魔法少女リリカルなのはStrikerS 七課の剣銃士 作:ヒアデス
なのはさんや御神さんとの諍いから二週間後。7月に入ったばかりの日の朝。
オレたちフィルダーや六課のフォワードは以前より密度の高い訓練が課されるようになった。隊長や副隊長たちとの模擬戦もその訓練の一つである。
今、シミュレーター上の都市でオレは御神さんと、ルーテシアとチンクはリインさんと対峙していた。
オレは右手に剣、左手に銃を持った状態で、御神さんを見据える。それに対して御神さんは右手に握った剣一つでオレの前に立っていた。
「こい。技能に跳弾、お前の持ち技すべてをぶつけてみろ」
「そんな事言って、後で文句言わないでくださいよ――はあっ!」
オレはすかさず左手を持ち上げ、御神さんに向かって数発撃ち放つ。御神さんはすさまじい速さで剣を振るい、弾を弾き落としていく。その直後、オレは刀を振りあげながら足を踏み出し、御神さんに向かって行った。
「はああっ!」
「――っ」
自身に向かってくるオレを見て、御神さんは弾を払いながら剣を腰だめに構える。
「御神流・表――
御神さんが剣を真横に振るった瞬間、“刃の形をした風”が放たれ、残りの弾を切り飛ばしながらオレの方に向かってくる。それを見た瞬間まずいと思い、オレはすぐ真横に逃れる。それを狙ったようにオレの眼前に御神さんが現れ、剣を振り下ろしてきた。オレは反射的に手にしていた刀を上に構え、御神さんの斬撃を受け止める。
しかし剣を両手で握っている御神さんと、刀を片手に握っているオレでは得物に込められる力が違い、すぐに押されていく。このままじゃやられる――。
そう悟ると同時に、オレは左手をあげ御神さんに銃口を向ける。
御神さんは舌打ちしながら刀を弾き、そのまま後ろに下がった。オレはそのまま彼に対して三発弾を撃つが、御神さんはそれらを瞬時に斬り捨てる。だが、オレはその間に二発の弾を彼の左上に向けて撃った。そこには十階ほどのビル――そして、跳弾させるのにうってつけの壁がそびえたっていた。
御神さんもそれに気付き、弾をかわそうと体をひねるが――。
「“ストップ”!」
彼を視界に捉えながら叫んだ瞬間、御神さんはピタリと動きを止める。技能にかかった証拠だ。
「はああああっ!」
雄たけびを上げながら突進するオレと上から放たれる弾を目の当たりにしながら、御神さんはぴくりとも動けずにいる。
――勝った!
そう確信しながらオレはさらに足を速め、彼に向かって刃を振り上げる。
しかし、オレが振るった刃と弾は御神さんの体を通り抜け、そのまま空を切る。それと同時に彼の姿は蜃気楼のように掻き消えた。これは――残像!
「ここだ!」
その声と共に後ろから剣を振るわれ、オレはうめき声をあげながら後ろに吹き飛ぶ。
オレは起き上がりつつ眼に力を込めて彼を睨みつけるが、その時にはもう彼の姿はそこになく、右側から放たれる殺気に反応し、すぐに銃を向けるが――
「――はあぁっ!」
御神さんは銃を弾き落とし、オレの首元で刃を止める。
無言のまま投降を迫る御神さんを眼前にして、オレは――
「“ストップ”!!」
そう告げた瞬間御神さんは目を見張りながらその場で停止する。そしてすぐオレは彼に向かって剣を振るい上げるが――その瞬間、オレの腹に衝撃が走り、そのまま後ろに吹き飛ばされ地面を転がる。
「ぐっ……」
オレは情けないうめき声をあげながら起き上がろうとするが、そこに真っ黒な影が覆いかぶさり、銀色に光る刃が眼前に突き付けられた。
「これが最後だ。まだやるつもりならむち打ちくらいは覚悟してもらうことになるが……」
御神さんは冷たい言葉を放ちながら刃を動かす。その拍子に刃が頬に当たり、そこから冷たい感触が全身に伝わった。その感触と御神さんの迫力に圧されて……。
「…………参りました」
それを聞いて御神さんはオレを見たまま数歩後ろに下がる。そんな彼にオレは両手を上げてこれ以上戦う意思がないことを示した。さすがに銃も剣もない状態じゃ太刀打ちしようもない。
「技能を使う時に目を見張る癖はまだ抜けていないようだな。抑えてるつもりのようだが丸わかりだ。だが、銃撃と斬撃、跳弾の組み合わせはかなりのものだった――いいセンスだ」
ニヒルな笑みを浮かべながら御神さんは待機フォルムに戻したデバイスを懐にしまう。彼に倣ってオレも地面に落ちたままの刀や銃を拾って待機状態に戻した。
ちょうどそこで――
「隊長、テンドウ二士、お疲れ様です」
オレと御神さんは声の方に顔を向ける。そこには騎士甲冑姿のリインさんと塵埃だらけの訓練着を着たルーテシアとチンクがいた。
「ようリイン、そっちも終わったか。どうだった?」
「二人ともまだまだ動きに粗がありますね……ですが、第一段階の卒業には十分だと思います。レツヤもすでにそれぐらいの実力は備えているみたいですし」
リインさんの言葉に、御神さんは顎に手を当てて考え込むような仕草をしながら……
「うーん、もうちょっと実力を伸ばしてからにした方がいいと思うが……まあ合格という事にしてやろう。多少慣れない方がしごきがいがありそうだしな」
そう言って御神さんは嗜虐的な笑みを浮かべながら視線を向けてくる。それにオレは乾いた苦笑を返した。
御神さんはそこで咳払いをし真顔に戻りながら言った。
「というわけで第一段階の訓練はもう終わりだ。明日から
「はい……んっ?」
オレは返事をしてすぐ疑問を覚え、思わず声を漏らす。
今からやるんじゃないのか?
チンクとルーテシアも同じ疑問を抱いたのか、顔を見合わせて小首をかしげる。
御神さんたちはそれを見抜いたように笑みを浮かべ……
「私と隊長はそろそろ書類仕事をしなくてはならなくてな、これ以上の模擬戦や訓練の監督は厳しいんだ。それに……」
「三人とも、七課結成から休日以外はずっと訓練や仕事ばかりだっただろう。
その言葉を聞いてオレたちはまさかと目を見張る。そんなオレたちに隊長は告げた。
「今日の訓練はこれで終わりだ。隊舎で休むなり外で羽を伸ばしてくるなり好きに過ごしてこい!」
それを聞いてオレは思わず喜びの声を上げ、チンクも顔をほころばせる。ルーテシアはすまし顔のままだったが、その口元はいつもより緩んでいるように見えた。
管理局の休日は基本的に一週間に二日だけで、祝日は考慮されない。また休みになる日も曜日ではなくシフトによって決められている。事件や犯罪というものは休日祝日など関係なく行われるからだ。
そんなわけで、オレたち三人が揃って休むのも久しぶりの事だったりする。
◆
その後、オレたちはモード2のリミッター解除を済ませて、待ちに待った休暇……の前に早めの昼食を摂る事になった。
隊長たちも交えてオレたちはテーブルを囲みながら食事を摂る。その最中にラウンジの隅に浮かべたモニターからあるニュースが流れた。
『
キャスターがそこまで述べたところで、髭を蓄えた中年の男が映し出された。
あの人、ニュースで何度か見たことがある。たしか地上部隊の幹部の中でも最も有力な人で、半ばお飾りの本部長に代わって地上本部の指揮を執っている、って聞いたことあるな。
レジアス中将は前に並んでいる百人以上の局員全員に聞かせるように、身振り手振りを交えながら声を張り上げた。
『魔法と技術の進歩と進化……素晴らしいものではあるが――しかし! それが故に管理世界と住民を襲う危機や災害も、旧来とは比べものにならないほどに危険度を増している! 地上部隊の拡充と兵器運用の強化は進化する世界の平和を守るためである!』
そこまで言ったところで中将は言葉を止め、首をゆっくり横に揺らしながら局員たちを見回す。その直後、局員たちは両手を打ち鳴らし盛大な拍手を鳴らした。
オレたちは食事をするのも忘れ、その光景に見入る。特に御神さんとリインさんは硬い顔で画面を注視している。
しばらく自身に対する拍手に耳を傾けてから、中将は片手を上げ拍手を止めさせてから続けた。
『首都防衛の手はいまだ足りん。地上戦力において我々の要請が通りさえすれば、地上の犯罪の発生率は20%低下――その逆に、検挙率は35%以上の増加を初年度から見込むことができる!!』
首都防衛の手が足りない。その点は彼に同意だ。クラナガンで発生する犯罪は年々増加を辿っている。首都防衛隊や地上部隊の人員不足が要因の一つなのは間違いないだろう。オレが6年前、魔導犯罪に巻き込まれたのも元はといえば……。
そこで画面のアングルが変わり、演説を続ける中将の横に座る三人の老人が映る。彼らを見てルーテシアが声を上げた。
「あっ……“三提督”もいたんだ」
「お、《三提督》を知ってるのか」
今まで中将の演説に耳を傾けていた御神さんは目を丸くしながらルーテシアに言葉をかける。ルーテシアはこくりとうなずいて言った。
「管理局の黎明期に活躍して今の形に整えた功労者。管理局の偉い人を“提督”と呼ぶようになったのも三提督の影響って、暇つぶしに読んだ歴史の教科書に載ってました」
あーあるある。国語や社会とかの教科書は授業関係なく、小説や本を読んでるような感覚でどんどん読み進めちゃうんだよな。
妙な共感を覚えているところで、リインさんは含みのありそうな笑みを浮かべながらルーテシアに尋ねた。
「では、提督たちのお名前は知っているか? 三提督のことは知っていても、それぞれの名前と役職は知らないという人も多いんだが」
その問いにルーテシアは何でもなさそうな口調で――
「画面から見て一番右に座っている紫色の髪のおばあちゃんが、本局統幕議長ミゼット・クローベル。その隣の禿げたおじいちゃんが武装隊栄誉元帥ラルゴ・キール。左端の金髪のおじいちゃんが法務顧問相談役レオーネ・フィルスだと思うけど……合ってます?」
ルーテシアの博識ぶりに驚かされる一方で、遠慮のかけらもない説明にオレを含めみんなはぷっと吹き出し、何人かは口元を押さえた。三提督を“剥げたおじいちゃん”なんて言えるのはこの子ぐらいだろう。名前と役職は全員合ってるんだが。
リインさんもしばらく笑いをこらえ、何度か咳払いをして言った――なおも口の端をひくつかせているが――。
「八神部隊長と守護騎士はミゼット提督の護衛任務を請けられたことがあってな。それ以来、提督は部隊長たちを気に入って度々便宜を図ってくださっているそうだ。そして一番左のレオーネ相談役は何を隠そう……」
そこでリインさんは悪戯っぽい笑みを浮かべながら御神さんを見る。……えっ、まさかこの人も三提督と?
「……4年前に偶然知り合ってな。それ以来たびたび会って、法律を教えてもらったりミッドへの移住や部隊設立の相談を受けてもらった。はやても六課を立ち上げる際、レオーネさんのお世話になっている」
御神さんがそこまで言ったところで、リインさんは拗ねたような顔で……
「それだけじゃないぞ。レオーネ提督には今年で18歳になるお孫さんがいてな、そのお孫さんと隊長の縁談の話が持ち上がったことがある」
「――えっ!? 本当ですかそれ?」
その話を聞いてオレは素っ頓狂な声を上げる。それが実現していたらレオーネ提督は御神さんの義理のおじいさんに……でも、御神さんにはすでにリインさんという恋人が……。
そこで御神さんはうろたえながらリインさんに向かって言った。
「その話はしないでくれって言っただろう。……断ったよ。婚約者がいるって説明してちゃんと断った!」
そう告げて御神さんは誤魔化すように麦茶をあおる。
ちょうどそこでレジアス中将の演説が終わり、再びキャスターが映った。
『ゲイズ中将の表明はその是非も含めて各界で議論の的となっていますが、それに関して『躍進党』所属のダイレル・クライスラー議員からお話を伺いました』
「……」
その名前を聞いてオレは無意識に笑みを引っ込める。それに気付いたためか、御神さんたちやルーテシアたちも硬い顔でモニターに目を向けた。
そこでまた画面が切り替わり、絨毯が敷かれた長い廊下と茶色い髭を顎まで蓄えた、スーツ姿の男が映し出された。
彼は温和そうな笑みを薄めながら、マイクを向ける記者に向かって口を開く。
『私はゲイズ中将の意見に同意します。ミッドチルダや他の管理世界の犯罪率と被害数が増加の一途を辿っている事は皆様もご存じだと思います。ゲイズ中将の主張する地上部隊の戦力増強と武器の導入は、ミッドや他世界の治安回復に繋がるものだと信じています。少なくとも次元外の探索よりはそちらの方が重要であると私は思いますが』
『しかし議員、次元空間や管理外世界にはいまだ無数のロストロギアが眠っていて、そのロストロギアの暴走にミッドチルダと管理世界が巻き込まれる恐れがあるんですよ。それを防ぐために次元と管理外世界の探索は続けるべきだと思いますが』
公然と異を唱える記者の問いに、議員は気を悪くすることなく悠然と答えを返す。
『探索をやめろとは言ってません。しかし、今の監理局は地上を軽視しすぎではないでしょうか。外にあるロストロギアの猛威に怯えるあまり、地上の治安悪化と荒廃を招くようでは本末転倒と言わざるを得ない――
議員は記者のみならず、画面越しの向こうにいる観衆たちに問いかけるように言葉をぶつける。そんな彼に別の記者が質問をぶつけてきた。
『ではクライスラー議員は管理外世界がロストロギアの暴走にさらされてもかまわないと? 議員の亡き奥様は管理外世界出身だったと聞いていますが、奥様の故郷に愛着はないのでしょうか?』
それを聞いてオレは思わず顔をしかめる。しかし議員は平気そうな顔で首を横に振った。
『揚げ足を取るようで申し訳ないが、管理外世界から来たのは妻の父、私にとって義父に当たる方です。もちろん妻も私も義父を尊敬していますし、彼が生まれ育った世界に憧憬の念を持っています。――ですが、ミッドチルダの住民を代表する政治家として、優先するべきはこの世界の治安回復と住民の安全を守る事であり、私個人の私情を挟むべきではないと考えています――違いますかな?』
問いかけながら鋭い眼光を向ける議員に気圧されたように記者は押し黙る。そこで議員の隣に立っていた秘書らしき男が声をかけた。
『先生、そろそろ次の予定の時間ですが……』
『ああ、そうだったね。では私は仕事に戻らなくてはいけないからこれで失礼するよ。また聞きたい事ができたら訪ねてきてくれたまえ』
そんな言葉を残して議員は秘書とともに記者たちに背中を向けて去っていく。それを見ながらオレはこっそりため息をついた。
相変わらず腹の内を見せない人だな。母さんや爺さんの故郷を引き合いに出されて多少はむかっ腹が立っただろうに。
「あの政治家、レツヤに似てるね。レツヤが年取ったらあのおじさんそっくりになりそう」
ルーテシアがふいに漏らした感想を耳にして、オレたちは彼女に顔を向ける。それに対してルーテシアは小さく首をかしげた。
「みんなはそう思わなかった? レツヤと今映ってた政治家、そっくりだって思ったんだけど」
その言葉に皆は気まずそうにオレとルーテシア、そしてキャスターが紹介している“クライスラー議員”を見比べる。そんな中、オレは何でもなさそうな調子を装って答えた。
「そりゃここはミッドチルダ、次元最大の世界だからな。似ている人間なんてそこら中にいるさ」
「……まあ、それもそうか」
そう吐き捨てて食事を再開すると、ルーテシアも納得しきれてない様子を見せながら食事を始め、それからすぐ御神さんたちも食事を再開する。
それからしばらくの間、黙々と食事を腹に収めていると
誰からだと思い、オレはデバイスを掴み取る。そしてそこに表示された名前を見て、オレは目を剥きながらメールを開いた。
『レツヤへ。
さっきのニュース見たかい。おじ様ったら相変わらず底が見えない人だったね。
私は今、地方への遠征から戻ってきたところでね。今さら学校に戻っても二時間しか授業が受けられないだろうから今日はもう休むことにした。
そこでレツヤ、もし暇なら今から首都で私と遊ばないかい。私の勘だと君は今日オフの気がするんだけど。君の同僚にも挨拶がしたいし、できたらその子たちも連れてくるといい。じゃあ返事と到着待ってるよ。
ミカヤ・シェベル』
なんで報せもしてないのにオレがオフだってわかるんだよ。剣技だけじゃなく、“観”まで備わってきてやがるな。さすが『天瞳』の後継者筆頭候補。
「どうしたレツヤ? じっとデバイスを眺めて。確認したのならさっさとしまえ。行儀が悪い」
「ああ悪い。ミカ姉から遊びの誘いが来たからつい」
チンクに言われてオレはデバイスをしまいながら説明する。そこでルーテシアが尋ねてきた。
「ミカ姉って、レツヤが言ってたお姉さんみたいな人?」
「ああ。母方の爺さんがやってる道場の門下生で、オレの姉弟子。その人から同僚と一緒に遊びに来ないかって誘われたんだ」
それを聞いて、御神さんは俺たちに向かって言った。
「ほう。それはちょうどよかったじゃないか。飯食い終わったらチンクたちと一緒にその人のところに行ってこい。俺たちが働いてるそばでお前らがだらけてるのを見るのも癪だからな。どっか遠くで遊びほうけてもらった方がまだましだ」
「うん、隊長がそう言うなら甘えさせてもらいます」
ぎこちなさの残る敬語でルーテシアは答え、チンクも「仕方ないな」と言いながら期待のこもった笑みを浮かべる。
こうしてオレは七課の同僚二人とともに、ミカ姉ことミカヤさんに会いに行くことになった。
そこでオレたちは例の召喚士と新たな敵、そして彼女らが狙う“謎の少女”と遭遇することになるのだが、今のオレたちにもミカ姉にもそれを知るすべはない。