魔法少女リリカルなのはStrikerS 七課の剣銃士   作:ヒアデス

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第7.7話 出張任務の裏で

「独立遊撃分隊の分隊長、御神健斗三等空佐だ。部隊長たちが出張任務に向かっている間の補充要因として、部下ともども六課本部に詰めることになった。どうかよろしく頼む」

 

「部隊長の補佐と交替部隊の管制を務めている、グリフィス・ロウラン准陸尉です。こちらこそ部隊長たちが戻られるまでの間、よろしくお願いします」

 

 会議室に入ってすぐ出迎えてくれた眼鏡をかけた紫髪の青年と敬礼と挨拶をかわす。そして表情を緩めながら彼に言った。

 

「悪いな、面倒をかけて。あいつらがいない分、俺たちができる限りフォローをする」

 

 するとグリフィスも顔を緩めながら、

 

「いえ、後見人からの要請を断るわけにはいかないでしょうから。それに留守を任せていただけるほどの信頼をいただいて光栄に思っています」

 

「なんだ。じゃあ俺たちも行ったほうがよかったか?」

 

 笑いながらそう返した途端、グリフィスは顔を青くしながら首を振る。すると後ろから「隊長」と咎めるようなリインの声が届き、俺は「冗談だ」とグリフィスの肩を叩きながら席についた。

 

「他の分隊の隊員はどうしていますか? いつものようにガジェット戦のトレーニングを?」

 

 斜め前の席につきながら尋ねるグリフィスに俺は首を横に振る。

 

「ザフィーラは“いつもの姿”で本部まわりを見張らせて、他の三人はオフィスでデスクワークをさせてる。そろそろ事務仕事を覚えさせようと思っていたし、戦力が足りていない中過度な訓練で疲弊させるわけにいかないからな。――ロウラン部隊長代理、そろそろ会議を始めてくれ。今は君が六課の責任者だ。俺は“元副部隊長候補”として助言役を務めさせてもらう」

 

「はい! それでは数日前に起きたレリック密輸とガジェットの捜査状況ですが――」

 

 グリフィスは立ち上がり、わずかにぎこちなさを窺わせながらも毅然とした態度で捜査方針を話し始める。

 20代半ばで提督になったという母親(レティさん)そっくりなその姿を見て、うかうかしていると彼の方が上司になってしまうかもしれないなと思い、苦笑いを漏らした。

 

 

 

 

 

 

 物音がほとんどしないオフィスで、机の上に浮かべたモニターに何万もの文字を打ち込んでいく。

 久しぶりの事務仕事と静かな環境に戸惑いながら報告書を作成していると、隣からチンクの声が届いた。

 

「どうだ二人とも。何かわからないことはないか?」

 

 彼女の言葉にオレは首を振り。

 

「いや、大丈夫。こういう仕事は前の部隊でもやってたから……学校でも似たような物を書いてたことがあるしな」

 

「そうか。ルーテシアは大丈夫か?」

 

 チンクはすぐ隣のルーテシアにも声をかける。ルーテシアは彼女をちらりと見て――

 

「問題ない。昨日までの訓練の内容を書き込むだけだから」

 

 それだけ言って、ルーテシアはモニターに目を戻し作業を続ける。

 オレたちの倍は埋まっている画面を見て、チンクは驚きながら「そうか」と言い残し再び自身のモニターに目を戻した。

 やっぱり頭いいな。入局6年目のチンクより進みが早いなんて。オレも苦手な方じゃないんだが……。

 

 感心しながら続きを打ち込もうとしたところであちこちからアラーム音が鳴り、まわりの局員たちは端末を見ながら次々と腰を上げる。オレの懐に入れてある落葉(デバイス)もアラームを鳴らしながら震えていた。

 もう正午か……。

 

「もう昼だ。いったん切り上げてオレたちもメシにいこう」

 

 オレはそう言って食堂の方に体を向ける。するとルーテシアの口から「待って」という言葉が飛び出した。

 

「天気いいし屋上で食べない。三人だけで話したいこともあるから」

 

 そう言ってルーテシアはオレが向かおうとした所とは逆の方を指さす。オレとチンクは顔を見合わせてからうなずきを返した。

 

 

 

 

 

 

 途中で購買に寄っていくつかパンを買い、オレたちは屋上に出る。本部内に居心地のいいロビーや休憩室がいくつもあるためか、屋上には他に誰もいなかった。しいて言うなら遠くで青い犬が日差しを浴びながら丸まっているくらいだ。

 屋上や眼下の景色を眺めたりしながら適当なベンチに腰掛け、いただきますと言いながらパンの袋を開けた。

 それからしばらくの間無言でパンを頬張り、もしゃもしゃと口に入れていく。オレとチンクがちょうど二つ食べ終わった頃に、ルーテシアは食べかけのパンを膝の上に置いてぼそりと口を開いた。

 

「この前ガジェットと戦った時のことなんだけど……」

 

「……?」

 

 そのつぶやきにオレは新しいパンを持ったまま、チンクはハンカチで口元を拭いながら彼女の方を見る。

 

「あの時って初出動の事か?」

 

 尋ねるオレにルーテシアはこくりとうなずき。

 

「あの時……私たちが列車に飛び乗る前、転送魔法か何かで突然列車が現れた時、チンク言ってたよね。『あの人ならやりかねない』って……あれ、どういう意味?」

 

「あっ――」

 

 その時のことを思い出し、オレは思わず声を漏らす。実はオレも気になっていた。しかし、触れない方がいい気がしてそのまま頭の片隅に追いやっていたのだ。

 

「もしかしてチンク、知ってたの? あのガジェットを作ったり、列車を転送したのが誰なのか……」

 

「…………」

 

 チンクは押し黙ったままハンカチをしまう。もうパンを食べる気もないようだ。彼女はそのまましばらくうつむきながらもやがて首を縦に揺らし。

 

「あ――」

「ああ、知ってるよ。ガジェットの製作者の方はな」

 

 ふいに放たれた男の声に、オレたちはそちらを見る。

 

「御神さん、リインさん……」

 

 そこにいたのは七課の隊長御神さんと、副隊長のリインさんだった。二人の後ろにはさっきまで隅で丸くなっていた青い犬もついてきていた。

 御神さんは飄々とした様子で、リインさんは硬い顔を見せながらこちらに向かってくる。まさか――

 

「隊長たちも知ってたんですか? ガジェットを造ったり、列車を転送してきた奴のことを――」

 

「ガジェットを造った奴はな。列車を送り込んできた者についてはわからん。俺たちが掴んだ情報では、“奴”の手下の中に転送魔法を使える者はいなかった」

 

 御神さんは目を泳がせる素振りもなく淡々と答える。オレは続けて訊いた。

 

「誰なんです? ガジェットやあの列車を使ってティアナたちを殺そうとした奴は――?」

 

 強く訊ねると、御神さんはリインさんと顔を見合わせ、彼女が首を縦に振るのを見てため息をつきながら言った。

 

「まあ、はやてたちが戻った後で伝える予定だったしな。少しぐらい早く教えてやってもいいだろう」

 

 そうつぶやいてから、御神さんは真剣な顔になって……

 

「ジェイル・スカリエッティ。“ドクター”の通り名を持つ違法研究者だ。十年以上もの間広域指名手配されていて、いくつも映像や音声を残していながら捕まったことは一度もない」

 

「スカリエッティ……」

 

 聞いたことある気がする。でもニュースなんかには全然出てないし、教科書にも載っていなかったからろくに覚えていなかった。指名手配されてるとはいえ、一度も捕まらず行方をくらましたままの犯罪者なんてそんなものなのかな……。

 

「ただし、ガジェットを送り込んでいるのがスカリエッティかどうかはまだわからん。他にガジェットを造り出している奴がいるかもしれんし、スカリエッティからガジェットのような兵器を買い取っている人間もいる。それにレリックの密輸や転送魔導師についてはなにもわかっていない。だから、まだお前たちにもフォワードにも伝えないようにしていた。ずっと前から局にいたチンクは知っていたがな」

 

 そう言って御神さんはチンクに顔を向ける。それを受けてチンクは何も言わず首を縦に振った。

 その様子に釈然としないものを感じながらも……

 

「わかりました。チンク、疑ったりして悪かった」

 

「いやいい。私も隠していてすまなかった」

 

 チンクはそう言って首を横に振る。一方、ルーテシアは黙ったままその様子をじっと見ていた。

 そこで御神さんたちの後ろにいた犬が彼の方を向き――

 

「御神三佐、そろそろ午後の仕事の時間です。早くオフィスに戻られた方がよろしいのでは」

 

 突然犬が喋り出し、オレとルーテシアは目を見開く。しかし、御神さんは動じた様子もなく口を開いた。

 

「あっ、もうそんな時間か。そこのパン、余ってるなら三つ分けてくれないか。まだ何も食ってないんだ」

 

「はい、どうぞ」

 

 あっけにとられているオレたちと違って、チンクは苦笑しながら御神さんとリインさん、そして犬にパンを配る。

 

「ありがとう」

 

「かたじけない」

 

 リインさんは礼を言いながら普通に受け取り、犬も礼を言って口で咥え取る。

 もしかしてその犬って――。

 

「じゃあ俺たちはオフィスに戻る。お前たちも報告書の作成しっかりやれよー」

 

 あぜんとするオレたちに手を振りながら御神さんは中に戻り、リインさんと(ザフィーラ)も後を追っていった。

 

 

 

 

 

 

「いいのか? レツヤとルーテシアにチンクのことを黙ったままで」

 

 レツヤたちが見えなくなってすぐ、リインは素の口調で尋ねてくる。俺はパンを頬張ったまま首を振った。

 

「あそこでチンクの素性をバラしても疑心暗鬼を招くだけだろう。特にルーテシアが“8年前”のことを知ったら何が起こるやら……。ザフィーラも知らせてくれてありがとな」

 

「いや、見張りをしていたところにあの三人がやってきて不穏な話をしていたから、健斗たちに止めてもらいたかっただけだ。助太刀を感謝する」

 

 ザフィーラは首を横に振りながら犬形態のまま俺たちについてくる。その前を歩きながら俺はぼやくように言った。

 

「しかし、また海鳴にロストロギアか。夜天の書にジュエルシードに永遠結晶、そして今回ので四回目だぞ。あの街には幽霊や夜の一族とかもいるし、怪異を引き寄せるものでもあるのか?」

 

「否定はできないな。魔法文化がないにもかかわらず、あれほどロストロギアが出現する世界は私も見たことがない。あの街のどこかにロストロギア(クラス)の何かがあるのかもしれないな」

 

 リインの仮説にあり得ると苦笑を漏らしたところで、懐に入れた端末が震えながら着信音を鳴らす。俺は周囲を確認しながら足を止め、端末を耳に当てた。

 

『もしもし、テスタロッサです……御神三佐ですよね?』

 

「ああ、御神だ。今は敬語じゃなくていい。……用件は()()か?」

 

 俺の問いにフェイトは『うん』と返し、報告を続けた。

 

『私たちはついさっき、お昼休憩の間に実家に寄って母さんたちと会ってきたところ。エリオたちにアリシアと七瀬の相手を任せて、私は母さんからスカリエッティの所にいた頃について色々聞いてきたんだけど…………』

 

 

 

 

 

 

『ドゥーエから報告が届きました。機動六課の主力の過半数は第97管理外世界に、守護騎士シグナムとヴィータ、そしてザフィーラを含めた機動七課はミッドチルダに残っているようです』

 

 秘書風の女――ウーノの報告に、“ドクター”ことスカリエッティは彼女の方に目をやりながら短く言った。

 

「機動七課……という事は彼もかね?」

 

『はい。“愚王の複製”、御神健斗も本部に残っています。闇の書の管制プログラムもあちらに』

 

「そうか……彼は故郷に戻らなかったのか。彼にとっての古里(ふるさと)はあちらの世界ではなく、300年前に滅んだ『ベルカ』、ということかな」

 

 スカリエッティは憐憫と皮肉の混じった笑みを浮かべながらつぶやく。そこへウーノが尋ねてきた。

 

『いかがいたしましょう。予想より警戒は強いですが、《ナンバーズ》を投入すれば十分落とせると思います。“レディー”のお力を借りれば損害を出さず制圧することも可能かと』

 

 ウーノの提言を聞き、スカリエッティはくくっと笑いを漏らす。しかし、彼の口から出たのは攻撃命令ではなく……。

 

「いや、そのままにしておこう。彼らやチンクが相手では“娘たち”も無傷とはいかないだろう。それにここで六課とやらを潰すのはもったいない。彼らにはもっと私の作品と戦って、データを提供してもらわないとね……ふふふ」

 

 スカリエッティはまたおかしそうに笑い声をあげるも、何かを思い出したように笑いを止め……。

 

「“レディー”といえば、彼女にお願いしようと思っていたことがあったな……レディー、聞いているかい?」

 

 スカリエッティが呼ぶと、ウーノの隣にモニターが現れ、長い紫髪の女の姿が映る。一週間前の戦いで、もう一台のリニアレールとガジェットを送り込んだ召喚士だ。

 

『何の用かしら? 六課を攻撃する気もないのに』

 

 先ほどの会話を聞いていたらしく、拍子抜けした様子のまま尋ねる召喚士にスカリエッティは含み笑いを漏らしながら言う。

 

「なに、今週の週末にあるホテルで美術品のオークションが開かれるらしくてね。ロストロギアもいくつか出品されるとの事なんだが……」

 

『あら、もしかしてレリック?』

 

 召喚士の問いに、スカリエッティは芝居がかった仕草で首を横に振る。

 

「いやいや、出品されるロストロギアは取引の許可が出ている安全な物ばかりさ。ただ、その中に一つ実験材料に使える骨董品が紛れているみたいなんだ。転送と召喚魔法の使い手である君なら、造作もなく手に入れられると思うが」

 

 その頼みを聞いて召喚士は呆れたようにため息をつき……

 

『レリックか管理局関係以外の頼みは聞かない契約のはずだけど……まあいいわ、アギトが帰ってくるまで絡み相手もいなくてヒマだし。その代わり高くつくわよ』

 

「もちろん。いつも以上のお代に加えて、今話題のケーキとお茶も用意しよう。ウーノ、レディーに例の骨董のデータを――」

 

 スカリエッティはウーノに顔を向けて指示を出す。そこでレディーこと召喚士は唇を尖らせ――

 

『“レディー”はやめてちょうだい、恥ずかしいから。でないと仕事受けないわ』

 

 それを聞いて、スカリエッティはおかしそうな笑いを漏らした。

 

「これは失礼……ではメガーヌ・アルピーノ、君の手腕に期待しているよ」

 

 そう呼ばれた途端、メガーヌは笑みを戻しながら『任せて頂戴』と息を巻いた。

 

 

 

 メガーヌ・アルピーノ。その名と姓は、8年前に死んだとされているルーテシアの母親と同じものだった。




ドラマCD絡みの話はここまで。次回はホテル・アグスタの話になります。
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