魔法少女リリカルなのはStrikerS 七課の剣銃士   作:ヒアデス

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第11話 反抗

 合同訓練当日。

 

 七課と六課のスターズ、ライトニング隊は六課の訓練スペースに来ていた。

 ボロボロの都市を再現したスペースの中心で、なのはさんがオレたちの前に立って告げる。

 

「じゃあ、これからフォワードとフィルダーの合同訓練を始めます。まずは私とスターズから。二人ともバリアジャケット準備して」

 

「「はいっ!」」

 

 なのはさんの指示に、ティアナとスバルは威勢のいい返事を返しながらバリアジャケットに身を包んだ。

 

「お前たちはライトニングとともにビルの上から見学だ。地上だと邪魔になるからな」

 

 御神さんの指示にオレたちは「はい」と答えながら彼の後に続く。

 途中からやってきたフェイトさんも交えたオレたちがビルの上に移る頃には、なのはさんとティアナの魔力弾が空を飛び交い、その間をくぐるようにスバルが空中に敷いたウイングロードの上を駆けていた。

 

 

 

「クロスファイアー……シュート!」

 

 空中にいるなのはさんに向けて、ティアナは魔力弾を連射する。その弾はいつもと比べて動きが鈍いように見え、ヴィータさんとフェイトさんも怪訝な声を漏らす。

 一方、ティアナの弾を避けながら飛ぶなのはさんの前に、ウイングロードとその上を滑走するスバルが現れた。彼女を見た瞬間なのはさんは目を見張り、ライトニングや隊長たちも驚きに目を見張る。

 いつもの戦法じゃない――それも悪いやり方みたいだ。

 

 なのはさんは戸惑いながらもスバルに弾を撃ち込むが、スバルは右手に張ったプロテクションで防ぎながらなのはさんに肉薄し、拳を叩きつける。一方なのはさんは即座に防御魔法陣(ラウンドシールド)を張り、その反動を利用してスバルを弾き飛ばすが、スバルは巧みな体裁きで体勢を立て直し、敷かれたままのロードに着地した。

 

「こらスバル! 駄目だよ、そんな危ない軌道」

 

「すいません! でも、ちゃんと防ぎますから!」

 

 いつもと違い聞き分けが悪くなった教え子(スバル)に、なのはさんは眉を顰める。そんな彼女の頬にレーザーサイトが当てられた。なのはさんもそれに気付き、そちらに目を向ける。その先にビルの上で銃を構えるティアナの姿があった。

 

 スバルは右手を振り上げながらなのはさんに向かって突貫する。彼女と衝突する寸前、スバルが填めているリボルバーナックルはカートリッジを吐き出しながら手首部分のスピナーを回転させた。あの回転によって打撃力を上げる仕組みになっているらしい。

 

「でりゃああああっ!」

「っ――」

 

 なのはさんは顔をしかめながらラウンドシールドでスバルの攻撃を防ぎ、銃口を向けているティアナの方を見る。だが、なのはさんが目を向けた瞬間、ビルの上にいた()()()()()()()()()が掻き消えた。

 まさか――

 

「あっちのティアさんは幻影?」

 

「本物は――?」

 

 キャロが察するとともにエリオは本物の彼女を探す。

 オレも首を巡らせ、彼らより一瞬早くロードの上を走るティアナを見つけた。ティアナはなのはさんの頭上まで走り抜け、茜色のブレードを伸ばしたクロスミラージュを突き出しながら彼女めがけて飛び降りる。

 

「――でええええぇぇっ!!」

 

 

レイジングハート……モードリリース

 

 

 なのはさんが小さく何ごとか呟くが、その瞬間彼女とティアナが激突しすさまじい爆炎が吹きすさぶ。それを見て『やったか』という言葉がオレの頭を巡った。

 ……だが。

 

「おかしいな……二人ともどうしちゃったのかな……」

 

 その声を聞いてオレたち、そして彼女と相対しているティアナとスバルが目を見張った。

 それもそう……ティアナのブレードとスバルの拳を、なのはさんは()()()受け止めていたのだから。

 

「がんばってるのはわかるけど、模擬戦は喧嘩じゃないんだよ。練習の時だけ言うこと聞いてるふりで本番でこんな危険な無茶するんなら……練習の意味、ないじゃない」

 

 小さな声とは裏腹に、相手のブレードや拳を強く握りながらなのはさんは言葉を漏らす。ブレードを掴んでいる手からは血がにじみ出ているが、そんなこと意にも介していないようだった。

 

「ちゃんとさ、練習通りやろうよ……ねえ、私の言ってること、私の訓練、そんなに間違ってる?」

 

 問いただすような、訴えるような声と目で、なのはさんは訊ねる。その返事は――

 

『Blade erase』

 

 クロスミラージュの声とともにブレードははじけ、ティアナは後ろの(ロード)に飛び移る。

 ティアナは(なのはさん)に銃口を向けながら……

 

「あたしはもう誰も傷つけたくないから、あたしの居場所をなくしたくないから――だから、強くなりたいんですっ!!」

 

 大粒の涙を零しながら訴えるティアナに、なのはさんは眉一つ動かさず指を向け……

 

「少し、頭冷やそうか……」

 

 

 

 冷えるようなその声を聞いた瞬間、体がぞくりとした。

――これ以上はやばい!

 そう思ったオレはたまらず――

 

「やめさせてください! こんなのもう模擬戦じゃありません! 急いで止めないと――」

 

 隣で眺めている御神さんやヴィータさんたちに向けて訴えるが、彼らは身じろぎもせず。

 

「あいつらの勝手と無茶が招いた結果だ。ここは一発ガツンとやっといた方がいいぐれえだろう」

 

 ヴィータさんは冷たく言い放つ。御神さんも冷淡な口調で、

 

「俺も同感だ。自分たちがどれだけ危険な事をしているか、一度身をもって味わった方がいい」

 

 そう言ったきり、二人は黙ってなのはさんたちの方を眺める。

 確かに今のティアナたちの戦い方が危険なもので、なのはさんたちの教えに背いたやり方なのはわかるけど……でも…………。

 

 

 その時、つんざくような破砕音が聞こえてきた。

 ティアナが放った砲撃魔法をなのはさんの砲撃が消し飛ばしたのだ。スバルの体にはいつの間にかバインドが巻かれ、その状態のままスバルはなのはさんを止めようとするものの、なのはさんはスバルの方を見ず「じっとして」と言うだけだった。

 なのはさんの前に浮かぶ魔力球(スフィア)が収束し、ボール大の魔力弾がうねりを上げながら形成される。非殺傷設定とはいえ、あれを喰らったら痛いではすまないだろう。

 悲痛な声で叫ぶスバルに目もくれず、なのはさんは魔力弾を撃とうとする。

 それを見た瞬間――

 

 

 

 

 

“ストップ”!!

 

 

 レツヤが声高く叫んだ瞬間、撃ち出される寸前だった魔力弾は動きを止め、なのは自身も硬直しながら視線だけを声の方に向ける。

 

「レ……ツヤ……?」

 

 ティアナも彼の方に視線を向けながらその名をつぶやく。だが、彼女自身動きを止められ、それ以上のことはできないでいた。

 そんな彼女らに向けて……。

 

「二人とも、もうやめてください。ティアナとスバルが勝手な事をしたのはわかります。でも、それはもうティアナたちに十分伝わってるはずです――これ以上やる必要なんてないじゃないか!」

 

「レツヤ、てめえなに勝手な真似を――っ」

 

 ヴィータは怒声を上げながらレツヤに摑みかかるが、彼に睨まれた瞬間動けなくなる。これは間違いなく――

 

(“強制停止”の技能……手足どころか指一つ動かせねえ。それに、あいつの眼は……)

 

 ヴィータや他の皆は食い入るようにレツヤの眼を見る。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 彼の右眼はいつもどおりの茶色だったが、左眼の方は赤みがかった紫色に変色していたのだ。

 一同が驚く中、()だけはこの変化を予想していたように……。

 

「馬鹿者が……もう一人(しつけ)が必要な奴がいたようだな」

 

 その声が聞こえた途端、レツヤはすぐそちらに眼を向ける。だが、そこに彼の姿は見えず、レツヤは顔を左右に振って相手を探す。

 だが――

 

「――がはっ」

 

 レツヤが顔を向けた直後、視認する間もなく拳を入れられ、レツヤはうめき声を漏らしながら床に叩きつけられる。

 顔を上げたレツヤの頭上には、今の自分と同じ虹彩異色(オッドアイ)を持つ男、御神健斗が立っていた。

 

「お前の言いたい事はわからんでもない。だが、この教導の是非を決めるのは部隊長や他の隊長たちであって、お前が口出しすることじゃない。それが気に入らんと言うなら今すぐここを出ていけ!」

 

「――じゃあ、あんたが止めてくださいよ! 高町一尉より上の“三等空佐”なんでしょう? 普段オレたちには偉そうなこと言ってるくせに、六課の隊長たちにはなにも言えねえのか!!」

 

 そこまで言われた途端、健斗の眉間にみしっと皺が寄る。それを見て恐怖のあまりルーテシアはチンクにすがりつき、フェイトはエリオとキャロをかばうように自分のもとに抱き寄せた。

 

「やれやれ、ルーテシアがちゃんとし始めたと思ったら、お前が問題児に逆戻りか……一度徹底的に自分の立場をわからせてやらないといかんみたいだな」

 

「やってみろよ。あんたなんか技能ですぐに止めて――」

 

 レツヤが眼を鋭くした瞬間、健斗の姿が掻き消える。その直後、真横から顔面に衝撃が走った。

 

「お前の技能、ストップなんたらの弱点は“視界に入っているものしか止められない”という点だ。しかも一目でわかるくらい眼に力を込めてるから、タイミングが読みやすい。俺からすれば避けてくださいと言われてるのと変わらねえ」

 

 健斗があれこれ言っている隙に、レツヤはぎゅっと眼を細めて彼を視界に入れようとする。だが、やはり健斗はそこにおらず、次の瞬間レツヤの腹に拳がねじ込まれた。

 

「ごはぁっ――ぐぉぉ」

 

 レツヤは口から胃液を垂らしながら腹を押さえてうずくまる。それを見てルーテシアやキャロは思わず目を伏せる。とっくに技能から解放されたなのはやティアナたちも、呆然とその光景に見入っていた。

 レツヤは床に手をつきながら顔を上げ、健斗を視界に収めようとする。

 当然のごとく、健斗はそこにいなかった――だが。

 

「ストップ!!」

 

レツヤは気配を掴み取るや即座に左に顔を向け、そこに立つ健斗に向かって叫ぶ。途端に技能が発動し、健斗は身動き一つ取れなくなった。

 

「かかった――お返しだ!」

 

 レツヤは立ち上がり、右腕を振りかぶりながら健斗に向かって駆け出す。

 だが――。

 

「ユニゾン・イン!」

 

 健斗の後ろに立つ女――リインフォース・アインスが叫んだ途端、彼女は黒い球体となって健斗に取り付く。

 その直後、健斗の髪は真っ白になり、右眼も紅色に染まった。

 それを見てレツヤは思わず動きを止める。なぜなら――。

 

「あんたは、あの時の…………やっぱり隊長が……」

 

 愕然と唇を震わせるレツヤの前で、リインと融合した健斗は自身の体に魔力を流しこんで体の自由を取り戻す。

 その直後、健斗は一足でレツヤの懐に迫り、彼の胸ぐらを掴み上げた。

 

「ぐぁ……」

 

「そう。6年前、違法魔導師に襲われていたお前とティーダさんを助けたのは、()()()()()だ。……命の恩人がティアナたちを助けにいかず、部下に手を上げるような奴で幻滅したか?」

 

 問いに答えずレツヤはただ健斗を睨み返す。それに対して健斗は自嘲的な笑みを浮かべ……。

 

「そうか――俺もお前には失望した」

 

「がはっ――」

 

 首元に魔力を流し込まれ、レツヤは白目を剥いて気を失う。皆が固唾を飲んで見守る中、健斗は意識を失ったレツヤを肩に担ぎ上げながら告げた。

 

「すまないが合同訓練は中止だ。この状況でまともに模擬戦が続けられるとは思えんからな。部隊長にはレツヤを運んでいくついでに直接謝りに行く。――高町一尉もそれぐらいにしてやれ。二人とももう反抗する気も失せただろう。これ以上の制裁はさすがに問題になると思うが」

 

「う、うん……」

 

 なのははおずおずとうなずきを返す。そこで健斗はティアナとスバルに顔を向け、二人はびくりと縮み上がる。

 

「俺はお前らにあれこれ言える立場じゃない。だが、これ以上上官の命令も聞かず勝手な真似を続けるようなら、六課どころか管理局にもいられなくなるぞ。それだけは覚えておけ!」

 

「は、はい……」

「…………」

 

 忠告を投げかける健斗の威圧感にスバルは恐る恐る返事を返し、ティアナは頷くことすらできず唇を噛みしめる。

 そんな彼女たちを尻目に、健斗はリインと分離しそのまま六課隊舎に向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 同時刻。首都クラナガン・議員用オフィスビル内の執務室。

 

 その部屋の窓際に高級なスーツを着た男が立っていた。40代半ばになってなおも豊かな茶髪に、口から顎にかけて髪と同色の髭を蓄えた壮年の男である。

 男は開かれたままの窓からはるか遠くを眺める。そこは『湾岸区』――機動六課と呼ばれる部隊の隊舎がある方角だった。

 そこで扉を軽く数回叩く音が響き、その直後に若い男の声が聞こえてきた

 

「先生、失礼します」

 

 入室の許可を求めるやり取りをかわしてから、その言葉とともに眼鏡をかけた黒髪の男が部屋に入ってくる。

 秘書が入ってきてもなお、先生と呼ばれた男は窓の向こうを眺めたままだった。

 

「先生……いかがされました?」

 

「ん……いや、そろそろ“向こう”にいる息子がやんちゃをしでかす頃かと思ってね。心配性が働いただけだ、気にしなくていい。それより何の用だね?」

 

 振り向きながら問いかける議員に、秘書は腕時計を見ながら答えた。

 

「レジアス・ゲイズ中将との会合の予定まであと一時間です。そろそろ移動の準備をされた方がよろしいかと」

 

「ああ、もうそんな時間か。車はもう出せるね」

 

「はい、すでに準備しております。しかしよろしいのでしょうか? ゲイズ中将は地上部隊の実質的なトップですが、よからぬ噂が多く本局との衝突も多い人物です。そのような方と関係を深めすぎると、万が一の際先生にもよからぬ影響を及ぼしかねません。現在投資されている《アインヘリアル》も質量兵器にあたるとの批判が……」

 

 不安げに忠告してくる秘書に議員は首を横に振り。

 

「《アインヘリアル》への投資も地上部隊とのコネも私にとっては重要な事だよ。どちらとも私の悲願にして政治公約(マニフェスト)――『ミッドチルダ防衛軍』の設立には欠かせない事だ。そう言っても君はまだ反対するかね?」

 

「……いえ、失礼しました。ミッドチルダを守る“防衛軍”の設立は私にとっても大きな望み。その大願を叶えるため、この身を砕く覚悟で尽くさせていただきます」

 

 息巻く秘書に議員は苦笑を浮かべ、

 

「そこまで意気込むな。本当に砕けてしまっては困る。……ただ、これはあくまで例え話なんだが、もし私が『ベルカ人』、しかもその王族の血を引く者だとしても、その覚悟とやらは変わらないかね?」

 

 それを聞いた瞬間、秘書の口から「えっ?」という声が漏れる。

 『ベルカ人』は300年前ミッドチルダを侵略しようとした異世界人たちだ。その王族の血を引くという事は、侵略者の首魁の末裔であることを意味する。

 そんな人物が政治のトップに就き、そのうえ軍事まで握ってしまったら、ベルカ人がミッドを乗っ取るという事も起こりえるのでは……。

 

――だが。

 

「たとえそうだとしても、先生――ダイレル・クライスラー議員ならミッドチルダを変えられると信じています。先生の『最高行政官』就任、そしてミッドチルダ防衛軍の設立を成し遂げるため、これからもお傍においてください!」

 

 そう固く誓う秘書にダイレルは満足げな笑みを浮かべ、彼と握手を交わす。

 

 

 

 レツヤが恩人と現実に打ちのめされている一方で、ベルカ王族の末裔にしてレツヤの父、ダイレル・クライスラーは自らの野望()を叶えるため動き始めていた。

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