魔法少女リリカルなのはStrikerS 七課の剣銃士 作:ヒアデス
ミッドチルダ西部の街から少し離れた郊外に、広大な敷地を有する豪邸がある。
その豪邸は、複数の管理世界で製品の輸出入を手掛ける貿易会社のCEO、フラウド・スマグリンが所有する屋敷だった。
「おのれ、スカリエッティに管理局め。ワシの商売の邪魔をしおって!」
スマグリンは忌々しげにそう吐き捨てると、書類の端を握りつぶし、ほとんど残ってる葉巻を乱暴に押し潰す。
彼が目を通していた書類は、今まで築いた貿易ルートを悪用した“裏の事業”に関するもので、その事業で仕入れた“商品”の紛失、および顛末について記されていた。
そのどれもが並のロストロギアとは一線を画す品々で、特に“器”はその価値を知る者に売り渡せば世界一つ丸々買い取れるほどの大金になる代物だった。
それらのことごとくがスカリエッティが差し向けた機械に奪われ、いくつかの商品と“器”は管理局の部隊に奪い取られたという。
「たかが違法研究者に警察もどきの分際で――絶対に許さんぞ。“あれ”さえ手に入れば、ワシの悲願が叶うところだったのに!」
なおも怒りが収まらず、気を紛らわせるためにスマグリンは新しい葉巻に手を伸ばそうとする。
そこでコンコンとドアが叩かれ――
「ご主人様、失礼します。使用人希望の方々が到着しました」
その言葉を聞いた瞬間、スマグリンは葉巻に伸ばしかけた手をぴたっと止めて言った。
「あ、ああ。ちょっと待ちなさい」
そう言うとスマグリンは机に散らばっていた書類を一番上の引き出しに押し込み、両手を机の上に置きながら外に向かって言った。
「入りなさい」
スマグリンが告げると、「失礼します」という声とともにドアが開かれ、緑髪を後ろに束ねたメイド長が一礼してから部屋に入ってくる。さらにその後ろには、メイド用のエプロンドレスを着た五人が立っていた。
その五人を見た途端、スマグリンの頬がほころぶ。
先頭に立つ凛々しい美女二人、緊張した顔でその後ろに立つ美少女三人。
彼女たちを見て、スマグリンは怒りも忘れ上機嫌な顔を見せた。
「君たちが使用人希望の子たちかね。まあ、そんなところに立ってないで部屋に入りなさい」
手招きしながら促すと、五人は緊張した様子で部屋に入ってくる――紫髪の少女だけは平然としているが――。
彼女たちの隣で、メイド長が主人に向かって言った。
「彼女たちは近所で姉妹のように育った知り合い同士で、この屋敷の噂を聞いていらっしゃったとのことです。ご主人様に挨拶を、名前だけで結構です」
その言葉に長い銀髪の美女がうなずき、二歩進んでから口を開いた。
「リインフォース・アインズです。使用人の仕事は初めてなので至らないところもあると思いますが、よろしくお願いします。ご主人様」
そう言ってリインフォースという女は美しい所作で一礼する。それを見てスマグリンはほうと息を漏らす。
続いてスマグリンの前に立ったのは、長い茶髪と黒の右眼と緑色の左眼のオッドアイの女だった。
彼女は少し頬をひくつかせながらスマグリンに向かって一礼し……
「ケンナ・ミヤビです。よろしくお願いします」
一言そう告げると、ケンナは足早に後ろに下がる。
――少々無愛想だな。オッドアイも目につくし。だが、デレたらかわいくなるかもしれん。よしとしよう。
そう考えているスマグリンの前に、今度は長い紫髪の少女と白髪の少女が並びながら言った。
「ルーテシア・アルミンです」
「チンク・ナカヤマです。よ、よろしくお願いします」
一方は淡々と、もう一方は上ずった声で自己紹介を終えて頭を下げる。
そして残るはただ一人……。
「おい、早くしろ」
「次はレツ…の番」
しばらく経っても喋らず俯いたままの少女に、ルーテシアとチンクは彼女の背中を押しながら声をかける。
それを見て、スマグリンは眉を顰めて「どうした?」と尋ねた。
重くなった雰囲気の中、少女はルーテシアたちとリインフォース、そしてケンナと顔を見合わせてから、覚悟を決めたようにすぅと深く息を吸い……。
「レ、レツ――レツミ・テンノです。ふつつか者ですがよろしくお願いします……ご主人様」
顔を赤くしながら震える声でそう告げるレツミを、スマグリンは呆然と眺める。
それに対し、ケンナ以外のメイドたちは口を押さえたり、堪えきれずにくすくすという声を漏らす。
そんな中、レツミと名乗ったメイドは心の中で叫んだ。
――なんで
◆
昨日、御神さんが地上本部から戻ってきた直後。
機動六課・部隊長室。
「フラウド・スマグリン……こいつがレリックを密輸していた犯人ですか」
モニターに表示された、でっぷり肥えた中年の男の画像を見ながら尋ねる御神さんに対して、はやてさんは椅子に座ったまま「そうや」とうなずいた。
彼女の斜め上を飛びながら、ツヴァイさんが彼に対する説明を入れる。
「スマグリンさんはミッドチルダやヴァイゼン、リベルタなどいくつかの管理世界で貿易をしてる会社の社長さんなんですけど、実はこっそり管理外世界でも商売してる疑いがあるみたいです。ロストロギアの密売もしているんじゃないかという噂もあって……」
それを聞いて、オレたちは一様に眉を顰める。
時空管理法では基本的に管理外世界への干渉は禁止されている。管理外世界の捜査や探索を行う『次元航行部隊』でさえ、次元犯罪者の捕獲やロストロギアの回収以外の干渉は固く禁止されているくらいだ。
だがその一方で、管理外世界との取引に手を染めている違法組織や企業は数多く存在する。
現地世界にしかない特産物や希少品を安く買い上げ管理世界で高値で販売したり、逆にミッドなど管理世界ではありふれている物を現地世界に高く売りつけることで巨額の利益が得られるからだ。中には管理世界では禁止されている銃火器のような違法兵器を扱っている連中もいるらしい。
そのうえロストロギアまで売りさばいているとなったら、放っておくわけにはいかない。それに――
「今までミッドチルダに持ち込まれたレリックも、スマグリンが運び込んだ物なんでしょうか」
オレが問いを発すると、はやてさんは硬い顔で答えた。
「全部かどうかはわからへん。でもギンガの捜査では、ヴィヴィオとあの子が運んでいた二つのレリックの密輸はスマグリンが関与してる可能性が高いそうや」
数日前にガジェットに攻撃されて大破したトラック。その中には大量の食料品や飲料品と一緒に、ケースに入れられたヴィヴィオとレリックが二つ運ばれていた。
トラックの運転手によれば、彼女とレリックを入れたケースは、西部に繋がっている『12番ポート』の近くにある倉庫に運ばれる予定だった。その倉庫がスマグリンの所有物だったことが判明したらしい。
「しかし、スマグリンは何十年も管理局に気付かれず、管理外世界との取引を続けていたんでしょう。それにしては杜撰ですね。自分の倉庫を配送先に指定するなんて」
チンクの言葉にはやてさんはうなずき。
「おそらく、レリックと“本命”を確実に手に入れるためにこの方法をとったんやろな。今まで失敗続きやったし」
その言葉に七課の何人かがうなずく。
オレたちにとって一番最初の任務で突入した、レリックを運んでいたリニアレール。
あれは発着から到着するまで人手を用いない完全な自動操縦型で、目的地も普通の駅だった。到着した後はスマグリンの手下が回収する予定だったんだろうけど、事故でも起きない限り管理局にはまず気付かれない。
しかし、輸送途中にガジェットに列車を乗っ取られ、それを知って駆けつけてきたオレたちにレリックを奪われて失敗。
次に、オークションが行われたホテル・アグスタの地下に停めてあった謎のトラック。
あのトラックの中には密輸品が積まれてあって、オークションが終わって警備が緩んだ隙に取引が行われる予定だったと推察される。
あちらもメガーヌに品を奪われかけ、最終的には御神さんとリインさんに押収された。
どちらも極力人目に付かない方法で、簡単にはボロが出ないようになっている。しかし、結果的には両方ともスカリエッティに狙われ、最終的に管理局に奪われてしまった。
相次ぐ妨害と失敗に業を煮やしたスマグリンは、ついに多少のリスクを抱えてでも直接自分の元に品が届く手段をとった。それも失敗してしまったわけだが。
「じゃあ、今からスマグリンって人を捕まえるんですか? 私たちとフォワードで」
慣れてきた敬語で尋ねるルーテシアに、はやてさんは難しい顔で首を横に振る。
確かにそれならフォワードもここに呼ばれるはず。オレたちだけで十分な相手とは思うが、はやてさんの顔を見る限りそういう意味じゃなさそうだ。
「捕まえられるなら今すぐ捕まえたいとこなんやけど、まだスマグリンを押さえられるだけの証拠が出てきてない。事情聴取という形で彼にトラックと密輸品の事を聞いたんやけど、仕事の資材を注文しただけで密輸なんて一切知らなかったの一点張りや」
「その事情聴取以来、管理外世界との取引もぱったりやめてるみたいですからねー。警戒されちゃってます」
はやてさんとツヴァイさんはそう言ってからオレたちを見る。
もしかして――
「俺たち七課にスマグリンの身辺調査をしろ、ということですか?」
御神さんの問いに、はやてさんは笑みと頷きを返す。
「そうや。フェイト隊長はナンバーズの捜査で手が空いてないし、ギンガは事情聴取の時にスマグリンと顔を合わせてしもうとる。私も六課の指揮と査察対策で動けんしな。そこで捜査官資格を持つ御神三佐と七課のみんなに彼の調査をお願いしたいんや」
「七課全員……ということは潜入捜査ですか?」
御神さんの問いにはやてさんはまた頷く。
捜査官としての訓練を受けていないオレたちが加わっても、役に立つとは思えない。
だが潜入捜査なら、オレたちが一緒に潜り込むことで御神さんの存在を目立たなくしたり、わざとドジを踏んだりして注意を引き、その隙に調査を済ませたりすることができる。
「潜入となるとスマグリンが経営してる会社か、もしくは……」
御神さんが言いかけたところで、はやてさんは首を横に振り。
「キャバクラとかで騒いでそうな見た目に反して慎重な人でな。重要な資料ややましそうな記録は全部自分の家に持ち帰ってるみたいなんや。大きなケース持って会社を出る姿も何度か確認してる」
「大きなケース、紙媒体の資料もあるということですか」
リインさんは腕を組みながらつぶやく。
今時、ほとんどの情報やデータはネットに保存したり記録媒体に入れるのが一般的だ。だけど、ハッキング対策やエラーによるデータ消失に備えて、重要な情報は紙媒体にして保管してある所も多い。単にデジタルが苦手だったりアナログの方が好みだという人もいるけど。
「そういうわけで七課にはスマグリンの屋敷に潜入してもらうけど、いける? 七課も来週明けに査察が入る予定みたいやけど」
「大丈夫です。こちらは元々、定期的に隊の内情や捜査状況を本部に報告していますし、査察対策にかまけて捜査の手を止めていたら逆に突っ込まれかねませんから。二・三日以内に捜査を終わらせれば問題ないでしょう」
堂々と告げる御神さんに対して、はやてさんは『えらい余裕やな』と言いたそうに頬を引きつらせる。それを抑えながら彼女は続けた。
「それならええ。スマグリンの屋敷には大勢の使用人がいて、みんなも使用人という形で潜り込んでもらう事になる」
使用人か、オレの家にもいたな。亡くなった母さんの代わりに家事をするお手伝いさんたちや、家庭教師を兼ねた執事さんとか。
女の子たちがメイドさんになって、オレと御神さんが執事とかになって屋敷に潜り込むんだろうか。
そう思ってた所ではやてさんはぴんと人差し指を立てながら言った……なぜかにんまりとした笑顔を浮かべて。
「ただひとつ問題があってな。その屋敷にはメイドさんはいっぱいいるんやけど、執事や従僕といった男の使用人は一人もおらへんし募集もしてないねん」
「「えっ……?」」
まさかの一言に、御神さんとオレは揃って調子の外れた声を漏らす。
男の使用人を一人も雇ってないって、もしかしてスマグリンって奴……。
「おいはやて、まさかお前……」
御神さんは思わず素の口調になって、はやてさんに詰め寄ろうとする。そんな彼の前で、はやてさんはニヤリと口を三日月状に吊り上げながら言った。
「アインス二尉たちはもちろん、御神三佐とテンドウ二士も
「「なにいぃぃぃぃーー!!」」
オレと御神さんは部屋の外に漏れるほど大声を上げる。その隣でリインさんとチンクは同情と興味のこもった笑みを漏らし、ルーテシアまでもが口元をひくひくさせていたように見えた。