魔法少女リリカルなのはStrikerS 七課の剣銃士 作:ヒアデス
「……それで、スマグリンを殺害した犯人は見つからなかった、というわけですか」
「はい……申し訳ありません」
硬い口調で確認してくる
はやてはふぅと息をついて言った。
「手抜かりがまったくなかったとは言えないけど、あの状況やと仕方ないかもしれんな。まさか人質に取ったメイドに殺されて、その子が行方をくらますなんて予測できんかったやろうし……一応聞くけど、そのドイスってメイドが犯人で間違いなさそうなん?」
「はい。あの後、我々と現地の陸士隊で屋敷と周囲をしらみつぶしに捜索しましたが、ドイスは見つからないままで、そのうえ彼女と同姓同名、同じ容姿の人物は西部どころかミッドチルダのどこにも存在しなかったそうです。スマグリンに近づくために偽名で潜り込んだと考えるのが妥当でしょう」
「なるほど……やっぱり、スカリエッティが送り込んだスパイやったんやろうか」
はやての言葉に俺はこくりとうなずく。
「その可能性が高いかと。スマグリンが自らの血で書いた“Ⅱ”という文字ですが、これはジュエルシードやレリックの識別にも用いられている古代数字の『2』を表している、というのが現時点で最も有力な見解です。しかし、押収したレリックのナンバーは“
「犯人を表すダイイングメッセージか……そういえば、ナンバーズにはチンクでさえ一度も会った事がない“二番目”がいるって話やったね……たしか、『ドゥーエ』って名前やったと思う」
記憶を辿るように頭に指を乗せながらその名を口にするはやてに、俺はうなずきを返す。
それは間違いない。俺もそう記憶しているし、ここに来る前にチンクに確認した。
「それに“ドイス”というのは、ルヴェラという世界で『2』を表す言葉だそうです。少なくともドイスがスマグリン殺害に関与している可能性は高いと思います。地上本部にも報告して指名手配をかけているところですが……もしドイスがドゥーエと同一人物だったとしたら、地上の一般部隊に捕まえられるとは思えません」
「せやね……まあ、スマグリンが管理外世界との取引やロストロギアの密輸をしていた証拠は手に入ったし、彼の屋敷と会社にも捜査の手が回ってる。少し後味が悪いけど、スマグリンを死なせたこと自体はそんな問題にならんと思う」
「……ご恩情に感謝します」
俺は自責の念を抱えながらも、それを隠すように頭を下げる。
時空管理局はテロや凶悪犯罪に対処する性質上、“陸”も“海”も犯人の死亡自体はさほど問題視しない傾向がある。彼らにとっては、違法研究やロストロギアなんかに手を出した時点で巻き込まれたり死んでしまっても仕方がないと思っているんだろう。
犯人や容疑者の命も可能な限り守るべきものだと捉えている、日本の警察とは異なる点だ。日本出身のはやてでなければもっと軽く流していたかもしれない。
「『タイプセカンド』と呼ばれていた新型戦闘機人と、その子の動力に使われていたレリックの方は?」
「どちらも地上本部に接収されました。レリックの方はもう少し調べてみたかったんですが……」
「そうやね……」
俺の言葉にはやても重い声で肯定する。
レリック……スカリエッティたちが集めている、強い力を持つ謎のロストロギア。
プレシアさんもアリシア蘇生のため、一時期レリックの収集を目論んだ事があったが、強いショックや魔力反応をぶつけたら爆発するという危険性と蘇ったアリシアを《人造魔導師》に変えられてスカリエッティに利用される恐れから断念したらしい。
そのレリックはヴィヴィオや俺、そしてレツヤといったベルカ王家の末裔と深い繋がりがある……かもしれない。
あの時、爆発寸前だったレリックは、レツヤが握りこみながら『止まれ』と命じた瞬間すぐに活動を停止した。その時、レツヤの頭の中に妙な幻聴が響いたらしい。その幻聴の中には『マセラティ王家』という言葉が混じっていたという。
以前ユーノに調べてもらったベルカの記録によれば、セブリング王国を治めていた王家の名が『マセラティ』だった。という事はあいつはやはり……。そして
「まっ、暗い話はここまでにしよ。ところで民間人に協力してもらったって聞いたけど、その子の事も聞いてええ? 捜査協力の褒賞も出してあげないとあかんし」
そう尋ねるはやての前で俺はモニターを出現させ、そこに書かれた彼女のプロフィールを読み上げた。
「名前はミカヤ・シェベル。南部在住の高等科二年で、齢は14。初等科時代に二年飛び級しています。6歳の頃から天瞳流の道場に通っていて、レツヤとは
そこまで報告するとはやてはジトリとした目で……。
「もうそこまで調べてるんか……もしかしてその子、狙ってるん?」
「まあ、あれだけの力量を道場やスポーツ格闘に埋もれさせておくのももったいないと思いまして。バイトとして嘱託魔導師をやってみないかと誘ってはいます」
そう報告すると、はやては呆れたようなため息をついて。
「(相変わらずそういう冗談は通じんなぁ)そう、勧誘ご苦労様。まっ、確かに戦力に欲しい人材やな。暇が出来たら私からもコナかけてみよう。……じゃあ、あっちの子たちは?」
「あっち?」
おもむろに窓の外を指さすはやてに、俺は首をかしげながら窓の縁へ向かい、外を見下ろす。
すると隊舎前にひしめいている三十人近くの女性たちが目に映った。中にはメイド服姿の子も紛れている。
あの子たちは――。
「あの、機動七課っていうのはここですか? ケンナさんが勤めてるって聞いてきたんですけど!」
「い、いや、ここは機動六課という部署で……まあ、あの人も六課の一員には違いないんですけど――」
「やっぱりここよ! じゃあ、ここで働きたいんですけど! できればリインお姉様たちと同じところで!」
「い、いや、六課や七課に入るには、まず管理局に入局して地上本部か本局から辞令を受ける形じゃないと。それに六課で働くには魔法戦かオペレーターの技能があった方が――」
「じゃあメイド! メイドとして働かせてもらっていいですか! ケンナさまとレツミくんのまぐわいさえ見せていただければお給料なしでもいいですから!!」
十人近くのスタッフに止められながらも、スマグリン邸で働いていた元メイドたちは彼らを押しのけて来そうな勢いで入り口近くに殺到する。
あんぐり口を開けながらそれを眺める俺の隣まで来ながら、はやてはニヤニヤという擬音の似合う笑みを浮かべていた。
「モテモテですな~。女装した方がモテるんやない。これからはレツヤと一緒に女の子用の制服着て仕事する? 私が許可と用意してあげるから」
「……遠慮する。俺にはリインがいるし、そんな形でモテても嬉しくない」
「ちぇ、つれないな〜。で、あの子たちはどうするん? うちのバックヤードみたいに隊舎の管理や雑用とか頼んだらいろいろ楽になるんやない」
「うちは自分のことは自分でやる主義だ。雑用もメイドもいらん」
それに一部のメイドからはよからぬ気配を感じる。あいつらは絶対入れない方がいい。
「そっか。じゃ、あの子たちはなんとか説得して帰ってもらお。――じゃあそろそろ査察対策の相談と、お待ちかね、六課への異動メンバーの発表や♪」
機嫌よさげな笑みを浮かべながら椅子に座り直すはやてに反して、俺は顔を硬くしながら彼女の前に立つ。
――ついにこの時が来たか。
Ⓒ
一週間後、地上本部からの査察もなんとか無事に終わった日の夕方。
今日の訓練を終えたオレたちは、七課の隊長室まで呼び出されていた。むろん、隊長補佐のリインさんも同じ部屋にいる。
「さて、今日も訓練ご苦労さん。本部の人たちに見張られながらだったから緊張しただろう」
「いえ、いつも以上に身が入りましたし、一日中あの人たちの相手をしていた隊長たちに比べればなんでもないです。……それで、査察の結果は……」
オレが尋ねると、御神さんは隣に立つリインさんと険しそうに視線をかわす。もしかしてと思い、オレはごくりと唾を鳴らし、ルーテシアとチンクも不安そうな顔を見せた。
御神さんは硬い顔をしながら机の上で腕を組み……。
「今までの成果とお前たちフィルダーやフォワードの訓練の視察などを踏まえた結果――六課も七課も今まで通りの形で続けて構わないそうだ。お前たちの努力と働きのおかげだ……ありがとう」
礼を言いながら御神さんとリインさんは笑みを見せる。その瞬間、オレたちも思わず顔をほころばせた。
そんな中、御神さんは気を取り直すために咳払いし、真剣な表情を作って言った。
「さて。当面の心配もなくなったところで、いよいよこの分隊から本隊……機動六課に栄転するメンバーを発表しようと思う」
それを聞いた瞬間、浮ついた気分は跡形もないほど消し飛び、オレたちは三人とも顔を硬くする。
そんなオレたちをしばらく眺めてから、
「ルーテシア・アルピーノ三等陸士、そしてレツヤ・テンドウ二等陸士……おめでとう。今までの活躍と密輸の証拠を掴んだ功績を鑑みた結果、ルーテシアはテスタロッサ執務官率いるライトニング分隊に、レツヤは高町一尉率いるスターズ分隊にそれぞれ来てほしいとの事だ」
「――っ!」
「……」
御神さんの発表を聞いて、オレとルーテシアは驚きのあまり声もあげられず、本当なのか疑うように彼を見返す。そんな中、一人だけ名前を告げられなかったチンクは悔しげに唇を結ぶ。
御神さんはそんな彼女にあえて声をかけず、話を続けた。
「査察直後だからすぐにとはいかんが、二週間もすれば部隊内の配置転換という形で六課に組み込めるはずだ。よかったなー二人とも。特にレツヤは元の部隊よりでかい所に行けそうで」
御神さんはそう言ってオレとルーテシアに発破をかける。その横でリインさんも寂しさの混じった笑みを浮かべていた。そんな隊長副隊長を見て――
「ああ、ようやくレツヤの力が認められたという事だ。レツヤとルーテシアなら六課でもうまくやっていける。七課のことは私と隊長たちに任せて、二人は心置きなく六課へ行ってこい!」
「御神隊長、いくつか聞きたいことがあります――いいですか」
彼女にしては丁寧、そして強い口調でルーテシアは尋ねる。その雰囲気が伝わったのか、御神さんも笑みを消して「なんだ?」と聞き返した。
「六課は保有制限ギリギリで、AかAAランクの魔導師を一人入れるのが精一杯のはずです。私とレツヤが入ったら保有制限を越えてしまうはずですけど、なんで私たち二人が六課に行けるようになったんですか?」
「……向こうから後方の何人かを回してもらえることになったんだよ。うちは全員実戦型でそういうのは弱いからな。お前たちの代わりに後方要員を回してくれることになった。いわゆるトレードだ。局内じゃよくある」
御神さんの答えにルーテシアは憮然とした表情で口を閉ざす。そんな彼女を訝しそうに見返す上司にオレも言葉をかけた。
「じゃあオレも一つ聞かせてもらいたいんですが……その異動要請、
「――!」
そう告げた瞬間、御神さんとリインさんは大きく目を開く。
目に見えてうろたえている上司たちを前に内心してやったりと思ったところで――
「な、なにを言っている? お前、あれだけ六課に行きたがっていたじゃないか。これを逃したらまた当分ここに残る事になるぞ――まさか、私に気を使っているんじゃないだろうな!」
チンクは顔と声に憤りすら浮かべて詰め寄ってくる。それに対してオレは首を縦にも横にも振らずに返事を返した。
「それは否定しない。チンクも誘われていたら迷っていただろうし……でも、それより大きな理由として、もう少しここで、七課で自分ってやつを磨くべきなんじゃないかとも思い始めている」
「……」
それを聞いてチンクは目を丸くする。御神さんとリインさんも神妙な顔になっていた。
「そりゃ正直に言えば、最初は早く手柄を上げて六課へ行きたいって思ってたよ。元いた部隊に比べたら、七課は小さいうえに六課からあぶれた窓際って感じのとこだったから。――でも、御神さんやリインさんに訓練をつけてもらったりルーテシアとチンクと一緒に事件に立ち向かったりしていくうちに、“五秒だけ敵やものを止められる”力の使い方も掴めてきて、向こうでは得られなかった充実感も感じるようになった。でも、まだ十分に鍛えられたとは言えない。ここでもっと自分を高めておく必要がある気がする。
だから、このままオレを七課に置いてください――お願いします!」
オレは頭を下げながら御神隊長とリインフォース副隊長に頼みこむ。神妙に耳を傾ける二人にオレは続けて言った。
「ただ、オレが残る代わりにチンクを六課に行かせてやってくれませんか。チンクならスバルやティアナと連携が取れるでしょうし、ルーテシアもキャロやエリオとうまくやれると思います。二人の分までオレが一生懸命働きますから!」
「レツヤ――」
チンクは思わず声を上げる。そこで――
「待って!」
おもむろにルーテシアの声が響き、オレたちも隊長たちも彼女の方を見る。そんな中、ルーテシアは張ったままの声で言った。
「私もここに……七課に残りたい。今まで私がやってこれたのはレツヤとチンク、隊長たちのおかげ。私だけじゃあの人に会えても、あの人を止めたり立ち向かう事なんてできなかった。たぶんまだ私だけだとあの人……“お母さん”を取り戻す事なんてできない。六課に行っても肝心な時に足手まといになるだけだと思う。
それに私にとって、もうみんなは大切な仲間だから――だから私も七課にいさせてください! お願いします!!」
ルーテシアはオレよりも深く頭を下げて懇願する。最初の彼女からは想像もできない姿だ。
それを見ながら御神さんはリインさんと顔を見合わせ、そして深いため息をついた。
「まさかお前たちが七課に残りたいと言い出すとはな……言っておくが、こんな機会はもう訪れないかもしれんぞ。最初から異動ありきで進めてきた話だからな。それを断る以上、向こうはもう滅多な事じゃ異動願いなんて聞いてくれん……それでもいいのか?」
迫るような雰囲気を纏いながら隊長は確認する。それにオレとルーテシアは首を縦に振った。
「はい。迷惑をかけるかもしれませんが、残り半年よろしくお願いします!」
そう言ってオレはルーテシアとともに頭を下げる。そんなオレたちに向かって御神さんは両手を突き出しながら言った。
「わかったわかった。二人とも頭をあげろ。明日にでも部隊長に話をつけてやる。正直こっちにとっては助かるからな。その代わり、また
言いながら頭を搔く御神さんを見て、オレたちとリインさんは苦笑を浮かべる。そこでふと御神さんは真剣な顔に戻って言った。
「ただし、チンクの六課行きは無理だ。本人や俺はもちろん、部隊長でも叶えられない事情があってな。
「い、いえ、私も七課に残りたいと思っています。御神隊長、リインフォース副隊長、これからもご指導ご鞭撻よろしくお願いします!」
そう言って頭を下げるチンクに、御神さんとリインさんは「ああ」と返事を返し、この場はお開きとなった。
そして隊長室を出る際、オレはふと御神さんが言った一言を思い出し首を傾げる。
“当分”ってどういうことだ?
Ⓒ
「やれやれ、ようやくまたリインと二人きりになれると思ったら。こんな狭苦しいとこのどこがいいんだか」
姿勢を崩しながらそう零す俺に対して、リインはふふと口から笑みを漏らした。
「本当は嬉しいくせに。私にまで誤魔化すな」
「なに言ってるんだ。あと半年もあいつらの面倒を見なきゃならないんだぞ。やっとなのはやフェイトに押し付けられると思ったのに」
そう言いながらも、いつもより気分が晴れている気がする。これが弟子を持つ師匠の気持ちというものか。
だが、そこでリインは笑みを消しながら訊ねてきた。
「しかし、いいのか? “あのこと”を黙ったままで。遅かれ早かれ彼女は……」
「言える雰囲気じゃなかっただろう。本当はレツヤとルーテシアの後に伝えるつもりだったんだが、あんな事を言われちゃなぁ。本人には近いうちに話しておく……どちらかと言えばいい話ではあるしな」
そう言いながら俺はモニターを開く。それを見てリインも顔を暗くした。
チンク・ナカジマ三等陸士の二等陸士への昇格、並びに機動六課からミッドチルダ地上本部への異動を命ずる。
本命令は一月の引継ぎ期間の
本人及び上長は、それまでの間に必要な準備と後任への引継ぎを済ませること。
なお、本命令に対する拒否は局員職の辞職を除いて認めないものとする。