魔法少女リリカルなのはStrikerS 七課の剣銃士   作:ヒアデス

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第19話 ナンバーズ

 地響きによって崩れていく水路の上にある『廃棄都市』。もう誰も住んでいないその区画には今、四つ足の巨大な甲虫が鎮座していた。体から電撃と魔力を放出し、周囲に地震を引き起こしている。その振動が地下にまで届いているのだ。

 独特なネーミングセンスを持つ主から『地雷王』と名付けられた召喚虫の頭上では……

 

「ちょっと姐さん。あれはさすがにまずいって! 埋まった中からどうやってケースを探す? それにあいつら――姐さんそっくりな女の子も潰れて死んじゃうかもしれないんだぞ!」

 

 アギトの一言に、メガーヌもピクリと眉を動かす。だが、彼女は眼下に目を戻して……

 

「あの子たちなら自力で脱出してくるわよ。一応ギリギリで止めるつもりだし。ケースはクアットロやセインに頼めばいいわ。ウーノも協力が必要だったら申し付けてくださいって言ってたし。ドブさらいくらいやってもらいましょ」

 

「やってもらいましょ――じゃねえよ! あの変態医師やナンバーズなんか信用しちゃ駄目だって! あいつらうまいことばっか言ってるけど、実際のところ、あたしたちの事なんて実験動物くらいにしか――」

 

 アギトが言いかけたところで周囲に轟音が響き、地雷王の足元に円状の窪み(クレーター)ができる。

 それを見てアギトは言葉を止め、メガーヌも「あーあ」と漏らした。

 

「アギトがごちゃごちゃ言うから……」

 

「いや、あたしは止めただろう! それより、急いであいつらを助けに行かねえと!」

 

「仕方ないわね――地雷王!」

 

 地震を止めさせようとメガーヌは声を上げる。だがそこで地雷王の足元に桃色の魔法陣が現れている事に気付いた。それとほぼ同時に、魔法陣から同色の鎖が伸びて地雷王を縛り付ける。

 まさかと思い、メガーヌとアギトは周囲を見渡すと、ビルの屋上で召喚陣の上に立つ桃色髪の少女の姿を見つけた。

 その後ろには空中まで伸びる道を駆ける姉妹と、こっちに向かって飛んでくる赤い騎士、赤髪の少年を乗せた竜、そしてフィルダー三人を乗せた“巨大な蛾”の姿が。

 

 こちらに向かってくる七人を見て、メガーヌとアギトは身構える。そこにどこからか茜色の弾丸が飛んでくるのが見え、二人は真横に飛んで弾をかわし、さらにアギトは弾を撃ってきたティアナに向かって炎を飛ばし、メガーヌは衝撃弾をヴィータたちに撃ち放つ。

 しかし、ティアナやヴィータたちはよどみない動きで攻撃をかわし、レツヤはライチェアスから放った魔力弾でメガーヌの衝撃弾を撃ち落としながら、彼女らに迫る。

 アギトとメガーヌは両手を突き出し、次の攻撃を撃ち込もうとする。

 だが――

 

「“ストップ”」

「――!」

 

 レツヤが一言発した瞬間、メガーヌはしまったと言いかけた。だが、その言葉は口から出てこない――口が動かず声を発することができないからだ。

 

 その間にアギトのまわりに氷でできたような水色の短剣が出現し、身動きが取れなくなる。

 そしてレツヤの技能にかかったメガーヌにも、“蛾の召喚虫”――『旋空王』とそれに乗るレツヤたちが迫った。

 そこにヴィータもやってきて――

 

「そこまでだ。市街地での危険魔法使用に公務執行妨害、その他諸々で逮捕する」

 

 氷の短剣とレツヤの技能という“縄”に縛られた二人は淡々とそれを聞き入れる。

 そんな二人のうち片方を、メガーヌの娘・ルーテシアは悲しげな眼で眺めていた。

 

 

 

 

 

「ったく、やっと着いたと思ったら、あのオバサンとチビ捕まってんじゃねえか。世話焼かせやがる……」

 

 包囲されてるメガーヌたちを見て、少女は苛ただしげに赤い髪をガシガシ掻く。そして彼女らを囲んでいる局員に紛れているチンクを見て、付け足すように言った。

 

「……まあいい、“裏切り者”に一泡吹かせるにはおあつらえ向きだ」

 

 そう零すと、赤髪の少女はブーツに取り付けてあるローラーを走らせ、猛スピードで彼女らのもとに向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 さらにもう一方、フォワードとフィルダー、そして赤髪の少女からも離れた廃ビルの上で……。

 

 

「ディエチちゃーん。ちゃんと見えてる~?」

 

 ボロボロに朽ちはてた塔屋に腰掛けながら尋ねるクアットロに、ディエチと呼ばれた茶髪の少女は「ああ」と頷く。彼女も他のナンバーズ同様青いボディスーツを着ており、首元のプレートには“Ⅹ”のナンバーが刻まれている。 

 

「遮蔽物もないし、空気も澄んでる……よく見える」

 

 報告を続けながら、ディエチは眼の奥にあるレンズを調整し、はるか遠くを飛ぶ輸送用ヘリを捉える。その反対に口からはわずかに迷いのこもった声が漏れた。

 

「でもいいのかクアットロ、撃っちゃって。ケースは残せるだろうけど、マテリアルの方は破壊しちゃうかも……」

 

 その問いにクアットロはうふふと笑い声を漏らしながら答えた。

 

「ドクターとウーノ姉様いわく、あのマテリアルが“あたり”なら……本当に《聖王の器》なら、砲撃くらいでは死んだりしないから大丈夫……だそうよ」

 

「そう……」

 

 大丈夫という言葉に安心したのか、ディエチは淡々とした返事を返し、今まで右手に持っていた長物を覆っていた布に手をかける。

 そして現れたのは巨大なバズーカだった。持ち主の二倍近くある円筒型の狙撃砲。それをディエチは右手だけで持っていた。

 クアットロは驚きもせずそれを眺める。そこに――

 

『クアットロ』

 

「あら、ウーノ姉様。今ちょうどマテリアルとレリックを確保するところなんです。姉様も見ていかれます~?」

 

 自身の隣に現れたモニターに映る姉に、クアットロはヘリが飛んでる方を示しながら問いかける。ウーノは付き合わず淡々とした口調で告げた。

 

『メガーヌ様とアギト様が捕まりそうになっているわ』

 

「あら~、あの人たち、自信満々にしてたのに捕まっちゃったんですか~。……で、どうします? 私たちよりも先にマテリアルを奪おうとしてたみたいですし、もうここで見切りをつけて局に差し出しちゃいます?」

 

 意地の悪い笑みと声色で提案するクアットロに、ウーノは首を横に振る。

 

『そういうわけにはいかないわ。あの方にはまだやっていただきたいこともあるし、ドクターからも助け出してほしいとお願いされてる。ノーヴェが向かってるみたいだから、マテリアルの確保と併せてあの子のフォローをお願い』

 

「ええ、お任せくださ~い♪」

 

 クアットロはあっさり意見を引っ込めながら了承し、メガーヌたちがいる方に目を向けた。

 

 

 

 

 

 

 召喚士とアギトを総勢で包囲し、彼女たちに迫る。

 ヴィータさんは彼女の眼前まで来て、わずかに視線を巡らせながら言った。

 

「あの黒い奴はどうした? 不意打ちさせようたって無駄だぞ」

 

「ガリューなら召喚される前の場所に戻したわ。あなたがぶっ叩いたせいで怪我しちゃってたから」

 

「はっ、そりゃ運が悪かったな。ご主人様がさっさと投降してれば怪我なんてせずにすんだろうに」

 

 ヴィータとメガーヌは火花を散らしながらにらみ合う。そこへ旋空王から降りてきたルーテシアが召喚士たちのもとに近づいてきた。

 

「……あの、あなたに聞きたいことがあります。レリックやガジェットの事もだけど……あなたは、もしかして……」

 

 ルーテシアはそれ以上言い切れず、言葉を止める。そんな彼女に代わるように――

 

「まず、あんたの名前を教えてくれ。姿がバレた以上、名前だけ隠しても意味ないだろう。いつまでも“召喚士”じゃ言いづらい」

 

 オレが尋ねると彼女は苦笑もせずに言った。

 

「メガーヌ。名字の方は何年も使ってないし忘れちゃったわ。ホテルとかじゃ偽名を使ってるし」

 

 メガーヌという名前を聞いてルーテシアは目を見張り、チンクも顔を歪める。チンクとも関係のある人なのか?

 さらに質問を続けようと口を開くが――

 

「レツヤ、危ない!!」

 

 チンクは突然はっとしながら声を上げる。その声に反応し、とっさに後ろを振り向くと、そこから黄色いエネルギー弾が撃ち込まれてきた。

 オレは真横に跳んで弾をかわし、弾が飛んできた方を見る。そこには“黄色い光の道”がかかっていて、その上を、青いボディースーツを着た赤髪の女がローラーで駆けていた。

 女はそのまま道を駆けながらこっちに向かってきて――

 

「であああああっ!」

「――ぐあああっ!」

 

「チンク!」

 

 スピナー付きのブーツを顔に喰らって、チンクは大きく後ろに吹き飛ばされた。

 彼女を蹴飛ばした女は不機嫌そうな声で――

 

「ちっ、この程度の攻撃で倒れんなよ。仮にもあたしの教育係()()()()()()()()ナンバーなんだろう、“裏切り者のお姉様”よぉ!」

 

「お前は……」

 

 赤髪の女は忌々しそうに吐き捨てながら、倒れているチンクを見下ろす。そんな彼女を見て、オレたちは戸惑いと混乱のあまり動くことができないでいた。 

 彼女の顔はスバルと瓜二つだった。赤い髪と金色の瞳、両頬に黒いラインが走っているなどの違いはあるが。それに加えて、彼女の首元のプレートに“Ⅸ”の数字が刻まれているのが見えた。

 みんなとスバル本人も、“裏切り者”と言われたチンクも驚きを隠せないでいる。

 一方、メガーヌは意外そうな声で――

 

「ノーヴェ、あなたが来たの」

 

「ああ、ドクターに無理言ってな。ウーノ姉は渋ってたけど、来て正解だったみたいだ。で、レリックと“あたり”は?」

 

 ノーヴェという女に問われて、メガーヌはエリオの抱えてるケースを顎で指し。

 

「レリックはあそこ。で、“あたり”とやらは……」

 

 ケースをかばうエリオをよそに、メガーヌは空の向こうに目を向ける。ノーヴェもそこに目を向け……

 

「確かに向こうでヘリが飛んでやがるな。出遅れちまったか、――っ!」

 

 ノーヴェが目を向けた直後、ヘリが飛んでる方から大きな爆炎と凄まじい黒煙が上がる。

 それを見て、ノーヴェは大きく目を見開いた。

 

 

 

 

 

 

 時はわずかにさかのぼる。

 

 健斗にガジェットの殲滅を任せた後、なのはとフェイトはヘリを目指して全速力で飛んでいた。

 そして――

 

「――見えた!」

 

「よかった……ヘリは無事」

 

 送り出した頃と変わらない姿で飛び続けるヘリを見て、フェイトは安堵の息を漏らす。だが、そこでなのはは廃ビルに目を向け――。

 

「待って! あそこから何か――」

 

 

 

『市街地にエネルギー反応!』

 

『大きい……』

 

「――まさか」

 

 廃棄都市から発生した巨大なエネルギーを感知し、オペレーター陣はどよめきの声を上げる。

 シャーリーはいち早く我を取り戻し、オペレートを再開した。

 

『攻撃のチャージ確認――物理破壊型、推定Sランク!』

 

 

 

インヒューレントスキル(IS)――《ヘヴィバレル》、発動」

 

 長大な狙撃砲を抱えたまま、ディエチは淡々と告げる。

 そこに集まっている膨大なエネルギーを察知して、なのはとフェイトは速度を上げてヘリに迫る。だが、あと500mという所で砲身からまばゆい光が溢れ――。

 

「――発射!」

 

 その一言とともに彼女は躊躇いなく引き金を引く。その直後、狙撃砲の砲口から赤色の砲撃が放たれた。

 それを見てヘリの中にいたシャマルは防御魔法を張ろうとし、ヴァイスは必死に速度を上げようとする。

 だが、二人の試みも空しく、砲撃はそのままヘリに命中し、爆炎が吹き上がった。

 

 

 

 

 

 

『砲撃……ヘリに直撃』

 

『そんなはずない、状況確認!』

 

『ジャミングがひどい。データ来ません!』

 

 

 藁にすがる思いでオペレーターたちの報告に耳を傾けるが、返ってきたのは最悪の出来事を想起させるものばかりだった。

 あのヘリにはシャマルさんとヴァイスさん、それからあの女の子がいたはず……。まさか、今の砲撃でみんな……。

 愕然としているのはオレたちだけじゃなく――

 

「おいおい、聞いてねえぞ……あそこまでやるなんて……」

 

 ノーヴェはつぶやき、メガーヌとアギトも唖然と立ち尽くす。

 だが、ヴィータさんはそれを察する間もなく――

 

「てめえら! 一体どういうつもりだ! 一体何が目的であんなことを!!」

 

 ヴィータさんは怒りに震えながらノーヴェとメガーヌに迫る。

 ふとそこでオレは異様な気配を感じ、そちらに目を向けた。そして――

 

「エリオ、足元に何かがいる!」

 

 “カメラの付いた指”のようなものが地面から浮かんでいるのに気付き、声を上げる。

 エリオはすぐに振り向くが、その直後、彼のすぐ傍から水色髪の女が飛び出てきて、ケースを奪い取った。

 

「くそ――」

「させねえっ!」

 

 オレが刀を抜いた瞬間、ノーヴェは右手を掲げ、籠手から弾を乱射してくる。オレはすぐに避けるが、その間に水色髪の女はケースを奪ったまままた地面に潜っていった。しかも――

 

「ノーヴェ、もういいわ。ブツは手に入ったし、今日はもう引き上げましょう」

 

 その声とともにメガーヌとアギト、ノーヴェの足元に菱形の魔法陣が現れる。それを見て――

 

「待って――待って! ()()()()()!!」

 

 メガーヌに向かってルーテシアは悲痛な声を上げながら手を伸ばす。しかしメガーヌは悲しげな顔で、

 

「ごめんね」

 

 と小さく呟き、そのまま二人と一緒に消え去った。

 

「反応……ロストです」

 

 ツヴァイさんの一言を聞いて、ルーテシアは涙と嗚咽を漏らしながら地面に両手と両膝をつく。

 一方、ヴィータさんは彼女を気遣う余裕さえなく――

 

「ロングアーチ、ヘリは無事か――あいつら、落ちてねえよな!!」

 

 

 

 

 

 

「うふふのふ~♪ レリックの確保とメガーヌ様たちの救出は無事完了。あとは落ちたヘリからもう一つのレリックとマテリアルを回収するだけ。どう、ノーヴェちゃんの動きも計算に入れた、この完璧な計画!」

 

「黙って。今、命中確認中」

 

 耳障りな声で成果を誇る姉にすげない返事を放ちながら、ディエチは黒煙が上がっている方を見る。そして煙の中からヘリが出てくるのを見て、眉を顰めた。

 

――あれ、まだ飛んでる?

 

 ディエチに続いてクアットロも違和感を覚え、小首をかしげる。そして見た――。

 

『こちら“ナハト02”。ヘリの防御成功――全員無事です!』

 

「あれは――」

 

「闇の書の融合騎!? あっちで愚王と一緒に(融合して)いるはずじゃあ――」

 

 黒い防御陣とともに現れたリインフォース・アインスを見て、ディエチは目を見開き、クアットロはモニターを開き健斗の状況を確認する。

 モニターに映った途端、健斗はこちらを見て、髪と右目の色を戻しニヤリと笑みを向けた。

 

――変身魔法!? まさか、最初から私の狙いに見抜いて――。

 

 クアットロは驚きに目を見張る。その時、上空から桃色の光弾が降ってきて、クアットロとディエチは眼下の建物に飛び移って逃れる――が。

 

「見つけた」

 

 後ろから金髪黒衣の魔導師の声がかかり、クアットロたちはそちらを振り向く。そんな彼女らに……

 

「《ナンバーズ》、ですね?」

 

「――!」

 

 そう訊ねられた瞬間、クアットロは宙へ飛びあがり、ディエチは建物の上を飛び移りながら逃走する。

 当然フェイトが逃がすわけもなく――

 

「止まりなさい! 市街地での危険魔法使用、および殺人未遂の現行犯で逮捕します!」

 

「今日は遠慮しときます~!」

 

 光球を浮かべながら追跡するフェイトに、クアットロは茶化すような声を返す。無論、逃げられる算段あっての言動だ。

 

「IS発動――幻惑の銀幕(シルバーカーテン)!」

 

 クアットロが唱えた途端、彼女とディエチは虚空に紛れて見えなくなる。だが――

 

「はやて!」

 

 遠くで呼ぶフェイトに、機動六課の部隊長、八神はやては上空に敷いた魔法陣の上に立ちながらこくりとうなずく。

 

「位置確認、詠唱完了。発動まであと四秒」

 

「了解――」

 

 魔法陣を浮かべるはやてを見た途端、フェイトは遠くへ飛び去る。それを見てクアットロとディエチは眉を顰めながら上空を見上げる。

 その視線の先には稲妻を纏う黒球が浮かんでいた。

 

「広域……空間攻撃」

 

「うそー!」

 

 

 

「遠き地にて、闇に沈め……《デアボリック・エミッション》!」

 

 黒球から数十メートル後ろからはやてが唱えた瞬間、黒球は眼下の街を呑みこむ勢いで膨張する。ケープを破られながらも、クアットロはディエチを抱えて何とか逃れるが、『シルバーケープ』を損傷したことで幻惑の効力がなくなり、二人は傷ついた姿を晒け出す。

 ちょうどそこで――

 

『They never surrender……Judged to have in danger of escape(投降の意志なし……逃走の危険ありと認定)』

 

『Knockout by buster. After that, arrests it(砲撃で昏倒させて捕らえます)』

 

 両側から二種のデバイスの声が届き、クアットロは動きを止める。クアットロたちの両側にはフェイト・テスタロッサと高町なのはの姿があり、二人はいつの間にか彼女たちに挟まれる形になっていた。

 隊長格の魔導師二人を見て、最悪の展開が脳裏をよぎる。

 そこへ――

 

『ディエチ、クアットロ、じっとしていろ!』

 

 

 

「トライデント……」

「エクセリオン……」

 

 フェイトとなのははそれぞれ数発のカートリッジを排出させて魔力を高める。そして魔力を込めた片手やデバイスを構え――

 

「スマッシャー!!」

「バスター!!」

 

 

 フェイトとなのはが放った砲撃が“ナンバーズ”二人を呑みこむ。

 それを見て、アルトは興奮のあまり指を鳴らしながら「ビンゴ」と叫んだ。だが――

 

『じゃない! 避けられた!』

 

 勝ったと思ったところで否定の言葉をかけられ、アルトや他の二人も目を丸くする。なのはに併せてフェイトが補足を入れた。

 

『直前で救援が入った』

 

『アルト、追って!』

 

「は、はい――」

 

 

 

 

 

 なのはたちやレツヤたちのいる位置から離れた、都市の外れ。そこにクアットロとディエチ、そして彼女たちを助けた紫髪の女がいた。彼女も他のナンバーズ同様、“Ⅲ”の刻印が付いた青いボディースーツに身を包み、(スカリエッティ)と同じ金色の瞳を備えている。

 

「トーレ姉様、助かりましたー」

 

「感謝……」

 

 地面に手をつきながら礼を言う妹二人に対し、トーレは不機嫌そうに鼻を鳴らし……

 

「ぼうっとするな、さっさと立て。馬鹿者どもめ、監視目的だったが来ていてよかった。――メガーヌ様とセインたちはまだ近くにいるはずだ。合流して研究所に戻るぞ」

 

「あっ、姉様待ってください~!」

 

 トーレが背中を向けた途端、クアットロとディエチも慌てて立ち上がり彼女の後を追った。

 

 

 

 

 

 

「ああ、悪い。こっちは最悪だ。召喚士一味とナンバーズには逃げられて、レリックが入ったケースも持っていかれちまった。逃走経路もつかめねえ……すまねえ、今回はあたしの失態だ。新人たちは問題なかった」

 

 通信魔法で、ヴィータさんは部隊長に今までのいきさつを報告している。悔しさのこもった声で何度も謝る彼女たちの後ろで、ギンガさんとフォワードたちは声をかけようとするものの、ヴィータさんの雰囲気に圧され言い出せずにいた。

 オレはこれ以上黙っていられず――。

 

「あの、ヴィータ副隊長――ひぇっ!」

 

 声をかけた途端「報告中だ」と言われながら槌を向けられ、オレは言葉を飲みこみそうになる。それを見て意を決したようにティアナが口を開いた。

 

「副隊長、召喚士たちの追跡や不測の事態が重なって報告できなかったんですが……」

 

「レリックは地下から脱出する際、彼女が細工をしてまして」

 

 そう言って苦笑いを浮かべると、ヴィータさんとツヴァイさんは首をかしげながらも耳を傾けてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅー、やっと戻ってこれた~」

 

 洞窟内に設けられた研究所(ラボ)の通路を歩きながら、No.Ⅵセインはため息と言葉を吐き出す。他のナンバーズとメガーヌ、アギトも一緒だった。

 

「メガーヌ様の集団転送のおかげですね。ありがとうございます」

 

「いいわよ。私も人心地つきたいところだったし」

 

 頭を下げるトーレにメガーヌはすげなく答えながら先へ進む。今回ばかりは本当に疲れた。そんな感想を抱くメガーヌにセインは尋ねた。

 

「ところでノーヴェは? メガーヌ様やアギトさんと一緒だったんじゃないんですか?」

 

 そう訊いて、セインはアギトにも尋ねるような目線を送る。アギトは不機嫌そうにそっぽを向きながら言った。

 

「知らねえよ。まだ帰る気になれねえつって街の方に行っちまった。ねえ、姐さん」

 

「ええ。好きにさせればいいんじゃない。あの子の気持ちもわからないでもないし……」

 

 言いながらメガーヌはクアットロにじとりとした目を向ける。それに気付いてか、クアットロはわざとらしく「あっ」と手を叩き。

 

「セインちゃん、ケースの中身、確認」

 

 その指示にセインは「はいよ~」と応えながら、通路の隅に設けられている台にケースを置く。

 彼女はそのままケースの淵を指でなぞり、ロックを解いて蓋を持ち上げ……。

 

「じゃじゃ~ん♪ ……あれっ?」

 

 セインは蓋を持ったまま間の抜けた声を漏らして立ち尽くす。後ろの姉妹たちやアギトも驚きながらそちらを覗き込む。

 そこに入ってるはずの“(6)番目のレリック”はなく、代わりに紙切れ一枚が入っていたからだ。

 首をひねりながらセインはそれを掴み、そこに書かれている文を読み上げた。

 

「えーと……『レリックはいただいた。次はケースも渡さねえからな。もし手に入れたとしてもちゃんと中身を確認してから取って行けよ。機動六課&機動七課より』――これって」

 

「どういうことだ!」

 

 事態を察してトーレは怒声を上げる。その横でクアットロは首をひねり。

 

「でも、いつすり替えられたのかしら~? あの子たち、ケースなんて持ってなかったのよね?」

 

「ああ、それにちゃんとスキャンして本物のケースだって確認した――ほれっ!」

 

 セインはサーモ画面を五枚表示させ、見てみろと言わんばかりに手を広げる。姉妹たちは画面を見上げ……。

 

「まあ、確かにケースは本物みたいだけど……」

 

「うーん、おかしいわね~」

 

 ディエチとクアットロは疑問の声を漏らす。

 その一方でメガーヌは「なるほど」とつぶやき、トーレはモニターに迫りながら怒声を上げた。

 

「馬鹿どもが! お前らの目は節穴か!」

 

 彼女以外のナンバーズとアギトはまだ気付かず、首を傾けながらトーレを見る。そんな彼女たちの前で、トーレは「ここだ!」と怒鳴りながらキャロが被っている帽子を指した。

 その帽子の中には真っ赤に表示された“何か”の反応が示されていた。

 

 

 

 

 

 

「ケースは偽物(シルエット)じゃなく、本物です」

 

「あたしのシルエットは衝撃に弱いんで、奪われた時点でバレちゃいますから」

 

「だから一旦ケースを開封して、レリック本体に直接封印処理をかけることにしたんです。あいつらへのメッセージを入れたのはオレですけど」

 

「で、レリックはいうと――」

 

 チンクとティアナに続いてオレが説明した後、スバルはキャロの頭から帽子を外す。その中には白いカチューシャとその辺で摘んだような花が乗せられてあった。

 だが、ティアナが指を弾いた途端、花とカチューシャはポンと音を立てて赤い宝石(レリック)に戻る。

 それを見て、ヴィータさんは乾いた笑みを漏らし、ツヴァイさんは「なるほどー」と感心の声を上げた。

 

 ちなみにキャロにレリックを預けたのは、後衛型の彼女とルーテシアが敵と直接接触する恐れが少ないからで、ルーテシアに預けることも考えたんだが、やめて正解だったみたいだ。

 

「…………」

 

 任務を成功させ和やかな雰囲気が戻りつつある中、ルーテシアは一人悲しげな顔で俯いている。

 それにギンガさんやスバル、チンクもいつもより元気がないように見える。

 

 ルーテシアの母親だと思われる召喚士メガーヌと、ユニゾンデバイス・アギト。

 スバルと瓜二つの敵、ノーヴェとその一味。

 あいつらは一体……。

 

 

 

 

 

 

 空のケースを眺めたまま、ナンバーズたちは脱力した様子を見せる。

 そんな中、トーレは申し訳なさそうにメガーヌに頭を下げた。

 

「すみません。手伝っていただいたのに、愚妹の失態で」

 

 それに対してメガーヌは片手をぶらぶら振り――

 

「別にいいわ。フォワードとフィルダーって子たちの力量も測れたし。“本命”の居場所がわかるようになっただけでも前進でしょ。あの子たちの忠告通り、次に活かしましょ」

 

 励ますような言葉を残しながらメガーヌは出口へ向かう。

 そこへふいに……

 

「ところでメガーヌさま~。もしかして、ケースからレリックが取られていたことに気付いてた……なんてことありませんよね~?」

 

 クアットロが間延びした声で尋ねた瞬間、メガーヌはぴたりと足を止め、

 

「どういう意味かしら……?」

 

 険のこもった声で聞き返した途端、クアットロは取り繕うように両手を振り、

 

「怒らないでください、なんとな~くそう思っただけです。……で、本当のところはどうなんです?」

 

 いつもより低い声色でクアットロは訊ね、他のナンバーズたちも冷たい視線を注いでくる。それを前に、メガーヌは臆するそぶりも見せず首を横に振った。

 

「そんなわけないでしょう。管理局の暗部を暴く協力をしてもらう代わりにレリックの収集を手伝うってドクターと約束してるし、何よりこの体を維持するためにもレリックは必要なんだから。気付いてたらあの時点で知らせてるわよ……聞きたいのはそれだけ?」

 

「ええ、おかしなこと言ってごめんなさ~い。メガーヌ様とアギト様はゆっくりお休みになって」

 

 ふてぶてしい素振りで手をひらひらさせながら見送るクアットロに、メガーヌはそれ以上言わずに背を向け、アギトはクアットロたちにべーと舌を出してからメガーヌの後を追った。

 

――“No.Ⅳ・クアットロ”、見た目とちゃらけた言動に反して鋭い女ね。もう少し慎重に動いた方がいいかもしれない。

 ごめんなさいルーテシア。ひょっとしたら、お母さん帰れないかもしれない。でも、今のあなたなら大丈夫よね……。

 

 

 

 

 

 

 一方その頃。ノーヴェは一人、クラナガンにある、人気(ひとけ)のない公園のベンチに座り込んでいた。

 彼女が今着ている服はメガーヌから借りた私服で、今まで着ていた戦闘服は彼女に預けている。

 他の姉妹と違い、メガーヌに対しても刺々しい態度を取っているノーヴェだが、表裏がないと思われたためか、割と良好な関係だったりする――アギトには嫌われているが――。

 だが今は、彼女に感謝する気分でもない。

 

「ちっ、あいつら、どういうつもりなんだ。あのヘリにいたのはあたしたちの王様だろう。それを乗せたヘリを撃つなんて……ドクターもあいつらも一体何がしてえん――だっ!」

 

 ノーヴェは怒りに任せて、地面に転がっている缶を思い切り蹴り上げる。そこへ運悪く長い黒髪の女が飛び出してくるが――。

 

「――おっと。危ないな、誰だいこんなもの蹴ってくるのは?」

 

 女は難なく缶を掴み取り、缶が飛んできた方に顔を向ける。ノーヴェは片足を上げたまま唖然と彼女を見返す。

 黒髪の女は眉を吊り上げながらノーヴェに近づいてきて、缶を突き出した。

 

「駄目だよ、街中で缶なんて蹴っちゃ。誰かに当たったらどうする気だい?」

 

「…………悪かった」

 

 反感を隠さず、憮然としたままノーヴェは謝罪を口にする。そんな彼女を見て、黒髪の女はくすりと噴き出した。

 

「な、なにがおかしいんだよ!」

 

 馬鹿にされたと思い、ノーヴェは荒げた声をぶつける。黒髪の女は口を押さえ、笑いをかみ殺してから言った。

 

「ごめんごめん。小さかった頃の弟弟子を思い出してね。あの子も『なんでオレが謝るんだよ』って言いたげな顔でぼそりと小声で謝ってたんだ。今の君みたいにね」

 

「そんなガキと一緒にすんじゃねえ! あたしは立派な大人だ!」

 

 そう言い張って、ノーヴェはふんと鼻を鳴らしながらそっぽを向く。それがまた子供っぽくて、女の口から再び笑いが漏れた。

 ノーヴェはじろりと女を睨み……

 

「ったく、気晴らしに首都ってとこを見て回るつもりが、変な奴と遭遇しちまった。“外”にいるのはこんな奴ばかりなのか?」

 

 ノーヴェは頭を抱えるような仕草をしながらぼやきを漏らす。黒髪の女は微笑程度に表情を整え……

 

「それは心外だね。私は常識人のつもりでいるんだが。さっき言った弟弟子や一部の友人に比べれば、まともな部類に入ると自認している」

 

「はっ、そいつらよりマシなだけだろう。あたしからすりゃ、お前も相当変だっつうの」

 

 ノーヴェはせせら笑いながら嫌味を飛ばす。片や、黒髪の女は涼しげな顔でそれを聞き流し……

 

「否定はしない。が、いきなり缶を蹴り飛ばしてくる子には言われたくないな。ずいぶんご機嫌斜めみたいじゃないか」

 

「う、うっせえ! ちょっと腹が立ってただけだよ! 普段はあんなことやらないんだからな!」

 

 言い訳を飛ばすノーヴェに、黒髪の女は微笑ましげな視線と笑みを浮かべ……。

 

「そうか。では気分直しにアイスでも食べにいかないか。私がご馳走しよう」

 

「えっ? い、いいよ別に!」

 

「遠慮するな。美味しそうな店を見つけたんだけど一人じゃ入りづらくてね、連れがほしかったところだったんだ」

 

 そう言って、黒髪の女はノーヴェの腕を引っ張る。その強引さとアイスとやらへの好奇心に抗いきれず、ノーヴェは次第に彼女と同じ方向へ足を進める。

 ちょうどそこで黒髪の女はノーヴェの方を振り向き――

 

「ところで、君の名前は? 私はミカヤ・シェベル。よければミカヤと呼んでくれ」

 

「……ノーヴェ。ノーヴェと呼べばいい」

 

「ノーヴェか。いい名前だね」

 

 ヴァイゼン語で“9”を意味することに気付きながら、ミカヤはそんな感想を漏らす。それにノーヴェもまんざらでもない気持ちを抱いた。

 

 

 

 レツヤにとって“姉”のような存在にあたるミカヤ。

 今のレツヤから見て“敵”にあたるノーヴェ。

 お互いレツヤと関係がある者だと知らないまま、二人は出会い、友情を育みつつあった。

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