魔法少女リリカルなのはStrikerS 七課の剣銃士 作:ヒアデス
「二等陸士への昇格……それと地上本部への異動、ですか」
訊ね直すチンクに、俺は「ああ」と頷きを返す。隣に立つリインも気まずそうに顔を曇らせていた。
「これは要請ではなく“命令”だ。拒否はできないし、俺も八神部隊長も異を唱える事はできない。もっとも、内容としては六課行きより遥かにいい話だ。ミッド地上本部は管理局内でも本局に次ぐ要所、陸士としてはこの上ないポストだからな」
「それが六課から声がかからなかった理由ですか……」
喜ぶ気配もなく問いかけるチンクに、俺は頷きを返しながら答える。
「ああ。実は六課行きの候補に真っ先に上がっていたのはお前だ。チンクはレツヤたちやフォワードよりはるかに経験が長く、AMFに対抗できる技能を持っていて、そのうえスカリエッティたちの情報も持ってるからな。六課としては喉から手が出るほど欲しい逸材だ。だが、査察の終わりと同時にオーリス三佐から渡された辞令によってそうもいかなくなった」
そう言うとチンクは納得したように頷き、そのまま足元へ視線を下げる。その様子に構わず俺は続けた。
「ひとまず準備期間として『公開意見陳述会』が終わるまではこのまま七課にいてもらうが、陳述会が終わったらすぐに地上本部に移ってもらうことになる。あっちにはAMFやガジェットに対抗できる人員はほとんどいない……彼らのためにも行ってもらえないか」
「はい。私に異存はありません……レツヤたちにこの事は?」
チンクの問いに俺は首を横に振りながら答える。
「まだ伝えてない。いま話せばショックを受けるだろうからな。陳述会までには話すつもりだが、機を見てお前の方から話してもかまわない」
「わかりました。では、私がいなくなった後のポジションはどうなるのでしょう?」
チンクは未練を隠しきれない声音で尋ねる。それに対して俺は彼女の方を向いたまま答えた。
「幸い、9月からギンガが出向としてこっちに加わってくれることになってる。問題なさそうならお前の後任として七課に入れるつもりだ。引き継ぎを任せていいか?」
「はい、問題ありません。義理とはいえ姉妹ですから。……隊長、副隊長、今までありがとうございました。本部に行くまでの間もご指導よろしくお願いします」
別れの挨拶と今までの謝意を込めて、チンクは深く頭を下げる。それに対して俺とリインはありきたりな返事と頷きを返す以外にできなかった。
◆
9月5日、早朝。
六課フォワードとオレたち七課フィルダーは合同訓練のため、同じ海岸線に集まっていた。
そこに各分隊の隊長副隊長と他三名がやって来て、彼女たちの中からなのはさんがオレたちに向かって口を開いた。
「今日はフォワードとフィルダーの合同訓練ですが、その前に一つ連絡事項があります。陸士108部隊のギンガ・ナカジマ陸曹が、今日からしばらくこちらに出向となります」
彼女を紹介するなのはさんの隣で、ギンガさんはオレたちに顔を向けながら声を発した。
「108部隊、ギンガ・ナカジマ陸曹です――よろしくお願いします!」
敬礼しながら微笑みを浮かべて自己紹介するギンガさんに、オレたちとフォワードも笑みと挨拶を返す。
そこでアインスさんが口を開いた。
「それからもう一人。フィルダーは一度会っているが、本局で精密技術官をしている……」
「マリエル・アテンザです。ちょっと地上に用事があって、ギンガと一緒に六課に滞在させてもらうことになりました。その間みんなのデバイスも診たりするつもりだから気軽に声をかけてね!」
ギンガさんよりやや柔らかく告げる彼女に、オレたちはまた挨拶を返す。そこで御神さんが口を開いた。
「今日はもう一人、ティミル博士が来ることになっているんだが……」
それを聞いてオレたちはあたりを見回すが、彼女らしき人はどこにもいない。そこへシャーリーさんが言った。
「博士なら、まだ隊舎でステージの最終チェックをしています。もう少しでできるから、先に訓練して体を温めておいてくれって言ってました」
あの人が今日のステージを……それを聞いて嫌な悪寒が背中に走る。一方、ヴィータさんはそれを気にせず。
「じゃあお言葉に甘えて、これから今日の朝練始めんぞ! 気合い入れてけ!!」
ヴィータさんの指示にオレたちは威勢よく「はい!」と返し、各々分隊ごとに分かれて訓練前のストレッチを始める。
その
「御神隊長、今から少しだけチンクを借りてもいい? スバルとチンク、妹さんたちの出来をギンガにも確かめてほしいから」
なのはさんの言葉を意味を察して、ギンガさんも頼むような目を御神さんに向ける。
それに彼はうなずきを返し。
「いいだろう。ただ一つ、ギンガに忠告しておく。スバルもだと思うが、チンクもこの半年でかなり強くなった。手心を加えたりすれば痛い目を見るぞ」
そう言って不敵な笑みを向ける御神さんに、ギンガさんも笑みを浮かべながら強いうなずきと嬉しさのこもった返事を返した。
◆
それからしばらくして、オレたち一同はシミュレータで作った森に場所を移し、そこでナカジマ姉妹が互いの力量を確かめ合うための模擬戦をすることになった。
まずはスバルとギンガさんが各々の持ち
そして、スバルとの戦いの疲れが取れるのを待たず、ギンガさんはチンクとの戦いに臨み、チンクもまた今の技量と力量を彼女にぶつけていた。
「はあああっ!」
自身の首元まで届かない
「ぐっ――」
チンクは飛ばされながらも彼女は上手く体をひねって着地し、スティンガーを構える。しかし彼女は迷うように顔をしかめながらナイフを握るのみだった。そんな妹にギンガさんは叫び声を放った。
「チンク、構わないわ――ISを使いなさい! 本気じゃないあなたに勝っても嬉しくもないから!」
その一言を受けて、チンクは鋭い眼光でギンガさんに狙いを定め――
「行くぞ姉上――IS発動、《ランブルデトネイター》!」
チンクがそう告げた途端、スティンガーの柄に
ギンガさんは後ろに跳んで一本目を躱すが、そこを狙ってチンクは二本目の得物を飛ばしてくる。ギンガさんはぎゅっと右の拳を握り……
「シェル――はああああっ!」
ギンガさんが唱えた直後、彼女の右手の先に球状のバリアが広がる。彼女は雄たけびを上げながらチンクに突貫し、右拳でチンクが飛ばしたスティンガーを弾きあげる。
当然、ギンガさんが触れた瞬間スティンガーは爆発するが拳の先に張ったバリアに守られ、ギンガさんはそのままの勢いでチンクに迫り、彼女に拳を叩きつける。
だが、彼女の拳はチンクの前に張られた黄色のバリアに阻まれた。
ギンガさんは左拳を握り二激目を打ち込もうとするが、まわりに十本以上のスティンガーが現れた瞬間、思わず動きを止める。
その隙を突くように――
「――爆破!」
その直後、スティンガーはいっせいに爆発し、ギンガさんと仕掛けた本人であるチンクをも巻き込み、二人は爆風に包まれる。
だが、チンクはバリアを纏ったまま爆風から飛び出し、ギンガさんも《ブリッツキャリバー》の底についたローラーを走らせて中から飛び出してくる。
――やっぱり、『シェルコート』を着たチンクに魔力強化した打撃をぶつけても効果が薄い。ならここは――。
チンクは再び十本以上のスティンガーを出現させ、はるか向こうにいるギンガさんに向けて撃ち放とうとする。
それに対して――
「……エス発動、行くよチンク――ハアアアアアア!」
ギンガさんは妙な響きの掛け声を発しながら、腰だめに右腕を引く。それを見てチンクはすぐにスティンガーを撃ち放つが――
「アアアアアアアッッ――!!」
吼えながら彼女が右腕を打ち込んだその直後、猛烈な衝撃波
そこへギンガさんはローラーを滑らせてチンクに接近し、ひび割れたバリアを砕き、そのままチンクに向かって拳を突き上げ――彼女の眼前でピタリと止めた。
その瞬間――
「はい、そこまで!」
なのはさんの声が響いた瞬間、ギンガさんはふうっと息を吐きながら拳を下ろす。一方、チンクは体をふらつかせて立ち上がりながら彼女に声をかけた。
「姉上、今の技は……」
ギンガさんは彼女の腕を掴んで助け起こしながら……
「うん。私も“あれ”を使わせてもらった。チンク相手じゃ打撃や魔力射撃だけじゃ厳しいと思って……大丈夫だった?」
「ああ、あれくらいなんでもない。強くなったな、“ギンガ”」
かつて長女の座を巡るライバル同士だった二人は、軽く拳をぶつけ健闘をたたえ合う。
一方、チームメイトが破れたのを見てルーテシアは残念そうな顔を見せ、オレはベテラン同士の戦いに感心の吐息を漏らしていた。
隊長たちもその横で……
「隊長……今のはギンガの技は」
「ああ。スバルと同じ振動操作系の技能だ。さっきの衝撃波のようなものの正体は
リインさんと御神さんはぼそぼそとそんな会話を交わす。
――ちょうどそこで頭上から声が響いた。
『待たせたわね』
その言葉とともにオレたちの上にモニターが現れる。その向こうに映る人物を見て――
「クレッサさん!」
思わず声を上げるフェイトさんにティミルさんは軽い挨拶を返す。そういえばフェイトさんはティミルさんと知り合いらしいって、エリオが言ってたな。
『ようやく“ステージ”の調整と“ターゲット”の配備が終わったわ。さっそく訓練に入らせてもらうけど、問題はないかしら?』
「はい。こっちもちょうど体がほぐれてきたところです。訓練の内容を聞かせてもらっていいですか?」
なのはさんの問いにティミルさんはこくりと首を縦に振る。すると、あたりの木々が消失していき、代わりに無骨な岩山がせり上がってくる。それに加えて空に暗雲までかかり、周囲からはオレたちの数倍の巨体の鉄塊兵が現れた。
それを見てオレたちは驚きに目を見張るが、隊長たちはオレたち以上に戸惑い、さらにフェイトさんの口から「まさか、これって……」という呟きが漏れた。
そんな彼女やオレたちを見下ろしながらティミルさんは口を開く。
『十年前の『J・D事件』の決戦の舞台になった、《時の庭園》を再現したステージよ。あなたたちにはこの周辺や屋敷の中に配置した
訓練の内容と笑みを浮かべながら解説するティミルさんに、オレたちは戦慄と一種の呆れを覚える……この人、本当に味方だよな?
そこでティミルさんは真顔に戻って……
『フェイト、酷かもしれないけどあなたも参加しなさい』
「えっ……」
その言葉にフェイトさんは戸惑いの声を漏らし、なのはさんたちも非難を含んだ視線をティミルさんに向ける。
それに動じることなくティミルさんは言葉を返した。
『スカリエッティはあなたを含むテスタロッサ一家の事を知り尽くしてる。私がスカリエッティなら、フェイトの過去やトラウマを突く形で揺さぶりをかけるわ。だからあえて《時の庭園》に似たステージとプレシアが造ったものと同じゴーレムを用意させてもらった――ここで多少は“過去”に耐性をつけておきなさい』
ティミルさんは厳しい言葉を、なのはさんとエリオたちは気遣うような視線をフェイトさんに向ける。
それに対して、フェイトさんはきっとした顔でティミルさんを見上げながら言った。
「はい――“クレッサおばさん”の厚意、ありがたく受け取らせていただきます!」
ティミルさんは神妙な顔でうなずきを返し。
『じゃあ私は最上階で待ってるわ。一番早く辿り着いた子は先日造ったばかりの最高傑作のテスト相手をさせてあげる……では、訓練開始!』
その言葉を合図にゴーレムたちが動きだし、オレたちを取り囲んでくる。
それを見て、隊長陣は素早くバリアジャケットとデバイスを起動させ……。
「これから『時の庭園攻略作戦』の再現訓練に入ります。フォワードとフィルダーもすぐに武装の準備をして!」
なのはさんの指示にオレたちは返事を返しながら、バリアジャケットとデバイスを起動させ、訓練を開始した。