魔法少女リリカルなのはStrikerS 七課の剣銃士   作:ヒアデス

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StrikerS編
第1話 いきなりの転属


 『第1世界ミッドチルダ』の首都、『クラナガン』。

 オレが生まれ育ったこの街は、あらゆる世界や次元の中で一番大きくて、一番賑やかな街だった。

 その分、魔法を使う犯罪者が現れたりしてるせいで他の街より治安が悪いらしい。でもそんなのはテレビや動画の中かスラム(廃棄都市)みたいなとこだけで、オレには関係ないことだと思ってた。

 だから将来は父さんに言われた通り中等科か高等科くらいまで進学して、適当な会社に就職して当たり障りもない人生を送るつもりだった。母方の実家で剣を習ってはいたが、あそこを継いだり管理局に入る気はまったくなかった。

 

 ()()()までは……。

 

 

 

「ぐあああっ!」

 

 オレの目の前で、助けに来てくれた局員さんが傷つき、ハンサムな顔に似合わないうめき声を上げながら肩を押さえる。

 その前で性格が悪そうな男が砲撃用の杖を手にしながら、局員さんとその後ろに隠れているオレを見下ろし、下品な笑い声をあげながら口を開いた。

 

「くははっ! 《カートリッジシステム》を付けたこの杖の前には管理局の局員も形無しだな! 恨むなら剣なんか持ってオレに向かってきたそこのガキを恨むんだな」

『Load Cartridge』

 

 男が杖を振るとともに、その杖が機械じみた声と鉛色の弾を吐き出す。それを見て局員さんがすぐさま銃型のデバイスを構えるが、男は余裕そうな笑いを返すだけだった。

 

「はっ、カートリッジも入ってない魔力銃なんか向けられたって怖くねえよ。――これでも喰らいな!」

 

 そう言いながら男は杖を向ける。その先端にともる赤色の弾は局員さんが撃つ弾よりはるかに大きかった。

 それを見て思わずオレは叫んだ。

 

「《ストップ・ザ・ファイブ》!」

 

 それを聞いても男は愉快そうに笑うだけだった。しかし、それは一瞬で()()()()()に代わる。

 

「――っ!」

 

 次の瞬間、男は笑みを浮かべたまま()()()()()()。口を開くこともできず、大きく開かれたままの瞳だけが驚愕に染まっていた。

 それを見てすぐに局員さんは男を睨みつけ――。

 

「ヴァリアブルシュート!」

「がああああっ!」

 

 脇腹を撃たれて、さっき局員さんがあげたものより醜いうめき声を吐き出しながら、男はよろめく。しかし、その手から杖が落ちることはなく――なにより、もう()()()()()()()()()()

 

「~~くそぉ、てめえら舐めた真似をぉ!」

 

 動けるようになった男はそのまま球を撃つ。それが局員さんの手に当たって、彼は銃を落としてしまった。

 

「ぐうぅっ!」

 

 局員さんはその場で手を押さえる。それを見下ろしながら男はまた杖を構えた。

 それを前にして――

 

「やつは俺が食い止める――君は早く逃げるんだ!」

 

「で、でもこのままじゃ局員さんが――」

 

 喉が張り裂けんばかりの勢いで叫ぶ局員さんに逆らって、オレは彼の足にしがみつく。そうしてる間にも男が構える杖の先端に灯る赤い球は大きくなっていく。それを前にして局員さんは諦めたように顔を緩め……。

 

「ティアナ、ごめんな。仕事が終わったら迎えに行く約束だったのに、兄ちゃん行けなさそうだ……」

 

 家族だろうか、誰かの名前を呼びながら局員さんはオレの前に立ち続ける。そんな彼を嘲笑うように、赤い球はボールほどに大きくなっていた。その後ろで男は下品な笑い声をあげた。

 

「はははっ! 遺言はそれで終わりか? ならそろそろ楽にしてやるよ!」

 

「くっ――」

 

 そこで局員さんは男に背を向け、オレを強く抱きしめる。オレだけでも助けようとしてくれているのがわかって、オレも思わず局員さんに抱きつく。

 そんな中でオレはただ――

 

「ストップ・ザ・ファイブ」

 

 再びそう唱える。しかしもう男は止まってくれない。それでもオレはただ……

 

「ストップ・ザ・ファイブ。ストップ、ストップ、ストップストップストップストップ」

 

 壊れたようにただ何度もストップと叫ぶ。それに男は顔を引くつかせ――

 

「ストップストップうるせえ! わめくならあの世でやってろっ!!」

 

 吼えながら赤い弾を撃とうとする男を前に、オレはあの男と自身の無力さを呪う。

 なにが《希少技能(レアスキル)》だ。“五秒だけ相手を止める技”なんて全然役に立たないじゃないか!

 

 ――その時だった。

 

「フライング――スラッシュ!!」

 

 頭上から新たな男の声が響き、それとほぼ同時に男が手にしていた杖が真っ二つに割れ、からんと音を立てながら地面に落ちる。男はあんぐりしながら杖だったものを見下ろし、そしてすぐ上に目を上げた。

 その視線をなぞるように、オレも局員さんも奴に続いて上に目を向ける。

 ――そこに『あの人』が浮いていた。

 

「…………」

 

 そこにいたのは、紺色のコートを纏った二十ほどの男だった。

 銀色の髪がたなびくのも気にせず、紅い右眼と緑色の左眼でこっちを見下ろしている。

 彼はオレと局員さんを少しだけ眺め、それからすぐに悪漢に目を移す。それを受けて悪漢ががなりたてた。

 

「てめえ、どこのどいつだ!?」

 

 奴の問いに空中の男は奴を見返し、少しして口を開いた。

 

「時空管理局本局捜査部に所属している捜査官だ。フレド・マコール。管理外世界での魔導犯罪、および複数の殺人の容疑で逮捕する」

 

「ちっ、もう“海”の公僕が嗅ぎつけてきやがったか」

 

 彼を見上げながら悪漢は毒づく。一方、彼は抜き身の刃を悪漢に向けて。

 

「見ての通り、お前の武器はなくなった。おとなしく投降しろ」

 

 しかし、それを見ても悪漢は降参せずにやりと笑い……。

 

「バカが……手配犯が杖一本持ってるだけかと思うかよ」

 

 奴は懐に手を入れ、瞬時にナイフを手にする。そして呆然と立ち尽くしていたオレに目をやった。

 ――しまった。

 

「時代遅れの剣使いなんざ、こいつと人質一匹がいりゃ十分だ!!」

 

 吼えながら奴はまっすぐこっちに向かってくる。だが――

 

「はああっ!」

 

 今まで上空にいたはずの彼はいつの間にか悪漢の前に立ち、剣を振るいあげる。

 その一振りでナイフは弾き上げられる。悪漢はそれでもあきらめず握りこんだ拳で殴りかかろうとするが……。

 

「――ふっ。はぁっ!」

 

 彼は悪漢の拳を軽やかにかわし、そのまま剣を下ろし悪漢の体を斜め下に斬り裂いた。

 

「うがぁっ……」

 

 その一太刀を受けて、男は低いうめき声を漏らしながら地面に倒れる。

 それを見届けて、彼はすぐオレたちの方を向いた。

 

「……大丈夫か?」

 

「う……うん」

 

 彼の問いにオレはそんなありきたりの返事を返す。そしてすぐ隣の局員さんが彼に声をかけた。

 

「ありがとうございます。あなたのおかげで助かりました。あと少し遅れていたらどうなっていたことか」

 

 同い年ぐらいの男に局員さんは笑みを向けながら礼を言う。彼は剣を小さいアクセサリーにして懐にしまいながら首を横に振った。

 

「いえ、こちらの不手際で逃してしまった犯罪者ですから。そのせいでその子やあなたを危険にさらしてしまったんですから、お礼どころかむしろ俺()()が謝らないと。それに敬語もやめてください。年も、たぶん階級も俺の方がずっと下ですから」

 

「……?」

 

 彼の言った最後の一言にオレも局員さんも首をかしげる。オレの見たところ二人は同じくらいの背丈で、それほど離れているようには見えないが。

 局員さんも戸惑いながら……

 

「まあ、君がそう言うならいいや。首都航空隊のティーダ・ランスターだ。階級は一等空尉だけど、そんなのはこの際なしにしよう。……えーと、君は……」

 

 ティーダという局員さんは手を差し出しながら彼に尋ねる。彼も手を出しながら……

 

「ああ、名前の方はまだ名乗ってませんでしたね。俺は――」

 

 苦笑しながら彼が名乗ろうとする。オレはそれをまじまじと見ていた。だがそこで――

 

「うっ――」

 

 急に頭がくらっと来て目の前が真っ暗になる。そして立っていられなくなりその場で倒れかける。

 すると誰かに抱きかかえられて……。

 

「おい、しっかりしろ!」

 

「気を失っているだけのようです。安心感から気が抜けてしまったんでしょう」

 

「えっ……あなたは、一体どこから?」

 

 真っ黒に塗りつぶされた視界の向こうで、彼とティーダさん、そして()()()()()()()()()()()()の声が届いてくる。

 それを確かめようと懸命に目を開けようとするがむなしく――そこでぷっつりオレの意識は途絶えた。

 

 

 

 あの事件の後、オレは一層剣の稽古に励み、それに加えて父さんに銃の撃ち方を教わるようになった。父さんはその後すぐに仕事が忙しくなって、家にも帰ってこなくなったけど銃の練習は続けた。

 そしてオレは初等科を卒業してすぐ、首都の郊外にある訓練校の門を叩いた。

 あの犯罪者みたいな奴からこの街(クラナガン)の平和を守るために。オレを助けてくれた“二人の局員”のようになるために。

 

 そう誓って、管理局の陸士になったんだが…………。

 

 

 

 

 

 

「レツヤ・テンドウ二等陸士。本日付けで貴官に他の部隊への異動を命じる」

 

 訓練の途中で隊舎に呼び出されて、机に座ったままの隊長から開口一番に告げられたのはそれだった。それを聞いて、オレを連れてきた先輩女性は目を丸くして、事務仕事をしていた隊員たちも一斉に顔を向けてくる。

 そんな中、オレは……

 

「理由を聞いてもいいでしょうか?」

 

 そう隊長に尋ねると、彼は何でもなさそうに答えた。

 

「向こうから君をよこしてほしいと要請が来てな、私がそれに同意した。ただそれだけのことだ。急で申し訳ないが、君はすぐに寮に戻って明日までに出ていけるように準備してくれ。訓練はもう切り上げて構わん」

 

 それだけ言って、隊長は《空間モニター》を表示させて仕事に戻ろうとする。そんな彼に――

 

「拒否はできないんですか? 配属されてまだ一年も経ってないのに、ここを出て行けなんて――」

 

 机に手を置きながらすがるように言うと、隊長はわずらしいものを見る目をオレに向け、はあっと息を吐き出した。

 

「だったら局員を辞めるしかないな。まあ最近は中等科に上がる子も増えているし、また学校に入りなおすのもありだと思うが」

 

 そう言って隊長が笑うと、部屋のあちこちから笑いが漏れる。親切だった先輩女性もこらえるように口元を押さえていた。

 隊長の言う通り最近は進学する子供も増えてきているが、学校なんてさっさと卒業して職に就いた方がいい、というのがこの世界(ミッドチルダ)の風潮だ。まして二年近く働いておきながら、今さら学校に入りなおすなんて恥以外の何物でもない。

 かといって、いきなり他の隊へ行かされるのも納得がいかなかった。

 

「なんで一年も経たないうちに他の部隊へ行かされるんですか!? せめて理由を教えてくださいよ!」

 

 そう訴えると隊長はちっと舌打ちして……

 

「これだから()()()()()は」

 

 そのつぶやきを聞いて思わず動きを止めてしまう。訓練校やここで度々聞いた嫌な呼び名だ。

 そんなオレを前に、隊長は面倒くさそうに口を開く。

 

「こんな事は言いたくないんだが……正直君は重荷なんだよ。正式に入局して一年になるのに魔力量はいまだに新人並。それだけならまだ大目に見るが、銃があるのに剣まで持ってくる真似をするわ、犯人を追ってる時にわざとでたらめな方へ撃つわ、仕事を舐めてるとしか思えん。ゲームでもしているつもりか?」

 

「銃だけだとバリアで防がれてしまうから、直接切りつけられる剣も持っていた方がいいと判断したんです。銃だってでたらめに撃ってるわけじゃ――」

 

「バリアなど囲んでしまえばどうとでもなる! お前一人にそんなファインプレーは期待しとらん! それに犯人の()()()()()()に撃っておきながら、でたらめじゃないなんてよく言えるものだな! あの時はたまたま跳弾して犯人に当たったからいいものを。――だがそれだけじゃないぞ。なにより、お前の役に立たん技能(スキル)が俺たちの邪魔になっているんだ!!」

 

 立ち上がりながら怒鳴る隊長の剣幕と、“あの技能”のことを思い出したことでオレの口からうっと声が漏れる。そこへ畳みかけるように隊長は唾を飛ばしてきた。

 

「さっきも言ったが、お前の魔力量は新人に毛が生えた程度だ。だが希少技能(レアスキル)を持ってるため、魔導師ランクは1ランク上げて“A”という事になっている。Bランクの魔導師三人分、Cランクの魔導師なら五人分に値する。俺が何を言いたいかわかるか?」

 

「……」

 

 隊長の問いにオレは黙ってうなずきを返す。

 

 管理局の各部隊には『戦力の保有制限』というものがある。“陸”も“海”もそれは変わらない。

 その保有制限は所属魔導師が保有するランクの総計で決まる。オレのようなAランク魔導師一人はBランク魔導師三人分、Cランク魔導師五人分に相当する。つまりオレがそいつらの枠を奪ってしまっているという事だ。

 その分、技能を活かして彼らに匹敵する働きをしなければならないのだが。

 

「だというのに、お前の技能は『五秒だけ相手の動きを止める』だけのものだ。それならバインドでもかけた方が確実だ。そんなくだらん技能持ち一人のために三人分か五人分の枠が埋まっちまってるんだぞ。わかるかええ?」

 

「はい……」

 

 オレは力ない声でそれだけを返す。そんなオレに隊長は吐き捨てた。

 

「お前一人を抱えるより訓練校上がりの新人何人かを入れた方がよっぽどマシだ。あっちの隊長からお前をよこしてほしいと聞いた時は夢でも見てるのかと思ったぞ。まあ、ただの数合わせだと思うが。まだ正式に立ち上がってもいないような部隊だからな。……とにかくもうここにお前の居場所はない。あっちの部隊に移るか局員を辞めるか、お前に決められるのはそのどちらかだけだ。わかったら寮に帰れ。荷物をまとめる時間ぐらいはやる」

 

 諭すような追い打ちに、これ以上オレは何も言えず――

 

「……お世話になりました」

 

 頭を下げそれだけを伝える。隊長はオレを見もせず仕事に戻り、オレは屈折した気持ちを抱えながらオフィスを後にした。

 

 新暦75年4月某日。

 あの事件から6年後の今日、オレは初めて配属された『陸士056部隊』を去ることになった。

 

 

 

 

 

「はあ~、今日でレツヤ君とお別れか~。弟ができたみたいで楽しかったんだけどな~」

 

 レツヤが出て行ってから、女隊員がため息を吐き出しながらぼやく。隊長は手を止めて、にやけた顔を彼女に向けながら……

 

「なんだ、年下趣味だったのかお前? それとも財産目当てか? あいつの家結構な金持ちだからな」

 

「――えっ!? そうだったんですか?」

 

 知らなかったというように大げさな素振りで彼女は隊長の方に体を向ける。隊長は軽くうなずきながら……

 

「ああ。父親が政治家でな、お前も知ってるくらいの有名人だぜ。あいつ自身はテンドウって名乗っちゃいるが、本当の名字は――」

 

 隊長が続けて言った名字に彼女は口をあんぐり開ける。

 

「ああ知ってます、ニュースでよく見ますよ。レツヤ君が“あの議員”の……」

 

「ああ、あいつが“お坊ちゃん”って呼ばれてる理由がわかっただろう。局に入ったのだって政治家になる前の拍付けって奴だろうし、あっちの隊に入ってもすぐ辞めて実家に帰るのがオチだよ。なんなら辞めるまでの日数で昼食でも賭けるか?」

 

 その問いに女隊員は苦笑と「不謹慎ですよ」と返事を返す。そこでふと彼女は真顔になった。

 

「そういえば、レツヤ君の行き先はどこなんですか?」

 

 そう尋ねられて、隊長は嘲るような笑みを浮かべながらモニターに表示されている部隊名を読んだ。

 

「『機動六課直下・独立遊撃分隊』……大仰な言葉くっつけてるけど、ようは六課って部署の雑用班だよ」

 

 

 

 

 

 

 同時刻、クラナガン西部はずれにある廃棄都市。 

 

 

 局指定の訓練着を着た、長い紫髪の少女がてくてくと歩きながら赤外線を潜り抜ける。その後ろには無数の機械の残骸が転がっていた。そして少女のまわりにはそれらの残骸よりはるかに小さな羽虫が飛び回っていた。

 そこへ今まで“試験”を見守っていた銀髪の女が口を開いた。

 

「お疲れ様です。Aランク試験はこれで終了となります。そのまま少しお待ちください」

 

「……」

 

 試験官の言葉に少女は口を開かず、頷きだけを返す。

 それを確認しながら、試験官は隣に浮かべているモニターに顔を向けた。

 

「教導官、試験が終わりました。採点をお願いできますか」

 

『はい。こちらからも受験生のゴールを確認しました。さっそく採点に入りますね……と言いたいところなんですが……』

 

 モニターに映る栗色髪の教導官はそこで言葉を止め、再び口を開く。

 

『ターゲットの全破壊、被弾なし、ダミーもすべて無傷、おまけに妨害用のスフィアまで全部破壊したとなると、減点しようがありませんので……』

 

「つまり……」

 

 視線で尋ねる試験官に教導官はこくりとうなずく。

 

『満点合格――受験生をAランク魔導師に認定します! 彼女におめでとうって伝えてあげて』

 

「はい! すぐに伝えます!」

 

 そう答えながら試験官は受験生に顔を向ける。その顔には自分が合格したような笑顔が張り付いていた。

 一方で受験生は何の感動もなさそうに……。

 

「合格……?」

 

 無表情のままそう尋ねる受験生に、若干困惑しながらも試験官はうなずきと返事を返した。

 

「ええ。あなたをAランク魔導師に認定します。今後の活躍に期待しています」

 

 そう言って敬礼してくる試験官に受験生も真似るように返礼を返す。やはりその表情は淡白で、喜んでいるようには見えない。それを試験官は残念に思った。

 そこに……。

 

「まあまあリイン、固い挨拶はそれくらいでいいだろう」

 

 名を呼ばれてリインという試験官は声の方に振り向き、それにつられたように受験生もそちらに顔を向ける。

 そこにはいつの間にか二人の男女が立っていた。

 一人は長い白髪を垂らした金色の両眼を持つ女で、受験生と変わらないほど低い背丈が特徴的だった。

 そしてもう一人は短い黒髪に、黒の右眼と緑色の左眼を持つ、二十寸前の青年だった。二人とも試験官と同じく茶色い陸士服を着ており、女の方はその上に灰色のコートを着ていた。

 一方、受験生は青年の色違いの眼を見てわずかに驚く。そんな彼女に気を悪くすることもなく、青年は再び口を開いた。

 

「ルーテシア・アルピーノ三等陸士。Aランク合格おめでとう。その祝いにこれから一緒に昼飯でも食わないか。そこで君と少し話がしたい」

 

 色違いの瞳の青年はそう彼女を誘うものの……。

 

「知らない人にはついていくなって、ゼストに言われてる」

 

「ああ、そういえばまだ会ったばかりだったな」

 

 ルーテシアの言葉に青年は笑いながらぴんと伸ばした片手を額に当てて敬礼した。

 

「俺は御神健斗(みかみけんと)。地上部隊所属の局員で階級は三等空佐。数日後には『機動六課直下・独立遊撃分隊』の分隊長も務める予定だ。君をその分隊にスカウトするために来た。ゼストさんもその話は承知している。嘘だと思うならモニターか端末で今すぐ彼に聞いてみるといい」

 

「ゼストが?」

 

 養父が承知していると聞いて、ルーテシアは首をかしげながら聞き返す。それに健斗はうなずきと笑みを返した。

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