魔法少女リリカルなのはStrikerS 七課の剣銃士 作:ヒアデス
召喚士の逃亡後。彼女の逃亡とともにガジェットも姿を消し、アグスタには本部から駆けつけた調査班が破壊したガジェットの回収や現場検証を始め、六課と七課も彼らに協力しているところだった。
そんな中、俺ははやてとともにホテル内の喫茶店で彼と落ち合っていた。
「やあ。久しぶりだね、健斗君」
「お久しぶりです、ヴェロッサ・アコース査察官」
一般客がいる中、敬礼はせず挨拶とお辞儀だけをする。そんな俺に彼はさわやかな笑みを浮かべながら言った。
「おいおい、よしてくれ。10年も前に義兄弟の契りを交わした仲じゃないか。昔のようにタメ口でお兄ちゃんと呼んでもいいんだよ」
「そんな契りも呼び方もした覚えねえよ。不良査察官」
お望み通りのタメ口に憎まれ口も付けて返事をしてやると、ヴェロッサと彼につられてはやてもおかしそうな笑みをこぼす。
ちょうどそこで運ばれてきたコーヒーを一口含み、ヴェロッサはあらたまった様子で口を開いた。
「機動六課と機動七課、両方ともうまくいってるみたいだね」
「うん。ロッサのお
「その代わり、この間の管理外世界への出張のような無理も押し付けられるけどな」
皮肉を言うとはやては咎めるように声を上げる。一方、ヴェロッサは苦笑しながら返事を返した。
「すまない。あれはカリムにとっても苦肉の対応だったんだ。でもその代わり、君たちがミッドに残ってくれてたらしいじゃないか。健斗君も里帰りがしたかったろうに」
「それほどでもない。
「ああ、つい最近無限書庫に調べものに行った時に、彼が直々に案内してくださってね。その時に君たちの友人同士だとわかって仲良くなったんだよ。君こそいいのかい、彼と話していかなくて」
「遠慮しとく。調べものの依頼とかでちょくちょく連絡取ってるし……あそこに割って入るほど野暮じゃない」
言いながら俺は窓の外に目をやり、ヴェロッサとはやてもそちらを見る。そこからは仲睦まじく話しているなのはとユーノの姿が見えた。ヴェロッサも二人を見て微笑ましげな笑みを浮かべ……
「君にしては気がきいてるじゃないか。もうお
からかい混じりの問いに、俺は照れ隠しにコーヒーを飲んでから答える。
「まあユーノなら信用できるし、俺のせいでなのはが婚期を逃したなんてことになったら彼女の両親に恨まれる。姉さんもまだ独り身だしな。――それより、アコース査察官に頼みたいことがあるんだが」
「……なんだい。僕にできる事ならいいんだが」
呼び方を変える俺に対して、ヴェロッサは笑みはそのままに神妙な口調で聞き返す。俺は空になったカップを床に置いてから言った。
「地上本部と本局、この二つの組織の上層部を調べてほしい。そしてできれば、彼らより上の“管理局のトップ”――『最高評議会』についても調べてきてほしいんだ。もちろんできる限りで構わないし、危険だと感じたらすぐに打ち切ってくれてかまわない」
ひそめた声でそう言うと、ヴェロッサとはやては顔を硬くしながら耳を傾ける。俺は続けて言った。
「俺の考えではその中の誰か、もしくは何人か――最悪全員がスカリエッティと繋がっているかもしれない」
Ⓒ
それから数時間後。現場の検証と撤収準備が終了し、オレたちとフォワードはホテルの前に集められた。
高町さんたちがフォワードに何か告げてる横で、御神さんもオレたちの前に立って言った
「みんなお疲れさん。じゃあこれから隊舎に帰る事になってるが…………お前たちがどうしてもというなら、今日だけ特別にここに泊めてやってもかまわないんだが……どうする?」
他の隊長たちに聞こえないよう、声をひそめながら尋ねてくる御神さんにチンクは白い目を向けて尋ね返した。
「隊長、まさかと思いますが、隊長が副隊長と一緒に泊まりたいからそう言ってるわけじゃありませんよね?」
「は、はは……そんなわけないじゃないか」
御神さんは乾いた笑いを漏らしながらそう答え、リインさんも顔を赤くしてそっぽを向く。そんな上官たちにオレも呆れの視線を送った。
この人たち、仕事以外でも週に一回は必ず外で寝泊まりしてくるんだよなぁ。恋人どうしだから仕方ないかもしれないけど、せめてオレたちを外泊のダシに使うのはやめてくれ。
結局七課も六課とともに隊舎に帰投することになり、移動準備が整うまでの間オレたちは何を話すでもなく三人固まってぼんやりしていたが、そこにティアナがやってきた。
「えっと……ルーテシアさん、さっきのミスの件、本当にごめんなさい! それとチンクさん、勝手におかしな指示して迷惑かけてすみませんでした!」
絞り出すようにそこまで言って、ティアナはルーテシアとチンクに頭を下げる。
そんな彼女に……
「平気。戦いではああいうことも起こるって教わってるから。あれで怪我したとしても自分の注意不足」
「……私もあれ以上は何も言うつもりはない。それに私こそ感情的になってきつい言い方をしてしまったかもしれん。すまない」
ルーテシアはいつもと同じ様子で首を横に振り、チンクは複雑そうな顔で謝り返す。そこにスバルがやってきて、彼女も交えて和やかに会話する三人を見て、これで一件落着かなとオレは胸を撫でおろしていた。
けど……。
◆
警備任務の翌日。朝練を終えて隊舎に戻った時、休憩室から隊員二人の立ち話が聞こえてきた。
「あの分隊、たしか七課って言ったっけ。あいつらの活躍すごかったよなー」
その会話を聞いてあたしは反射的に足を止めて、彼らの会話に耳を澄ませる。するともう一人が返事を返した。
「三人ともA以上でレアスキル持ちだからな。ガジェットなんてもう目じゃないさ。あの中から一人だけ
確かにそうだろうな。あの子たちの誰かが転属してきたら、やっぱりフォワードに配属されるんだろうか。
そう思ったところで、もう片方が片手を振りながら言った。
「いやいや、もう一人くらい入れるつもりじゃねえの。うちの中から役に立たない奴と交換してさ」
「――っ!」
その一言を聞いた瞬間、体がすくみ上がった。六課で役に立ってない人間――それってあたしの事じゃ?
「あの部隊長ならそれぐらいやるかもしれないな。で、七課に飛ばされそうな奴って誰だよ?」
「誰って、そりゃあもちろん……」
――それが聞こえてきた瞬間、あたしの足は勝手にその場を離れ、外に向かって駆けだした。
もっとだ。もっと練習しなきゃ。
ここまで来て、あたしだけ六課から追い出されるなんて絶対にごめんだ!
「あれ、ティアナ?」
自分に気付かないまま走り去っていくティアナを見て、アルトは彼女を呼び止めようとする。だが、アルトが声をかける前にティアナは通路の向こうへ行ってしまった。
そこで隊員二人が彼女に気付いた。
「あれ、アルトちゃんじゃねえか。どうした?」
「あっ、先輩。さっきそこでティアナとすれ違ったんですけど、彼女と一緒にいたんですか?」
アルトの問いに二人は揃って首を横に振る。アルトは首をかしげながら……
「ところで二人とも何の話をしてたんですか? もしかしてティアナの陰口なんて言ってたんじゃあ……」
疑わしそうな目で詰問してくるアルトに二人は苦笑を返し、
「まさか。七課から誰か入れる際、代わりに俺たちみたいな後方組が向こうに飛ばされるかもしれないって言ってただけだよ」
「そうそう。高町一尉が手塩にかけて育ててる愛弟子で、フォワードのリーダーまで任されてる期待の新人には関係ない話だ」
「それはそうですけど……っていうか、七課のことをそんな風に言わない方がいいですよ。局でも貴重な精鋭を集めた部隊なんですから。あそこの隊長と副隊長も部隊長たちのご友人ですし、もしあの人たちの耳に入ったら……」
顔を青くしながら忠告するアルトに、二人は冷や汗を浮かべてこくこくと首を縦に振った。
一方、そんなやり取りがあった事も知らないまま、ティアナは休憩時間はおろか昼食を摂る時間すら返上して特訓を続けていた。
◆
「合同訓練ですか?」
今日の訓練が終わってすぐ、訓練場に現れた御神さんの言葉をそのまま復唱する。御神さんは「ああ」とうなずいて続けた。
「先日の件でフォワードとフィルダーの動きや戦法を確かめ合う必要があるという話になってな。二日後の午後に向こうと合同訓練を行うことになった」
それを聞いてオレとチンクはあの時のことを思い返す。確かにその必要はあるかもしれない。二回同じ任務に出て交流も取るようになったとはいえ、オレたちもフォワードも互いのことを知らなすぎる。
「隊長、質問いい……ですか?」
「なんだ?」
右手を上げ、たどたどしく敬語を付けながら尋ねてくるルーテシアに御神さんが聞き返す。ルーテシアはそのまま問いを発した。
「キャロから二日後に隊長たちとの模擬戦があるって聞いたけど、もしかして私たちも?」
それを聞いてオレとチンクははっとする。そういえばスバルからそんな話を聞いた気がする。
まさかオレたちも隊長――御神さんかリインさんのどちらかと。
そんな問いがこもった視線に御神さんはこくりと首を縦に振った。
「ああ。大抵のガジェットやゴーレムは片づけられるようになったし、各々スキルも伸びている。そろそろ俺とリインが稽古をつけてやってもいい頃だろう。チンクとルーテシアの相手はリインフォースが務める。レツヤの相手は……」
御神さんはそこで言葉を区切ってじっとオレを見据える。
「レツヤの相手は俺が務める。ISに召喚術、
そう告げてくる隊長をオレも睨むように見返して……。
「……わかりました。今オレが出せる全力をもって御神隊長に挑ませていただきます。当日はよろしくお願いします!」
そう言って頭を下げるオレに御神さんは「いい返事」だと笑う。ルーテシアとチンクも相手を務めるリインさんに頭を下げ、今日の訓練は終わりとなった。
「いよいよ隊長たちと模擬戦か。訓練とはいえ緊張するなー」
「うん。私たちの中から誰を六課に転属させるか決めるのにも大きく影響するかも」
訓練場近くの海岸で意気込むオレに、ルーテシアもいつもより熱の入った声を返す。そんな中……。
「……」
チンクは六課の隊舎に目をやりながら、腕を組んで考え込んでいた。オレとルーテシアは怪訝に思い――
「おい、チンク」
「――ああ、すまない。どうした?」
オレが声をかけると、チンクは我を取り戻しこちらを振り向く。そんな彼女にルーテシアが彼女に声をかけた。
「六課に何か用事? スバルのこととか」
妹の名を出され、チンクは真剣な顔のままうなずく。
「ああ。アルトという六課のオペレーターから聞いた話なんだが、この間のホテルでの任務以来、スバルとティアナが毎日ハードな自主練に打ち込んでいるという話を耳にしてな」
「スバルとティアナが……」
「教導官との模擬戦に備えて腕を磨いているだけじゃない。あの二人にとって憧れの人みたいだし」
ルーテシアは淡々とした口調で言う。しかし、チンクは首を横に振り――
「それにしても練習量が半端じゃない。休憩どころか食事や睡眠まで削って特訓に明け暮れているという話だ」
「食事や睡眠も!?」
チンクが告げた一言にオレは仰天の声を上げる。確かにそれは半端どころじゃないぞ。
「アルトやヴァイスさんが何度か注意して、私の方からもそれとなく忠告したんだがやめる気配がない……本番に響かないといいんだが」
チンクがそう言ったところで、隊舎の片隅から茜色の閃光が瞬くのが見えた。
その光を見て嫌な予感を覚えつつも考えすぎだと振り切り、二日後の御神さんとの模擬戦に備えてオレは意識を集中させることにした。