魔法少女リリカルなのはStrikerS 七課の剣銃士   作:ヒアデス

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第21話 預言

「臨時査察って、機動六課に?」

 

 部隊長室にフェイトの声が響く。それに部屋の主であるはやてが頷いた。

 

「地上本部にそういう動きがあるみたいなんよ。それに関係してるんやろうけど……」

 

「俺に近日中に本部へ出頭するように要請があった。要請といっても独立分隊に対しての形で、地上士官の俺にとっては事実上の命令に等しい。断れば分隊の後見を停止するとまで言われてる」

 

 説明を終えると、フェイトは難しい顔で顎に手を乗せる。

 

「健斗も六課の幹部だからね。査察の前に、六課の内情や実態を聞き出したいってところかな」

 

「そう考えて間違いないだろうな。しかも連絡をよこしてきたのはレジアス中将の副官、オーリス・ゲイズ三佐だ」

 

「ゲイズ三佐……中将の娘さんやね」

 

 はやての言葉に俺はうなずきを返す。

 

 

 管理局や発祥世界であるミッドチルダの組織・団体では、親類や知己を自らの側近や補佐に取り立てる“縁故主義”を是とする風潮がある。気の知れた親族や友人を傍に置くことで、パワハラなど上下関係による軋轢の防止や業務の円滑化に繋げられるという利点があるからだ。

 俺たちが知ってる限りでも、親子や兄弟、友人同士を同じ部隊に配しているケースは多い。リンディさんとクロノも同じ船に勤めていたし、陸士108隊もゲンヤ三佐とギンガが一緒に勤務している。

 機動六課とて幹部は皆友人同士だし、俺とリインに至っては婚約関係にある。

 むろん、地位の世襲化や親類友人ならではの軋轢が生じる事もあり、縁故重視の風潮を良しとしない者も多い。息子を機動六課に預けてるレティ管理官がそうだ。

 

 だが、オーリス三佐は中将の娘というだけで繰り上がってきたような人物じゃない。士官学校で培った見識と分析力で直情的な父親の欠点をカバーし、内外からの求心力を高めるのに一役買っていると聞く。

 《アインヘリアル》の建造も、実質彼女が指揮を執っているという話だ。そのうえ……。

 

「地上本部、特にオーリス三佐の査察はかなり厳しいぞ。彼女に不備や問題点を山のように洗い出された結果、解散や部隊長の交代に追い込まれた部隊もいくつかある」

 

「うぅ、うちはただでさえ突っ込みどころ満載の部隊やしなぁ」

 

 俺の説明を聞いてはやては眉を寄せながらうめく。そこにフェイトが言葉を重ねてきた。

 

「解散まではいかなくても、今の配置やシフトの変更命令が出たりしただけでも正直致命的だよ」

 

「何とか乗り切らな……そこで健斗君にお願いがあるんやけど」

 

 両手を合わせながら上目遣いに見つめてくる上官に、俺はため息をついてから……

 

「わかった。俺の方から査察の取りやめか延期をお願いしてみる。だが多分うまくいかん。査察が行われる前提で準備していてくれ」

 

「うん、わかってる」

 

 はやては笑みと頷きで答える。その横でフェイトが声を上げた。

 

「ねえ、査察対策に関係してくるんだけど、“六課設立の本当の理由”、そろそろ教えてくれないかな。本部より迅速に災害救助に当たったり、レリックやガジェットに対処できる部隊を作りたいってはやては言ってたけど、隊の規模が大きすぎるし、本局からの支援も厚すぎる。六課を設立した本当の理由が他にあるから……だよね?」

 

 真剣な表情と声で問いかけてくるフェイトを前に、はやては窺うように俺に視線を向けてくる。彼女に対し、『もう教えた方がいいんじゃないか』という意味で首を縦に振った。

 

「そうやね。まあ、ええタイミングかな」

 

 はやては苦笑交じりにそう答えて、フェイトに顔を戻しながら言った。

 

「実は今から健斗君と一緒に聖王教会本部、カリムのところに報告に行くんよ。クロノ君と“あの人”も来る予定になってる」

 

「クロノも……それに“あの人”って?」

 

 目をしばしば瞬かせながら聞き返すフェイトに、はやてはうなずき。

 

「せっかくやから、なのはちゃんも一緒に来てもらおう。そこでまとめて話すから」

 

 その言葉に、フェイトは笑みを浮かべながら「うん」と返す。

 そして、早速なのはを呼ぼうとモニターを開いた時だった。

 

うえええぇぇぇぇぇ!!

 

「――!?」

 

 モニターの向こうから部屋中に響くほどの泣き声が響き、俺たちは思わずそちらを注視する。

 そこには泣きわめきながらなのはにすがりついているヴィヴィオと、苦笑いを浮かべながら懸命にあの子をあやしているなのは、二人のまわりで棒立ちしているフォワード四人が映っていた。

 そういえば、あれからなのはにべったりになって、あの子も連れて帰ることになったんだったな。

 

『やだあぁぁ!! いっちゃやだぁぁっ!!』

 

 ヴィヴィオの泣き声となのはたちの様子からフェイトは状況を察し、なのはと一言言葉を交わしてから慌てた様子で部隊長室を出て行く。

 一方、俺とはやてはモニターを見たままソファに座り込んだままでいた。

 

「健斗君は行かへんの? 姪っ子(雫ちゃん)に懐かれてるし、あの子にも懐かれるかもしれんよ」

 

 そう言ってくるはやてに俺は首を横に振り。

 

「あいにく俺はあの子に嫌われてるみたいでな、余計悪化させるのがオチだし俺の心にもダメージがいく。なのはたちに任せておくよ」

 

 まあ理由はおおよそわかるけどな。心のどこかに俺を殺めた記憶が残ってしまっているのが原因だろう。……俺が子供に好かれないわけじゃないよな?

 

「お父さんに怒られた事でも思い出したんちゃう。そういえば誰かさんと誰かさんと目の色が同じような……」

 

 そう言って、じっと俺を見てくるはやてに対し、

 

「まさか、俺とリインの子供だとでも思ってるのか? 全然似てないだろう、髪の色だって違うし。そもそもリインは――」

 

「じゃあエリザさんって人との子孫とか。その人も金髪で、一緒にお風呂入るくらいケントさんと仲良かったみたいやん」

 

「っ――おま、どこでそれを!?」

 

 思わぬ名前とエピソードが出てきて俺は思わずたじろぐ。そんな俺ににやりと笑みを向けながらはやては言った。

 

「ヴィータたちからケントさんのことを聞いた時にちょいちょいと。さすが愚王さん、聞きしに勝るお盛んぶりで」

 

「誤解だ! 風呂に入ったのは事実だがそれ以上の事はしていない。金髪といってもあの子やオリヴィエとは違う色合いだしな」

 

「オリヴィエ……その人があの子のオリジナル?」

 

 その問いを聞いて俺はぎくりとする。はやてはそれを見逃さず、じとりと目を細めながら尋ねた。

 

「やっぱそうか……聖王様と同じ名前やけど、ひょっとして同一人物なん?」

 

 はやての声に剣呑な響きが混じる。こういう時の彼女は嘘や誤魔化しが絶対通じない。

 俺は仕方なく首を縦に振った。

 

「……ああ。まだ確定はできないが多分間違いないと思う。だが、当分誰にも言わないでくれ。聖王の子孫やクローンがいる事がわかったら大騒ぎが起きるからな」

 

「わかってる。私らの世界で言ったら、イエスさんやお釈迦様の子孫が出てくるようなもんやし。でも、カリムには報告させてもらうよ。例の“預言”に関わる事かもしれんし」

 

 その言葉に、俺は渋々ながら首を縦に振る。それは仕方ないだろうな。彼女の補佐役のシャッハさんも近いうちに知る事になると思うし。あの人たちが信仰心のあまり、先走った真似をしないように祈るしかない。

 そう思ったところで泣き声が収まりモニターを見てみると、フェイトが兎のぬいぐるみを使ってヴィヴィオをなだめているのが見えた。

 クロノとエイミィさんの子供たちやエリオたちの面倒を見てきただけはあるな。俺たちの中で一番子供慣れしてるのは彼女だろう。

 

 

 

 

 

 

 始業からしばらくして。

 オレとチンクは七課のオフィスで昨日の報告書を作成していた。リインさんは108隊と連絡を取っているところで、ルーテシアは六課の寮に呼ばれエリオとキャロと一緒にヴィヴィオって子の遊び相手をしているらしい。

 

 六課が記録した昨日現れた襲撃者のデータを見ながら、オレは考えにふける。

 

 チンクを吹き飛ばしたり、ヘリを破壊しかけるほどの弾を撃ちながら、彼女たちが使っていたのは魔力とは異なるエネルギーらしい。考えられるとしたら製造と使用が禁じられてる《質量兵器》、あるいは隊長たちの言う通り《戦闘機人》かだ。

 

 

 

 《戦闘機人》は、旧暦の時代から研究されてきた“人型戦闘機械”を元に開発されていた改造人間で、古代ベルカをはじめ様々な世界や国で研究・開発されてきたものの、拒絶反応やメンテナンスにかかるコストなどの問題でほとんど実用化はされなかった。

 しかし、今から25年前、胎児の段階――生まれる前の赤ん坊を機械部品に適合するよう改造するという、非倫理的な方法でこの問題を解決。戦闘機人は一気に完成に近づいた。

 その方法を発案した研究者が、ジェイル・スカリエッティ。

 

 もちろん、そんな倫理に反した製造法など表社会では認められず、同時期にスカリエッティが違法研究者として指名手配されるとともに、その研究も破棄された。

 だが、戦闘機人の製造法は“裏の社会や機関”に流れ、戦闘機人の研究と製造は秘密裏に行われてきたという。もちろんスカリエッティ自身も。

 

 そして完成したのが、『ナンバーズ』と名付けられた“戦闘機人の姉妹たち”。

 それぞれが《インヒューレントスキル(IS)》という特殊な能力や技能を持ち、スカリエッティの護衛や素材調達などの手助けをしているそうだ。

 

 昨日現れたノーヴェという女と地面を潜っていた仲間、なのはさんたちに追われていた二人組はおそらくナンバーズ――戦闘機人だ。

 そして()()も――。

 

 

 

「どうしたレツヤ、腕が止まってるようだが……」

 

「――いや、少し情報を整理してただけ! 今からやるとこ!」

 

 言いながらオレはブラウザを閉じる。しかし、それより早くチンクに画面を見られ、彼女は顔を曇らせながら席に戻った。

 

「……すまない。別にさぼっていたとか思ってるわけじゃないんだ。戦い明けだったから、疲れているなら少し休んだ方がいいと思って」

 

「いや、そこまでじゃない。報告書ぐらい作成できるさ」

 

 そんな言葉を交わしてから、オレと彼女はまた黙々と画面に文を打ち込んでいく。

 居心地が悪いな。ルーテシアと初対面の時もここまでじゃなかった。

 

 

 

 “No.Ⅴ・チンク”……彼女もスカリエッティが生み出した戦闘機人(ナンバーズ)らしい。

 8年前に管理局の部隊と隊長たちがスカリエッティの拠点に踏み込んだ際、彼らに敗北して逮捕され、その後、局の施設で2年くらい更生プログラムを受けてから局に入ったようだが。

 

 信用できるか? 更生したふりをして管理局や六課のスパイのような役目を担っているのかも。

 でも、今までの任務でチンクも危険な目にあっていたし、ノーヴェは彼女のことを『裏切り者』と呼んでいた。あいつも腹芸が得意そうには見えなかったしな。

 そういえば……。

 

「そういえば、スバルとギンガさんとは義理の姉妹だって言ってたけど、それってあの人たちの両親の養子になったってことだろう? どういうきっかけでそうなったんだ?」

 

 そう尋ねるとチンクはタイピングをやめ、気を悪くした様子もなく言った。

 

「隔離施設に収監された後、父上……ゲンヤさんが私の保護責任者になってくれてな。彼と彼の奥さん、クイントさんに勧められて、ナカジマ家の養子になったんだ。最初は断ったんだが、クイントさんに押し切られる形でそのまま……」

 

 その時のことを思い出したように、チンクは恥ずかしそうに顔をモニターに戻す。その様子からは“罪悪感”のようなものは感じられるものの、裏切りを(にじ)ませた“後ろめたさ”は感じられない。

 

「…………」

 

 もうしばらく様子を見てみるか。御神さんや八神部隊長、それにナカジマ家の人たちもそれなりの確証があってチンクを信じているんだろうし。

 そう自分に言い聞かせながら、オレは彼女とともに報告書の作成に戻った。

 

 

 

 

 

 

 ミッドチルダ極北部・『ベルカ自治領』、聖王教会本部。

 

 

「八神はやてです。約束通り伺わせてもらいました」

 

 執務室のドアをノックしながらはやてが告げると、「どうぞ」という女の声が返ってくる。はやては「失礼します」と言いながらドアを開けて部屋に入り、俺たちもその後に続いた。

 すると、部屋の奥にあるテーブルで談笑していた男女三人は話を止め、黒い騎士服を着た金髪の女性が立ち上がりながらこちらにやってくる。彼女に対し、なのはとフェイトは敬礼を向けながら口を開いた。

 

「機動六課所属、高町なのは一等空尉であります」

 

「フェイト・テスタロッサ執務官です。この度は同席を許していただきありがとうございます」

 

 言葉通り肩肘を張りながら自己紹介する二人に、女性は淡い笑みを浮かべながら返事を返す。

 

「ようこそ。初めまして、聖王教会・教会騎士団騎士、カリム・グラシアと申します。病院では当教会のシスターが失礼をしました。それから……」

 

 自己紹介を済ませてこちらを向く騎士殿に対し、俺も敬礼をしながら口を開いた。

 

「機動六課・独立遊撃分隊所属、御神健斗三等空佐です。お久しぶりです、グラシア少将。それとも理事官とお呼びした方がよろしいでしょうか」

 

 そう尋ねた途端、彼女はむすっとした声を返した。

 

「以前通りの呼び方で結構です。今日は個人的な友人としてお招きしていますから。はやても二ヶ月ぶりね」

 

「うん。今日はなのはちゃんとフェイトちゃんも連れてきちゃった」

 

 はやてとカリムさんは友達か姉妹同士のような言葉と笑みを掛け合う。まあ、歳は十近く離れてるが――

「健斗さん、少し失礼なことを考えてませんでしたか?」

 

 カリムさんはぐるりと首を傾け、笑みを浮かべたまま冷え切った声をかけてくる。それを聞いた瞬間背筋が凍りつくほどの悪寒を覚え――

 

「――いや、そんなまさか。相変わらずカリムさんは綺麗だなと思っただけですよ」

 

 慌ててそう弁解するとカリムさんもそれ以上追求せず、「そうですか」と言いながらそっぽを向く。それを見てなのはたちは笑みを漏らし、はやてやクロノたちが冷たい視線を送ってきた。

 

 カリムさんは気を取り直すように「どうぞこちらに」と言いながら奥のテーブルを示す。そこに座る黒髪の青年と橙髪の青年を見て、なのはたちは目を見張った。

 黒髪の青年はクロノ・ハラオウン。十年来の付き合いになる俺たちの顔なじみで、今は六課の監査役兼後見人を務めてくれている。

 もう一方のくすんだ橙色の髪の青年は、なのはとフェイトにとって初めて会う人だった。だが、その髪の色と顔つきは“彼女”によく似ている。

 まさかと思う彼女たちに、橙髪の青年は立ち上がりながら言った。

 

「初めまして。地上本部の魔導犯罪対策部に所属している、執務官のティーダ・ランスターです。六課では妹がお世話になっています。一月前は妹が失礼しました。妹も反省していますので、今後もびしびし指導してやってください」

 

「い、いえ、私の指導力不足のせいでもありますし、妹さんもあれからぐんと成長していますから。最近は私たちが助けられていることも多いぐらいです」

 

 頭を下げるティーダさんに、なのはは両手を振りながら言葉を返す。

 そこへ俺は意地悪げな声で言った。

 

「ちなみにティーダさんは一佐相当の扱いを受けている。初対面だから腰を低くしているが、はやてよりも偉いぞ」

 

「おい健斗――ははっ、気にしないでください。執務官としてならテスタロッサさんの方が先輩ですし、さっきカリムさんが言った通り友人同士の集まりみたいですから。俺たちも仲良くやりましょう」

 

 乾いた笑みを漏らしながら弁解するティーダさんに、カリムさんも同調するようにうなずき、なのはたちも苦笑を返す。一方その横で、空気を固くしたことを責めるようにクロノがじとりと睨みつけてきた。

 

 

 

 ひととおり場が温まったところで皆は席につき、はやてはコホンと咳ばらいをした。

 

「ほんなら、昨日の動きについてのまとめと、あらためて機動六課と機動七課の設立の裏表について……それから、今後について話をさせてもらうな」

 

 そう言うとはやてはカリムさんに目配せをする。カリムさんはうなずき、手元に現れたコンソールを操作してカーテンを閉めた。万が一にも誰かに見られないようにするためと、“預言”を行うための空間づくりだ。

 暗くなった部屋の中でクロノは口を開いた。

 

「六課設立の表向きの理由は、ロストロギア・レリックの捜索と、独立性の高い少数部隊の実験例を作るため。独立遊撃部隊――機動七課はその補助のためだ」

 

 そこでテーブルの中心に彼とカリムさん、その間に後ろに纏めた緑髪の女性の画像が浮かんだ。

 

「知っての通り、六課の後見人は僕と騎士カリム。それから僕の母親で上官、リンディ・ハラオウンだ。それに加えて非公式ではあるが、かの『三提督』のうち、キール元帥とクローベル議長も六課の設立を認め、協力を約束してくれている」

 

 新たに映し出された禿頭の老人と紫髪の老女を見て、なのはとフェイトは驚きに目を見張る。

 続けて今度はティーダさんと眼鏡をかけた紫髪の女性、そして口元から顎にかけて髭を蓄えた偉丈夫が映しだされた。それを前に今度はティーダさんが説明を始める。

 

「そして分隊……七課は俺とレティ管理官、そしてレジアス中将が後見人についている。それに加えて……」

 

 そこで今度は金髪の老人の画像が現れた。

 

「こちらにも三提督の一人、フィルス相談役が設立に際し便宜を図ってくださっている。他の二人同様、“七課の影の後見人”といっていい」

 

 なのはたちは驚いたまま話に耳を傾ける。そこへさらに――

 

「あの方々が力を貸してくださった理由は、私の“能力”と関係があります」

 

 そう言ってカリムさんは帯で纏めた紙束を手にしながら彼女たちの前に立ち、帯を外す。すると、カリムさんが持っていた紙束は黄色い光を放ちながら浮かび上がり、彼女の周りを取り囲んだ。

 それを見て、なのはたちは驚き、ティーダさんも息を飲む。

 

 “紙片”をまわりに浮かべたまま、カリムさんは《預言者の著書(プロフェーティン・シュリフテン)》と呼ばれる技能の説明をし、クロノが局内での“預言”の扱いを説明する。言い回しは十年前とほぼ同じだ。

 

「もちろん、我々地上部隊も“預言”のことは知っているし、必要とあればその内容を伝えられもする。だが、そこまで重く捉えるつもりはない、というのが今の地上本部の方針だ。預言を警戒するあまり他の危険を見逃す恐れがある。レアスキル嫌いなレジアス中将の主張ではあるが、俺もその主張自体を否定するつもりはない……だが」

 

 ティーダさんはそこで言葉を切り、険しい顔を作る。彼に代わるようにクロノが口を開いた。

 

「騎士カリムの“預言”に、数年前から少しずつある事件が書き出されるようになった。ランスターもその内容を聞いて、さすがに無視できないと判断したそうだ」

 

 そう言って目配せするクロノに、ティーダさんはうなずいて同意を示す。そこでカリムさんは目の前に浮かぶ紙片に目をやって、それを読み上げた。

 

「『旧い結晶と無限の欲望が交わる地。

 死せる王の下、聖地より彼の翼が蘇る。

 死者達は踊り、中つ大地の法の塔は虚しく焼け落ち、

 それを先駆けに数多の海を守る法の船は砕け落ちる』」

 

 預言を読み終わってカリムさんは重々しく口を閉ざす。

 そこへ今度は俺が口を開いた。

 

「ちなみに、それはカリムさんによる翻訳だ。俺の訳とは違うが、そちらの方が近い可能性もあるから紹介させてもらった。俺の訳では……。

『無限の欲望のもとに古の結晶が集まりし時。

 半生者達の舞いにより、中つ大地の法の塔は虚しく焼け落ちる。

 その(のち)、死した王と聖地より移された彼の翼が蘇り、数多の海に広がる法の船は砕け落ちていく』」

 

 

「“中つ大地の法の塔”、それって……」

 

「“数多の海に広がる法の船”って、まさか――」

 

 カリムさんと俺が解読した預言を聞いてなのはとフェイトは声を漏らす。

 俺は頷き――

 

「ベルカ語に詳しいつもりの俺が読んでも、解釈に困る文だ。カリムさんの翻訳の方があってる可能性もある。ただ、そのどちらからもわかる事は『管理局地上本部の壊滅』。そして……」

 

 事の大きさのあまり俺は無意識に言葉を切る。代わってカリムさんが“それ”を口にした。

 

「本局、そして――『管理局システムの崩壊』」

 

 それを聞いてなのはたち、すでに預言を知っているはずのはやてやクロノたちまで息を飲みこむ。

 そんな中、カリムさんはふうと息をつき、椅子に座り直して言った。

 

「ただ、どれだけ預言の意味を調べても、管理局自体の崩壊に至る原因がわかっていないんです。地上本部の潰滅だけでも由々しきことなんですが……」

 

「地上本部が崩れたとして、本局まで崩壊するんは考えづらいしなぁ。メガーヌさんの転送魔法でも本局まで行けると思えんし、行けたとしてもナンバーズやガジェットだけじゃ制圧なんてできんはずや」

 

 そう言ってはやては腕を組みながら考え込む。そこにクロノが続いた。

 

「それでも、この預言を聞いて以来本局も警戒強化はしているんだがな」

 

「問題は地上本部です」

 

「さっき言った通り、地上本部は必要以上に預言を重く捉えない方針だ。特にゲイズ中将は預言そのものを信用していない。『公開意見陳述会』の警備も例年通りになる予定だ」

 

 カリムさんとティーダさんは揃って重いため息をつく。そこでまたクロノが言った。

 

「本局の方から警備強化の要請をすることもできるが、内政干渉や強制介入と捉えられれば即座に諍いの種になる。実際、過去に調整システムの改変について本局が意見した事があるが、中将は不干渉の取り決めを盾に突っぱねたそうだ」

 

「8年ぐらい前から急激に増えてる地上本部の武力や発言力は、本局で問題視されてるしな」

 

 はやての言葉に俺とティーダさんはピクリと肩を震わせる。

 さすがにそれは言いすぎじゃないか。地上、特にミッドチルダは魔導犯罪やロストロギア災害が絶えない。今の地上部隊でもそれに対応できているかと言われたら、首を横に振らざるを得ない。

 だが、本局に強く出られるほどの力を地上部隊、レジアス中将がどうやって手に入れたのかは俺たちも気になっているところだ。

 真っ当な手段や交渉を通してならまだしも、もし法を犯して力を手に入れたというなら、俺は――。

 

 

「今、地上部隊と揉めるのは避けたいから表立っての主力投入は難しい……と?」

 

 フェイトの問いにクロノはうなずき、そして詫びを口にした。

 

「すまないな。政治的な話は現場には関係なしとしたいんだが」

 

「裏技気味でも地上で自由に動ける部隊が必要やった。レリック事件だけで事がすめばよし。大きな事態に繋がっていくようなら、最前線で事態の推移を見守って――」

 

「地上本部が本腰を入れ始めるか、本局と教会が主力を投入できるようになるまで前線で頑張る。それが――」

 

 なのはの言葉にはやてと俺はうなずき、

 

「六課、そして……」

 

「七課の意義だ」

 

 と言った。

 

 

「本局の上層部や三提督の力を借りて、部隊一つ作っていただくほどの案件です。任務外の迷惑をおかけすることもあるかもしれません。それを踏まえたうえで、聖王教会の騎士としてお願いいたします。華々しくもなく危険も伴う任務ですが……協力をしていただけますか?」

 

 重い口ぶりで問いかけるカリムさんに、はやてとフェイトは笑みを浮かべて。

 

「非才の身ですが、全力にて」

 

「承ります」

 

 二人がそう告げるとカリムさんは安堵の笑みを浮かべ、一同を見渡す。

 はやてとクロノが笑顔やうなずきを返す中、俺は真顔のまま声を上げた。

 

「カリムさん、一つだけいいですか?」

 

「……? なんでしょう?」

 

 そう訊ねるとカリムさんは笑みを消して聞き返し、他の皆も硬い顔で俺を見る。そんな中、ティーダさんは俺の意図を察したように頷きを返してくれた。

 

「地上本部の警戒強化や預言への対処の件ですが、俺にレジアス中将と直談判をさせてくれませんか。うまくいけば地上の協力が得られるかもしれませんし、駄目でもあの人の真意くらいは掴めるかもしれません」

 

 そう言うと、カリムさんは顔を険しくしてクロノやはやてと視線をかわすが、しばらくして二人とともに深い頷きを返した。




 次回からオリジナルシナリオに入ります。実はこの話も預言シーンを飛ばしてレジアスとの対面にしようかなと悩んでいました。ティーダの登場シーンとカリムの年齢イジリを入れたくてそのままいきましたが。
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