しぶりです。七課に所属させてもらっていながら、なかなか顔を見せられず申し訳ありません」

 

「構わない。八神部隊長から要請は受け取っているし、お前が捕まえたガジェットのおかげで実戦的な訓練ができているからな」

 

 二人の会話を聞いてオレとルーテシアはまさかと思う。

 そんなオレたちに気付き、局員はそのままこちらに顔を向け、オレたちに向かって言った。

 

「本局の准陸尉で独立遊撃分隊の隊員、ザフィーラだ。事情があって今までそちらに行けなかったが、レリック事件の解決に向けてともに力を合わせていこう」

 

 そう言って彼はオレに向かって右手を差し出し、ルーテシアとも握手をし、「久しぶりだな」と言いながらチンクとも握手を交わした。

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