魔法少女リリカルなのはStrikerS 七課の剣銃士   作:ヒアデス

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第13話 新たな一日

 デバイスを待機状態に戻したりバリアジャケットを解除して制服姿に戻ったりしながら、御神さんたちはオレたちの対面の席についた。

 

「調子は戻ってきた?」

 

「はい……少しだけですけど」

 

 なのはさんの問いにティアナは小さく肯く。だが、彼女の表情はまだ暗い。隣でその様子を見ているオレに御神さんが声をかけてきた。

 

「お前は聞くまでもないな。さっきまで噛みついてきそうだったのが、いつも通りのツラに戻ったじゃないか」

 

「いつも通りのツラって何ですか? 立ち直ったって言ってくださいよ」

 

 御神さんの軽口にオレは不平じみた文句を返す。それと同時にオレと御神さんの顔に笑みが浮かんだ。

 そんなオレたちを見て、なのはさんはつられたように笑うが再び表情を引き締めてティアナの方を向く。ティアナも真剣な表情でなのはさんを見つめ返した。

 

「本部につくまでちょっと時間あるから、少しお話ししようか。ティアナのお兄さん、ティーダさんの話もするつもりだけど、ここじゃまずいかな……」

 

「あっ、それは大丈夫です。レツヤには兄のことを少し話しましたし、御神さんも兄とお知り合いみたいですから」

 

 本当なら他人の前でする話じゃないのか、オレや御神さんを見ながらそう尋ねてくるなのはさんにティアナは首を横に振って先を促す。

 それに聞いてなのはさんはコホンと咳ばらいをし……。

 

「ティアナが毎日一生懸命特訓や練習を頑張ってるのは、憧れのお兄さんに追いつくため?」

 

 なのはさんがそう尋ねると、ティアナは視線を落としながら話し始めた。

 

「……はい。兄はレアスキルも持たず、魔力も高いと呼べる方ではなかったそうですが、首都航空隊で地道に実績を重ねていって一等空尉になり、その後、試験に合格して念願だった執務官になりました。そんな兄のようになりたくて私も管理局の士官学校や航空隊に志願しました。……でも、私は士官学校にも落ちて航空隊にも入れず、兄に恥をかかせてばかりで……」

 

 これ以上言えず、ティアナは顔を俯かせる。

 意外だ。飛行魔法などの適性がなければ入れない空隊はともかく、それよりはまだ門戸が広い士官学校にまで落ちていたなんて。チンクから聞いた話じゃ勉強面でもすごく優秀だと聞いているが……。

 オレの内心を読んだように、御神さんがその話題を口にした。

 

「士官学校に関しては正直言って運が悪かった。まさかティーダさんの上官が士官学校の教官になってて、よりによってお前が受験する年に面接官を務めていたとは……」

 

「いえ、兄の悪口に反応してあの人に食って掛かった私の自業自得ですから。筆記試験でもっと点を取れていれば面接の評価が悪くても挽回できましたし……」

 

 そう言いながらもティアナは悔しげに口元を歪ませる。そこでオレは思わず尋ねた。

 

「あの、ティーダさんの悪口って? チンクやスバルからは優秀な人だって聞いてますけど。オレのことも助けてくれましたし」

 

 それを聞いて一同はオレに顔を向ける。『しまった』と思ったところで御神さんが決まりの悪そうな顔で言った。

 

「その時の話になるが……あの事件の犯人は俺が捕まえた事になったみたいで、ティーダさんの上官は“海”に手柄を横取りされたと腹を立ててな。ティーダさんを労うどころか命がけで取り押さえるべきだったと責め立てたんだ」

 

「そんな――」

 

 身勝手な物言いにオレは思わず声を上げかける。それを制して御神さんは続けた。

 

「まああの件が評価されて、執務官試験の受験推薦状をもらって、その試験に合格して執務官になった後は一転してまわりから評価されるようになり、上官は逆に非難の眼を向けられるようになったらしいがな。その後すぐ航空隊から異動したとは聞いたが、まさかコネを利用して士官学校に配属されていたとは思わなかった」

 

「あの……その推薦状って本局のレティ・ロウランさんって人が送ってきてくれたみたいですけど、その人って御神隊長の昔の上司でしたよね……もしかして」

 

 話題を変えるついでに長年の疑問を訊いてくるティアナに、御神さんはわざとらしく目をそらし。

 

「さあてな……ティーダさんが執務官を目指していると聞いて、それをレティさんに漏らした気もするが、推薦状を書いてくれとまでは言った覚えはない。まあどっちにしろ、試験合格はティーダさんの実力だ。俺なんかに礼を言われても困る」

 

 片手を振りながらそう言いすてる御神さんにティアナは笑みをこぼす。そこでなのはさんが咳ばらいをした。

 

「まあ、お兄さんに憧れて追いつこうと一生懸命がんばってるのはわかるけど、最近の行動は目にあまるな。聞いたよ、休憩時間や食事、睡眠まで削って訓練してるんだって」

 

「っ――そ、それは……」

 

 ティアナは気まずそうに口ごもる。それに構わずなのはさんは続けた。

 

「技や技能というものは無理に詰め込んでも身につくようなものじゃないし、身についたとしてもろくに休息も取ってない状態で実戦に出て、満足に力を発揮することができるかな? ティアナみたいな射撃手は、他のメンバー以上に集中力が必要なポジションで休息もしっかり取らなきゃいけないはずだけど」

 

「…………」

 

 ティアナは言い返せず沈黙する。なのはさんはまだ続ける。

 

「それに今日の模擬戦も褒められないな。あんな戦法教えてないし、ティアナ自身やスバルにとって危険が大きい戦い方だった。戦ってるこっちがハラハラしたよ……昔の私たちを見ている気がして」

 

「えっ……?」

 

 最後の一言を聞いてティアナは戸惑いの声を漏らし、オレも眉を顰める。なのはさんはそこで御神さんと視線をかわしてから言った。

 

「8年前、地球で起きた事件でね、私と健斗君――でいっか、彼と私は体に負担がかかるのを承知で、《フォーミュラ》っていう異世界の技術を使って戦ったんだ。でもその結果、私は体にかかった負荷の影響で少し治療が必要になって。健斗君は……」

 

「……最後に少しヘマをしてな。一月ぐらい病院から出られなくなるほどの怪我をしてしまった」

 

「少しどころじゃないでしょう。アインスさんが止めるのも聞かず一人で(そら)に上がって、腕がなくなっちゃうくらいの重傷を負っちゃって。あの後アインスさんはわんわん泣くわ、叔母(美沙斗)さんは魔導師を辞めさせようとしたりして大変だったんだから」

 

 苦言を漏らすなのはさんに対し、御神さんは居心地悪そうに目をそらす。腕を失う重傷という話と御神さんたちの様子に唖然とするオレたちを前に、なのはさんはまたティアナに顔を戻した。

 

「まあそんな事もあったから、誰かが傷ついたらその人の友達や家族、まわりの人がどれだけ悲しむかは私も少しわかるつもり。ティアナたちには絶対そんな目にあってほしくないし、悲しい思いもさせたくない。健斗君とアインスさんだって、レツヤ君たちに同じ思いを持ってるはずだよ……ねっ」

 

 同意を求めるように尋ねられ、御神さんは「まあな」とつぶやく。なのはさんはさらに言った。

 

「それと、ティアナはもう一つ勘違いをしちゃってる。ティアナは自分のことを射撃と幻術しかできない凡人だって思ってるけど、他の三人と比べて突き出ている部分が少ないから気付きにくいだけで、射撃と幻術っていう他の三人にはない才能を持ってる。ティアナの射撃魔法って避けにくくて、当たると痛いんだよ」

 

「えっ――」

 

 その言葉にティアナは目を見張りながら思い返す。少なくともガンナーとしての彼女の腕はフォワードやフィルダーの誰よりも優れている。純粋な技量なら技能(スキル)や反射に頼っているオレなんかより上だろう。正直彼女ほどの魔導師が凡人なんて、謙遜がすぎるどころか嫌味にさえ聞こえてしまう。

 

「まあでも、接近戦を取り入れるのは間違ってないんだよね。クロスミラージュ、ちょっと貸してくれる」

 

「あ、はい――」

 

 ティアナは戸惑いながらカード状のクロスミラージュを渡す。なのはさんはそれを受け取り銃型に変えてから――

 

「システムリミッター、テストモードリリース」

『Yes!』

 

 クロスミラージュは答えながら光沢を放つ。なのはさんはティアナにミラージュを返しながら……

 

「命令してみて、《モード2》って」

 

 それを聞いて、ティアナは銃型のままのクロスミラージュを片手に取り、ヘリの片隅に向ける。そして……。

 

「……モード2」

 

 するとクロスミラージュから――

 

『Set up. Dagger Mode』

 

 機械声とともに引き金の上についている十字型のエングレーブが回転し、銃口や取っ手まわりに茜色の刃が突き出してくる。ティアナは目を見張りながら「これは」とこぼした。そんな彼女になのはさんが説明を入れる。

 

「ティアナはお兄さんと同じ執務官志望だから、ここを出たらどうしても個人戦をする機会が増えていくと思う。だからその時の役に立つと思って近接戦用のモードを用意してた。もう少ししたらリミッターを外せるからその時に教えるつもりだったんだけど、成果が出てないって思っちゃったんだよね……そんな事にも気付かないでごめんね」

 

「なのはさん……」

 

 ティアナは涙ぐみながらなのはさんを見る。そこで御神さんが――

 

「もし、なのはやスバルにも言えない悩みができたらティーダさんに相談してみろ。『妹が連絡をくれない』ってあの人よく愚痴ってたぞ。たまには電話くらいしてやれ」

 

 おどけるように笑う御神さんにティアナは笑いを漏らす。涙ぐんだ目と相まって、泣き笑いの表情になってしまっていた。

 そんな彼女をしばらく眺めてから、御神さんは笑みを消しながらオレに顔を向ける。オレも表情を引き締めて彼を見返した。

 

「レツヤ、あの時のおまえの言い分もわかるし、黙って上官に追従しろと言うつもりはない。だが命がけで戦う局員たちを束ねる以上、言って聞かせるだけじゃすまないことも出てくる。それは肝に銘じてくれ。お前もいつかは腕力に訴えてでも部下の誤りを正さなければならん日が来るかもしれんからな」

 

「……はい。昼間は隊長の気も知らず失礼なことを言ってすみませんでした。でも、本当に御神さんがあの時オレを助けてくれた局員さんだったんですか?」

 

 オレの問いに御神さんはああと答えながら首を縦に振る。

 

「あの時は急いで犯人を追うためリインと融合(ユニゾン)していた状態でな、そのままお前たちを助けに入った。ティーダさんとはその頃からの付き合いだ。あの坊ちゃんが局員になったと聞いて、あの人もえらく驚いていたぞ」

 

 そう言って苦笑する御神さんにオレやティアナも笑みを返す。

 そこで御神さんは真顔に戻って……

 

「ところでレツヤ、俺からも一つ聞きたいんだが……レツヤの父方、クライスラー家の先祖について何か知っていることはないか? たとえば昔ベルカ自治領に住んでいたとか」

 

 その問いにオレは傾けながら、

 

「いえ、少なくとも祖父母の代からはクラナガンで暮らしていたって聞いてますけど。“ベルカ人”だったなんて一度も聞いたことありませんし」

 

「そうか。じゃあ、『セブリング王国』という国の名前も聞いたこともないんだな?」

 

「……? はい。聞いたこともない国ですが、それが何か?」

 

 そう聞き返すオレに、御神さんは「なんでもない」と首を横に振る。そんな彼に、なのはさんたちも『なんのことだろう』と言いたげに首を傾けていた。

 

 

 

 

 

 

 翌日の早朝。オレは朝食をすませてすぐ、訓練場の整備をしていた。

 昨日のスターズの模擬戦乱入と上官への暴行未遂のペナルティとして、一週間の間隊の雑用を担うことになったからだ。ティアナとスバルも、模擬戦中の命令無視の罰として似たような処分を喰らっているらしい。

 そんな事を思い出しながら訓練前の整備を続けていると……。

 

「レツヤ、おはよう」

 

「おはよー」

 

 チンクはいつも通り毅然としながら、ルーテシアはあくびを口に手を当ててあくびをしながら挨拶してくる。そんな相反する二人に笑みを浮かべながら……

 

「おはよう。二人とも早いな、もう少しゆっくりしてるかと思ったんだけど」

 

「私はそのつもりだったんだけど、チンクが行こうってうるさくて」

 

「へ、変な言い方をするな! ちゃんとサボらず準備しているか確かめにきただけだ」

 

 チンクはなぜか慌てながらルーテシアの言葉を訂正してくる。

 その後ろには微笑ましげな笑みを浮かべながら歩いてきているリインさんの姿もあった。

 

「おはようございます、リイン副隊長」

 

「おはよう。すまないな、罰とはいえ一人だけで朝の準備なんかさせて」

 

「いえ、これぐらいで済んでよかったです。もっと重い処分になると思ってましたから」

 

 開口一番に謝ってくるリインさんにオレは片手を振りながらそう答える。

 今回の罰の内容はリインさんが部隊長に一任されて決めたそうだ。被害者である隊長(御神さん)自身が決めてしまうと処分が重すぎたり、あるいはオレをかばうつもりで軽すぎる沙汰をくだしてしまうかもしれないかららしい。

 リインさんはオレに労わるような笑みと目を向けながら言った。

 

「お前にとっては災難かもしれないが、これも経験だと思っておけ。ここだけの話だが、隊長と高町教導官も昔命令違反を犯して、リンディ提督という人にこっぴどく叱られたことがあるんだ」

 

「――えっ、そうなんですか?」

 

 声をひそめながら告げるリインさんに、オレは思わず聞き返しルーテシアとチンクも意外そうに目を見張る。そんなオレたちにリインさんはこくりとうなずいた。

 

「管理局の邪魔をしていた少女を巡って色々あってな……隊長たちの言い分もわかるし、提督たちの言う事にも一理あった。その末の命令違反だ。あの時はまだ嘱託魔導師ですらなかったから処罰は受けなかったが、あの人たちも組織で働く際の洗礼というものを受けていたのさ。お前も今回の事を教訓にしておけ」

 

「はい……」

 

 オレは戸惑いを残しながら返事を返す。そこでまたリインさんが言った。

 

 

「そういえば、お前たちは知ってるか? 管理局やミッドチルダには優秀な魔導師を指す言葉があることを」

 

「……それって《エース》のこと? 優れた技術を持つ魔導師がそう呼ばれるってゼストから聞いたことがある。たしか、高町教導官の異名(エース・オブ・エース)もそこからきてるはず」

 

 いち早く気付き答えを挙げるルーテシアに、リインさんは笑みを浮かべ。

 

「正解……だと言いたいが、他にもいくつかある。どんなに厳しい状況も突破する力を持つ《ストライカー》、前線を支援したり攻撃に加わる《ウイング》、後方や側面から着実に敵を減らして回る《スイーパー》。隊長……健斗は、お前たち三人はそれらのどのポジションにもつける力を秘めていると言ったことがある。だから多少の事では潰れないようわざと乱暴にしごいている、ともな」

 

 そう言ってリインさんは同情のこもった笑みをオレたちに向ける。ちょうどそこで、じゃりっとコンクリートを踏みしめる音が聞こえてきた。リインさんともどもオレたちはそちらに顔を向ける。

 

「おう、全員そろっているか――ってリイン、まだバリアジャケット着てなかったのか」

 

 そこには()()()()姿()()御神さんが立っていた。その格好と右手に持った剣型のデバイスを見て、オレたちの脳裏にまさかという言葉がよぎる。

 

「今日から俺とリインが直に稽古をつけてやる。幸い今日は昼まで手が空いてるからな、昨日お流れになった分みっちり相手をしてやるぞ!」

 

 御神さんは楽しそうな笑みを向けながら剣の腹をぺしぺし叩く。それを見てオレたちの背筋に冷たい汗が流れた。昨日のオレはこんな人に歯向かおうとしていたのか。

 

 そんな自分に呆れながらも、オレは彼のもとへ向かい――。

 

「御神隊長、至らないところもありますが、どうかご指導よろしくお願いします!!」

 

 頭を下げながら頼み込むオレに、御神さんはふっと笑い声を漏らし……

 

「おう――遠慮なくかかってこい!」

 

 そう返しながら御神さんは剣を高く掲げる。その横でリインさんも丈の長い黒いバリアジャケットを装着し、ルーテシアとチンクの二人と対峙する。

 

 

 

 こうして、オレたち『機動七課』は新たな一日を迎えた。




第一部完みたいな終わり方になりました。第二部と言えるほどの長さになるかはわかりませんが、次回から『謎の少女編』に入ります。
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