魔法少女リリカルなのはStrikerS 七課の剣銃士 作:ヒアデス
六課の隊長たちとフォワードが出張任務から戻って数日後、6月1日。
オレたちは前日の夜に御神さんの車に乗せられて、クラナガン南東の森林地帯にある『ホテル・アグスタ』に来ていた。
街中から離れた森の中に建てられているそのホテルは、都会の喧騒から離れられる休養スポットとして各界の著名人や有力者から好まれている場所で、オレも幼い頃両親と一緒に泊まった事がある。
人里離れたホテルは高価な美術品や骨董品の保管・取引にもうってつけで、それらを売買するオークションが今日開かれる事になっているらしい。
オークションの出品物の中には、危険性が低く外部に出しても問題ないとされたロストロギアもあり、それを狙う魔法犯罪者やレリックと誤認したガジェットから品々や客を守るために、六課とオレたち七課が警備を担当することになった。
「ふぁ……」
警備の途中、眠気のあまり口からあくびが漏れる。そこへ――
「おい!」
「す、すみません――ってなんだ、チンクか」
突然声をかけられオレは慌てて頭を下げるものの、そこに立っていた同僚を見て安堵の息をつく。するとチンクは頭を抱えながら声を漏らした。
「なんだとはなんだ。あくびなんかして緊張感がないぞ。私やシグナムさんたちも昨夜からずっと見張っているというのに」
一睡もしていないのが信じられないくらい元気そうな様子で、チンクは小言をまくし立ててくる。するとまた――
「なにごとだ、騒々しいぞ」
「――シグナム副隊長、ヴィータ副隊長」
あらぬ方から声をかけられ、オレとチンクはそちらに顔を向ける。オレたちの前には桃色の髪を後ろにまとめた女性と、赤い髪をふたつの三つ編みに結んだ女の子
桃色髪の女性はシグナム二等空尉。フェイトさんの補佐で、エリオとキャロがいる『ライトニング分隊』の副隊長をしている。
赤毛の女性はヴィータ三等空尉。なのはさんの副官で、ティアナとスバルのいる『スターズ分隊』の副隊長を務めている。
「異常はないか?」
「はい! 今のところ、不審な人間やガジェットらしき物は見当たりません」
厳しそうな表情のまま短く問いかけるシグナムさんにチンクはそう報告する。それを聞き流しながらヴィータさんはオレたちの周りを見回し……。
「あのチビはどうした? お前らの他にもう一人いただろう」
「ルーテシアですか? あいつなら1時頃からうとうとしだして、リインさ――副隊長と一緒に部屋に戻っていきました」
オレがそう言うと、ヴィータさんは頭をかきながら舌打ちをこぼした。
「ったく、相変わらず甘い奴だ……お前は大丈夫なのかよ? さっきあくびしてたみたいだけど」
「――、オレは大丈夫です! チンクやヴィータさんたちと話している間に完全に目が覚めました」
痛いところを突かれて声を上ずらせながらもそう答えると、ヴィータさんは半眼になりながら懐に手を入れて財布を取り出し、その中から硬貨を一枚出した。
「ここはあたしらが見張っててやるから、お前はこいつでコーヒーでも買ってこい」
ヴィータさんの言葉と目の前に突き出された硬貨にオレは目を丸くして……
「えっ……あくびをした罰ってことですか? 別にいいですけど、ヴィータさんの分だけでいいんですか? なんならみんなの分も……」
「バカっ! コーヒーでも飲んで目ぇ覚ましてこいって言ってんだよ! オークションが始まる前にとっとと行け!!」
ヴィータさんの罵声を浴びて、オレは半ば追い出されるようにこの場を離れる。
相変わらずあの人とはうまくいかないな。初対面の時に子供だと思ってタメ口使っちまった上に頭まで撫でちまったから嫌われるのは無理もないけど。っつか、あの見た目で18歳は
「ったく、あのバカガキ。こっちの気も知らねえで」
自販機を探しに遠ざかるレツヤを眺めながらヴィータは愚痴をこぼす。それを見て、チンクは一瞬苦笑しながらも表情を抑えながら謝罪を口にした。
「すみません、レツヤもまだ慣れていないもので。ですが、けっして悪気があったわけではないんです」
「心配しなくてもそれぐらいわかっている。素直に息抜きしてこいと言えんヴィータも悪い」
「うるせえっての。――それより、もうそろそろだぞ」
シグナムを一喝してからヴィータは壁一面に張られたガラス越しに空を見上げる。そこからちょうどホテルに向かって降りてくる六課の輸送ヘリが見えた。
そこへ……。
「よう、みんなお疲れ様!」
後ろからかかってきた声に、一同はそちらを振り向く。
そこにはきっちりしたタキシードを着た黒髪オッドアイの青年と、鮮やかな赤いドレスを着た長い銀髪の美女が立っていた。
昨日すでに部下たちとともにホテルに到着しながら、オークションに備えるために今まで部屋で休んでいた七課の分隊長の御神健斗と副隊長リインフォース・アインスである。
二人の後ろには一緒に部屋で
Ⓒ
俺とリインが来てから十分くらい経つと、ホテルのロビーはスーツやドレスで着飾った客たちでひしめくようになり、彼らの目当てであるオークションの受付も始まる。
そこに彼女たちもやってきた。
「健斗君、リイン、お待たせー!」
「わぁ、アインスさん、すごく綺麗!」
「うん。二人ともすごくお似合いだよ」
片手を振りながら声をかけてくるはやてに続いて、なのはとフェイトもドレス姿のリインとタキシード姿の俺を見てそう言ってくる。彼女たち三人も華やかなドレスで着飾っており、贔屓目を抜きにすればリインに劣らないぐらい綺麗だ。
「ありがとう……ございます。主と一尉たちもよくお似合いです」
恥ずかしさと戸惑いを押し殺しながらリインも彼女たちに誉め言葉を贈る。だが……
「あー、あかんあかん。私たちは一応お忍びやから階級つけたらあかんよ。ねえ健斗君」
「ああ。主のはやてはともかく、俺たちには普通でいいぞ」
はやてや俺がそう言うと、リインは「失礼しました」と言いながら頭を下げる。そこではやては怪訝そうな顔になりながら尋ねた。
「ところで、二人とも昨日からホテルにいたみたいやけど、変なことしてなかった? 仮にもお仕事なんやけど」
それを聞いてリインとなのはたちは顔を赤くする。俺も気恥ずかしさを覚えながら言葉を返した。
「してねえよ。いざとなったらいつでも出られるようにしないとならないし(ルーテシアもいたしな)」
「ほんまに……?」
はやてはリインにも疑わしげな目を向けて訊ねる。リインは顔を真っ赤にしながらもこくこく頷き、それを見てはやては顔を引っ込めた。
「まっ、信用してあげましょうか。――じゃあ私たちは会場の警備に行ってきますので、みんなは外の方お願いな!」
笑顔でそう告げる部隊長に六課と七課の面々はうなずいて応える。それに笑みを返しながら俺たちは受付の方に向かった。
◇
「はいこれ、オレのおごりだから。スバルにも」
「あ、ありがとう……」
「ありがとー! ちょうど喉が渇いてたんだー!」
戸惑いのあまりどもりながらもお礼を言って、レツヤが差し出してきた缶コーヒーを受け取る。一方、スバルは躊躇なく缶を受け取り、その場でプルタブを開けて飲み始めた。
それを見てレツヤは気持ちのいいという言葉が似合う笑顔を向け――。
「じゃあオレは持ち場に戻るから、二人も頑張って!」
そう言い残して駆けだしていくレツヤに、あたしもありきたりな返事を返しながら手を振る。そこでスバルがジュースを飲み干して言った。
「あの子、自己紹介してからずっとティアにべったりだね。もしかしてティアのこと……」
顔を赤くしながらそんな妄想をするスバルに、あたしは呆れながら首を振った。
「そんなんじゃないわよ。昔自分を助けた命の恩人の妹にすり寄ってきてるだけ。もし兄さんが現れたら、あたしなんて忘れてそっちに行っちゃうわよ」
そう言いながらぎゅっと缶を握る。でも、スバルと違ってあたしの力じゃ潰せなさそうだ。
そんな事も知らずスバルは呑気そうな声を上げた。
「でも今日はあたしたちと七課、それに八神部隊長と守護騎士団も全員集合かー」
「……そうね。あんたは結構詳しいわよね、八神部隊長とか副隊長たちのこと。それに御神分隊長とも知り合いだったんでしょう?」
そう訊くとスバルは少し頬をひくつかせながら答えた。
「うん。健斗さんとは十年くらい前にクラナガンで会って、
まあ、八神部隊長たちの詳しい出自とか能力の詳細は特秘事項だから、あたしも詳しくは知らないけど」
その説明を聞いて背筋が凍り付くほどの寒気が走った。確かにあれだけの猛者が揃えば無敵としか言いようがない。
そんな部隊長たちを含めた『機動六課』という組織にいたっては、もはや“異常”としか言えない。
隊長格全員がオーバーS。副隊長でもニアSランク。他の隊員たちだって前線から管制官まで全員が未来のエリートばかり。
あの齢でもうBランクを取ってるエリオと、レアで強力な《竜召喚士》のキャロは、二人ともフェイトさんの秘蔵っ子。
危なっかしくはあっても潜在能力と可能性の塊で、優しい家族のバックアップもあるスバル。
みんな間違いなく“天才”と呼べる人たちばかりだ。
『機動七課』は六課よりずっと小さいけど、隊員たちは六課以上の怪物ばかり。
八神部隊長と同等ランク、戦闘能力はそれ以上とも言える空戦SSの御神三等空佐。
なのはさんとフェイトさんと同等の空戦S+を持ち、さらにとんでもない能力を持つと言われるリインフォース・アインス二等空尉。
キャロと同じ召喚スキルを持っているうえに、もうすでにあたしたちより上のAランクを持っているルーテシア。しかも実際にはAAを取れる実力を持っているらしい。
あえて三等陸士に留まりながら入局6年の実績と、AMFをものともしない技能と高い身体能力を持つチンクさん。
そしてAランクと高い剣術を備え、そのうえどんなものも“強制停止”させる
どこをどう探したらあんな面子を集められるんだか。
その中で凡人はあたしだけ。高い魔力もレアスキルも持っていない。念願どおり執務官になった兄さんのように優秀でもない。
――でも、そんなの関係ない。
「あたしは立ち止まるわけにはいかない!」
無意識につぶやくと、「ティア?」とスバルが怪訝そうに聞き返す。そんな腐れ縁に「なんでもない」と応えた。
◇
一方その頃、ホテルから少し外れた森の中に無数の羽虫とその中心に立つ一人の女がいた。前の任務で列車とガジェットを喚びだした召喚士、メガーヌである。
「あそこがホテル・アグスタかー。噂通りよさそうなホテルね。ドクターの変なお願いがなければ泊まらせてもらうところなんだけど……」
メガーヌは愚痴をこぼしながら自身のまわりに複数の魔法陣を浮かべる。するとそこからガジェットが続々と浮き出てくる。
メガーヌはそれらを指差し、周囲を飛ぶインゼクトに命じた。
「ミッション――オブジェクトコントロール。この子たちと一緒に六課と七課をあぶり出して」
命令を受けてインゼクトは次々とガジェットに入り込む。
その直後、インゼクトに