魔法少女リリカルなのはStrikerS 七課の剣銃士   作:ヒアデス

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第12話 同行

「…………んっ」

 

 痛みと目覚めの不快感にうめきながら目を開けると、蛍光灯で照らされた天井が広がっていた。それを見て『知らない天井』というワードが頭の中に蘇る。この前の休日に、あの人(隊長)と見たアニメに出てきた台詞だ。

 

「ちっ――」

 

 それを思い出した瞬間、無意識に舌打ちを鳴らした。こんなつまらない事であの人の事を思い出すなんて……。

 そこでドアが開き――

 

「あら、起きた?」

 

 白衣を着た短い金髪の女性が入ってきて、オレはすぐに体を起こす。やけにスースーする気がして自分の体を見下ろすと、上半身になにも着いていない事に気付いた。

 女の人の前で裸体を晒している事に気付き、顔を赤くするオレを見て……

 

「気にしなくていいわ。仕事柄男の人の裸なんて見慣れてるから……脱がせたのは上半身だけだったし」

 

 その視線を追ってすぐ毛布を剥ぎ取って確かめるが、彼女の言う通りズボンは履いたままだった。オレは思わず安堵の息をつき、彼女は口元に手を当てながらくすくす笑う。

 

 オレの前に立っている女性はシャマル先生。

 機動六課に所属している医務官だ。

 

「ここは六課の医務室よ。さっきまでのことは覚えてる?」

 

 そう尋ねられた瞬間、模擬戦という名の師弟喧嘩とそれを止めようとして隊長にぼこぼこにされた時の光景が頭の中に蘇った。

 

「はい……嫌というほど」

 

 うつむきながら答えるオレにシャマルさんは苦笑しながら言った。

 

「派手にやられちゃったみたいだけど、健斗君手加減はしてくれたみたいだから体にダメージはなかったわ。まだ痛みは残ってる?」

 

「いえ、大丈夫です」

 

 首を横に振りながら答えるとシャマルさんは机まで行き、その上に置いてあったシャツを持ってきながら言った。

 

「早くそれ着ちゃいなさい。女の子が一人お見舞いに来てるから」

 

「お見舞い……?」

 

 ルーテシアかチンクだろうか? そう思いながら服を受け取ったところで再びドアが開いた。

 

「失礼します。彼、もう起きまし――きゃあっ!」

 

 医務室に入ってきたオレンジ髪の女の子は、上半身裸のオレを見た途端甲高い悲鳴を上げる。オレは思わず彼女の名をつぶやいた。

 

「ティアナ……」

 

 一方、ティアナはあたふた視線をさまよながら「は、早く服着なさいよ」とわめく。それに従いオレはすぐにシャツを頭から被った。

 3つも年下の男相手にかわいい反応するなぁ。ルーテシアだったら平然としていただろう。

 ティアナはこほんと咳払いをして……

 

「もう平気なの? 結構派手に殴られてたけど」

 

「ああ、手加減してくれたらしいから。ティアナこそ大丈夫だった?」

 

 オレの問いにティアナは顔を曇らせながらこくりとうなずく。彼女も模擬戦のことを思い出したみたいだ。

 しばらくの沈黙を挟んだのち、オレは尋ねた。

 

「こんなところにいていいのか? 仕事や訓練があるんじゃ」

 

「ううん。今日はもう休んでろって言われて、みんな寮でぼうっとしてる。ルーテシアとチンクさんも一緒にいるわ」

 

「そうか……」

 

 確かにもう訓練どころじゃないだろう。デスクワークに身が入る状態でもないだろうし。

 そう思っているところで、再びティアナが声をかけてきた。

 

「ねえ、聞かせてほしいことがあるんだけど……昔、あなたが違法魔導師に襲われた時に、私の兄ともう一人の局員に助けられたって言ってたじゃない。その時のことを詳しく聞かせてほしいんだ。あたし、兄さんから何も聞かされてないから」

 

「いいけど、うまく説明できるかわからないぞ。オレ自身状況が飲みこめてないことがあるし……」

 

 もう一人の局員(御神さん)の事とか。

 内心そう付け足しながら言いあぐねるオレに、ティアナは「わかってる」とつぶやく。

 そんな中……。

 

「えーと、私は外した方がいいのかしら?」

 

 深刻そうに話す男女二人を前に、シャマルさんは困ったように苦笑しながら尋ねてくる。それを聞いて、オレたちはようやく彼女がいた事を思い出した。

 

 

 

 

 

 

「隊長、お疲れ様です」

 

「リイン、ただいま……」

 

 七課の隊舎に戻ってすぐ、ロビーで出迎えてくれたリインに挨拶を返す。レツヤは六課の医務室に預けたままで、チンクとルーテシアも六課の寮におり、ここには俺とリインしかいなかった。

 こんなに静かなのは久しぶりだな。

 そう思いながらソファにつく俺に、リインはコーヒーを持ってきてくれた。

 

「健斗、どうだった? 模擬戦について主はやてはなんと?」

 

 元の口調で尋ねてくるリインに、俺は苦笑を浮かべながら言葉を返した。

 

「こっぴどく絞られたよ。レツヤを叱るだけならまだしも、仮にもよその部隊での乱闘騒ぎは見過ごせないってさ。それに加えて、レツヤの素性について何度も問いただされた」

 

「管理局に代わる軍隊を作ろうとしている政治家の息子……とは別の話か?」

 

 リインの問いに俺はうなずく。

 

「明らかに魔法で隠していた虹彩異色(オッドアイ)、遺伝的な固有技能。それらからはやても、レツヤがベルカ王族の末裔だと気付いたようだ」

 

「そうか。しかし、いったいどこの国の王族だ? あのような技能を持つ王族など、我々も会った事がない」

 

 その問いに俺はユーノが調べてくれた内容を思い出しながら、答えを返す。

 

「『セブリング王国』……中枢王家でないにもかかわらず、“聖王の腹心”と言われた王が治めていた国だ。グランダムとは遠く、交流も対立もしていなかった。その国の王も“強制停止を含む”技能を持っていたらしい」

 

「そのことも主に?」

 

 俺は「ああ」とうなずきを返す。こうなった以上知らせないわけにはいかない。

 

「とはいえまだ確証はとれてないし、それぐらいで六課や局を追い出される理由にはならない。むしろ、他に欲しがる部隊も出てくるだろう、奴の能力とコネ目当てでな。だからレツヤの事は当分、六課の隊長たち以外には秘密にしていてくれ」

 

「――ああ、わかった」

 

 俺の頼みにリインは強くうなずく。――その時、部屋中につんざくようなアラーム音が響くとともに、猛スピードで夜空を飛ぶガジェットが表示されたモニターが頭上に浮かんだ。

 

 

 

 

 

 

「航空Ⅱ型4機編隊が3隊、14機編隊が1隊。発見時から変わらず、それぞれ別の低沿軌道で旋回飛行中です。ただ、どの機体も今までのⅡ型よりはるかに速い速度で飛んでいます」

 

 大型モニターや手元のコンソールに表示されたデータを見ながらルキノが告げる中、はやては司令席に座ったまま顎に手を当ててつぶやく。

 

「場所は何もない海上。レリックの反応もなければ、付近には海上施設も船もない。まるで撃ち落としに来いって誘っているようやね」

 

「こちらの目をそらすための陽動……にしては性能が高すぎますね」

 

 六課を誘き出す陽動にわざわざ改良型を出す必要などない。俺だったら旧型を陽動に差し向けて、本命の方に改良型を送り込む。

 相手の意図がわからず、はやては尋ねた。

 

「テスタロッサ執務官、どう見る?」

 

「犯人がスカリエッティだとすれば、こちらの動きとか航空戦力を探りたいんじゃないかと思います」

 

 数年間スカリエッティを追ってきたフェイトの推測に、はやては納得するようにうなずく。だが、そうだとしても放っておくわけにはいかない。飛び回っているだけにしろ住民にとって危険なものに変わりはないし、戦力調査に見せかけた囮の可能性もまだ消えていない。

 

「この状況なら、こっちは超長距離砲撃を撃ち込めば済むな」

 

「一撃でクリアですよー!」

 

 はやての傍に浮かびながらツヴァイが元気のいい声を響かせる。だが……。

 

「そんな事をすれば、向こうの狙い通りこちらの手の内を(さら)け出す事になる。それにこんな事でリミッターを解除するわけにもいかん」

 

 そう指摘するとツヴァイはがっくりという擬音がつきそうな仕草で肩を落とす。

 はやては首を巡らせ……。

 

「高町教導官はなにか考えある?」

 

「こっちの戦力調査が目的なら、なるべく新しい情報を出さずに今までと同じやり方で片づけるのがベストだと思います」

 

 なのはの提言にはやてはうなずき、そのまま俺に顔を向けてくる。俺もうなずきを返しながら「それでいきましょう」と言ったその時――。

 

「待ってください!」

 

 ふと上がった声に、俺を含め一同はそちらを見る。声を発したのは、副官として俺の隣に立っていたリインフォース・アインスだった。

 

「ガジェットの掃討にあてる人員ですが、私にひとつ考えがあります」

 

 

 

 

 

 

 警報が鳴ってからしばらくして、オレたちとフォワードは六課の屋上に集められた。

 屋上には両分隊の隊長・副隊長、そして御神隊長とリインさんがいて、オレは思わず彼らから目をそむける。それを気にとめるそぶりも見せず、なのはさんは言った。

 

「もう聞いてると思うけど、東部の海上にガジェットが出現しました。ガジェットはすべてⅡ型と呼ばれる飛行型で、空戦ができる私とフェイト隊長と御神隊長が対処に向かいます。それから……ティアナ、レツヤ君、よければ君たちもついてきてくれないかな?」

 

「えっ――?」

 

 思わぬタイミングで名前が挙がり、オレとティアナは揃って戸惑いの声を上げる。御神さんはばつが悪そうに頭をかきながら言った。

 

「二人とも射撃魔法が得意で、今まで休んでいたから消耗が少ない。汚名返上のチャンスだと思って手伝ってくれないか」

 

「は……はい」

 

 オレは戸惑いながら返事を返し、ティアナも同じ言葉を返した。

 

「他のみんなは出動待機。シグナム副隊長とヴィータ副隊長、アインス副隊長の言うとおりにしててね」

 

「は――はい!」

 

 フェイトさんの命令に弟分のエリオがいち早く答え、他のみんなも返事を返す。

 それからすぐオレたちは御神さんたちとともにヘリに乗り込み、現地へと向かった。

 

 

 

 

 

「……やれやれ、世話の焼ける」

 

 飛び立つヘリを眺めながらアインスは腰に手をつきながらため息をつく。その後ろからシグナムが声をかけた。

 

「いいのか、あの状態の二人を現場に行かせて」

 

 アインスは後ろを振り向き、シグナムたちに向かって返事を返した。

 

「レツヤといいランスターといい、あの手の手合いは(くすぶ)らせると余計反抗心を溜め込んでいく。いっそ現場に放り込んで鬱憤を解消させてやった方がいいだろう。幸い今回はレリック絡みじゃないから失敗してもさしたる影響はない。――私たちはロビーに戻ろう。シャマルが飲み物を用意してるはずだ」

 

 そう促すアインスに従って、新人たちは隊舎の中に戻っていく。それを見送ってから――

 

「お前も結構スパルタだな。お前ならあの二人を外すのに賛成すると思ってたんだけど」

 

 後ろからそう声をかけるヴィータに彼女は苦笑しながら……

 

「これでも数百年生きてきたからな。人の心というものにもそれなりに通じているつもりだ。少なくとも不器用な上司たちよりはな」

 

 その言葉にヴィータとシグナムは納得したようにうなずく。それからアインスも新人たちを追うように隊舎に入っていった。

 

 

 

 

 

 

『704、現場空域に到着』

 

 頭上から響く本部からの報告とともにランプドアが開き、真っ黒な海と猛スピードでその上を飛ぶガジェットが見えてくる。

 それを見下ろしながらフェイトさんとヴィータさんがぽっかり開いたヘリの出口に近づき、待機状態のデバイスを掲げた。

 

「いくよ、バルディッシュ」

『Yes Sir!』

 

 デバイスが返事を返した瞬間、彼女はバリアジャケットに身を包み一足早く空中へ降りていく。それに続いてなのはさんと御神さんが出口の傍に立った。

 二人は座ったままのオレたちを振り返り……

 

「じゃあ私たちも出るから、二人はここで待機して」

 

「ここから射撃や砲撃で俺たちを援護するもよし。俺たちの戦いを見ているだけでもいい。お前たちの思うように動いてみろ。今後のことを考えるのはその後でいい」

 

 “今後”という言葉に、オレとティアナは顔を曇らせる。このまま六課に居続けるか、それとも局を辞めるか、って意味だよな。

 なのはさんも御神さんもあえてそれ以上は言わず、ヘリの出口に近づいた。そこで運転席からヴァイスさんが声をかけてきた。

 

「それじゃあ、高町さんに御神さん、二人とも気ぃつけて」

 

 その言葉に二人は笑みとうなずきを返し――

 

「いくよ、レイジングハート」

『All right, my master』

 

「やるぞ、ティルフィング」

『Ja,Meister』

 

 デバイスに命じながら二人は飛び降り、フェイトさんたち同様空中でバリアジャケットを装着しながら戦線に飛んでいく。

 それを見てティアナは迷いながらも(デバイス)を取り出し両手に構えるが――

 

「向こうは敵と味方が入り乱れてる。ここで下手に撃ったらまた味方に当てかねない。まだ様子を見よう」

 

「……」

 

 ティアナは不満そうな目を向けるものの、少し逡巡してからこくりとうなずき前線に目を戻した。向こうでは高町さんと御神さんが足元に魔法陣を浮かべ、ガジェットに向かって得物を構え、砲撃魔法の準備をしているところだった。

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、六課のロビーで……。

 

 

「……ユニゾンデバイス?」

 

「そうだ。古代ベルカで造られた人間型融合デバイスにして、《夜天の魔導書》の管制人格。それが私の正体だ」

 

 ルーテシアの復唱に、リインフォース(アインス)はうなずきを返しながら説明を続ける。そこでシグナムが付け足すように言った。

 

「私たちも融合デバイスではないが夜天の書のプログラムの一つだ。ずっと長い間歴代の主のもとを渡り歩いて、現在の主はやてのもとにいる……わかったか?」

 

 その問いに新人たちはこくりとうなずく。それでようやく、守護騎士たちの秘密と昼間アインスが見せた“能力(ユニゾン)”がわかった。だが……。

 

「あの……健斗さんとアインスさんって、たしかその…………」

 

 スバルは尋ねようとするものの言いづらそうに続きを飲みこむ。それを察して、アインスは感情を押し殺した表情で答えた。

 

「恋人で将来を誓い合った関係……お互いそう思っている。もっとも、それを快く思わない人もいるがな。人間とデバイスの恋愛ごっこなど、お前たちも気持ち悪いと思うかもしれん。だが、私も彼も悩みぬいた末に将来を共に進む道を決めた。それだけはわかってくれないか」

 

「い、いえ、そんなつもりはありません! アインスさん綺麗な人だし、健斗さんが好きになるのもわかります」

 

 首をぶんぶん横に振りながら答えるスバルに、リインは淡い笑みを浮かべながら「ありがとう」と告げる。そこでルーテシアが口を挟んできた。

 

「隊長たちが仲いいのは知ってるし、付き合うぐらい好きにすればいいって思う。そんな事よりティアナとレツヤの事を教えて。特にレツヤの眼と技能は普通じゃない――何かあるんでしょう?」

 

「おい、ルーテシア!」

 

 チンクはルーテシアを咎めようとするものの、アインスはチンクを制しながら首を横に振った。

 

「すまないが、あの二人についてはまだ何も答えられない。彼らにもプライバシーがある、本人がいないところで私が勝手に触れ回るわけにはいかない。だが、レツヤについてはじきにあいつ自身から話してくれるかもしれん。それまで少し待ってくれないか」

 

「…………はい」

 

 不満そうな様子ながら渋々うなずくルーテシアに、アインスは微笑ましそうな笑みを浮かべる。そして健斗たちがいる方角の夜空に目を向けた。

 

――あっちもそろそろ片付いた頃か。この戦いをきっかけにランスターの問題もうまく片付くといいんだが……。

 

 

 

 

 

 

「――フレースショット!」

 

 ティルフィングの前に浮かべた魔法陣から砲撃を撃ち込み、ガジェットを撃ち落としていく。だが、一機のガジェットが攻撃をすりぬけ、上空へ逃れた。そこからガジェットが砲口を向けてくるのを見て、フェイトは構えるが――その時、ガジェットの前に“フェイト”がもう一人現れた。

 ガジェットはそちらに向けてレーザーを撃つが、レーザーは彼女らしきものをすり抜け、そのまま深海の中に消える。そこで彼の声が響いた。

 

「“ストップ・ザ・シングズ”」

 

 その声が届いた瞬間、ガジェットはその場でぴたりと動きを止める。

 俺たちが声の方に目をやると、ヘリの中からガジェットに銃口を向ける少女とその横にいる少年の姿が映った。

 

 

 

 

 

「止まった――ティアナ、今だ!」

 

「わかってる――ファントムブレイザー!!」

 

 ティアナは止まったままのガジェットに向かって銃口を向ける。その次の瞬間、彼女の銃(クロスミラージュ)から砲撃魔法が撃ち出され、ガジェットのボディを貫いた。

 

『スターズ04、26機目を撃墜――これで全滅です!』

 

『増援の反応もありません』

 

 ルキノさんとアルトさんの報告を聞いて、ふぅとため息をつく。ほとんど見てるだけだったけど、最後の最後でサポートぐらいはできたか。

 そこでティアナはじっとオレの顔を見て……

 

「目の色……いつも通りね」

 

「えっ!? 目の色? 何のことだよ?」

 

「あんた、気付いてなかったの?」

 

 驚いたように目をしばたかせながらティアナはそんな言葉を漏らす。驚いたのはこっちだ。何のことかさっぱりわからないぞ。

 どういう意味なのか尋ねようとしたところで、御神さんたちがヘリに戻ってきた。

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