魔法少女リリカルなのはStrikerS 七課の剣銃士   作:ヒアデス

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第9話 アグスタ攻防戦

「……?」

 

「どうした、ルーテシア?」

 

 警備の途中でアスクレピオスに填め込まれた宝石が突然光りだし、ルーテシアはデバイスを持ち上げながら外を見る。たまらず彼女に問いかけると、ルーテシアはいつものようにか細い声で言った。

 

「誰かが召喚を使ってる……」

 

「えっ?」

 

 意味が分からず聞き返したところで、脳裏に別の女性の声が響いた。

 

『本部から通達! ガジェットドローンの反応を確認しました! 陸戦Ⅰ型、機影30……35』

 

『Ⅲ型もいます。2――いえ4機!』

 

 シャーリーさんに続いてアルトさんの報告も届いてくる。オレも外に体を向けながら待機状態の落葉とライチェアスを取り出した。

 そこでシャマルさんから念話が届いてきて、彼女が現場の指揮を執る事と前線への大まかな指示が伝えられた。

 

 

 

 

 

 

「――わかりました。こちらも万が一に備えて会場内の警備を固めます」

 

 フェイトはそう言って通信(念話)を切り、座ったままこちらを見ている主催者に顔を向ける。主催者は困惑したまま尋ねてきた。

 

「な、なにがあったんです? 何か起きたみたいですが……」

 

 その問いにフェイトはうなずきながら答える。

 

「所属不明の機械群がホテルに近づいているみたいです。出品される予定のロストロギアを狙ってきた可能性があります。ですので万が一の際は、お客様の避難とオークションの中止をお願いすると思いますが――」

 

「そ、それは困ります! そんなことでオークションを中止なんてしたら、お客様からの信用がなくなってしまいます。なんのためにあなた方を呼んだと思っているんですか! 所属不明の機械だかなんだか知らないが、そちらで何とかしてください!」

 

 避難や中止という言葉を聞くなり、主催者のおっさんは椅子から立ち上がり唾が飛んできそうな勢いでまくしたててくる。フェイトは困った顔でホテルの支配人を見るが、ホテルにとってもオークションは重要な収入源らしく彼は首を横に振るだけだった。

 

 こういう時、“海”側の局員や捜査官は立場が弱い。

 “海”こと『次元航行部隊』の管轄は管理外世界や次元空間で、地上(管理世界)の企業や団体に対してはあまり強く出られない。

 だが……。

 

「ではなおさら、こちらの指示に従ってもらわなくては困ります。ここで対処を誤って客やホテルに被害が出れば、それこそ信用がなくなってしまうと思いますが。少なくとも、あなた方がこのホテルでオークションやイベントを開く事はもう二度とできなくなるでしょう」

 

「な、なんですかあなたは? “海”の局員にそんなこと決められるわけがないでしょう。そんなことを言ってる暇があったら、あなたたちも早くホテルに近づいている機械を片づけに行ってください!」

 

 忠告まじりの物言いが気に食わなかったのか、主催者は苛立ちをあらわに俺を怒鳴りつけてくる。

 これは口だけで言っても聞かないタイプだな。

 そう判断した俺は懐からIDカードを取り出し、彼の方に向ける。主催者は訝しみながらそれを見るが、ある一文を見た瞬間顔をひきつらせた。

 

「申し遅れました。地上部隊所属の御神健斗三等空佐です。これ以上こちらの指示を無視してオークションを強行しようとするなら、私も地上部隊の局員としてそれなりの対応をとることになりますが」

 

「ち、地上部隊……“陸”の士官だったのか……」

 

 あぜんと問いかける主催者に俺はうなずき。

 

「あなた方の信用とやらのために民間人を危険にさらすわけにはいきません。ここで商売を続けたいのなら我々の指示通りにしてください……いいですね」

 

 口調を強くしながら言うと主催者は逡巡するように黙り込み、少ししてから言った。

 

「わかりました――ですが、中止はまだ待ってもらえないでしょうか。どこかから機械が現れただけでいちいち中止なんてしたらオークションなんてできなくなる。せめてもう少し様子を見てからにしてもらえませんか」

 

 確かにまだ中止させるのはまだ早い。下手に状況を明かしたら、パニックが起きて外に出てしまった客がガジェットと鉢合わせてしまったり戦闘に巻き込む恐れがある。今のところホテルの中が一番安全だ。

 

「いいでしょう。こちらも全力で機械群の撃退にあたります。それまでオークションの開始を延ばしてください。執務官、部隊長と高町分隊長にそう報告を」

 

「はい――」

 

 フェイトは首を縦に振ってはやてと念話する。その横で俺は支配人に向かって言った。

 

「支配人は他の宿泊客が外に出ていかないようアナウンスの手配をお願いします。それと、今日ホテルに出入りした車両の記録を見せてもらえますか?」

 

「え、ええ……こちらです」

 

 戸惑いながら支配人はモニターを開いて俺に見せてくる。そこには案の定、搬入用のトラックの他に一台“不明車”が紛れ込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 その頃、主催者たちがいた部屋と同じ間取りの控え室で、スーツ姿の男二人が談笑していた。

 一人は長くなった金髪を後ろにくくり、緑色の両目の上に眼鏡をかけた20近くの青年。もう一人は下ろしたままの長い緑髪と碧眼の20半ばの男である。

 その二人の元にホテルの係員がやってきた。

 

「先生、申し訳ありません。トラブルが起きたので、オークションの開始時間を延長します。それまでしばらくお待ちいただけないでしょうか」

 

 その言葉に二人は軽く眉を持ち上げる。そこへ係員はもう一言付け足した。

 

「それと、現在ホテルの外で除虫作業を行っていますので、外に出ないようにお願いします。勝手なお願いばかりで申し訳ございませんが」

 

 その報告を聞いて金髪の青年はまさかと思うものの、頭を下げながら謝る係員に笑みを向けながら言った。

 

「気にしないでください。ここで待ってますから開始時間がきたら教えてください」

 

「ありがとうございます。何かございましたら遠慮なくお申し付けください」

 

 そう言い残して係員は慌ただしく出て行く。それを見送る青年の肩に手を乗せながら緑髪の男は尋ねた。

 

「いいんですか? 外で何が起きてるか、お気づきなんでしょう?」

 

 その問いに青年はうなずき。

 

「ええ……でもここには管理局、“彼女たち”がいるみたいだから大丈夫だと思います」

 

「これは厚い信頼ですね。まあ確かに、ユーノ先生の愛弟子が率いている部隊なら大丈夫でしょうけど」

 

 わざとらしくファーストネームで呼ぶ男に、ユーノは苦笑を浮かべながら言い返した。

 

「ヴェロッサさんこそ心配なんてしてないでしょう。可愛い妹と弟が指揮を執ってるんですから」

 

「ふっ、“弟”の方は精神的には僕より年上ですけどね」

 

 ヴェロッサはそんな言葉と苦笑を返しながら、ユーノの肩から手を下ろした。

 

 

 

 

 

 

 その頃。フォワードとフィルダーをホテル付近に残し、シャマル以外の守護騎士(ヴォルケンリッター)がガジェットの迎撃に出ていた。

 

 ホテルまでまっすぐ向かってくるガジェットⅠ型を上空から見下ろしながら、ヴィータは足元にベルカ式魔法陣を浮かべ、槌型のデバイスを構える。

 

「行くぞアイゼン――まとめて、ぶち抜けぇぇぇ!!」

 

 ヴィータは甲高い声を上げながら、目の前に出現した鉄球をアイゼングラーフで殴りつける。その反動で鉄球は打ち出されるようにガジェットに向かって飛んでいく。しかし、ガジェットはひらりと真上や真横に動いて鉄球をかわし、続けざまにヴィータに向かって光線を放つ。それを見てヴィータは大きく下に飛んで光線をかわす。その隙にホテルに向かっていくガジェットを見てヴィータは大きな舌打ちを鳴らした。

 その下でも……。

 

 

 

「レヴァンティン!」

『Explosion』

 

 シグナムは森の中でカートリッジを排出させながらレヴァンティン()を構え、ヴィータ同様足元に魔法陣を浮かべる。

 彼女を発見した途端、ガジェットⅢ型は動きを止め、内部からケーブルを飛ばしてくる。シグナムはその場から跳びあがってケーブルを回避し、炎を纏ったレヴァンティンを振り下ろす。

 するとガジェットは二本のベルト状のアームが伸ばして刃を受け止め、表面にある射出口からレーザーを撃ち出してきた。

 シグナムは素早く後ろに跳んでレーザーをかわす。ガジェットは間髪入れず続け様にレーザーを撃ち、シグナムは魔法陣を張ってそれを受け止めるが、その横を他のⅢ型が通り抜けていき、シグナムはたまらず「しまった」と吐き捨てた。

 

 

 

《すまん、こちらも何体か逃した。言い訳をするつもりはないが、今までのガジェットとはまったく動きが違う》

 

(自動機械の動きじゃない――誰かが操作してる!)

 

 ザフィーラの報告に耳を傾けながらシャマルは察しをつける。そしてすぐシグナムたちに思念を飛ばした。

 

《ヴィータちゃんとザフィーラは急いでシグナムと合流して! 後方のみんなはガジェットの迎撃をお願い。チンクちゃん、新人たちのフォローは任せたわよ!》

 

《ああ》

 

《はい!》

 

 シャマルの指示通り、ヴィータとザフィーラはシグナムのもとに向かい、フォワードとフィルダーはホテルの守りを固める。しかし……。

 

 

 

「もう遅いわ。《ヴンターヴィヒト》、オブジェクト20機――転送!」

 

 騎士たちを嘲笑いながら、メガーヌは《コロニス》という手袋型デバイスを掲げながら唱える。するとコロニスに填め込まれた宝石は不気味な輝きを放ち――。

 

 

 

 

 

 

「えっ――?」

「あれはガジェット!?」

 

 突然目の前に現れた魔法陣の中から浮き出てきたガジェットを見て、エリオとスバルが驚きの声を上げる。

 召喚魔法と同系統の転送魔法……初任務の時、もう一台の列車を喚び出した召喚士の仕業みたいね。でも、そんなの関係ない!

 

「驚いてる暇なんてないわ。迎撃行くわよ!」

 

 デバイスを構えながら指示すると、他のみんなも掛け声を返しながらデバイスを構える。

 

――今までのように証明すればいい、自分の能力や勇気を。あたしはそれでいつだってやってきた! 

 

 そう自分に言い聞かせながらガジェットに狙いを定め、魔力弾を撃ち放つ。

 しかし、ガジェットは上や横に飛んであたしが放った弾をあっさり避ける。逃がすものかとガジェットに向かって(デバイス)を構えるが――

 

「ティアさん――前!」

 

 キャロの声に反応して前を見ると、左右に砲門を取り付けたガジェットがあたしを狙っているのが見えた。あたしはすぐに銃を構えるものの、あたしが撃つ前にガジェットは二つの砲門から何発ものミサイルが放たれる。

 そこに――

 

「はあっ!」

 

 あらぬ方から弾が放たれ、ミサイルをすべて撃ち壊していく。思わず弾が放たれた方に顔を向けると、後ろで片手銃を構えているレツヤの姿が見えた。

 あたしを助けたつもりか――。

 

 ふがいなさと身勝手な怒りを感じていると、数体のガジェットがこっちを向いているのが見えた。

 あたしは真上に跳躍して攻撃を避け、何発か撃ち込む。だけど、弾殻を形成する暇さえなく撃ち出された弾はAMFに阻まれ、ガジェットの側面に小さなヒビを入れただけだった。

 そこにナイフが飛んできて、ガジェットたちを巻き込みながら爆発していく。あれはチンクさんの技だ。

 

『フォワードはそのまま防衛ラインを守って。フィルダーはその後ろからガジェットを攻撃していって!』

 

「はい!」

 

 シャマルさんからの指示にチンクさんとレツヤは威勢よく応じる。その反対に、フォワードを当てにしていないかのような命令にあたしは反発を抑えられなかった。

 

「守ってばっかじゃ行き詰まります! あたしたちも攻撃します!」

 

『ちょ――ちょっと、ティアナ?』

 

 反論した途端、シャーリーさんが戸惑いの混じった声をぶつけてくる。あたしは「大丈夫です!」と言い切りながらクロスミラージュを構え――

 

「エリオ、センターに下がって。あたしとスバルのツートップで行く!」

 

「――は、はい!」

 

 後退を指示すると、エリオは戸惑いながらもキャロと一緒に後ろに下がる。あたしは頭上に敷かれたウイングロードの上を走る相方に向かって――。

 

「スバル、クロスシフトA――行くわよ!」

 

「おう!」

 

 スバルは威勢よく応じながらガジェットの上を走り、あいつらの注意を引き付ける。

 その間にあたしはカートリッジでクロスミラージュに魔力を込め、多重弾殻の弾を十発以上浮かべた。これならAMFでも防ぐことはできないはず。

 でもそこに――

 

『ティアナ、四発ロードなんて無茶だよ! それじゃティアナもクロスミラージュも――』

 

「撃てます!」

 

 しつこく小言を繰り返すシャーリーさんに言い返しながら、ガジェットたちを睨み、狙いを定める。

 

「クロスファイヤー……シュート!!」

 

 あたしが放った弾はAMFを突き破って、ガジェットを次々に破壊していく。それを見て確信した。

 

――いける! 特別な才能(レアスキル)やすごい魔力がなくたって、まわりにどんな“天才”がいたって、あたしの――ティアナ・ランスターの弾丸はちゃんと敵を撃ち抜ける。

 

「はああああっ!!」

 

 勢いに乗ったままあたしは魔力弾を掃射して、残りのガジェットを潰していく。そんな中、爆炎に紛れてホテルに向かっていくガジェットが見えた。

 

「行かせるもんか――!」

 

 吼えながらあたしはデバイスを構え、ガジェットに向かって撃ち放つ。しかし、ガジェットはおもむろに真横に移り、その向こうにいたルーテシアに弾が飛んでいく。それに気付きながらも目を見張りながら棒立ちするルーテシアに、あたしはたまらず――

 

「――避けて!!」

 

 そう叫んだ直後。

 

「“ストップ”!」

 

 その一言が響いた瞬間、ルーテシアに向かってた弾とホテルに近づいていたガジェットはピタリと動きを止める。声の主(レツヤ)はすかさず(デバイス)を構えて浮いたままの弾丸を撃ち落とし、その直後に真横から飛んできたナイフがガジェットを貫き爆散した。

 その直後、「ティアナ!」とチンクさんが荒げた声を飛ばしてきた。

 

「どういうつもりだ? 勝手にエリオたちを下がらせた挙げ句、あんな撃ち方を」

 

「あ、あれはその……」

 

 あたしは口を震わせながら声を絞り出す。立場上部下という事になってる彼女だが、そんなこと言える雰囲気じゃなかったし、それを微塵も感じさせない凄みが今のチンクさんにあった。

 

「一歩間違えればルーテシアに当たっていたところだったぞ!」

 

「す、すみません!」

 

 あたしはすぐさま頭を下げて謝るものの、チンクさんは呆れの息をついて。

 

「もういい、今のお前は冷静に戦える状態じゃなさそうだ。ティアナとスバルは裏口を警備していてくれ。裏口は構造上侵入しにくいはずだが念のためにな……。シャマルさん、それでいいでしょうか?」

 

『え、ええ。ティアナ、スバル、裏口の警備をお願いしていいかしら』

 

「は、はい、わかりました」

 

「……はい」

 

 

 

 シャマルさんの指示を受けて、ティアナは意気消沈したままスバルと一緒に裏口に向かって行く。一方、オレは何も言えないままルーテシアに近づいて言った。

 

「ルーテシア、大丈夫か?」

 

 オレの問いにルーテシアはこくりとうなずき。

 

「うん、いざという時は防御できたし。それよりあの二人のいない分、私たちがホテルを守らないと」

 

「――ああ!」

 

 ルーテシアの言葉にうなずき、オレたちは再びホテルの前に陣取った。

 

 

 

 

 

 

 時は少しさかのぼり、六課と七課がガジェットと戦っている隙を縫って、ホテルの地下駐車場にインゼクトが一匹侵入していた。

 警備員たちは虫に気付かないまま見張りを続けている。彼らの頭上を飛びながらインゼクトは数回光を放つ。その光は信号としてそのまま主に伝わった。

 

「あら、もう見つけちゃった。じゃあ六課と七課がガジェットに夢中になってる間に、さっさとお仕事をすませちゃいましょうか」

 

 そう言った瞬間、メガーヌの足元に召喚魔法陣が現れる。それとともに彼女は影も形も残さず、この場から忽然と消え去った。

 

 

 

 

 

 それからあっというほどの間もなく、メガーヌは召喚陣とともに駐車場に現れる。警備員は遠くで棒立ちしたままで、彼女の出現など微塵も気付いていない。

 『隙だらけの警備ご苦労様』と舌を出しながら、メガーヌは目的の品が積まれたトラックに近づいた。トラックの荷台はウイングによるロックがかかっている。古い型なのか、あるいは『開錠魔法』対策にわざとレトロな施錠方を用いたのか。

 

――さて、どうしましょうか。女怪盗って感じで難なく荷台を開けて、警備員さんたちが気付いた頃には肝心のブツはどこにもない、っていうふうにいきたいんだけど。そうもいかなそうね。ここは力づくで開けてさっさと回収といきますか――。

 

 そう内心で独りごちてからメガーヌは右腕を掲げる。すると――

 

「動くな!」

 

 真後ろから男の声が聞こえ、メガーヌはまさかとそちらを振り向く。

 そこには黒髪と左右色違いの瞳の青年と赤いドレスを着た銀髪の女が立っていた。二人を見てメガーヌは目を見張る。

 その一方、彼女の姿を見て、二人――御神健斗とリインフォース・アインスも目を見開いた。

 

 

 

 

 

 

 騒ぎを聞きつけて、近くにいた警備員たちが集まってくる。そんな中トラックの前に立っていた女を見て、俺とリインは驚きに目を見張った。

 グレーのウェットスーツと黒いマントという怪しい出で立ちも十分おかしいが、それ以上に俺たちを驚かせたのは彼女の“顔”だった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 長く下ろした紫髪に整った容姿。目の前の女はうち(七課)の最年少隊員、ルーテシアに非常によく似ていた。彼女が成長したら瓜二つになるだろう。

 何より、こいつの顔は“あの部隊の名簿”で何度か見たことがある。

 

「あなたたち、警備員じゃないわね。六課……それとも機動七課の人間かしら?」

 

 女は俺たちの格好を見回しながら聞いてくる。俺は尋ねようとした問いを引っ込めながら言葉を返した。

 

「機動六課の独立遊撃分隊だ。オークションが行われてる間この駐車場は立ち入り禁止なんだが、そのトラックに用でもあるのか? そいつは密輸品を運んでいた車両みたいで、俺たちが調べようと思っていたところだったんだが」

 

「あら、そうだったの。“あの人”がわざわざ頼んでくるものだからただの骨董品じゃないと思ってたけど。……なるほど。私たちがわざわざ狙ってくるとしたら、オークションに出せるような半端物じゃなく、それに乗じて流れ込んでくる密輸品だろうと考えたわけね。その歳で部隊を率いてるだけあってなかなかいい勘してるじゃない」

 

 女は一言つぶやいてから俺たちの方に顔を戻し、ズバズバとこちらの意図を言い当ててくる。

そっちこそ捜査官だっただけはあるな。と内心で返したところでリインが女に告げた。

 

「その話の続きは地上本部か六課の隊舎でしよう。私たちと一緒に来てもらおうか」

 

 そう言ってリインは彼女のもとに歩を進める。

 女は降参するように両手を上げ、リインのもとに歩み寄る。そして――

 

「はああっ――!」

 

 女はおもむろに右腕を振り上げ、リインに殴りかかってくる。リインは瞬時に左腕を上げてガードし、右腕を振りかぶって反撃しようとする。しかし、女は体をよじってリインの拳をかわし、数歩後ろに下がった。

 突然殴り合いを始めた美女二人に、警備員たちは慄きながらその場に立ち尽くす。彼らに「下がれ」と叫びながら、俺も(ティルフィング)を振りかぶりながら女に迫った。

 しかし、女は巧みな身のこなしで俺とリインの攻撃をかわしながら拳を突き出してくる。

 リインは攻撃の合間に短剣を出現させてそれを掴み取り、女に投げつける。誘導機能で避けてもそのまま向かってくるうえに、当たれば爆発する代物だ。だが、女はそのまま短剣を殴りつけて弾き返し、リインはたまらず身をよじって短剣を回避する。

 その隙を縫って女はリインの横をかいくぐり、俺に向かって拳を突き上げる。それに対して俺は剣を垂直に立てて攻撃を受け止めた。

 

「やるわね。その剣技は古代ベルカと地球って世界、どっちで身に着けたものかしら?」

 

「――っ!」

 

 彼女の言葉から出てきた言葉に思わず息を飲む。そこで女は拳で剣を弾き飛ばしそのまま俺に殴りかかってくる。だが――

 

「はああっ!」

 

 リインが魔力弾を放ってきたことに気付くや、女は真上に跳躍して魔力弾をかわし、少し離れたところに着地した。女は俺たちを見ながら舌打ちを零す。

 

「AA以上二人だと分が悪いわね。ドクターに頼まれた品は諦めて、逃げるしかないかしら」

 

「逃がすと思うのか。おとなしく両手を床について投降しろ。そのドクターとやらやあんたの素性について色々聞きたいことがある」

 

 警告しながら剣を構え、女ににじり寄る。だがそこで――

 

「健斗――危ない!」

 

 リインの叫び声に反応して横を振り向く。そこに突然黒い影が現れ、腕を振りかぶってきた。俺はすぐにシールドを張るが、拳圧によって俺の体は真後ろに吹き飛んだ。

 その隙を縫って――

 

「ありがとガリュー。じゃあ()()()はこれで失礼するわ。外の子たちにもよく頑張ったわねって伝えておいて――じゃあね、“愚王さん”!」

 

 女とガリューと呼ばれた影の足元に召喚陣が現れる。リインは「待て」と怒鳴りながら魔力弾を浮かべるが、弾を放つ前に女とガリューはこの場から消え去った。

 俺たちは後ろにいた警備員たちともども、呆然とその場に立ち尽くす。だが、それからすぐに俺は我を取り戻し、はやてに通信を入れた。

 

 

 

 

 

 

「ぐっ――」

 

 森に戻ると同時にメガーヌはわき腹を抑えながらうめく。心配そうに手を差し出すガリューにいいと首を横に振りながら、メガーヌは苦笑を浮かべた。

 

――あの時、私が跳んだ時に剣圧を飛ばしていたのね。曲がりなりにも戦乱時代のベルカを生きてきただけはあるか……

 

 “愚王”に対して称賛を送りながら、メガーヌは人差し指を伸ばし虚空を押す仕草をする。するとそこにドクターことスカリエッティが映るモニターが現れた。

 

『やあメガーヌ。無事例のものは手に入れてくれたかい? それとも……』

 

 わき腹を押さえるメガーヌを見て、スカリエッティは言葉を止める。彼に対してメガーヌは苦笑を浮かべたまま首を横に振った。

 

「ごめんなさい、失敗しちゃったわ。こっちの狙いが読まれていたみたいで逃げてくるのが精一杯だった」

 

『そうか……まあいい、どこか別の世界に渡るより管理局の手に収まった方がまだマシだ。必要になったら“クライアント”に頼んで回してもらおう』

 

 スカリエッティの口から出た“クライアント”という言葉を聞いて、メガーヌは笑みを消し硬い表情を浮かべる。そんな彼女とは正反対にスカリエッティは笑みを向けながら言った。

 

『ご苦労だったねメガーヌ。その傷だと移動も辛いだろう。“ナンバーズ”の誰かを迎えに出そうか』

 

「いいわ。薬ぐらい用意してるし、少し離れたところに転移してそこで一休みしていく」

 

 スカリエッティの申し出を断ってメガーヌは通信を切り、ホテルの方に目を向ける。その近くではまだいくつか爆炎が上がっていた。それを見下ろしながら……

 

「……今度は今日みたいにいかないわよ」

 

 御神健斗や機動六課に向けてそう言い残して、メガーヌはガリューとともにこの場から去っていった。

 あの森に自身の娘がいる事に気付かないまま……。

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……これで全部撃墜」

 

 最後のガジェットを破壊してオレは溜息を吐き出す。チンクとルーテシア、エリオとキャロも同様だった。そこに森の方から声がかかった。

 

「おう、お前らも終わったか」

 

「――ヴィータさん!」

 

 声の方に振り向くと、守護騎士たちが向かってくるのが見えた。

 ヴィータさんに続いてシグナムさんが告げてくる。

 

「こちらもガジェットをすべて破壊したところだ。召喚士は見つからなかったがな」

 

「だが、これで召喚士の能力や癖はだいたい把握した。現在対策を考えているらしいとの事だ」

 

 そう言ってくるザフィーラさんにヴィータさんは「そうか」と返しながらオレたちのまわりを見回し。

 

「んっ、スバルとティアナは?」

 

 その問いにオレたちは気まずい顔をしながら顔を見合わせる。その中からチンクさんが出てきて言った。

 

「あの二人は裏口の警備についてもらっています。ちょっとトラブルがありまして……もうガジェットも片付きましたし、連れてきましょうか?」

 

 そう申し出るチンクにヴィータさんは首をかしげながら「いい」と首を振る。

 

 

 任務を成し遂げたにもかかわらず、剣呑な空気がたちこめる中オレは妙な胸騒ぎを覚えていた。




以前の七課の挿絵同様、メガーヌの絵もpixivでmirangaru様からいただいた絵を加工したものです。
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