魔法少女リリカルなのはStrikerS 七課の剣銃士 作:ヒアデス
夜も更け始めた頃。
屋敷のホールに豪勢な食事や飲み物が並べられ、大勢の使用人が集まっていた。
そこへ屋敷の主人、スマグリンもやってきて……。
「さあ、今夜は新しく入ってきたメイドちゃんたちの歓迎会だ! みんな遠慮せずどんどん飲んだり食べたりしてくれたまえ! がっはっはっ!!」
すでに何杯か飲んだようで、スマグリンは顔を赤らめながらホールの中央でグラスを掲げて叫ぶ。それにメイドたちは苦笑しながら、あるいはノリのいい返事を返しながらグラスを掲げ、その中に入っている酒を口に運ぶ。
そんな中オレは、彼女たちに紛れて酒を飲もうとしているミカ姉の肘を小突いた。
「うおっと……いいじゃないか。来年は大学生なんだしお酒くらい飲んでも」
「何学生になってもハタチになるまでは駄目だっつうの。ミカ姉まだ14だろう」
ミッドチルダで飲酒ができるのは
オレたちはどういうわけか、夕方になって突然持ち上がった歓迎会という名の宴に駆り出されている。
なんでもミカ姉が仕事を済ませてからスマグリンと会った際に、歓迎会の開催を提案したらしい。常にメイドを募集してるような屋敷でそんな提案しても却下されるだろうと思っていたのだが、スマグリンは快く応じ、歓迎会の手はずを整えてくれたそうだ。
普通なら、いい主人じゃないかと見直すところだが……。
「新人ちゃんたち、飲んでるかい~」
ヒックというしゃっくりを出しながら、スマグリンはこちらに近づいてくる。
それに気付いた途端、ミカ姉は姿勢を正しながら口を開いた。
「ありがとうございます。スマグリンさ……いえご主人様。まさか本当に私たちなんかのために歓迎会を開いてくれるなんて」
「なあに、そろそろメイドたちの労いに宴の一つや二つ開きたいと思っていたところでな。歓迎会というイベントを思いついてくれたミカヤちゃんには逆に礼が言いたいくらいだ! ところでケンナちゃんとリインちゃんはどうした?」
ホールを見回しながら尋ねるスマグリンに、オレはわずかに声を上ずらせてしまいながら言った。
「み、ミヤビさんたちなら部屋の点検を済ませてから行くと言ってましたよ。もう少しで済むと思います」
「なんじゃ、せっかくの歓迎会を開いたのに二人して真面目くさいのう。それとも別の意味で仲良くしてるのかのぉ~」
そこまで言ってスマグリンはなっはっはっと笑い、ミカ姉やチンクは顔を赤くする――ルーテシアは意味が分からずきょとんとしていたが――。
ひとしきり笑い終えてからスマグリンはオレに顔を戻し、酒臭い息とともに言葉を吐き出した。
「まあいい。ところでレツミちゃん、君はどのくらいここにいてくれるのかな~?」
「えっ? どのくらいと言われますと?」
ここでそう聞かれた意味がわからず、オレは思わず聞き返す。今日か明日には捜査を終わらせて出ていくつもりだが、さすがにそう答えるわけにはいかない。
そんなオレの内心も知らず、スマグリンはさらに距離を詰めながら言った。
「いやなに、レツミちゃんしっかりしているし、君さえよければすぐにでも数年単位の長期契約を結んでもいいと思ってな」
「えっ……わたしが、ですか?」
その言葉にオレだけじゃなく、ミカ姉とルーテシアたちも驚いてこっちを見る。
オレはルーテシアたちと一緒に掃除をしたり他のメイドの手伝いをしていただけで、そこまで評価されるようなことはした覚えはない。二人だけで部屋の整理をしていた御神さんやリインさんの方がよほど働きがいいだろう。
あまり考えたくはないが、もしかして……。
「その話も兼ねて、今夜はワシの部屋に泊まる気はないか? ワシの相手をしてくれたら給料も三倍くらいあげてやるぞ〜」
その言葉と肩に回された手の感触にオレはぎょっとし、近くにいたミカ姉や耳がいいチンクも目を見張る。
このブタオヤジ、雇ったメイドにそんな事させてるのかよ。しかもそのターゲットがよりによって、オレ!?
メイドたちも主人の悪癖を知っているのか、眉を顰めながらも止めようとしない。
――やべぇ、なんとかしてこの場を切り抜けないと。
御神さん、リインさん、はやく密輸の証拠って奴を見つけてきてくれ!
Ⓒ
一階で歓迎会という名の饗宴が催されている頃、俺とリインはスマグリンの書斎の前にいた。
スマグリンは屋敷内で仕事をする時はもっぱらこの部屋に篭っているらしい。この部屋を掃除するメイドは一部の古参に限られていて、彼女らも執務机や書棚には触れないように言いつけられているという話だ。
それに比べて、スマグリンの寝室は書斎よりはガードが甘く、彼に指名されたメイドが一夜過ごすこともあるため、証拠を隠してる可能性は若干低い。もし違っていたら、明日にでも寝室に忍び込むつもりだが。
周囲に気を張るリインの前で、俺は扉のハンドルに手をかける。しかし、やはりハンドルは硬く、少し力を入れただけでは回りそうにない。
「開錠魔法を使いますか?」
「いや、たぶんそっち用のロックもかかっている。ここは……」
扉につけられた金属式の装置を見ながらそう言い、俺は懐から針金を取り出す。それを見てリインは声をこぼした。
「……それも御神流の技術ですか?」
「ああ。御神流は刀だけじゃなく、
言いながら俺は針金を小刻みに動かし、奥の錠を弾きあげる。すると奥からかちゃりと音が鳴った。
俺は一度あたりの気配を探り、誰もいないことを確認してからハンドルに手をかけ、くるりと回す。
すると分厚い扉はあっさり奥へ押し開かれる。俺とリインはすぐさま入口をくぐり、部屋の中に入りつつ扉を閉めた。
約半日ぶりに訪れたスマグリンの書斎は、面接に来た時とほとんど変わっていなかった。変わってるのは主人がいない事と、その主人の机の上が綺麗に片付けられていることぐらいだ。
「リインは本棚を探ってくれ。俺は机を調べていく」
「はい!」
リインはうなずきすぐに本棚に差し込まれている本を引っ張り出し、ばららと開いてはまた次の本を探す。
一方、俺も机の引き出しに手をかけ、鍵がかかっていることを確認すると、また鍵穴に針金を挿して小刻みに動かし、開いた引き出しの中から順に調べていった。
そして、三段目の引き出しの中から複数枚の書類の束を見つけた。それは……。
「『最重要級商品『R』の輸送記録』…………これだ!」
「――本当ですか!?」
思わず声を上げた瞬間、リインは本から目を上げて訊ねてくる。俺はうなずき――
「レリックの輸送記録だ。数年前から、管理外を含めたあちこちの世界からミッドチルダに運び込んでいたらしい。そのほとんどが“謎の機械”に奪われたり魔力爆発を起こしている」
その中には四年前、北部の空港に届く予定のものまであった。だがそれも原因不明の爆発を起こし、空港を巻き込む大火災を起こしている。スバルとギンガが巻き込まれた“事故”と同じものだろう。
俺は思わず顔をしかめるが……。
「御神隊長、書類の検分は後で。それよりも残りの引き出しを」
「あ、ああ……」
リインの一声に我を取り戻し、残りの引き出しを開ける。そして一番下の引き出しに“それ”はあった。
「……『特級商品『HK―C』について』」
レリックより重要度の高いものを意味する“特級”、そして“HK―C”という言葉を見た瞬間、俺は書類を掴んだままそれを凝視する。
“HK”そして“C”……。
これはまさか、ヴィヴィオという子の事か? だとしたらあの子はやっぱり――。
ある考えに至りながら一番下の資料まで目を通す。すると“人型のなにか”が書かれた図案を見つけた。何かの設計図のようだが……。
その瞬間、ビイィィィ!!というけたたましい音が机から響き渡った。
俺はレリックやHK―Cについて書かれた書類を片手に掴み、リインも慌てて本を棚にしまう。
だが、もうすでに遅く――。
Ⓒ
「な、なに、この音?」
二階からけたたましい音が鳴った瞬間、メイドたちは飲食やお喋りをやめて真上を見上げる。
スマグリンも上を見上げ、酔いが覚めたような顔でつぶやきを漏らした。
「この警報は……まさかあいつら――ということは!」
スマグリンは憎悪に歪んだ顔をオレたちに向ける。
オレは(内心しめたと思いながら)すぐに彼から距離を取り、ミカ姉とチンクたちも構えをとる。それを見て何人かのメイドはオレたちがスマグリンの敵対者と察して、オレたちから離れたりホールから逃げていった。
そんな中、メイド長や何人かのメイドは落ち着きを保ちながらオレたちを眺め見やる。スマグリンは彼女らの方を振り返るなり、叫んだ。
「イリア! すぐに要員二・三人とともに書斎へ向かえ! あの二人を絶対に屋敷から出すな!」
「はっ――行きますよ」
前を向いたまま命じるメイド長に、『要員』と呼ばれるメイド三人が懐に手をかけながら「はい!」と返し、彼女とともにオレたちに背を向け、後ろの階段へ向かう。
そしてオレたちは、スマグリンと彼を守る四人のメイドと対峙する形になった。彼女たちの片手には、ぎらりと光を放つナイフが握られていた。
Ⓒ
警報が鳴ってすぐ慌ただしい足音が近づいてくる。
その直後、がちゃがちゃとハンドルが動いてから鍵が挿しこまれて、すぐにばんっと乱暴にドアが開かれた。その間までわずか五秒もかかっていない。
「ミヤビさん、アインズさん、こんなところで何をしているのでしょうか?」
後ろに三人のメイドを従えながら部屋に入ってきたメイド長は、冷たい声で尋ねてくる。俺は乾いた笑みを漏らしながら……
「何って……ちゃんと掃除できたかの点検ですが……」
我ながら白々しい言い訳を飛ばす俺に、メイド長は目を鋭くしながら言葉を返した。
「ご主人様の書斎の掃除は一部のメイドにしか許されていない仕事です。それにミヤビさんが持っている書類は何でしょうか? ご主人様のお仕事に関するものは我々でさえ触れてはならない決まりなのですが……」
メイド長はそう訊ねながら後ろのメイドとともに一歩踏み込む。各々、鈍い光を放つナイフを手に持ちながら。
「えーと、この書類は――」
「――あなたたちがご主人様と呼んでる男が犯した悪事の記録です!」
言い訳を考える風を装いながら目配せした直後、リインは瞬時にメイドたちの眼前に迫り、手刀でナイフをはたき落す。それを見てすぐ隣のメイドが彼女めがけてナイフを振り下ろすが、リインは魔力を纏った拳でナイフを叩き落し、そのまま彼女の鳩尾に一発入れる。
それを見て他のメイドがひるんだ瞬間――。
「はああああっ!」
雄たけびを上げながら俺も彼女らのもとへ飛び込み、短剣状のティルフィングの峰をメイドの腹に打ち込んで昏倒させた。
「――侵入者めっ!」
メイド長が銃型デバイスを取り出し、魔力弾を撃ち放つ。それに対し俺も左手を突き出して防御陣を張り、メイド長が放った弾を受け止めた。
「このっ!」
得物を失ったままのメイドがおもむろに後ろから跳びかかってきて、俺の髪を引っ張り上げる。
だが、彼女が掴み取った瞬間、変装用の
すかさずリインはメイドの腹に右腕を突き込み、俺はメイド長の頭にティルフィングの柄を叩きつけた。
「はあっ!」
「ぐっ――!」
俺とリインはすぐさま倒したメイドたちの体にバインドを巻き付ける。
そして――
「リイン、引き上げるぞ。これさえあればスマグリンを逮捕できる。残りの捜索はその後でいい!」
そう言うとリインもこくりとうなずき、俺と一緒に書斎を出た。
Ⓒ
「――はああっ!」
「きゃあっ!」
チンクが放ったスティンガーが爆発して、武装メイドはたまらずナイフを取り落とし、そのまま拘束される。
その傍でルーテシアも衝撃波を放ち、メイドを吹き飛ばしていた。
その一方……。
「このぉ!」
メイドは荒い声を上げながらミカ姉にナイフを振り下ろす。だが、ミカ姉は相手の視線とナイフの軌道を読んでなんなく攻撃をかわし――。
天瞳流――新月・払!
ミカ姉はまっすぐ伸ばした手刀をメイドの腕に叩きつけてナイフを落とさせ、立ちすくんだ彼女の首筋に手刀を当ててそのまま気を失わせる。
それに目を向けた隙に――
「ああぁっ!」
仲間をやられた焦りと苛立ちによる奇声を発しながら、最後のメイドはオレの頭にナイフを突き立てようとする。オレもミカ姉同様、彼女の殺気とナイフの軌道を読みながらナイフを避け、握りこんだ拳を振り上げる。
しかし彼女は追い詰められた者特有の直感に従って体を真横に反らして拳をかわし、そのままナイフを振りかざしてきた。
「――死になさいっ!」
「ちっ――」
オレは舌打ちしながら拳を開き、“眼前のナイフを掴み取る”。そしてもう片手でナイフを握ったまま硬直するメイドの襟を掴み――
「はああああ!」
「きゃああっ!」
体を床に叩きつけると、メイドはうめき声を漏らしながら気を失う。衝撃緩和の魔法をかけていたので大きな傷は負っていないだろう。
オレたちは体勢を立て直し、そのまま密輸商スマグリンと対峙した。
「観念しろスマグリン。オレたちは時空管理局のものだ。今のだけでも殺人未遂に値する。逮捕するには十分だ」
「それと未成年の子に手を出そうとしたのも立派な犯罪だよね。危うく、可愛い弟が脂ぎったおじさんに汚されるところだった」
「お、オレ!? 弟? ――まさかお前、男なのか!?」
オレとミカ姉の言葉を聞いて、スマグリンは仰天という言葉が似合うくらい大袈裟なリアクションをしながら訊ねてくる。まわりで立ち尽くしているメイドたちも目を見開いたり、「うそ!?」という言葉を漏らしたりする。
そんな中、オレは頭につけていたカチューシャを床に叩き落としながら――
「好きでこんな格好したわけじゃねえよ! メイドしか募集してなかったから、上司の命令で仕方なく女の振りして潜入する羽目になったんだ!」
「男……ワシは今まで男相手に…………」
スマグリンはオレを見ながら口をパクパクさせる。それに関してはオレも一言言いたい。お前が執事とかを募集していたら、御神さんもオレもそれに成りすますつもりだったんだ。それをメイドなんかに……。
ちょうどそこで上から二人分の足音と声が響いた。
「お前たち、無事か!?」
「あっちもちょうどひと段落着いたところみたいだな」
リインさんと御神さんはオレたちやスマグリンを見ながら階段を下りてくる。付け髪が外れ、本来の髪形に戻った御神さんを見てメイドたちはまた驚愕の声を漏らした。オレに向けられているものを含め、熱のこもった視線が紛れているのは多分気のせい――だと思いたい。
一方、スマグリンは二人をちらりと一瞥しながらも、すぐにオレたちに顔を戻す。そしておもむろにテーブルの上にあったナイフを拾いながら後ろへ走り、そこにいた淡藤色の髪のメイド、ドイスさんを羽交い締めにして、彼女の首筋にナイフを当てた。
「きゃあっ!」
「動くな! それ以上動けばこの女の命はないぞ!!」
ドイスさんの悲鳴とスマグリンの言葉にオレたちはその場で、御神さんたちは階段の半ばで動きを止める。
それを見てスマグリンは笑みを浮かべ、もう片方の手でモニターを開き、勢いよく指を叩きつける。
次の瞬間、オレたちとスマグリンたちの間の床にミッド式の魔法陣が現れ、白い光に包まれた何かがせり出してくる。
それを見て、御神さんははっとしながらまわりのメイドに向かって叫んだ。
「みんな逃げろ! ここにいると巻き込まれるぞ!!」
それを聞くなりメイドたちは蜘蛛の子を散らすようにホールから逃げていく。反対にスマグリンはここに留まったまま勝ち誇ったように笑い声をあげた。
「はははっ! お前たちも逃げた方がいいぞ! こいつは戦闘機人の元となった“人型戦闘機械”を改良して造り上げた、レリックを動力とする新型戦闘機人――『タイプセカンド』だ!」
スマグリンが言い終えた頃に光が収まり、長い赤髪のメイドの姿をし、剣型の右腕と銃型の左腕を持つ新型戦闘機人『タイプセカンド』の姿が現れた。