魔法少女リリカルなのはStrikerS 七課の剣銃士   作:ヒアデス

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第15話 “王”と呼ばれる少女

 PM13:36 首都クラナガン。

 

 列車(レールウェイ)から降りて駅のホームを出たところで、エリオとキャロがオレたちの方を振り向きながら言った。

 

「では僕たちはここで失礼します」

 

「ルーちゃんも、レツヤさんやチンクさんと楽しんできてね」

 

「うん。二人もがんばって」

 

 二人はオレたちに頭を下げて手を繋ぎながら出口へ向かっていく。それを見送りながら……

 

「いいのか? あの二人と一緒に行かなくても」

 

 そう言うとルーテシアは首を横に振りながら言った。

 

「いい。私はお邪魔みたいだから。それに今はミカ姉って人の方に興味があるし」

 

「そうか……チンクも一緒に来るのか?」

 

「当然だ。同じレツヤの姉代わりとして、私もミカヤさんに挨拶しておかなければいけないからな!」

 

 そう言ってチンクを胸を反らす。その姿は姉というより、どう見ても大人ぶっている子供だ。

 仕事ならともかく、プライベートでこの二人を連れて歩くのは結構恥ずかしい。ここに来るまでの間も変な目で見られていたし。

 せめて、もう一人同年代がいてくれたら……。

 

「おーい! レツヤー!」

 

 そう思っていたところに、聞き覚えのある女の声が聞こえてくる。見れば、こちらに向かって歩いてくる長身の女の人が見えた。

 腰まで伸ばした黒髪に赤みがかかった瞳、弟分のオレが言うのもあれだけど美人に入る方だと思う。

 

「やあ、数ヶ月ぶりだね。少し背が伸びたんじゃないかい」

 

「そういうミカ姉こそまたでかくなったんじゃないか。もうそろそろ追い抜けると思ったのに」

 

「ははは。そう簡単に弟に追い抜かれてたまるもんか」

 

 そう言うなり一歳上の姉弟子はオレの頭を乱暴に撫でてくる。オレは恥ずかしさから「やめろよ」と言いながらその手を払いのける。

 そんなオレたちを見て……

 

「レツヤ、もしかしてその人が……」

 

「ミカ姉って人?」

 

 チンクたちに気付くと、ミカ姉はオレの頭から手を離し……。

 

「レツヤ、まさかこの子たちが?」

 

「ああ、今の部隊の同僚。こう見えて二人ともれっきとした管理局員だ」

 

 オレがうなずいたところで、チンクたちは一歩進み出て口を開いた。

 

「初めまして、チンク・ナカジマです。管理局の陸士で、レツヤ君と同じ部隊に勤めています」

 

「ルーテシア・アルピーノです。レツヤとチンクと同じ部隊に所属してる陸士です」

 

 背筋を伸ばして自己紹介するチンクと淡々とした口調で自己紹介するルーテシアを見て、ミカ姉は微笑ましそうな笑みを浮かべながら口を開いた。

 

「こちらこそ初めまして、ミカヤ・シェベルです。『天瞳流』の門下生で、レツヤとは同じ道場で剣を振るった姉弟弟子に当たります。うちの弟弟子がいつもお世話になっています」

 

 そう言って自身の腰ほどの女の子二人に頭を下げるミカ姉につられて、二人もお辞儀を返す。

 そこでミカ姉は頭を上げながらいたずらっぽい表情を浮かべ……

 

「ちなみにレツヤとは、互いの家族公認の“許婚(いいなずけ)”でもあったりします。残念ながら彼にその気はないみたいなのでほとんど形だけとなってしまいましたが。もしあなたたちのどちらかが彼と付き合うことになったら一報だけでも入れていただければ幸いです」

 

「い、いいなずけ――!?」

 

 チンクは叫びながら驚いた顔をこちらを向ける。オレはため息をつきながら首を横に振った。

 

「ミカ姉の才能に惚れ込んだ爺さんが勝手に決めたことだよ。オレの父親もミカ姉の両親も反対しなかったからそのまま許嫁ってことにされちまって。幸い、オレたちにその気がないとわかったらすぐに引っ込めてくれたけど」

 

「おいおい、最後の一言は訂正してくれないか。私はレツヤとなら結婚してもいいと思っていたんだぞ」

 

 そう言って腕を組もうとするミカ姉に、オレは「離せよ」と言いながら彼女を振りほどこうとする。そんなオレたちの向こうで……。

 

「ねえ、私、キャロたちについて行ったほうがよかった?」

 

「かもしれんな。話には聞いていたが、まさかここまで仲がいいとは」

 

 ルーテシアとチンクは呆れた顔でそんな言葉を交わしていた。

 

 

 

 

 

 

 一方その頃。首都(クラナガン)のトンネル内で、大破したトラックとそれを囲んでいる複数の警邏隊員の姿があった。

 そこへ何人かの陸士がやってきた。その中に長い青髪に青いリボンを付けた女性士官がいた。

 彼女は隊を代表するように先頭に立ちながら、トラックを調べている警邏隊員に声をかける。

 

「陸士108部隊、ギンガ・ナカジマ陸曹です。現場検証のお手伝いに参りました」

 

 端然とした口調で挨拶と報告をするギンガに、隊員たちも彼女たちの方を向きながら「ありがとうございます」と言葉を返した。

 

「横転事故と聞きましたが」

 

「ええ……ただ、事故の状況がどうも奇妙でして」

 

 隊員は、震えながら地面に座り込んでいる男とトラックのまわりに散らばっている荷物に顔を向けながら続ける。

 

「あのとおり運転手も混乱してるんですが、何かの攻撃を受けてその後荷物が勝手に爆発したとか言ってるんです」

 

 その報告を聞きながら、ギンガも地面に散乱している荷物に目をやり……

 

「運んでいた荷物は缶詰に飲料ボトル……爆発するようなものじゃないですね」

 

 ギンガの言葉に隊員はうなずきながら言葉を付け足す。

 

「それとトラックの近くに妙な遺留品があってですね……」

 

 そう言ったところで隊員は足を止め、“遺留品”の方に視線を向ける。

 そこには楕円上の青い機体が6機、大破した状態で地面に転がっていた。それを見て――

 

――これは、ガジェット!

 

 ギンガは目を見張りながら破壊されたガジェットⅠ型を見下ろす。そこで警邏隊員が言った。

 

「それともう一つ。こちらはトラックが倒れた際に荷台から出てきたと思われるものなんですが……」

 

 それを聞いてギンガは我を取り戻し、彼がいる方に体を向ける。

 そして彼女は再び目を見開いた。

 

 そこにあったのは無数のガラス片と多量の液体、そしてそのすぐ傍に黄色い台座のようなものがあった。

 

「これは――生体ポット!」

 

 そうつぶやくとギンガはすぐさま運転手のもとへ駆ける。そして座り込んだままの彼に険しさが篭った声で尋ねた。

 

「あれは一体なんですか? ――あんなもの、どこに運ぼうとしていたの!?」

 

 台座を指さしながら問いただすギンガに対し、運転手は顔を上げ首をぶんぶん横に振りながら言った。

 

「し、知らない! 俺は仕事で荷物を運んでいただけだ! ほとんどの荷物は最初から箱やコンテナに入ってあったし、あんなものが入ってたなんて知らなかった!!」

 

 「知らない」と連呼しながら首を振る運転手からは、嘘をついたり誤魔化そうとしている気配は感じられない。ギンガはそれを察して……。

 

「わかりました。後でお話を聞かせていただきますから、それまでここで休んでいてください。――すみません、私は108隊と他の部署に報告をしてきます。後のことは部下に言いつけてください」

 

「わかりました。お気をつけて」

 

 隊員が言い終えてすぐ、ギンガは彼らに一礼しそのままトンネルの出口へ向かう。

 これはただの事故じゃない。違法研究絡みの“事件”だ。それもおそらくレリックや“あの計画”絡みの――。

 

 

 

 

 

 

『レリック反応を追跡していたドローンⅠ型、6機すべて破壊されました』

 

 いつもどおりモニター越しに報告するウーノに、スカリエッティは「ほう」と相槌を返し……。

 

「破壊したのは局の魔導師か……それとも、“あたり”を引いたか」

 

 その問いにウーノは首を縦に振り。

 

「確定はできませんが、警邏隊の報告によればどうやら後者のようです」

 

「ふふ、素晴らしい。さっそく追跡をかけるとしよう」

 

 ようやく舞い込んできた吉報に、スカリエッティは笑みを浮かべながらそう口にする。そこで――

 

「ねえドクター、それならあたしが出たいんだけど」

 

 ふいに届いてきた“彼女”の声を聞いて、スカリエッティとウーノはそちらに顔を向ける。

 そこにはぴっちりした青と紺色のウェットスーツのような衣装と、その上に同色のジャケットを着た少女がいた。ちょうど暗がりに立っていて、顔はよく見えない。

 

「――ノーヴェ、君か。この子はもう出られそうかな?」

 

 顔を向けて確認してくるスカリエッティに、ウーノはうなずきながら……

 

『ええ。つい先日、武装の調整を終えましたから。“あの子”がいない分、調整が早く進んでいますので」

 

 その言葉にスカリエッティは苦笑を漏らし、ノーヴェに顔を戻した。

 

「だそうだが、一つ聞きたい……なぜ“あたり”に固執する? 君は《ゆりかご》に興味がなかっただろう」

 

 その問いにノーヴェはうなずきを見せてから、

 

「今回出てきたのが“あたしたちの王様”になる奴だっていうなら、そいつがあたしたちの上に立つのにふさわしいのかどうか、自分の目で確かめてみたい……それだけ」

 

 そう言って鼻を鳴らすノーヴェを見て、スカリエッティはふむと言いそうな表情で自らの顎をなぞる。そして……

 

「“あれ”はいずれ必ずここに来ることになる。だから焦る必要はないのだが、まあいいだろう。ウーノ、ノーヴェの武装を用意してくれ」

 

『よろしいのですか? 今回は地下や街中での行動が想定されますので、ノーヴェには不適任ではないかと。この任務なら他の“妹たち”の方が――』

 

 ウーノの進言にスカリエッティはふっと笑みを返し。

 

「もうすでに六課と七課が嗅ぎつけているかもしれない。そうだとすれば彼女たちだけでは手が足りない。それに現在向こうにいる“あの子”はノーヴェの教育係を任せる予定だったんだ。ノーヴェも行かせてみよう。それから――」

 

 そこでスカリエッティは頭上の大モニターに目を移す。するとビルの屋上でアイスを頬張っているメガーヌの姿が映し出された。楽しみの邪魔をされて、メガーヌは不満そうな視線を向けてくるが……。

 

「メガーヌ、君たちに手伝ってもらいたいことができた。レリックと“本命”絡みだ。協力してくれるね」

 

 スカリエッティの口から“本命”という言葉が出た途端、メガーヌは硬い顔を浮かべ、すぐにうなずきを返した。

 

 

 

 スカリエッティとの通信が切れても、メガーヌはモニターを消さず手元のキーボードを叩く。そして……

 

「アギト、“本命”が現れたわ。手伝ってほしいから早く帰ってきて」

 

『“本命”って、あの変態医師が言ってた王様のこと? 姐さんが言うなら手伝うけど、いいのか? 目的のためとはいえ、あいつらの言いなりになってて』

 

 モニターの向こうから届いてくる文句に、メガーヌは不遜な笑みを浮かべて言った。

 

「今はそうするしかないわ。レジアスや『最高評議会』に近づくには、スカリエッティを利用するのが一番だもの」

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ…………」

 

 クラナガンの地下に広がる水路にて、ボロボロの布を纏った少女が荒い息を吐きながら足を進める。彼女の左腕に巻かれた鎖は二つの黒いケースに繋がれており、それを引きずりながら少女はただ歩き続ける。

 しかし――

 

「あっ――」

 

 ケースの重みと疲労から、少女は足をもつれさせ、前に転倒する。その拍子に二つ目のケースが鎖から外れ、すぐ横を流れる水の中に落ちる。

 だが、少女はそんなものに目もくれず、両手を床につけて立ち上がる。そして一つだけになったケースを引きずりながら再び前に進む。

 やがて少女の前に、上から降りそそぐ光と、そこに照らし出された梯子(はしご)が見えた。彼女は梯子のすぐ前までくると――

 

「いかなきゃ……」

 

 少女はかすれるような声を口から漏らしながら梯子を掴み、上に向かってよじ登り始めた。

 

 

 

 彼女はスカリエッティらの言う“あたり”、あるいは“王”と呼ばれる存在だった。

 正確には“王の代用”と言われるものなのだが……。

 

 

 

 

 

 

「へえ、もう高等科に通ってらっしゃるんですか」

 

 感嘆の声を漏らすチンクにミカ姉はうなずきながら言った。

 

「ああ。初等科の頃、レツヤや他の門下生にしっかりしたところを見せようと勉強に励んだ結果、二年飛び級することになってね。今は高等二年で剣術修行と大学受験に打ち込んでいるところさ」

 

「ならこんなところで遊んでる場合じゃないだろう。真面目に学校行けよ」

 

「受験生だって息抜きぐらいしたいさ。心配しなくても家に帰ってからたっぷり勉強するよ」

 

 そう笑い捨てながらミカ姉はぱくっとアイスを口に入れる。それにつられたようにオレたちもアイスを口にした。まあミカ姉は高校でも成績優秀らしいし、よほどの難関校を目指してない限り大丈夫だろう。

 

「ところでレツヤ、まだ道場に帰るつもりはないのかい? 師範様も君の自由にさせるとは言ってるが、内心は君に後を継いでほしいと思ってるはずだ」

 

 それを聞いて、オレは口にしたばかりのアイスを飲み込み。

 

「この前も言ったけどオレは道場を継ぐつもりはない。オレなんかよりミカ姉の方がよほど後継者にふさわしいじゃないか、っていうかミカ姉が継いでくれ。王様じゃあるまいし、子供や孫が後を継がなきゃいけないもんでもないだろう」

 

「それも一理ある。だが数百年間一子相伝で受け継がれてきた『天瞳』を、私が乗っ取ってしまうのも気が引ける。正当な後継者に戻ってきてもらって、私が助けるのが一番後腐れの残らない方法だと思うんだ」

 

 そう言ってミカ姉は欠片一つ残っていないアイスカップを見せる。後腐れが残らないね……『天瞳』の方を継いだら、今度はあの人が何か言ってきそうな気もするけど。だいいち、オレはまだこの街の平和を守る管理局員になる夢を諦めたつもりはない。

 そう言ってやろうと口を開けたところで、落葉や他の二人のデバイスからピリリという音が響いた。

 誰だよこんな時に、と思いながら通話ボタンを押すとデバイスからキャロの声が響いた。

 

『こちらライトニング04。サードアべニューF23の路地裏にて、レリックと思しきケースとケースを持っていた小さな女の子を発見!』

 

『女の子はマンホールから出てきてすぐ意識を失って、起きる気配がありません』

 

『指示をお願いします!』

 

 エリオとキャロからの報告を聞いて、オレたちも固唾を飲みながら本部からの応答を待つ。ほどなくフォワードになのはさんから、オレたちに対して御神さんから指示が飛んできた。

 

『フィルダー各員。悪いがもう仕事再開だ。お前たちはこのままサードアベニューに行ってライトニングと合流してくれ。俺たちも六課の隊長たちと一緒にすぐそっちに向かう』

 

「はい! ミカ姉、悪いけど仕事が入った。オレたちはこのまま現場に行く」

 

「ああ、私に構わず早く行ってやれ。ライトニングという子たちだけでは心細いだろうからな」

 

 そう言ってくれるミカ姉にオレは硬い顔でうなずきを返す。その隣でチンクとルーテシアも言った。

 

「アイス御馳走様でした。ミカヤさんも気をつけて帰ってください」

 

「変な機械を見つけたらすぐに逃げて」

 

 彼女たちの言葉にミカ姉はうなずきと笑みを返す。オレたちはそのままミカ姉と別れ、サードアベニューに向かった。

 

 

 

 現場とやらに向かうレツヤたちを見送りながら、ミカヤは弟の成長に複雑な思いを抱き、もう帰ろうかと踵を返す。

 だが、この街にいればもう一度くらいレツヤたちと会えるかもと思い直し、もう少しだけ首都に残る事にした。

 

 この未練からくる行動が、ミカヤと“彼女”に大きな影響を及ぼすことになる。

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